解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

126話 アルベルトの憂鬱と喜び

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「アルベルト様、世襲貴族らが来客してますが」

「そうか、わかった」

ジーグルト伯爵位を受け継いだアルベルトは多忙な日々を送っていた。今は貴金属の精錬と砂糖の製造の土台を築くべく書類仕事に追われていた。

どちらの高額で取引される品なのでこれを扱うことが出来れば家の財政は格段に良くなるのは確実。それに全力で当たりたいのだがこんな時でも来客はくるのだ。

それも。会いたくもない連中が大量に。

私はユウキを傍近くにおいて対応することにした。

「初めまして伯爵様。アノン騎士爵家の当主です」

お見知りおきを、と。笑顔だが中身はあまり良くないのは間違いなかった。

何しろ装飾品で体全体をゴテゴテに飾っていたからだ。貴族の世界では装飾品で身を飾るのは当たり前だが遵守するべき作法がある。こいつのように上から下まで飾っては駄目だ。それも話をする相手よりも華美なのもよろしくない。爵位の上下関係を考えるなら最低限の装飾品でシンプルに飾るのがよい。

なのに、来る客のほとんどがそのように派手に飾っていた。まるでそれが教科書だと言わんばかりに。

「(このような手合いは父上の代から来ていたが今また来るとはどれほど厚顔なのだ。見栄えばかりを飾り立てて中身がまるで伴っていない連中ばかり)」

アルベルトはうんざりしていた。父の代からこのような連中が数多く来ていたが代変わりしてもまたくるのだ。多分いままで来ていた世襲貴族共が消えたのでその枠に入り込もうというのだろうが。

どういう訳か後に来る連中ほど質が悪くなっていく。

「伯爵様、我らには英知がございます。それを使えば莫大な金が手に入るでしょう」

どうか投資資金を預けてもらえないか、そんな話ばかり。さらに妻がいないのをいいことに娘を押し付けてくる。

「わが娘は貴族として立派な教育を受けております。どうか妻にしてもらえませんか?」

最悪だ。

親を見れば子がどういうものなのか一目でわかる。浪費家で中身馬鹿な女であろう。そんなのは絶対にお断りだ。来る連中の大部分がこのように豪華に飾り立てて中身がない。付き合うには値しない能無しどもばかり。そんなに飾り立てて何をする気だ?伯爵よりも豪華な生活をすることか?その金があればどれだけ家臣を食わせることが出来るか考えたことはあるのか?

どいつもこいつも自分勝手で視野が狭い連中ばかり、こんなのでも世襲貴族だというからなおタチが悪い。

「奴らは何様なのだ!どいつもこいつも伯爵である私よりも飾り立てて無駄な散財ばかりしている!!」

「落ち着いて下さい」

ユウキが制止する。この程度で怒ってもしょうがないと。

「奴らのような能無し無能共と仲良くしていけというのか?」

「あんまり言いたくはありませんが……」

「父上の苦労がこれほどとは思っていなかった」

「ベルン様は温厚でしたから、と。思うのですが」

当事者の視点から見ると違うものが見えるだろうとユウキは言う。今まで父の話の同席したことは何度もあるがその立場から見るとこのようになってしまうのか。

「奴らの頭の中にあるのは金金金のことばかり。まったくもって度し難い」

「まぁ、世襲貴族は役職が無ければ年金だけが頼りですし。国から認定される役職は空きがありませんから」

どうしても、そうなるのだと。

上手くやっている家もあるがそんなのは少数派であり大多数がこのような金に執着するのだと、それなのに投資をしようとはしない。投資はリスクの面があり手が出しづらい、かといってうまく金になる商売など手に入らない。だから、強引に他人の商売を奪い取ろうとする。

実際、ユウキが経営している店にもそのような手合いが来たそうだ。

貴族が強盗の真似事までしているのだ。これに良い感情は覚えないだろうな。

「それはそうとユウキ」

「はい」

「砂糖の製造の方なのだが」

話題を変える。貴金属は上手くいっているので砂糖の製造の方に注意しなくてはならない。

「資金の投資は必要か?」

「それでしたら僕の懐に入る貴金属の歩合で事足ります」

資金援助が必要か、そう考えたが。ユウキは自前で開発する方針のようだ。自分が出せる範囲からやることにしている。

「本格的にやるのは貴金属精錬所が動き始めてからですね」

それまでは最小限にとどめておくようだ。

「それでいいのか。何なら援助するが」

ユウキは首を横に振る。

援助させすぎるとその領地の中で派閥が生まれるそうだ。両方とも伯爵家の領地の中でやるが砂糖製造は自分らの方が主導権を取れるようにしたい。下手に援助をもらうとその関係で争うことになる。あくまでも出資者はユウキでありその経営もユウキが差配する。

伯爵家には砂糖を納品する義務があるが半分以上は冒険者ギルドに流す。

それについては私は何も言わなかった。

ここまでひたすらに伯爵家のために行動してくれた大恩人に対してそこまで言うのは問題だろうと考えたからだ。ユウキの背後には冒険者ギルドが控えているし大貴族らも待ち構えている。

無用な争いを回避するのが得策だと判断した。

「さて、ベルン様は今どこにいるのでしょうか」

父上は私の正室を探すために他の貴族らのところに行っていた。

あまりにも馬鹿な女ばかりやってくるので遠くに探しに出かけたのだ。そういえば、ユウキは父上に何かを手渡していたな。

「何を渡したのだ?」

「ちょっと細工品を数点」

ユウキが問題無いというのなら間違いないだろうな。

だが、私への客はまだ終わりではなかった。休憩を挟んでまた世襲貴族と会うことになるのだが。

「ワッハッハ!我は名門出のビーコット準男爵である。褒めたたえよ!」

すっげぇ馬鹿がやってきた。

「「……」」

私とユウキが言葉もなく立ち尽くしていると、

「お前がジーグルト伯爵家当主か?えらく貧相ななりと外見だな。いかん、いかんぞ。そんな風では他の貴族に足元を見られる!さしあたってまずは服装をもっと威厳あるものに変えるべきだ!!」

私が展開についていけずポカ~んとしていると言葉を捲し立てる。前に来た無能世襲貴族共と同じく追い返そうとしたが、

「(お待ちください。彼は良い意味で使えます)」

ユウキは小声で意外なことを進言してきた。

「(使える?どのように使うつもりだ)」

「(どんな馬鹿であろうとも有能であろうとも自分の信者は多いに越したことはありません。この人物の性格は単純明快でわかりやすく愚直です。うまく恩義を貸し付けておけば太鼓持ちとして伯爵の評判を命じずとも広げてくれるでしょう)」

世代交代が行われれば周囲の人間も変わる。ジーグルト伯爵家は外部の貴族とは関係が薄いので彼を駒として使い上手く評判を広げろと。

「(そう上手くいくのか?)」

「(彼のように調子づきやすくアクティブの行動してくれる人材は確保しておいて損はありません。どのみち他の貴族との関係上顔となってくれる人間が伯爵家にはいません。見た目馬鹿な感じですが見どころはあります)」

私にはよくわからないことを言われる。

確かに見た目は派手で注目を集めるみたいだが……、どうにも信じられない。

「(では、ここで精錬されている貴金属を付け届けとして渡してください。次に来るときには必ず態度を改めて上下の関係を厳しく守るはずですから)」

いまだに尊大に振舞う彼を見て賄賂を送れと進言するユウキ。彼の意見が間違ったことは一度としてなかった。そのユウキが「使える人物」というのなら試してみることにした。

私は金銀ミスリルのインゴットを数個彼に渡す。彼は礼を言ってそのまま帰った。

「やはり無駄なことではなかったかな?」

「いえ、必ず得になります」

ユウキは確信を抱いている。しばらく待つことにした。

数日後―――

「改めてまして伯爵様に拝謁仕り光栄にございます。ビーコット準男爵位を授かりましたアラン・カイリ・フォン・ビーコットと申します。お見知りおきを」

そこには尊大に振舞う彼はどこにもなく上から下で礼儀正しく服装を整えた立派な人物が存在した。

「ほ、本当に?ビーコット準男爵、なのか?」

「はい」

「以前の豪華で華美な服装と尊大な態度は何だったのだ?」

「あれはわざと”カブい”ていただけでございます」

貴族で言う”カブく”とはわざと豪華に振舞うという意味である。

「何しろ私はほとんど功績らしき功績も無く大貴族の妾の生まれ、初対面で注目を集めるには意にそぐわぬ行動をするしかなかったのです」

そのためわざと豪華に着飾り派手な言動で注目を集めていたそうだ。本来は質素倹約であり真面目な人物なのだがそれだけで誰の目にも止まらない。

「伯爵様にお会いできるのはこれが最後かと考えわざとこのような行動をしました」

「なるほど」

「それを伯爵様はお見抜きになり私に改めて来れるようにいたしてくれました」

この伯爵は人物眼があると、そう判断して本来の服装でやってきたのだ。

「このアラン、準男爵の身ではありますが誠心誠意伯爵様のお力になりとうございます」

頭を深々と下げてくる。

「ユウキ、こうなるのを見越していたのか?」

「そうです」

「いったいどこを見てそう思った?」

「懐剣とあとは靴を見て」

懐剣とは懐にさすナイフのような短剣のことだ。大抵は見栄えのために使われるが彼は実戦用の物をもっていた。靴は普通は土に汚れるので大多数が靴に付いた汚れを叩き落とさないが彼の靴には土汚れがついていなかったそうだ。

「彼の懐剣はいざという時に備えて実用性本位でありました。靴の汚れもしっかりと落としていましたので、これならば使えると」

あの見た目派手な服装に目が行っていたがユウキはそこまで見ていた。彼の本質が実直であることを見抜いて礼儀正しく来れるようにしたのだ。だが、彼がそうするには所持金が足りない。だからインゴットを渡すように進言したのか!

「アラン準男爵よ」

「ははっ」

「わが伯爵家は今変換の時にある。その苦労は大きいだろうが、力を貸してもらえるか」

「わが命に誓っても!」

こうして私は忠誠無比な有能な臣を得ることに成功したのだった。
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