解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

115話 馬鹿勇者連中再び Ⅰ

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ジーグルト家の新兵らに訓練を始めて一週間ほど経過した。始めは反抗的で当主様に言えば追い出せると思い込んでいたが訓練を止めれば自分らが追い出されると言われて黙々と訓練をこなす。はっきり言ってこれはかなりきつい訓練だ。それもただガムシャラにやればいいという類ではない。

いかに効率よく体を動かすかという練習でもある、無駄な動きをすればするほどに体力は目に見えて減っていき動きは緩慢になるのだ。

闇雲に走らせて体力を付けさせてもイザという時動きが出来ない、それをどのようにすれば出来るのかを考えなければならない。

ただの縄跳びだが、これだけでも十分すぎるほどに効果がある。

ヒュンヒュンヒュン。

ひたすら縄を動かして飛ぶ行為を繰り返す。

「皆さん、休憩です」

『や、やっと、きゅう、けい』

エーディンが砂時計を見て終わったことを伝える。全員が一息つくが、三分経てばまた縄跳びが待っている。僕も基礎訓練を最近してなかったので一緒に縄跳びをしている。

しかし、僕には三十分間跳び続ける。ただ命令して見ていても時間の無駄なのでこの機会に訓練に参加しているのだ。これは教官としての立場からも来ている。

目の前で教官が自分よりも過酷な訓練を続けている姿を見せられれば受ける側としては従うしかない。そういうことだ。

そうして、今日の訓練はひたすら縄跳びと走りこみで終わった。

「ユウキ様、兵士らに対しての過酷な訓練、いささか非情だと思うのですが」

その夜、みんなと食事をしている最中エーディンが聞いてくる。彼女はリフィーア達を下に扱わず対等に話をして仲良くなったようだ。表面的にはだが。

「あの程度なら冒険者の大半はこなせるレベルだよ、それなのに付いて来れなければ自分の命すら守れない。自分すら守れないのに主君を守るという大役を任せろと?」

「そ、それは・・・」

「剣にも盾にもなれない人間は平凡な暮らしに満足するべきなの。意味も無く戦争に駆り出されて無残に死ぬよりかずっと幸せ」

残酷だが現実とはそう言うものなのだ。

「エーディン、ユウキ殿は何一つとして間違ったことは申しておらぬ。間違っているのは我らのほうなのだ。基礎訓練を怠り慢心し軟弱な兵士らを信頼するなどとは貴族の恥だ。そのような考えは今後改められなければならない」

「先代様、しかし」

「では、先に紛争で敗北したアウドース男爵らを見てみるのだ。彼らが精鋭を率いておれば我らの方が破れておったのだぞ。信頼に足りぬ軟弱な兵士と無能な指揮官ばかりだったからこそあっという間に蹴散らされた。我らが同じ鉄を踏むわけにはいかぬのだ」

「・・・はい」

先代のベルン様自ら抱えている兵士らの軟弱さを非難する。平和な時間が多くあり兵士らの訓練を疎かにしてきたツケはどこかで支払わないとならない。もし、それが命がけの戦いとなれば兵はあっという間に蹴散らされるだろう。跡取りの暗殺や誘拐事件のことを考えて警備体制を強化しようと伯爵家は躍起になっていた。

「ともかく、ユウキ殿に今後指針となる訓練課程を制定してもらうことにする。それを新兵から継続して行うように法を変更しよう。付いて来れないならば他に道はあるのだからな」

「わかりました」

「近年の貴族軍は軟弱な者ばかり集まって兵の質量ともに目に見えて落ちてきており使い物になる人材が見つからないと噂に上がっておったが我らもそうだったのだな。ともかく、ユウキ殿がここにいる間はお世話になろう」

そうして皆と食事を続ける。ここで話題を少し変える。

「精練所の工事の進行はどうでしょうか」

「そちらの方は基礎工事が終わったので建設に着手することにする。将来的にはまだまだ拡張が必要だが」

どうやら工事の方はひと段落ついたようだ。これで何とか安心できる状態になるかな。

翌日、それは裏切られた。

『ユウキ!貴様がここにいるとは!!』

「うげ!」

思わず声を上げる。あの馬鹿勇者連中が何故ここに?

「ここに何の用事?」

「フン、今は貴様ごときに相手をする時間はない」

どうもジーグルト伯爵家に用件があるようだ。彼らは事前の約束も無く屋敷へと入ろうとする。

「止まれ!貴様は何者だ!」

門衛が止める。

「我らは国から新たに騎士爵に拝命されたジークムントらだ。当主様に挨拶をしたい」

通して欲しい、と。

門衛は顔にこそださないが通したくないだろ。何しろこの前紛争があったばかりなので警戒状態なのだ。どこの誰とも知れぬ連中など通すわけにはならない。

とはいえ、同じく国から任命されている貴族、断ると面倒だと判断し通すことにしたようだ。新当主のアルベルト様、頭を悩ませることになりそうだ。

三時間経過。

馬鹿勇者らは出てきた。

「おい、貴様」

貴様呼ばわりか、もうどうだっていいや。

「なにかようじなの」

「貴様の役職は?」

「兵士らの訓練教官」

「ハッ!訓練教官ごときが貴族家当主よりも重用されているだと?そんな事実は絶対に認めない!!」

この様子ではご自慢のご高説が通じずに追い返されたということだろうな。当然といえば当然だけど。こいつらには馬耳東風だろうな。いい加減に現実を見て欲しいと願うがその見てくれから察するに無駄であろう。

以前見たときよりも全員が華美な装飾品を身につけていた。こいつらの稼ぎでそれらが購入できるとは考えられないからどこからか調達したのだろう。それを借りる側も貸す側も罪人だと思ってしまう。

「(いい加減に悪い夢から覚めてほしいのだけど)」

僕らは彼らに無残に屍を晒すような死に方などして欲しくないと心から願っている、だが奴隷同然の扱い方をされて当然という行動と言動から何も言うことが出来ない。僕にこの世界のことを教えてくれた恩人の手前反論しないが。

「(馬鹿につける薬は無いというけど、国とかから支援されておきながら自分の主張ばかり押し付けて)」

この世界の政治はかなりおかしい。異世界ではありがちなことかもしれないがどうしてここまで横暴に振舞えるのだ?とっくの昔に粛清されてもおかしくないようなことを平気でしながら今生きているこいつらを見て歪な政治に疑問を浮かべる。

そいつらはひたすらに喚き散らす。

『ジーグルト伯爵家当主は勇者の偉大さを理解できない愚か者の貴族だ!』

自分の要求が通らないだけで喚き散らすなんて幼稚な子供と一緒だ、声高に叫ぶ分だけ余計に始末が悪い。

結局僕に散々罵詈雑言を言い放ってどこかに行ってしまった。
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