解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

113話 兵士らの訓練

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「おおっ、ユウキ殿、よく戻ってきてくれた」

本屋敷に戻るとジーグルト先代当主ベルン様が出迎えてくれた。

「先代様、いくらなんでもこのような出迎えは」

ちょっとばかり異常であると、苦笑する。隣には当主のアルベルトさんもいた。

「報告では工事の方はかなり進んでいるそうだね。疲れているところすまぬが急いで解決しなければならない問題が出てきたのだ」

重要な話なので冒険者ギルドから来ているユーヴィルさんらと極秘の話があるそうだ。

「皆、すまないけどお仕事の話」

皆には食事でもしながらくつろいで貰うことにする。メイドたちに案内されて客室に向かう。

「何かお仕事でしょうか」

「うむ、領地の外れにボアの群れが現れたそうだ」

こんな辺鄙な場所でもモンスターは出現するようだ。どうやら領地の外れから入ってきたケースのようだ。

「家臣らに向かわせようと考えたが、いかんせん戦闘経験が少ない者が多すぎる」

基本的にこの領地は平和でありモンスターと接触する危険性はあまりないのだが、奥地のほうに行くとまだ原始的な森林地帯があるためそこに生息しているモンスターが食料を求めて農家の畑に出てくることがあるらしい。

急いで討伐したいそうだ。

「ユウキはモンスターとの戦闘経験が豊富なのであろう。ここはお力を貸してもらえないだろうか」

この領地の主食はジャガイモに似た植物である。地形的に麦も米も栽培できないそうだ。だから、中々肉が食べられない。このぐらいなら十分僕で対応可能だな。早速人手を借りて狩りに行くことにした。リフィーアらも一緒にだ。

「うらっ!」

ボアの頭部に一撃を打ち込む。重く長い鋼の棒を装備してジーグルト家の家臣らとともに狩りをする。重い一撃をもらいそれでボアは倒される。

「各自陣形を維持し包囲して狙え、腹部を重点的に狙う!」

「は、はいっ!」

ジーグルト家家臣五十人ほど連れてきたが、いかんせんモンスターとの実戦経験が乏しい新兵が中心であった。ボアは動きが早く突進されると痛手をこうむるので囲い込んで倒す作戦なのだが。

「や、やぁっ」「このっ」「くうっ」

やはり冒険者とは違い知識も技術も実力も少ない貴族家の兵士らしく、あまり有効打を与えられない。

僕は僕で迅速に倒しているが周りが追いつけない。仕方なく鉛の重りをつけた大きな分銅をボアの足に絡めて転倒させてそこを叩く作戦に切り替える。

「よし、こんなものだろ」

『ハァハァ・・・』

二時間ほどである程度のボアを退治した。とりあえず外に出てきているのはこれだけだ。

「(しかし、これぐらいで息が上がるのか?伯爵家とはいえ戦闘経験が無いのが多すぎる)」

僕は周りを見てから「人材が足りない」という問題がいかに大きいのかを実感することになった。ここは山に囲まれた盆地であり外敵が来ることはまず無い。だけども、それで戦う兵士らの戦闘経験の無さときたら目を覆いたくなるぐらいだ。

この程度で身動きできなくなるほどに。

「こらっ!地面に腰を落とすな。敵がまだいなくなったとは限らないんだぞ。倒したモンスターを解体するから運べ」

『は、はいっ!』

未熟な新兵に活を入れる。

モンスターの死体を一ヶ所に運んでから解体を始める。三本の丸太を三角形に組み立て頂点を結びその下に大きな穴を掘る。

「せぇの!」

ボアの頭にフックをかけてロープで引っ張り上げる。約二百キロほどの体が動き吊り上る。リフィーア達は吊り上げ式解体台を使用する。

「お前ら、何を見てるんだ?」

『へ?』

「この依頼は僕が受けたけど人手を借りてきてるんだ。それなのに平然と休憩してるってお前らそれでも兵隊か。こういう食糧調達では全員が平等に仕事をするのが当然だろうが。さっさと手伝え!」

指揮官である僕が一生懸命働いているのにも関わらず平然と休憩し仕事が終わるのを待つ兵士ら、こうした地方軍では軍規が甘いとは感じていたがここまでとは。

僕がいる以上甘やかしたりはしない。疲れているとか汚れたくないとか、そんな理由は通らない。僕がいなくても誰かがやらないといけない仕事なのだ。

数時間かけて解体作業を行う。

「きっつ」「うへぇ」「くさい」

伯爵家から借りた新兵らはモンスターの解体作業に嫌悪感を抱いていた。しばらくは大人しくしていたのだが、

「こんな仕事やってられねぇよ!」

一人の兵士が声高に叫んだ。

「・・・」

「俺達は伯爵家の兵士だ!こんな雑用に時間を取られる筋合いはねぇ!」

同じくらいの年の青年はそう叫ぶ。

「この仕事の何が不満なのだ?」

「モンスターと戦うのは冒険者だろう、兵士であるお」

すぐさまそいつを殴り飛ばす。

「がふっ!」

一撃で昏倒した。周囲がその光景を見てる中で

「お前らは兵士だろ?なのに装備の手入れから食事の世話まで下女や従者がしてくれるとでも思っているのか。最低限の自分の事すらも出来ないくせに偉そうな口を叩くな!」

周囲が怯える。

「不満があるなら前に出て来い。己の身の程を分からせてやる」

鋼の棒を取り出して威圧する。

先の紛争で先陣を切って戦った僕のことを伯爵家で知らないものはいない。戦えば間違いなく殺されるだろう。

「不平不満大いに結構。しかし、お前らの忠誠と僕の功績、果たしてどちらが大きいと思うか。ベルン様やアルベルト様がどちらの言葉に耳を傾けるのか。よく考えてみろ」

伯爵家の兵士の自分らと外部の人間であるユウキ、果たしてどちらに信頼をおくのか?目に見えて分かるはずだ。

「わかったら、さっさと働け!」

『は、はいぃ~!』

そうしてボアの後始末を終える。

「そのようなことがあったのか!」

「ええ」

依頼を終えて戻ったら僕はアルベルトさんにそのような経緯を報告した。

「ユウキ、真にすまない。これは家臣や兵士らの統率が取れていない父や私の失態だ。今後また紛争を仕掛けられるかも分からない時期なのに肝心の兵士らがこれでは戦いようが無い。どうも兵士らはモンスターと戦うのは冒険者らだけだと誤解しているようだ。実際にモンスターの領域に接している領地では兵士が率先してモンスターを倒すのが当たり前だというのに」

アルベルトさんは今後このようなことが二度と起きないように厳しく対応すると約束する。

実際問題、この領地でも少なからずモンスターが人里に出てきて農地を荒らすという問題は少なからず出ている。それなのに伯爵家の兵士らが「仕事じゃないから」などという対応では民から信頼されないだろう。これは今後重大な問題になることが予想される。

「以前から背後から襲われる危険性が薄くなっている危機感はあった。しかし、そのようなことはない、そう考えていたが今までの事件を考えて家臣や兵士らの意識改革が必要だ」

僕に協力して欲しいと。

「それは、伯爵家当主としてですか」

「そうだ。ユウキのような戦士になるのは不可能でも訓練次第ではある程度は成長の余地があるのだろう。厳しいかもしれないが兵士達に最低限自分のことは自分で出来るようになって欲しいのだ。しばらくの間冒険者のやり方で兵士らを鍛えてくれ」

僕は、溜息を一つ吐いた。
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