最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘

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ゲーム開始時編

お姉様爆誕

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「お姉様!お姉様!お姉様!」

「お、落ち着いて!」

マナーの悪いプレイヤー数人に絡まれていた初心者の女の子プレイヤーは僕のことを「お姉様」とひたすら呼んでいる。周囲には無数のプレイヤーがいるのでとても恥ずかしい。

好奇の視線に耐えられなかったので逃げ出すことにした。

「お姉様、どこに行かれるのですか?」

「落ち着いて話ができるところよ」

広場から逃げ出して町をぶらつく。目的は無いがこの子はまだ初心者でありゲームマナーを知らない部分が多い、あんな場所でひたすら同じ言葉を連呼されては相手は堪らないだろう。

仕方なく、1番目の町の喫茶店に行くことにした。

「好きなのを選んで」

「え?いいのですか」

「代金は持つから」

「あ、ありがとうございます!お姉様!」

だ、か、ら。その「お姉様」というのはやめてほしい。中身は男の子なのだ。そんな風に呼ばれたら間違いなく誤解される。口調は女性らしくしているので余計に間違われているのだろう。

二人でお茶と軽食を選ぶ。

「あ、あの!」

「なにかしら?」

「お名前は!」

「・・・」

名前・・・かぁ。プレイヤーネームを名乗るのはかなりの問題だった。別に名乗っても他に同名の存在がいるかもしれないが。このゲームでは別名になることも出来る。チャットとかも別になるが。

「私の名前は『ラクチェ』よ」

カオルと名乗っても良かったがこちらのほうが女性らしくていいだろう。

「ラクチェお姉様、ですか。凛々しくありながら女性らしくて素敵です」

いまだに女性であり年上だと勘違いしている女の子プレイヤー、その熱意がすごいので今更訂正が出来ないな。彼女は「ライブラ」という前らしい。自分の星座から名前を決めたそうだ。

「あなたはどうしてあの広場に居たのかしら?」

「あの、実は・・・」

何でも雑誌などの懸賞に応募して偶々ヴァーチャルギアが当たったそうだ。一人っ子であり両親が外に出て働いているそうなので時間つぶしによさそうだとしてゲームをしてみようと思いついたらしい。攻略掲示板でスキルビルドなどを見てゲームを開始した。しかし、広い街中で何をして良いかも分からず右往左往していたところにあの連中に絡まれたそうだ。

典型的な初心者タイプだった。違うところは手探りで行った部分が違うぐらい。さして僕と変わりが無い。

「ジョブは?」

「私は『騎士』です!」

元気よく答える。

騎士はもっともポピュラーでバランスが良い模範的なジョブだ。剣と盾を装備できて大半の防具にステータス補正があり回復魔術も併用して覚えられる万能型だ。汎用的な分個々の成長は平均化するのでうまく育てないと特徴の無いジョブになるが最初からやるのなら鉄板だ。

調教師とは正反対のジョブである。

「私のジョブはPVPを見たから分かると思うけど調教師よ」

「えっ?あんなに強いのに、ですか?」

ライブラもやはり調教師が最底辺のジョブなのは確認しているようだ。しかしながら、あそこまで強いのに?そういう顔をしている。

「私はスキルビルドがかなり特殊なのであんなに強いけどゲーム時間はさして長くないわ」

「β版からではないのですか?」

「うん」

「はへぇ~」

ライブラは私のことをβ版で活躍した有名プレイヤーだと思っていたようだ。実際にはほんの少しばかり早く始めただけなのだけど。

「これからどうしたいのかしら?」

「え?!」

「町の施設を案内して欲しいなら案内するしフィールドに出て戦闘のレクチャーもしてあげられるのだけど」

「そ、それでは、面倒をかけるかと思いますが。よ、よろしくお願いします!」

そうしてお茶と軽食を食べながら楽しくおしゃべりをした。そうして初心者フィールドに出る。

「え、あれ?こんな、このっ!」

最初に与えられる剣と盾を装備してライブラはスライム相手に右往左往していた。最底辺のモンスターとはいえ実際に体を動かして遊ぶゲームなので武器を振るい防御し移動する、これが出来ないと駄目だ。

お世辞にも動きはすばやいとはいえないスライムだが動きがぎこちない初心者にとっては脅威であることに違いは無い。これからどれだけスキルを上げても『恐怖』に打ち勝てなければゲームは永遠に進められないのだから。

「はわわっ、やっと二体倒せました!」

「よくがんばりました」

「VRゲームが難しいとは聞いてましたがこんなに体を動かすだなんて」

「ライブラは前に出て戦うのだから位置取りも考えなくてはならないわ。たとえどんな場所にいても動くことを止めるのは死ぬことと同じだから」

「魔術師、でも。ですか?」

「そうよ」

僕も実戦では移動することを止めてはならないとミカさんやライナさんからいつも言われている。敵の中には後方を狙って攻撃してくるモンスターが数多いからだ。常に移動と回避を考えて行動しなくてはならない。

前に出て味方の盾になるというのならばなおさらだ。

ステータスが切れて身動きできなくなった時に攻撃を受けては役目が果たせなくなるのだから。僕のようなタイプは可能な限り生き延びることを優先しないとならない。長い時間生き延びれば延びるほどに味方に大きな効果が現れるのだからだ。後方から支援するスキルも覚えているが。

そうしてライブラにレクチャーしていると、

「あ、あれ?体が急に重く」

どうやら空腹度のペナルティがきたらしい。僕はバスケットを出して休息の時間を整える。

ハグッハグッ。ゴクゴク。

ライブラは僕が出したサンドイッチと紅茶を夢中で飲み食いしていた。

「今回は私が出したけど通常の冒険では全部自腹であることを覚えておいてね」

「ふぁ、ふぁい!」

かぶりつきながら答えるライブラ。こうした準備を整えていないのも初心者なのだな、と。僕は大急ぎで覚えたからなんだか微笑ましい。

「さて、ここで」

一時戦闘を中断して採集などを行うことにした。

「どうしてそんなことをするのですか?」

戦うことで頭が一杯の彼女には理解しがたいだろうけど覚えておいて損は無いことだ。

「戦闘をメインにスキルビルドをしているライブラにとってはあまり必要性は感じないかもしれないけど。生産職との繋がりを得ることはとても大事なことなのよ」

今はまだ初心者なのでその装備で十分だがスキルレベルが上がればそれは装備として役に立たなくなる。装備を買い換えたりする必要もあるし回復ポーションなども用意し食事などもしなくてはならない。ギルドなどに入って貢献するのならばこうした地味な採集採掘は覚えておくと良い。

ただひたすら戦闘だけでは仲間として浮いてしまう。手を貸してくれる生産者に装備などを気持ちよく生産してもらうために素材アイテムを手に入れる手段を覚えておくと良い。

こんな初心者フィールドで手に入るアイテムなど大した効果は見込めないかもしれないが熟練者ならばそれ相応のアイテムをその場で製作してくれることも多い。ただ戦うだけではなくこうした貢献も出来ると認められれば相手の気分も良くなるからだ。

金だけ出して「製作しろ、製作しろ」押し付けがましく言うのは大変失礼でありマナー違反、それではいずれ相手にされなくなる。だから、手間かもしれないがこうした地道な行為を人知れずしておくこと。これを徹底すれば良い仲間に出会える可能性が高いのだから。

「むずかしいんですね」

「ここは無数のゲームプレイヤーがいるのだから人知れず見ている人は見ているわ。他人とのコミュニケーションもゲームマナーの一つよ」

安全地帯で食事をしていると、

「ん、これは?」

「どうかしたのですか?」

精霊の瞳にプレイヤーの反応が出る。その後方には多数のモンスターを引き連れている。

「(MPK?この初心者フィールドでそれは無いと思うから、トレインか!)」

多分これはここより少し先のフィールドで多数のモンスターにタゲをもらってやむなく逃走しているのだろう。そして逃亡しているうちに他のモンスターを引っ張ってきてしまった。そんな状況だろうな。偶にこうしたプレイヤーが出てくることがある。悪意があるわけではないが結果として大変迷惑な行為になってしまっているのだ。

このままだと他の初心者プレイヤーに接触するかもしれない。ライブラに大量のポーションを渡しておく。

「え?こんなに?」

「もうすぐ大量のモンスターに追われてくるプレイヤーと接触するわ」

進行方向はこちらで間違いないだろう。その数は三百を超える。

「そ、そんな!じゃ、逃げないと!」

僕は首を横に振る。

「逃げることは十分可能よ。でも、私達が逃げたら後ろにいる同じ初心者プレイヤーはどうなるかしら」

「そ、それは・・・」

「間違いなくデスペナルティを貰って町への強制帰還よ。そんな不運をゲーム開始直後に味わいたいかしら」

「で、でも!」

「他のプレイヤーには対処できない。このままでは町の中までモンスターが突っ込んでくるわ」

そうなれば町は相当な騒ぎになるはずだ。そんな悲惨な目に合わされたプレイヤーは不幸だろう。だからこそ、ここで止める必要がある。

さっそく行動に移る。残念ながらライブラの戦闘能力では巻き込まれれば即座に町に強制帰還だ。この際だから僕がどのぐらいのことが出来るのかを確かめることにする。

しばらくすると、数人のプレイヤーががむしゃらに逃げてきた。

『ヒィィィー!た、助けてくれ!』

男女含めて三人、他のプレイヤーは死んだのだろう。

「後のことは任せてさっさと町まで帰還しなさい」

『す、すまねぇ!』

奴らは振り返る余裕すらないのか、我先にと逃げる。

「何であんなのを助けるのですか?」

ライブラは初心者とはいえまともなプレイヤーだ。こんなに大量のモンスターをここまで引っ張ってきたくせにその責任を取らず生き延びようとする連中を助ける義理は無いはずだと。

「彼らは悪いことはしてないけど結果として悪いことをしているだけ。好きでモンスターに追われているわけではないのよ」

MPKのようにモンスターを押し付けようとするためではない。ちょっとばかり不幸な状況に追われて逃げているだけ。普通はその場で死んだほうがいいがVRゲームゆえに恐怖に勝てず逃げることは多々ある。そんな状況だ。

そうした状況をどうにかしてあげるのが先人だろうと。

やがてモンスターの軍勢がやってきた。

「さて、と」

僕はモンスター召喚を制限してたたかうことにした。これに頼りすぎるとプレイヤースキルが全然上がらないからだ。思考し判断し行動するゲームだからこそその動き方も必要。

「《土壁》」

まず最初に移動を制限するために逆三角形を画くように土壁を作る。そこにモンスターが入ってきて徐々に移動が制限される。

「【蔓地獄】」

次に地面から無数の蔦を生み出して移動速度を大幅に制限する。そこに《火炎弾》を広範囲に連続で打ち込んで一気にダメージを稼ぐ。それでも生き残る相手には、

「《金剛槍棘》」

木火土と来て金の属性に移る。地面から金の槍が無数に飛び出す。

『グギャァァァ』

それで大半のモンスターが死ぬがしぶとく残っている固体が存在する。さらに駄目押しをする。

「《酸弾雨》」

最後の水属性の雨の弾丸を空から無数に打ち込む。金が水となり土が水に力を与える。それで全てのモンスターが消滅した。

「意外と簡単でしたね」

「・・・」

ライブラに近づくとどうもゲーム画面から逃げ出しているようだった。
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