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ゲーム開始時編
未成年の賭博場オーナー1
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ゲーム内で会った女親分がGMだった、しかし、それ以上に重たい現実に直面していた。
あの後すぐに僕だけにメールが届いた。
『よくぞあの難関なクエストをこれほど短時間でクリアしたことを喜ぶ。ゲーム会社社長より』
すぐさま公式ページに新しい要素が追加された。
『2番目の町の賭博場開放、ここだけの要素をお楽しみください』
それと同時にあの店の所有者が僕になり、あの店限定で弄れる権利と4000万という大金が銀行に入っていた。多分こういう商売は胴元の資金が無いと不可能ということなのだろう。
専用のNPCや道具なども金さえ払えばどうにでもなるため僕は僕のために投資するということに使う。
そこで僕は可能な限り現実世界の絢爛豪華なカジノを設置することにした。幸いそうした装飾品や資料などは調べればすぐに出てくる。どうせゲームなのだからと割り切って大金払って来ても良い、そう思える場所にすることにした。
まずは店舗の拡張だ。今のままでも広いがもっと大規模にやるのなら外見も内装も目一杯弄る。ゲームの種類もカードなどしかなかったのでダイスやルーレットなど現実世界にある物を用意する。
派手なショーを行うための舞台や食事や酒などもありえないほど豪華にしてしまう。
あの強面の男らも使えそうだがイメージに合わないのでリストラしようか考える。酷い主だと思うがこの前のように無一文で路頭に迷わせるような連中を使う気にはならない。ならないがこれはこれで使い道がある。
ボーイやガールも可能な限り雇いしっかりとしたマニュアルを作る。
ここではイカサマは絶対に無しとする。そうした持込をした場合はあの強面お兄さん達が回収をしてくれる。あと、特権階級はVIP扱いをするのが好まれると想定してそうした特別席を用意した。
そうして完全に異なるテコ入れをして『薫風の咲く頃に』を開業させる。
「あ~、う~」
そうしてすぐさま書類に埋もれることになった。ここはPCだけではなくNPCなども来ることを想定していなかったためである。以前の強欲な権利主義者とは完全に違う華やかなショーに食事などに町の人々は喝采を上げて通ってくるのだ。中には富豪や貴族なども混じるようになっていて金払いがすごく良い。
ここはゲームの中だ、中だ、そう割り切ろうとするのだが初期に投資した金の回収がもう終わってしまったのだ。さらにタイミングが良いのか悪いのかゲーム内の施設でこうした賭博場の経営者には資金の回収と還元という目的があるためただ金があるだけでは駄目になっている。
つまるところ、得た金を社会に還元しろ、そういうゲームになっているのだ。
僕は得た金を周辺地域に流して経済を活発化させる歯車になってしまった。実際以前より町には活気があり商品も全て1割ほど安くなっている。
だけども、この賭博場のオーナーという責任からはそう簡単に逃げられない。なぜなら、
「オーナー」
「どうしたの」
「このカジノの所有権を寄越せという客が来ています」
カジノおよび賭博場のオーナーだけに来る特別クエストだ。
ルールはカジノが設定している道具および機材などを利用しての勝負である。『決闘』などと呼ばれているが実際に殺し合いなどは起きない。勝負の方法はオーナーが自由に決められていてそこにある道具ならば全て使用可能である。設定された条件でオーナーが勝てば相手は全ての所有物を差し出さないといけない。オーナーが負ければそこで所有者は入れ替わるという方法だ。カジノが稼ぐ金は全てそちらに移動する。
PCだけではなくNPCからも挑戦が来るのである。僕の正体がバレると大騒ぎになるので見た目は眼光鋭い老紳士のようにしている。
だけども、イカサマの出来る要素は完全に除外して【天運】を持つ僕に勝てるはずも無かった。
「21」
僕は残酷ではない、最低限の所持金は残したいが『決闘』において情けをかけることは誰にも許されない。僕が設定しているゲームはブラックジャックであり、まず最初に金のコインを互いに100枚用意する。1枚賭けて勝てば1枚、負ければ一枚だ。100枚全部賭けて勝てばその場で終了という単純なルール。なお、コインの追加は認めない。
相手は外見上裕福な優男のようであり側に複数の女を囲っている。ちなみに、ここで雇っているガールではない。
「まだだ!まだ60枚ある!」
相手からすると手緩い勝負であり楽して勝てると思うようだが現実は残酷である。相手は次なら勝てると強気に攻めるが「ドボン」に叩き落される。無理な手ばかりを作ろうとするためにそうなるのだ。そうしてコインは確実に減っていき、
「一枚、最後の、最後の・・・」
運系のスキルは上げるのが非常に難しい、それを必要とする場面が殆ど無いからだ。だが、こうしたカジノや賭博ならば話は別、常に必要としているためガンガン入ってくる。
相手はもはや死に体であり女らも青ざめている、彼らはカジノの維持や運営に必要なNPCであるため定期的に入ってくるように設定されている。
そうして最後の勝負が始まる。観衆らも息を飲んで見守る。
「!」
相手に何か光明のようなモノが見えた、ここで負けたとしてもさしたる影響は無いように思ったがこのカジノを手放す気はまったく無い。なので念押しをする。
「5枚引こう」
そこで客達がざわめき立つ。僕の見えているカードは11だ。相手に見えているカードも同じく11、五分五分の状況なのに5枚も一度に引くなどどう考えてもありえない。しかし、僕には予兆が見える。
そうして5枚引く。勝負はここで決まる。
「は、ははは、はははは!ブラックジャックだ」
相手は最高の手を引いた。観客にどよめきが生まれる。
それに対して僕のカードは2、このままでは負けだ。しかし引いた5枚のカードを表にする。ルールでは親は14以上になるまで引かなければいけないルールがある。1枚ずつカードをめくる。
2、1、3と続く。
「1」
ここでさらにどよめきが大きくなる。ここまでの数字の合計は20。観客は固唾を呑んで見守る。カードの枚数から考えればもうすでに3枚出ているのでありえないと。
そして最後のカードをめくる。
「1」
客からの大歓声が出迎えてくれる。
「・・・あり、ぇ・・・」
それと同時に相手からは絶望のような呪詛が出てくる、現実では相当強いのだろうがゲームの中でのゲームではどうしようもない。
「彼が所有している全ての資産を整理して」
「はっ」
そうして彼は墓場へと連れて行かれる。
ここでいう『整理』とは相手の強さのランクである。NPCにも実はスキルなどが設定してありそれに応じて所有している金や所持品が変化する。こういう場所はビッグビジネスであるために狙う相手は数多い。そのオーナーが頻繁に入れ替われば物流が乱れ歪んでしまうのだ。
なので、それを維持できる強さを持つ者でなければあのクエストは突破できないようなシステムになっているわけだ。だからといってもあまり良くない選別方法なのだけど。それを知ることになったのはこうした挑戦者が来るようになってからだ。
オーナーの名前および正体が不明であることは掲示板にも書かれている。
現場を見たプレイヤーからは『チートジジィ』『狂える老骨』などとも書かれている。現実には同じプレイヤーなのだが、それを明かすことは出来ない。
だが、いつもいつも僕が出張って排除しなければならないほどの博徒など奇跡でも起こらないと存在しない。高い出費になるが『ネームド』を雇うことにする。
『ネームド』とは固有名を持つNPCの総称である。現実プレイヤーほどに馬鹿げた強さは持ちえないが極めて機械的で効率的に勝負が出来る高性能なNPCとでも言おうか。
所持金の範囲内で、かつゲームが許容できる範囲でなら色々な設定が可能なのだ。
実際の僕にはブラックジャック以外のゲームのルールは検索できる範囲外知識が無い。数字的な計算も高度な戦略性も手に入れるのは難しいだろう。だけどもゲームの中でなら数字を動かすだけなので簡単なのだ。とりあえず設置しているルーレット、ダイス、カード2種類を追加してるのでそれに対応できるようにしよう。
そうして時間をかけてネームドを作成した。
そうしてしばらくするとまた挑戦者現れる。今度は本物のプレイヤーのようだ。
「おらぁ!このカジノの経営権寄越せ!チートジジィ!」
武器の持込は禁止にしているのに血気の強い人だなぁ。
「すみませんがここは娯楽を提供しているカジノ。己の才と運だけが武器の場所です。暴れては負けた時の額が増えますよ」
「あぁん!」
「オーナーに挑戦したければまずここのゲームを仕切っている4人に勝っていただかないと」
「4人だと!」
「紹介しましょう!このカジノが誇る四勇士です!」
今まで出て来なかった4人の存在に一同が期待と不安の目を向ける。
「アハハッ」「ふむ」「獲物獲物」「駆逐する」
見た目少年から老紳士まで4人が晴れやかに登場する。
「その顔に映るは真実か幻か。ポーカー・ウィザード!キラ!」
「お客様!僕の顔しっかり覚えておいてね!」
道化のようにしながら美少年がどこからともなくステッキを取り出す。
「その強さは師譲り。ザ・ジャッジ!オーウェン!」
「わが師より授かりし戦術を披露しよう」
優しい瞳の紳士は精錬された礼を客にする。
「その手で操るは魔法の玉。ルーレット・クィーン!ベラルザ!」
「今日も張り切って獲物を狩るよ」
まるで本の中に出てくるような、絵に描いたような美女だった。
「握った手からは何が出るのか。ダイス・ナイト!ルウェイン!」
「さて、今日のダイスは良い気分のようだ」
御伽噺の勇者のような出で立ちの美丈夫は客にウィンクする。
現実世界ではありえない格好風のキャラの登場に全員の意識が飛ぶ。中には崩れ落ちる人もいた。
『・・・』
「お集まりの皆様、驚きかもしれませんがお聞きください。この四勇士はオーナーより直々に見出されたこのカジノのゲームを取り仕切る代行者。オーナーの腹心でもあります。オーナーに挑戦したくばまずかれらを倒さなければならないと直々に命令が出されました」
『・・・』
全員の目が泳いでいる。その容姿風貌は現実の人間ではありえないほど美男美女である。息を飲むのは当然であろう。
「挑戦者の実力が本物かどうかお客様の前で判断していただきましょう」
その挑戦者でさえ我を忘れていた。
「さっそく、ゲームを始めていただきます」
挑戦者全員にどのゲームで勝負するのかを聞く。レートは無制限である。下手をすれば1時間もせずに破産するだろう。
「まずは、ポーカーからだ!」
全員がVIP席に座りキラと勝負することになる。
「フルハウス」
「なぁっ!」
手を開示して相手はツーペアだった。
「ねぇねぇ、もっと本気だしてよぉ」
明らかに年下なのに足元を見られるかのような発言に相手は怒気を強める。だが、ここでの暴力行為は全て禁止されている。武器防具は取り上げられていて下手に手を出せば強面お兄さんらが来るからだ。
そうしてゲームは続くのだがキラはまるで無邪気な子供のように振る舞い、勝ち続ける。
そうしてコインは次々と減っていき最後の一枚になる。
「・・・」
相手にはもう逆転の余地は無いだろうが最後の手段はあるのだ。キラがカードを取ろうとして、
「その手を止めろ」
「なにかなぁ」
自分で作成しておきながら嫌になるほどの笑顔だ。
「お前、仕込みを入れてるだろ」
「ん~?僕はこのカジノのルールを忠実に守ってるだけなんだけど」
どんなゲームでもイカサマだと主張することが出来る。その現場を押さえれば文句なしに勝ちだがここでは全てのイカサマを禁止している、なのに文句をつけるのか。
「ここのオーナーともグルなんだろ?」
「僕のお師匠様に文句があるの?じゃあ、こうしようか」
そうして右手側から4枚のカードを互いに披露する。
「さぁ、表になっている4枚のカードを好きに入れ替えていいよ」
「なん、だと?」
「これなら文句ないでしょ?」
キラのカードには1のカードが3枚と12のカードが1枚、相手には3のカードが3枚と7のカードが1枚。めくっていない残り1枚のカードのことを計算に入れてもキラのほうが有利なのだ。それを好きに入れ替えてもいいという条件だ。
さらに持ち金全てを賭けると公言する。
「これでも不満なら伏せてある自分のカードを見て判断してもいい」
それでも駄目ならお帰りください、と。
彼らは伏せてあるカードを見るとニヤリとする、どうやら行けると思ったようだ。彼らは全てのカードを取り替えてしまう。
「このクソガキが、精々泣け喚け」
手札を晒す。相手は1と12のフルハウス。勝ったと確信し拳を突き上げようとするが、
「3のフォーカード!」
それはキラの手札を見て消滅した。
「キャ~!キラ~!」
客として入っている女性達から歓声が上がる。そしてキラはその女性達にモミクチャにされるのだった。
「さて、お客様。清算の方をお願いします」
マネージャーは冷酷に支払いを要求する。だけども、その手元には何も無い。まぁ武器防具は預かってるだけで返せばいいだけだしね。
あの後すぐに僕だけにメールが届いた。
『よくぞあの難関なクエストをこれほど短時間でクリアしたことを喜ぶ。ゲーム会社社長より』
すぐさま公式ページに新しい要素が追加された。
『2番目の町の賭博場開放、ここだけの要素をお楽しみください』
それと同時にあの店の所有者が僕になり、あの店限定で弄れる権利と4000万という大金が銀行に入っていた。多分こういう商売は胴元の資金が無いと不可能ということなのだろう。
専用のNPCや道具なども金さえ払えばどうにでもなるため僕は僕のために投資するということに使う。
そこで僕は可能な限り現実世界の絢爛豪華なカジノを設置することにした。幸いそうした装飾品や資料などは調べればすぐに出てくる。どうせゲームなのだからと割り切って大金払って来ても良い、そう思える場所にすることにした。
まずは店舗の拡張だ。今のままでも広いがもっと大規模にやるのなら外見も内装も目一杯弄る。ゲームの種類もカードなどしかなかったのでダイスやルーレットなど現実世界にある物を用意する。
派手なショーを行うための舞台や食事や酒などもありえないほど豪華にしてしまう。
あの強面の男らも使えそうだがイメージに合わないのでリストラしようか考える。酷い主だと思うがこの前のように無一文で路頭に迷わせるような連中を使う気にはならない。ならないがこれはこれで使い道がある。
ボーイやガールも可能な限り雇いしっかりとしたマニュアルを作る。
ここではイカサマは絶対に無しとする。そうした持込をした場合はあの強面お兄さん達が回収をしてくれる。あと、特権階級はVIP扱いをするのが好まれると想定してそうした特別席を用意した。
そうして完全に異なるテコ入れをして『薫風の咲く頃に』を開業させる。
「あ~、う~」
そうしてすぐさま書類に埋もれることになった。ここはPCだけではなくNPCなども来ることを想定していなかったためである。以前の強欲な権利主義者とは完全に違う華やかなショーに食事などに町の人々は喝采を上げて通ってくるのだ。中には富豪や貴族なども混じるようになっていて金払いがすごく良い。
ここはゲームの中だ、中だ、そう割り切ろうとするのだが初期に投資した金の回収がもう終わってしまったのだ。さらにタイミングが良いのか悪いのかゲーム内の施設でこうした賭博場の経営者には資金の回収と還元という目的があるためただ金があるだけでは駄目になっている。
つまるところ、得た金を社会に還元しろ、そういうゲームになっているのだ。
僕は得た金を周辺地域に流して経済を活発化させる歯車になってしまった。実際以前より町には活気があり商品も全て1割ほど安くなっている。
だけども、この賭博場のオーナーという責任からはそう簡単に逃げられない。なぜなら、
「オーナー」
「どうしたの」
「このカジノの所有権を寄越せという客が来ています」
カジノおよび賭博場のオーナーだけに来る特別クエストだ。
ルールはカジノが設定している道具および機材などを利用しての勝負である。『決闘』などと呼ばれているが実際に殺し合いなどは起きない。勝負の方法はオーナーが自由に決められていてそこにある道具ならば全て使用可能である。設定された条件でオーナーが勝てば相手は全ての所有物を差し出さないといけない。オーナーが負ければそこで所有者は入れ替わるという方法だ。カジノが稼ぐ金は全てそちらに移動する。
PCだけではなくNPCからも挑戦が来るのである。僕の正体がバレると大騒ぎになるので見た目は眼光鋭い老紳士のようにしている。
だけども、イカサマの出来る要素は完全に除外して【天運】を持つ僕に勝てるはずも無かった。
「21」
僕は残酷ではない、最低限の所持金は残したいが『決闘』において情けをかけることは誰にも許されない。僕が設定しているゲームはブラックジャックであり、まず最初に金のコインを互いに100枚用意する。1枚賭けて勝てば1枚、負ければ一枚だ。100枚全部賭けて勝てばその場で終了という単純なルール。なお、コインの追加は認めない。
相手は外見上裕福な優男のようであり側に複数の女を囲っている。ちなみに、ここで雇っているガールではない。
「まだだ!まだ60枚ある!」
相手からすると手緩い勝負であり楽して勝てると思うようだが現実は残酷である。相手は次なら勝てると強気に攻めるが「ドボン」に叩き落される。無理な手ばかりを作ろうとするためにそうなるのだ。そうしてコインは確実に減っていき、
「一枚、最後の、最後の・・・」
運系のスキルは上げるのが非常に難しい、それを必要とする場面が殆ど無いからだ。だが、こうしたカジノや賭博ならば話は別、常に必要としているためガンガン入ってくる。
相手はもはや死に体であり女らも青ざめている、彼らはカジノの維持や運営に必要なNPCであるため定期的に入ってくるように設定されている。
そうして最後の勝負が始まる。観衆らも息を飲んで見守る。
「!」
相手に何か光明のようなモノが見えた、ここで負けたとしてもさしたる影響は無いように思ったがこのカジノを手放す気はまったく無い。なので念押しをする。
「5枚引こう」
そこで客達がざわめき立つ。僕の見えているカードは11だ。相手に見えているカードも同じく11、五分五分の状況なのに5枚も一度に引くなどどう考えてもありえない。しかし、僕には予兆が見える。
そうして5枚引く。勝負はここで決まる。
「は、ははは、はははは!ブラックジャックだ」
相手は最高の手を引いた。観客にどよめきが生まれる。
それに対して僕のカードは2、このままでは負けだ。しかし引いた5枚のカードを表にする。ルールでは親は14以上になるまで引かなければいけないルールがある。1枚ずつカードをめくる。
2、1、3と続く。
「1」
ここでさらにどよめきが大きくなる。ここまでの数字の合計は20。観客は固唾を呑んで見守る。カードの枚数から考えればもうすでに3枚出ているのでありえないと。
そして最後のカードをめくる。
「1」
客からの大歓声が出迎えてくれる。
「・・・あり、ぇ・・・」
それと同時に相手からは絶望のような呪詛が出てくる、現実では相当強いのだろうがゲームの中でのゲームではどうしようもない。
「彼が所有している全ての資産を整理して」
「はっ」
そうして彼は墓場へと連れて行かれる。
ここでいう『整理』とは相手の強さのランクである。NPCにも実はスキルなどが設定してありそれに応じて所有している金や所持品が変化する。こういう場所はビッグビジネスであるために狙う相手は数多い。そのオーナーが頻繁に入れ替われば物流が乱れ歪んでしまうのだ。
なので、それを維持できる強さを持つ者でなければあのクエストは突破できないようなシステムになっているわけだ。だからといってもあまり良くない選別方法なのだけど。それを知ることになったのはこうした挑戦者が来るようになってからだ。
オーナーの名前および正体が不明であることは掲示板にも書かれている。
現場を見たプレイヤーからは『チートジジィ』『狂える老骨』などとも書かれている。現実には同じプレイヤーなのだが、それを明かすことは出来ない。
だが、いつもいつも僕が出張って排除しなければならないほどの博徒など奇跡でも起こらないと存在しない。高い出費になるが『ネームド』を雇うことにする。
『ネームド』とは固有名を持つNPCの総称である。現実プレイヤーほどに馬鹿げた強さは持ちえないが極めて機械的で効率的に勝負が出来る高性能なNPCとでも言おうか。
所持金の範囲内で、かつゲームが許容できる範囲でなら色々な設定が可能なのだ。
実際の僕にはブラックジャック以外のゲームのルールは検索できる範囲外知識が無い。数字的な計算も高度な戦略性も手に入れるのは難しいだろう。だけどもゲームの中でなら数字を動かすだけなので簡単なのだ。とりあえず設置しているルーレット、ダイス、カード2種類を追加してるのでそれに対応できるようにしよう。
そうして時間をかけてネームドを作成した。
そうしてしばらくするとまた挑戦者現れる。今度は本物のプレイヤーのようだ。
「おらぁ!このカジノの経営権寄越せ!チートジジィ!」
武器の持込は禁止にしているのに血気の強い人だなぁ。
「すみませんがここは娯楽を提供しているカジノ。己の才と運だけが武器の場所です。暴れては負けた時の額が増えますよ」
「あぁん!」
「オーナーに挑戦したければまずここのゲームを仕切っている4人に勝っていただかないと」
「4人だと!」
「紹介しましょう!このカジノが誇る四勇士です!」
今まで出て来なかった4人の存在に一同が期待と不安の目を向ける。
「アハハッ」「ふむ」「獲物獲物」「駆逐する」
見た目少年から老紳士まで4人が晴れやかに登場する。
「その顔に映るは真実か幻か。ポーカー・ウィザード!キラ!」
「お客様!僕の顔しっかり覚えておいてね!」
道化のようにしながら美少年がどこからともなくステッキを取り出す。
「その強さは師譲り。ザ・ジャッジ!オーウェン!」
「わが師より授かりし戦術を披露しよう」
優しい瞳の紳士は精錬された礼を客にする。
「その手で操るは魔法の玉。ルーレット・クィーン!ベラルザ!」
「今日も張り切って獲物を狩るよ」
まるで本の中に出てくるような、絵に描いたような美女だった。
「握った手からは何が出るのか。ダイス・ナイト!ルウェイン!」
「さて、今日のダイスは良い気分のようだ」
御伽噺の勇者のような出で立ちの美丈夫は客にウィンクする。
現実世界ではありえない格好風のキャラの登場に全員の意識が飛ぶ。中には崩れ落ちる人もいた。
『・・・』
「お集まりの皆様、驚きかもしれませんがお聞きください。この四勇士はオーナーより直々に見出されたこのカジノのゲームを取り仕切る代行者。オーナーの腹心でもあります。オーナーに挑戦したくばまずかれらを倒さなければならないと直々に命令が出されました」
『・・・』
全員の目が泳いでいる。その容姿風貌は現実の人間ではありえないほど美男美女である。息を飲むのは当然であろう。
「挑戦者の実力が本物かどうかお客様の前で判断していただきましょう」
その挑戦者でさえ我を忘れていた。
「さっそく、ゲームを始めていただきます」
挑戦者全員にどのゲームで勝負するのかを聞く。レートは無制限である。下手をすれば1時間もせずに破産するだろう。
「まずは、ポーカーからだ!」
全員がVIP席に座りキラと勝負することになる。
「フルハウス」
「なぁっ!」
手を開示して相手はツーペアだった。
「ねぇねぇ、もっと本気だしてよぉ」
明らかに年下なのに足元を見られるかのような発言に相手は怒気を強める。だが、ここでの暴力行為は全て禁止されている。武器防具は取り上げられていて下手に手を出せば強面お兄さんらが来るからだ。
そうしてゲームは続くのだがキラはまるで無邪気な子供のように振る舞い、勝ち続ける。
そうしてコインは次々と減っていき最後の一枚になる。
「・・・」
相手にはもう逆転の余地は無いだろうが最後の手段はあるのだ。キラがカードを取ろうとして、
「その手を止めろ」
「なにかなぁ」
自分で作成しておきながら嫌になるほどの笑顔だ。
「お前、仕込みを入れてるだろ」
「ん~?僕はこのカジノのルールを忠実に守ってるだけなんだけど」
どんなゲームでもイカサマだと主張することが出来る。その現場を押さえれば文句なしに勝ちだがここでは全てのイカサマを禁止している、なのに文句をつけるのか。
「ここのオーナーともグルなんだろ?」
「僕のお師匠様に文句があるの?じゃあ、こうしようか」
そうして右手側から4枚のカードを互いに披露する。
「さぁ、表になっている4枚のカードを好きに入れ替えていいよ」
「なん、だと?」
「これなら文句ないでしょ?」
キラのカードには1のカードが3枚と12のカードが1枚、相手には3のカードが3枚と7のカードが1枚。めくっていない残り1枚のカードのことを計算に入れてもキラのほうが有利なのだ。それを好きに入れ替えてもいいという条件だ。
さらに持ち金全てを賭けると公言する。
「これでも不満なら伏せてある自分のカードを見て判断してもいい」
それでも駄目ならお帰りください、と。
彼らは伏せてあるカードを見るとニヤリとする、どうやら行けると思ったようだ。彼らは全てのカードを取り替えてしまう。
「このクソガキが、精々泣け喚け」
手札を晒す。相手は1と12のフルハウス。勝ったと確信し拳を突き上げようとするが、
「3のフォーカード!」
それはキラの手札を見て消滅した。
「キャ~!キラ~!」
客として入っている女性達から歓声が上がる。そしてキラはその女性達にモミクチャにされるのだった。
「さて、お客様。清算の方をお願いします」
マネージャーは冷酷に支払いを要求する。だけども、その手元には何も無い。まぁ武器防具は預かってるだけで返せばいいだけだしね。
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