勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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王女シャルティエの人生の決断

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ピュアブリングらは虜囚となっていた女達を連れ帰り状態を見て故郷に帰らせるか教会に預けるかその判断を行い帰還する。

ウチもそれに同行し見届けた後装備を一旦返却し宿屋にいる仲間らの元に帰ったんやけど。

「いいか、我々は名家の生まれだ。騎士学校で優秀な成績を上げて卒業した。断じてクズではない」

「その通りだ。我々には選ぶ権利がある。なのに冒険者ギルドの職員共ときたら話にならん」

「仕事はドブ攫いか大鼠退治だけだと。ふざけるな、我ら高貴な者らにはふさわしい敵ではない」

案の定、現実が分からん馬鹿共が口論となっていた。

「(ウチがついさっき死闘を乗り越えたばかりって言うんにこいつらときたら、こいつらにはうんざりや。さっさと手を切ってピュアブリングのパーティの合流したほうが人生を前向きに進めるな。妄言ばっかり論争を繰り広げて現実では何もしない馬鹿共にはさっさと退場してもらわへんと)」

あの戦いの後「正規パーティとして加えて欲しい」ことを伝えた。もちろん条件付きだ。

「君個人だけなら受け入れるけど他は駄目」

要するに、邪悪な手段を使う連中は受け入れられないという事やな。それに同意するしかないんや。ここまで付いてきてくれたんやけど現実が分からん連中は確実にウチの足を引っ張るやろうからな。

「君が決定を下して」

「……、気が進まんけど」

それが双方にとって最良の答えだからや。無残な死を迎える前に遠ざける。それが王女としての最後の仕事、だから受け入れたんや。

ウチが帰ってきたことにも気づかず論争し続ける騎士どもを見て前にも増して落胆のため息が出る。だから、決断した。

「いい加減にせぇへんか!!」

今まで出したこともない大声を宿屋で上げる。

『お、王女、殿下、様…』

それで全員はウチを見る。今までにない迫力を持つことに気づいた様子はなかった。

「ええかげんにせぇよ。お前らがあーだこーだ騒いでる間にも現実は進んでるんや。金も時間も有限や。国から送られてくる金ももう底を突く。それなのに何もせず自分らの見栄のために現実を見ようとしない。動こうともせず何の意味もない自慢話ばかりをほざくばかり。これで騎士の末裔とは、恥を知れや!」

「い、いえ、我らは、その」

「なんや?無為徒食の浮浪者騎士様」

「なっ!」

今まで見たこともない態度と言葉に全員がうろたえる始末。

「わ、我々は、決して、浮浪者などとは」

「あん?現実はそうやろ。今すぐにでも物乞いになる寸前なのは事実や」

「我々は騎士です」

「その騎士様は何をしてくれるんや?平和のために働くんが仕事やろ」

「で、ですから、その仕事を選ぼうかと」

「だったら今すぐどぶ攫いの仕事をやれや」

「な、何故です」

「金が無いからや。言わんでも分かるやろ」

「そのようなもので納得できません」

「納得できない?じゃ、誰かに食事を恵んでもらうんか」

「……」

「ほら、もう路上生活者目前や。現実を見ろや。あくせく働いてる下民の方が立派やで」

「我々が下民よりも劣ると?」

「そうや。下らん教育と価値観に縛られているウチらよりも労苦に耐え生活している人々は無数におる。彼らを正面から見たことがあるかや。彼らは逞しいんよ。自分達と違って」

王女から有り得ない言葉が次々と飛び出し何も反論できない騎士達。

「うちらはもうお終いなんよ」

「で、ですが、まだ」

やれることはあるはずだ。そう反論するが、王女の反応は冷ややかだった。

「食うためでも仕事は必要や。これまで付いてきた従士達が見限ったのも貴様らのせいや、彼らの忠誠と誇りと生活を奪ったんも全部が全部自分達が敗北者やからや」

「奴らは不忠者ですよ!」

「不忠?それは貴様らの方やろ。何もせずのうのうと無駄なことばかりしているなら見限られて当然や」

実戦すら経験してないのだから。そう言われて騎士たちは激昂する。

「オーガとか、邪神とか、魔人とか、それらと戦い勝つのが誉です!」

「その考えが根本から間違っとるんよ。お前らじゃ生きて帰れへん。初陣で全滅や。ゴブリンすら手に余るやろうな」

「ご、ゴブリン程度なら、いつでも」

倒せる自信がある、と。

「ほうっ、それなら先の銀の精鋭とやらは何で失敗したんやろうな?大方敵を甘く見てたんやろ、雑魚だと。はぐれを追い返した程度で自信を付けて増長し敵を侮る。典型的な馬鹿やな」

「わ、我らは、違います」

「違うというなら証拠を出してや。自分は騎士だと証明できる証拠を。妄想はもうここで終わりや」

「……」

今までにない王女の強気な態度に愕然とする全員、どういうことだ?ほんの数時間前とは完全に別人だ。いつもはやんわりとしてたはずなのにいきなり強権を振うようになってしまった。

「出せんなら、もうこれでお終いや」

解散しそれぞれの道を分けると宣言される。

「わ、我々は、今後は…どうなるのでしょうか?」

一人の騎士が弱腰で尋ねる。

「さぁ、故郷に帰るなりここに留まるなり好きにせぇ。ウチはもう別の道を見つけたからな、お前らとはこれまでや」

「わ、我々は、付いていく、所存です…」

「駄目や。受け入れられたのはウチだけ。他は足を引っ張るから関係を断てと言われたんよ。それについてはもう今更やろ、は。通らんへん」

「王女は我々を見捨てるのですか」

それに対して「違う」と答えた王女。

「お前らが戦うにふさわしい相手と言ってる輩には関わらない方が幸せなんよ。ウチはそれを思い知った。結局平和に長生きできる道が前々からありながら努力せんかった自分らを恨めや。これで終わりや」

「そ、そんな…」

「うちは混沌と戦う術と覚悟を手にしたんや。お前らとは違う、人生を捧げてでも戦う意味を得たんよ」

王女は一人一人の前にその手に何か袋を渡した。

『これは?』

「再出発用の資金や。ウチが頭を下げて借りてきたんよ。これでもうウチは逃げられへん。皆はこれまで付いてきてくれたんや。せめてもの恩返しや」

王女殿下が頭を下げてまで大金を稼いできてくれた。それなのに今までの自分を振り返る。

だけども、納得できない者らもいた。

『我々は王女殿下を守る騎士です!』

彼らは大反発する。

「まさか、冒険者共に教えを乞うつもりではないでしょうな」

「だったらなんや。問題あるんか」

王女はまるで当然のように受け入れているが騎士達からすれば無法者同然の冒険者に教えを乞うなどプライドが許さない、ましてや王女が関わるなど論外だ。

「奴らとは関わらないで下さい!」

「じゃ、どうしろと言うんや。もう現実で選択できる選択肢は数えるほどや。どの道もう終わりや」

これ以上の選択肢はない、王女はそういうが騎士たちはいまだに現実を受け入れられないようだ。

「我らが得た力ならば今すぐにでも現実を変えて見せます」

「それを一度たりとも見せてもろうてないのに信用しろとは」

滑稽だと、王女は冷ややかにこちらを見る。

「お前らの邪道な方法はもう確認済みや。なんで、封じさせてもらうわ」

愚かな現実ばかり見続けた代償を支払ってもらう、と。王女は何か懐から紙を取り出した。

「《封術》」

その紙が一瞬光を放つ。

「一体、何を」

何をしたんだと、騎士らは聞いてくるが王女は答えない。

「今後は真面目に生きていくんやで」

王女はそれだけを言って宿の自室から荷物を持って出ていった。置き去りにされる騎士達。手の中にあるのは金貨の入った皮袋だけ。

『王女殿下から見限られた』

それが覆りようのない現実だった。

自分達は今後どうすればいいのか、すぐさま思案しなくてはならなかった。

「ど、どうしたらいいんだ?」

「王女様の口ぶりじゃ二度と戻ってこないぞ?」

「本当に俺らはお終いなんじゃないのか?」

慌て騒ぐ騎士達、だがリーダー格の騎士が発言した。

「慌てるな。王女殿下に見捨てられたからなんだというのだ。我々騎士の本分を果たせばきっと帰ってきてくださるはずだ」

そうに違いないと。

せっかくの金が手に入ったので宴だ。明日から冒険者ギルドで圧力をかけよう。リーダーはそう心に決意する。

翌日

「依頼を頼む。実入りのいい依頼をな」

「何を馬鹿なこと言ってるのでしょうか。張り出された依頼が全てですよ」

あいかわらず冒険者ギルドは塩対応だな。だが《魅了》《洗脳》《暗示》を使えばすぐにでも従順になるはずだ。それを使おうとしたらーーー

『がはっ!』

突然体に苦痛が走る。

仲間らも同じことをしようとしたらやはり体に激痛が生まれていたようだ。こんなことは有り得ないはずだ。

(まさか、王女はこれを使うことをすでに知っていた?だから、それを封じるために!)

あの時取り出した紙の効果で仲間全員が術を使えなくなっていた。これは不味い。大金を積んで苦労して覚えたというのにこれでは意味がないではないか。

冒険者ギルドを洗脳して都合よく扱うという計画が頓挫してしまう。

だが、もう手遅れだった。

何度も使おうとするがそのたびに激痛が走り術が使えない。

結局何もできないまま宿に戻ると紙が置かれていた。

『リーダーらの方針にはもう付いていけません。王女殿下の渡してくれた金で一からやり直します』

下の騎士たちが全員逃げていた。

「くそおおおおおおおお!」

絶叫を上げるリーダーの騎士。これで下の騎士を使い潰すという手段さえ不可能になる。残された騎士は僅か数名足らず。残された金は僅か。もうおしまいだった。

もはややり直しはきかないのだ。

その後彼らは行方が分からなくなってしまった。
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