勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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王女シャルティエの初めての冒険

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装備や水薬を分配されたうちらは依頼が来ている場所まで向かうと農民らがアタフタとしていた。

「あぁ、どうしたらいいんだ。若い娘が攫われてしまいこの村はどうしたらいいんだ」

農民らの悲痛な叫び、ここでようやく頭目殿の出番、ではなかった。

「セシル」

「はいっ」

「君が話を聞いて対処して。ラグリンネも付いて行って」

「分かりました」

「頭目が話を付けるんじゃないんか?」

当然の疑問を浮かべる。

「名が売れている僕が出てもいいけど、こんな外見でしょ。なら、見た目の印象が良いセシルの方が適任だ神官も同行しているのなら悩みも打ち明けやすい」

たしかになぁ、外見だけならセシルの方が上である、騎士を目指しているからだろう。それに神官も同行してるとなれば、なるほど。確かに人選がいい。

「ま、外で待っていようよ」

「女らが攫われてるのに」

暢気なものだと、そう考えたが。彼のその後の行動を見て納得せざるを得ない回答が来た。

「村の人達から話を聞くと冬越えの食料を幾分かと羊など数頭が奪われたそうです」

「村民の中には回復の奇跡が必要な方々が何名か」

「じゃ、仲間ってことで通してもらおう。食料や水薬の分配を」

村の中に入ると仲間らは手早く品物を出し助けを求める村人に手を貸す。ウチはそれをただ眺めているだけではなく物資の分配に手を貸していた。

「こうなることは予測済み、ということかや」

「そうなるね」

村人からはしきりに感謝の言葉を言われる。悪い気はしなかった。

「あと、女達は確保したら故郷に帰らせるか教会で休ませる」

お布施が必要ではないのか、その疑問すらもピュアブリングは了承した。つまり、教会に支払う金の算段があるのだ。うちらの仲間なんて捕虜がいようと無視する気なのに、この人は。

「それじゃ赤字やないか」

「だろうね」

「簡単に答えるけど、それじゃ」

ウチは異論を唱えるが仲間らはまるでうろたえてない。どういうことや。

「ピュアブリングにはどこからでも大金を調達できる手段を有してるのですよ」

「そうですわね。そうでもなければここまで充実した装備は整えられませんわよ」

「どこからでもって」

「ま、そこについては深く考えなさるな」

「どうせグレーゾーンですからねぇ」

「何も考えるなって」

「正義の道に多少影が浮かびますが」

「まぁ、今が良いんだからいいんじゃないかな」

「それじゃ、どうやって問題を解決するんや」

「頭目殿の中身にはあまり触れぬように」

「私には何の関係もありませんけど」

物や金の心配は一切するな、ただ信じればいいって、マジか?この分だと嘘は無さそうやな。こらぁ知られたら世界中が大騒ぎ必死や。んで、仲間らがそれを食い止めて、て訳や。

人生を賭けた相手が今更ながらに恐ろしいわ。

「じゃ、早速向かおうか」

『はい』「…はい」

ウチは少しばかり弱気で返事をした。本当に大丈夫なんやろか。

ピュアブリング先導の元、ゴブリンの巣穴まで向かう。

「えろう雑に進んでるけど、大丈夫やろか」

「安心しなさい、頭目の索敵は外すことが無いから」

目標もなく進んでることが不安だった。しばらく進んでると、彼が止まる。

「この場所をどう見る」

何の変哲もない岩肌の道、にしか見えへんな。

「ウチには何とも思えへんけど」

「ミーア、よく調べて」

「りょーかい」

仲間のミーアがその場所を調べる。

「これ、足跡が数か所あるよ。上手く誤魔化してる」

「そうなると予定よりも規模が大きいか」

え?ゴブリンが足跡の偽装?そんな話など聞いてないわ。

「知恵ある者がいるね。シャーマンかマジシャンか、その両方か」

「足跡からすると相当数が多いよ」

「僕らが受けたことは正解だったわけか」

数が多い?

「シャルティエ」

「は、はいっ」

「初陣は楽勝とはいかなさそう。自力で身を守れるぐらいにはしてほしい」

仲間は対応できるか、難しいと。

「が、がんばります!」

これは現実だしそれを選んだのも自分だ。不安はぬぐえないがここまで来てしまった以上やるしかない。

「(あんなお飾りとしか見てない連中と決別して戦果を挙げるんや!装備もある、道具も揃っている、仲間らだって一時的とはいえ頼りになるし頭目がこれだ。やるしかないんや!)」

気合を入れる。

そうして、迷いなく進んでいると洞窟が現れた。

「警備が、無い?」

その巣穴と思われる場所にはゴブリンの姿はなかった。

「ここまできて無駄足なんか?」

「いや、これは」

ピュアブリングが何かを警戒するように動いている。しばらくすると。

「な、なんやぁ!!」

地鳴りのような音、それも地中から。

「大量発生だ」

洞窟の穴から溢れるかのようにゴブリンが飛び出してきた。

「シェリル」

「はーい《岩石弾》」

シェリルが術を詠唱し始める。

「ミーアとエメリアは遊撃、セシルは盾バーゼルとシュリーナは鉾、ラグリンネとエトナもありったけ数を出して」

「うしし、皆殺しだぁ」

「私の弓の餌食になりなさいな」

「さて、今回は歯ごたえのある相手がいるとよいのですが」

「皆を守ります」

「一体でも多く切り倒します」

「物量戦ですか。仕方がありませんね」

「いやぁ、今回も気合入れるよ」

仲間らはあれだけの数を恐れていない!むしろ余裕すら感じられる、どういうことなの?

「《全能力向上》《戦意高揚》《継続回復》」

すぐさまピュアブリングが魔術を唱える。

私の体にもその変化がすぐに来た。

「(なんて強力な効果!これか、これが彼らの自信の源なんやね。そらぁこの若さで銅級にもなるのは仕方がないわな)」

その強烈な効果に少しばかり酔ってしまいそうだ。

「《火炎烈弾》」

詠唱時間のペナルティなど完全に無視してピュアブリングが魔術を放つ。無数の火球は敵に降り注ぎその後にシェリルの岩石が飛んでいく。それでかなりの数が死体となるが後から後からゴブリンたちは湧いて出てくる。乱戦となる。ミーアらは召喚生物に騎乗し各自対処を行う。ラグリンネ達ですら前線に出て敵を殲滅していく。

その間を縫ってゴブリンらがウチに迫ってきた。

「舐めるんやない!」

これで何体目か、それが確認不可能になるほど戦闘に夢中だった。余りの数に討ち漏らしも多くウチにもゴブリンらは容赦なく迫ってくる。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

ゴブリンの喉を槍で貫きようやくここで持久の水薬を飲めた。この分だとまだ先は長いみたいやな。

「頭目殿、なにしとるんや」

ここでピュアブリングが横にいることに気づいた。

「んー、状況確認」

「うちらが苦労して戦っている間に」

気楽なもんだと。そう思うんよ。

「平地に出れば数が勝るが洞窟前まで押し込めば対面する数は大きく減る。ま、仲間らなら問題ないよ」

「それで、勝てる見込みはあるんか」

仲間らは全員前線で大暴れしている。

「あと30分ほどで敵勢力はいなくなる見込み。あとは中を制圧すればいいだけ」

「簡単に言うてくれるなぁ」

実戦でその時間は地獄のように長く感じてしまう。

「ほら、君も前に出て戦わないと」

経験値、取られちゃうよ。そうほのめかされる。そういえばゴブリンの醜悪さよりも高揚感が勝っていた、なら前に出させてもらうんや。一体でも多く倒さんと。

「せいっ!」

ゴブリンを一体ずつ確実に倒す。それだけを考えるんや。

ウチのとって長い時間は続いたんやけどだんだんと数は減り残りは数えるほどになっていた。

「どうやら打ち止めのようだね」

「やったで!」

全部倒し切ったんや。勝ち鬨を上げる。

「皆は先に進んで」

頭目はすることがあるからと、仲間を先に進ませる。

「何をする気なんや?」

「戦利品の回収ですな」

バーゼルが答えてくれた。これだけの数の装備を回収?ゴブリンの装備なんてたかが知れてるやろ、そう思うが。回収できればそれに越したことはないか。荷物にならなければやけど。

「さーて、中に進みましょうか」

「その前にやることがあるでしょう」

ミーアとエメリアが何か石の塊のようなのに火打石で火をつける。それを中に何個も投げ込む。

「なんやのそれ」

「硫黄と木炭の粉を混ぜ合わせたものですよ」

「この煙は重く沈みますからね」

「中の人質はどないするんや?」

それでしたら、向こうから連れてこられますから。その意味を知るのに時間はかからなかったんや。体格の大きいホブゴブリンが女を片手で引きずりながらやって来たからだ。

「ま、定番だよね」

どうやら女を盾代わりにしているようだ。不味い状況やな。

「ど、どうするんや」

「お任せなさい」

エメリアは即座にそのホブゴブリンの頭部を撃ち抜く。

「ラグリンネ、回復の奇跡をお願い」

「了解しました」

「この分じゃ後何体か出そうだね」

その言葉通り何体ものホブゴブリンが女を引きずりながら出てくること。クソ最悪やな。仲間らは場慣れしてるのかまったくもって慌てん事に気づいたんや。

こらぁ、相当経験豊富ちゅうことやな。ウチのようなド素人とは中身が完全に違うわ。

やがて、現れるゴブリンはいなくなった。

「お待たせ」

ここでピュアブリングが戦利品の回収を終わり合流したんや。

「こっちはもう大分進展してるよ」

「じゃ、中に入ろうか」

ゴブリンの巣穴に入る前に各自に松明を持たせるんやけどこれも魔法の品だった。火種のいらない松明か、普通に買えば相当貴重な品物なんやけどね。それを何個も当たり前のように出してくるあたり頭目の底が知れんわ。

ピュアブリングはそれだけじゃなく仲間全員に何か紙を配り始める。呼吸困難を防ぐお呪いが書かれた物やそうやけど。こんなお呪いは普通気休めなんやろうけど頭目の実力を考えればしかるべき効果があるんやろうな。

そうして、中に進んでいく。息苦しさは感じられへん。こらぁ、とんでもないものを引き当てたもんやと今更ながらに実感したんや。

普通やと夜目が聞くゴブリンの方が有利な地形なんやけど、事前準備が功を奏して不意打ちなく最奥まで進んでいく。

「あれがボスみたいだね」

明らかに体格の大きなゴブリンが居座っていた。もっとも、煙のせいで大分息苦しそうだが。

「シャルティエ、君が始末して」

「ふ、ふぇっ?!ウ、ウチが?一人で、かや?」

あれは確実に経験豊富な個体だ、それを単独で倒せとは、正気を疑うんやけど。

「大丈夫だって、万が一の時は加勢するから」

「う、そ、そうやな。実戦経験を早く多くできるんなら、頭目がそう言うのなら」

それに越したことはない。

だが、さすがに槍では狭いので使えない。小剣に切り替える。

一呼吸おいて、一気に飛び込んだ!。

「がぁぁあぁあああ!」

体悪の大きいゴブリンは巨大なこん棒を乱暴に振り回す。

「こなくそや!」

あれと打ち合うのは無理や、こっちは身軽さで勝負する。振り終わりの隙を突いて確実にダメージを重ねる。属性付与と性能の高いのも合わさって自分でも驚くほどダメージを稼げる。

一撃、二撃、三撃。

攻撃を加えるごとに相手は傷を負い血を流し動きが弱まる。

そうして、ウチはついに決着の時を迎えたんよ。

「やった、やったで!」

全身を血塗れにして倒れるモンスター。万が一のことを考えて頭部と心臓を確実に貫く。それと同時に涙が溢れかえり、ピュアブリングに抱き着いた。

「怖かった、怖かったんや、ウチは!これまでの人生で頼りになる存在はおらへんかった。家族も貴族も家臣も友人さえもや。貧乏くじを引かされたと知った瞬間人生を諦めかけたんや。だけども、あんたの導きでここに辿り着いた!」

「よしよし、よくがんばったね」

王女として尊厳をかなぐり捨てて小柄な少年に泣きながら抱き着くウチはとても見てられない姿だろう。でも、今日初めて混沌と相対し勝利した。それが何よりも誇らしい。たとえそれがゴブリンであろうとも、だ。明確に最初の一歩を踏み出した。そして、それは成功した。

これ以上は望めない結果だ。運命とは不思議なもんやな。捨てる神在れば拾う神在や。

その後、ウチの初めての勝利を祝うために宴となったんよ。ホンマ人生とは分からんものやなぁ。
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