勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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王女シャルティエの運命の初対面

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ウチはシャルティエ、とある国の王女殿下や。もっとも、肩書だけは立派でも軍事にも政治にも参加できない余り物の王女。ちゅうとこや。

蝶よ花よと、王女らしい生活は…出来たんやろか?そこそこ武芸と教養は身に付けはしたんやけど混沌が勢力を増している現在それが役に立つかは疑問やな。心を許せる親友なんて出来るはずもないわ。大半はおべっかを言うか形だけの付き合いだけやな。大半は跡継ぎの取り巻きになってる状況。

国は平和…とはいかへんものや。ゴブリンから始まりへオーガやヘッドハンターまで出る始末や。騎士団が対処しとるんやけど味方が弱すぎるんよ。まともな戦闘さえできへん、それもこれも捻じ曲がった騎士教育の悪影響や。形だけの戦闘訓練しかしてへんからな。あるのはご立派な理想だけ、これじゃどうしようもないわ。

何とかしたいとは思っても王女というのは大変なんよ。何かと調べられるしなぁ。高貴な身分なんて形だけや、本気でそう思う。その一方で昔から詩人たちに歌われているようなお話の中に自分の居場所を望んでもいたんや。

そう思っていた矢先、冒険者プレートの不正改竄の出来事が起こったんや。この問題は諸国中に衝撃が走ったそうやなぁ。どんな等級も実績も思いのまま、てな。これは明らかに冒険者ギルドの信用を損ねる行為なんで即刻国が雇っている高位冒険者に審査の手が入ったんや。

今まで国に推薦してきた連中の大多数は灰色級まで下がったんや。つまり、国をも騙してた、ゆうこと。

これまでその人材を探していた連中は軒並み仕事を取り上げられたんや。

『これは一体どういうことなのだ』

『い、いえ、我らに、罪は、ありません!』

『その言葉こそが罪ぞ。お前達は自分らの好き勝手に人材を選んでいたのだな!』

『く、国の、役に、立つはずです』

『信用と実績無くして何が冒険者だ!貴様らの家の者らは全員追放だ!』

こうして、冒険者の斡旋をしていた連中は軒並み罪状を問われてしまったんや。その後のことも問題だった。信用と実績ある冒険者は残らずほとんどが新米ばかりという現状、これではモンスターに何もできないことになる。大至急人材の発掘を行うが,冒険者ギルドはこれに対して態度は厳しかった。

『無理ですね。全員灰色級からスタートさせます。たとえどの家の者が後ろ盾になることを認めません』

家が後ろ盾に成れないという事は、その後の援助や見返りも得られないことになる。要するに貧困から始めろってことやな。これまで家が援助してきたのは成功した場合の見返りがあればこそ。それを封じられては貴族家は大混乱や。

こうなってはもう自力で上に行かなければならない。

だけども、不正改竄という甘い蜜を吸い続けた連中はいまだにそれを突破しようと必死なもんや。無駄な労苦なんやけどね。ぶっちゃけ専門外のウチでも突破は不可能だと思うんよ。それぐらい高度なもんや、一種の芸術と言ってもええ。諸国は術師を探そうと躍起にもなっとるわけや。

んで、ここからが本題や。

どうにか選抜した一団の中にウチも入っとったんよ。形だけでも王女殿下に忠誠を尽くす一団…なんやけど、中身は馬鹿ばっかりや。昔話のような英雄譚に憧れたり立身出世、あるいは贅沢な暮らしをしたり、俗欲が強い連中ばかり。それなのに家の派閥争いも持ち込んで、お先真っ暗や

そんな連中を纏めて上に行く?どだい無理な話や、奴らは何か偉大な力を授かったとか言いふらしてるけど、怪しいもんや。これまでの道中でもそんな力なんぞ見せたこともない。一度もや。

ぶっちゃけここまで来る間にも苦労の連続や、従士は何名か付いてきてはくれたけど、見限られたわ。

「このパーティに先はありません。我らは自力で引き返します」

「考え直せ、は…通らへんな」

「王女様、無理なのです。冒険者の世界に我々が足を踏み込むのは自殺行為です」

「富や名声を得られるのは極々一部だけ、大半が地道な下積みを必要としている、現実…」

「我らとて命は惜しい。大切です。ですが、生活をするためにも金は必要です。その金はどこから出て来てるのでしょうか?」

「国の税金からやな。もうそれも底を尽きかけているやね」

「なのに、我らが主人は『どぶ攫いなど下民がやることだ』そう言って仕事を拒否しております。我々にだって仕事は欲しいのに」

「従士とは、主の戦支度を手伝う者らであり決して主の道具ではないという、主張やな」

「確かに、誉れ高き貴族家の者らがやる仕事ではないでしょう。では、ゴブリンなら?それすら疑問なのです。狡猾な奴らが罠を仕掛けていないと考えられるでしょうか」

「銀の精鋭やらとかが陥った事態に自分らも巻き込まれる、と」

「そうなる前に平和で長生きできる仕事を選べなかった主達は間違いなく敗北者です。そんなのに付き合いきれません」

「そうやね。ウチもこうなる前に努力しておくべきやったわ」

「何よりも主たちがやろうとしてることに実現性はありません。そうなる前に出ていきます」

「夢は夢、現実は現実、かや」

そうして、一人、また一人と、去っていった。唯一嬉しかったのは全員がウチに対して面と向かって言葉を言ってきたことだけ。

いまだに現実では迷走し何も判断できず金と時間を浪費し続けている。頭の中にあるのは名誉ある勝利だけ、これじゃ見限られても文句は言えへんわ。

「(王女殿下、そう呼ばれてもお飾りやな。周りが言う事は実現性がまるでない、逃亡も出来ない、どうしたらええんや!)」

今欲しいのは白馬の王子様やない、全身を血に染めてでも敵を倒す蛮族や。それが良くも悪くも冒険者なのだが自分にはそうした方面の伝手がまるでない事が痛い。

そうして、冒険者ギルドの受付嬢の前で何か話をしている面々。

「(はようくだらん話し合いを終わらせてや)」

だが、どういう訳か受付嬢の態度が徐々に軟化していることに気づかなかった。

「いえ、そういうわけでは」

「では、そういう事で処理してくれ」

受付嬢が了承のサインをしようと、した瞬間、何かが弾けたように受付嬢の態度が変わった。

「え、私、何でこんな書類にサインをしようと…」

「チッ!」

仲間らから舌打ちが聞こえた。あんたら何かしたんか?良くないことやなかろうな?であったら、ウチはこいつらを見限れるんやからな!

声高に叫ぶ面々を受付嬢は嫌そうな顔で追い払った。ウチは置いてきぼりや。どうやら後ろに並んでいる人物がいるようやな。列を譲ろうとして、

「(ッ!なんやのこの人?道化師?いや、武器を持っているから冒険者やね、でも、こんないで立ちで仕事が出来るんか?世の中には信じがたい人種もいるもんやな~)」

頭には飾り細工の付いた小さな帽子、体にはフリフリヒラヒラした女子服、革製の靴を身に付け背中には大剣と腰に剣を持っていた。

こんなので冒険者がやれるのか?そんな疑問しか出てこない。しかも並んでいるのは討伐専門の難易度の高いカウンターだ。つまりは、それ相応に出来るのだろう。

「ねぇ」

彼?の方から声をかけられる。

「信用と実績のある冒険者に伝手が欲しいですか?」

予想外の言葉が飛んで来た。

「(今のウチはもう詰んでるも同然や。今更周りが騒ごうとも現実は変化せぇへん。どうせお飾りとしか見ていない連中が何をしようが問題だらけや。ダメもとでこの人物の下で学んでみるのも悪くはないわな)」

列を譲り彼にカウンター譲るとさらに驚いた。

「ヘッドハンターの討伐、終わらせました」

「ご苦労様です、これが報酬です」

金貨が詰まった袋を手渡されている。こんな子供と仲間達がヘッドハンターを討伐?騎士団が聞いたら「冗談でも言うな」その言葉が飛び出すのに平然と受け取っているのを見ると事実なのだろう。

「なぁ、あんた。ヘッドハンター討伐って、聞こえたんやけど」

「ん、ああ。数体いたけど装備が整ったから楽勝だったね」

騎士団が必死になって対処している相手を楽勝呼ばわりするって、どんだけ強いんや?後ろに同伴している仲間らの状態を見る限り本当に楽勝だったんやろうな。うちらがゴブリンの討伐依頼でさえ受けられないのに…、これが格差というやつやろな、そうに違いない。うん、間違いないな。

早速先ほどの仲間らの行動の中身を別室で説明される。

「あの馬鹿どもが、そんなことをしたら増々孤立するやんか!」

「まぁ、世の中にはそういう手合いもいるので」

ピュアブリングと名乗った彼の言葉を聞いて怒りがこみ上げる。これじゃ誠意を示すとは真逆じゃないんか。あれだけ冒険者を必要としてるのに冒険者ギルドの人物を操ろうとしているとは、世も末や。

「で、どうなされるおつもりですか?」

「国にはキッチリ報告させてもらうわ」

「どこかで握り潰されても?」

「かまわへん。警告を無視した国が悪い、それで納得するわ。家族には苦労してもらうわ。国民には貴族らの不始末の責任で突き上げてもらうわ。それしか手が思いつかんわ」

「王女なのに、潔いですね」

「王女の立場とて一国民や、国からの金で育とうとも破滅まで付き合う義理はないんよ」

皆はどう思うか?ここで初めて仲間らに質問する。

『まぁ、よろしいのではないでしょうか』

偏見と差別に凝り固まった貴族共らにうんざりしていたのだろう、簡単に受け入れてもろうた。早速彼らが住んでるというコテージまで案内される。

「?どこにも、無いんやけど」

「ああ、しつこい部外者が多くてね」

この部外者というのは仲間らの近親者や関係者ろうな、どこもかしこも大きく育つと騒ぐのは同じなんやな。《隠蔽》を解除し中に入るとその中身にも驚くことになった。

水が湧き出る水差しや薪をくべずとも燃える暖炉など、王族が持てる財源とほぼ同じような品々を多数有していた。

「(世の中には王権の内側で堕落する冒険者もおれば市民の内側で称賛される冒険者もおるんやねぇ)」

ウチが装備や金など何も持ってない事を正直に話すと、

「じゃ、すぐに用意するから」

どこからどうやってか新品の装備一式を目の前に出した。それを装備すると今まで使用不可能だったスキルらが産声を上げる。

「これ、まともに考えたらおかしな値段がする品々やな」

「そのことなら問題ないよ」

自分のポケットから出しただけ、仲間らの財布には手を出してないって、マジか?この分じゃ疑う意味は無さそうやな。ありがたく受け取らせてもらうわ。礼は後日然るべき形で支払う、と。彼はそれを少し嫌そうな顔をした。

「(言質を取られて寄生する連中とは付き合いたくないって、そういう意味とは取るな、って態度やな。安心せぇ、キッチリ戦力として計算できるぐらいに強くなったるわ!)」

ここまでされてなおお飾りでは王女の意味など無い。それなら娼婦でもしてた方がましだ。彼が受けたゴブリンの巣穴討伐では見たくも触りたくもない現実が待っているだろうがそれを越えられなければ本当におしまいだ。
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