勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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僕だけ例外らしい

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仲間全員が銅級になった。しかし、僕だけは例外の対象だと説明を受ける。

「これは錬銅級のプレートになります。通常であれば普通に銅級ですが指揮官など明確で重要な役割を果たせる人材は例外措置で上の権限を有した特別なプレートの発行になります。錬銅級は銀級同等であり金級の副官的な立ち位置になりますね。簡単に言えば準幹部筆頭と判断してよいかと」

えー、そんなの面倒じゃないか。僕は普通が良いんだよ。

「普通でいいんですが」

「冒険者プレートの記録を見る限りまともな戦闘方法じゃありませんよね?《収納》を何のペナルティも無しに使いっぱなしな上容量も莫大、高品質の装備や水薬の作成まで、それ以外にもユニークモンスターを瞬殺とか、どう考えても普通じゃありませんよ貴方。その記録をちゃんとこちらは確認済みです」

くそっ、念入りに処理しておいたはずなのに。どうやら僕だけ冒険者プレートを端から端まで調べ上げたみたいだ。さすがに全部の記録を改竄出来ない仕様なので目立たない場所に記録を保存していたのだが、それを見つけたようだ。

どうりで時間がかかったはずだ。

「一応銅級として扱いますが非常事態においては貴方がトップとして指揮権を預かることになるでしょう。文字通りこちら側の最強クラスの駒として取り扱うことが決定されました。実に素晴らしいことです」

担当者は手放しで称賛するが僕としてはやや複雑な気持ちだ。また、固有名称も付けられるそうだ「注文に万全に対応する者【オール・オーダー】」と。敵を倒すことからアイテムの補充まで、戦場においてはこなせないことはほとんど存在しない、そんな異名らしい。

まぁ、出来ないことなどない僕を表現するのにこれ以上はないともいえるが。

「あ、ちゃんとお仲間には説明済みにですので」

先手を打たれていた。普通に銅級のままで対応しようとこちらは考えていたが冒険者ギルドは優秀な人材を遊ばせておくつもりはないようだ。多分銅級の依頼だけではなく時と場合によっては上の等級の依頼さえ斡旋されることも考えておけと言われる。

それぐらい錬銅級とは権限が強いらしい。

そんな権限を与えてしまうぐらいだ。多分上の方は人材不足に頭を抱えているのだろう。国々らが推し進めていた等級の高いだけの連中が軒並み大失敗では大幅な軌道修正が必要だ。もう残りカスもいないだろうが。

そんな、面倒なしがらみを押し付けられて、僕は仲間の待っているコテージに戻る。

「いやぁ、実に素晴らしいよ。リーダーが銀級同然とか、もう在野最強じゃない」

「そうですわね。在野最強の正式なパーティにいるというだけで有象無象は近づけませんわ」

「さすがリーダーでございますなぁ。もうこれで我らの背後の連中の無用な口出しが無くなりますぞ」

「いざ有事の際は明確な指揮権を与えられるだけでなく国や部族氏族の偉い方々まで仲間に口出しするなと、切り捨てることも可能なんですよね」

「天はやはり貴方様を求めておられるのです。今後とも精進しなくてはなりません」

「いやねー。銀級同然というだけで引く手数多だよ。それを全部突っぱねて在野とかまともじゃないよねー」

「銀級に至った者はほぼ所属国を決めるのですが下手に枷を付けられるよりかは真面目だと思いますね」

「私に取ってはあまり意味のない等級ですがそれで貴方様の傍にいるために必要ならば」

仲間達は僕の決断に異論はないらしい。下手に故郷に戻れば馬鹿な連中が必死にしがみついてくるだろう、彼らと溺れ死ぬ気は仲間にはない。もうこれ以上族長らからの命令は無視する気だ。

その後ささやかなお祝いをして就寝する。

その後依頼難易度が格段に引き上げられる。

「いらっしゃいません。本日のご用件は何でしょうか」

「依頼をお願いします。なるべく緊急事態なのを」

「そうですか。それでしたらハイオークどもの依頼が何度ものパーティから撤退の憂き目にあってます。こちらの手駒では対処不可能だと判断いたしました、あなた方のパーティなら勝算が見込めます」

そういう事情ならば受けるのに問題はないか。早速依頼受注の手続きが取られる。

ここで冒険者ギルドの中を見るとほとんどが畏敬の念を抱いていた。不満を言うのは色彩石級より下ばかりだ。いまだに胡坐をかく連中だろうな。実績を積めるチャンスは無数に転がっているが生き残るにはそれ相当の土台があればこそなのだと。

コネがや縁故採用がいかに本人と周りに悪影響を及ぼしていたのかがすぐにわかった。

すぐさま依頼の現場まで向かう

「うっわ、オーク共がうじゃうじゃと」

「ハイオークもかなり混じってますわね」

「そこら中に犠牲者がおりますな」

「めちゃ数多いですよ」

「無残な目にあった女性ばかりですね」

「いやぁー、仲間入りしなくて良かったよ」

「やはり混沌はこちらに悪意を向けていますね」

「奴らはまるで天から降ってくるかのようですね」

「まったくもって混沌とは残虐ですね」

「まぁ、私達からすれば狩る側ですけど」

仲間全員が皆殺しの意思を固める。陣形は三角形で僕が中列で援護する。

「《全能力向上》《戦意高揚》《継続回復》行け」

『了解』

最前列で切り込むミーアとシュリーナ、壁として立ちはだかるバーゼルとセシル、後方から援護するエメリアとシェリル、支援を行うラグリンネとエトナ。そこにあったのは暴力だけだった。

各々武器を取りひたすら敵を殲滅していく。オーク共の断末魔と悲鳴だけが聞こえる。

「うらうらうら、皆殺しだ」「愚鈍な的ですわね」

「いやさ、これぞ我が武勲」「慈悲は与えません」

「混沌を退けます」「やれやれだよ」

「これぞ騎士道なり」「我がカタナの錆びになりなさい」

当たるを幸いとばかりに敵をひたすら切り殺す。僕は仲間らの支援に徹したためあまり出番はなかったが皆良い経験を積めたようだ。

殲滅が終わった後は遺品の回収だ。結構な数がいたため装備品がボロボロ落ちている。それらを全部回収して後で再利用する。

数時間も立たずに巣の殲滅が完了した。虜囚となっていた女らを連れて帰らないとね。

冒険者ギルドに戻り依頼達成の報告をし金を受け取る。

コテージに戻り各自休息を取り食事の時間だ

麦粥にシチューにチーズに肉の腸詰にサラダに果実に酒と、色々揃えている。

『いただきまーす』

全員がそれぞれの作法で飯を食う。ぶっちゃけスプーンやナイフなどよりも手掴みで食べる割合が多い。当然「おかわり追加」なので僕は調理場でひたすら料理を作り続けることになる。僕が食べるのは一番最後の時間になることがほとんどだ。

『いやぁー、今日も腹一杯食べられて大満足』

全員が食い終わり気楽な姿で満足感に浸る。

「あ、そろそろ洗濯物溜まってるよね」「そうですわね。一緒にしましょうか」

「先に購入した戦術論文を読みふけりたい」「購入した魔術書が面白いんですよ」

「我らが主への祈りの時間です」「あたしもそれやらないとね」

「訓練場で鍛錬したいと思います」「お風呂入ってこようかと」

各自地涌行動の時間となりやりたいことを決め行動に移す。食器やらの洗い物はほとんど僕がすることになるのが普通だ。さて、ようやく僕の食事の時間となる。

「今日も生き延びれました」

誰に感謝の言葉を伝えているのか。犠牲となった同胞達へ、だ。あの地獄から生き延びた僕の生きる理由はこれだけ。最近は色々な付属物が増えているが根本は変わらない。

慎ましく食事を取る。あの施設より格段に美味いが僕自身には幸福感など皆無だ。

傍らに置いたイヴラフグラ《富と咎を成すもの》は無言である。これが僕が何者であるかの証明になるから手放すなと、その言葉を復唱する。

「お前は本当に何なのかな」

知恵ある武具、そんな伝説もよくある話だ。実話が想像か、どちらにしろ僕が僕であることに変わりはない。

さーて、洗い物はいっぱいあるから片付けないとね。

洗い物を終えるころになってミーアとエメリアが下りてきた。なんだかご立腹の表情で。

「「酒を頂戴」」

はいはい、と。この二人好みの酒と酒杯を取り出して二人の前に置く。結構なお値段がするそれを迷いなく酒杯に注ぎガボガボ、と。味も風味もへったくれもない飲み方をする。何度となくそれを行い続け酒精が体に行き渡ったころになり、二人はポツリと。呟いた。

『あのクソい氏族長共を八つ裂きにしたい』

酒の力で気が強くなっていた。ではなく、どうも切実な問題なようだ。僕は椅子に座り二人の愚痴に付き合う事にした

「あの代表者共め、自分達の立場が危うくなり本物の冒険者を探して来いと言われてもなお自分らの保身しか考えてない。今まで冒険者を国に推薦していたのはお前達だろうが!貴様らのせいで問題が悪化してるにもかかわらず私達にその不始末をしろだなんて!」

「冗談ではありませんわ。ようやく自立出来たと思ってたら『国に推薦した同族が偽物だった』ですって?そいつらを見つけてきたのはお前達でしょうが!お前らのせいで真面目な冒険者がいなくなってしまい交渉が不首尾に終わろうとも自業自得でしょうが。どんだけ金をガメたら気が済むんですか!」

酒杯を握りしめながら体を震わせる二人。相当お怒りのようだ。

「嘘偽り誤魔化し、散々それを行い続けたくせに自分らの順番になって逃げようなんて都合が良すぎる。そのために同胞がどれだけ不幸になったのかも考えもせずに。お前らが命令したくせに!」

「あいつらのせいでどれほど同胞が無残な運命にあったと思ってるんですの!外界の同胞たちの悲惨な待遇はお前らが無能だからこそでしょうが。先が見えないなら松明持ちなさいな。あいつらこそ先に死になさいな!」

相当鬱憤が溜まっていたようだ。ひたすら憎悪の念を生み出す。

二人の話し相手をしてたらセシルが下りてきた彼の表情が暗いことに気づいた。

「あ~、ごめん。今取り込み中」

「……いえ、自分もこの二人と同じ要件、なんです…」

オズオズと、二人の近くに座るセシル。

「どうかしたの?」

顔色が良くないという事は何かの悩み事なのだろう。

「家族から、手紙が、来たんですが」

その内容が問題だった。

どこの誰とも分からない貴族家の令嬢と婚約を進めるから帰ってこいと。

「両親から『よくぞ冒険者として栄達した』そんな内容ですけど明らかに当主側の都合だと判断しました」

「あ、そういうことね」

「なんで、いままで、あれだけの仲間が死んだのに。まるで僕一人だけ称賛するかのような内容で、こんなのが貴族なんですか?自分さえよければ他のことなど些細なことと言わんばかりの内容に呆れるより怒りを感じました」

彼は全身を震えさせて怒りを表現していた。無理もないか。

「僕は騎士学校で劣等生でした。最低ラインぎりぎりの成績でいつもいじめられて、自分が持てなかった。国の命令でここに来て頭目と出会った。運命の分岐点を間違わずに自力で掴んだ。なのに、家族は、それを自分らの都合のいいように解釈している。ふざけるな!」

前の二人の同調するかのように感情をぶちまける。

「騎士学校で優秀な成績で卒業した?はっ、もうすでに冒険者に完全に負けてるくせに名誉だ誇りだのと言うな!貴様らのような連中さっさと滅べ。おめえらの信じる物は砂の城だ。容易く崩れ去るぞ。それすらも分かってないくせに」

「うんうん、そうよね。あいつらは自分らの足元が崩れ去ろうとしているから必死なのよね。逃げ場はないけど」

「そうですわね。もはや逃げ場のない孤島で滅ぶだけ。逃げようにも船はやっては来ない。ええ、まったくもって正論ですわ」

ミーアとエメリアは仲間が増えたのを喜び酒を勧める。セシルはそれを断らず酒杯に注がれた液体をガブガブ飲む。

「「「愚か者の滅びに乾杯!」」」

もうしばらく酒宴は続きそうだ。
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