勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

文字の大きさ
上 下
76 / 87

闘技場の王者との戦い

しおりを挟む
この地でやるべきことを終えて新天地へ旅立つことになる。仲間らは準備を終えており後は案内役の特使様達の護衛らと合流するために外で待つ。

「意外と少人数なのですね」

「ハハハっ。特使とはいっても所詮国の使いっぱしりだからね。無駄な予算が出ないんだよ」

人数は予想より少ないので僕のコテージに入れよう。野戦病院的なベッドだが安全だし環境もいいはずだ。

その後出発する。

途中放浪中のモンスターを倒したりしながら目的地まで進む。暗闇が訪れる前にコテージを建てる。

「簡素な場所ですが。ゆっくりしてください」

「いやぁー、実に快適な旅を提供してもらい感謝するよ。安全だし料理も美味いし環境もいいし」

皆、そうだろう。連れの護衛達も同意する。

料理は共同のモノだが明らかに美味しいし湯浴びだって出来る環境だ。

「君らはいつもこの環境が使えるんだよね。羨ましくて仕方がないよ」

「まぁ、恵まれた環境を用意するのがリーダーの責任なので」

「これぐらい用意するのが当然と思っている時点で普通じゃないと思うのだがね」

そうなのか。仲間達も普通じゃないですよ、常々口にするけど。僕にとっては別にさして変わらないと思うんだけど。

その後も森の自然や風景を楽しみつつ目的地《アーゲンハウル》の外壁が見える近さまで近づく。

『大きいですねぇ。明らかに防備が充実しているのが分かります。中も相当なのでしょう』

「ここは色々なものが充実してるが何といっても『闘技場』があることが理由だよ。力が正義だと主張する野蛮人の集まる土地だ。そうした催しがあるのが最大の娯楽になっているのさ」

「それぐらいモンスターの脅威が激しいわけですね」

「そういうことさ。ここを本拠地とするためにはそれ相応の実力がないと生き残れない。だから君達を連れてきたんだよ」

銅級以上の冒険者が数組いるし色光玉級も質量共に揃っているそうだ。なるほど、ここで生き延びれるかどうかが最初の試練なわけだ。

「さて、こちらはまず有力者に挨拶に向かうが君達はどうするかね」

「闘技場とやらに行ってみようと思います。思わぬ掘り出し物があるかもしれないので」

「強者は強者に惹かれる、という言葉通りだね」

挨拶など後回しにするあたりはさすが実戦経験豊富だと判断したようだ。特使様と別れて闘技場の場所を聞いて仲間とともに向かう。

外からでも喧騒が聞こえてくる。中に入ると観客の熱気に圧倒される。

「うへぇ。どいつもこいつも命知らずばかりですよ」

「本当ですわね。暴力を使わなければどうしようもありませんわ」

「我が同族らも多数参加しておりますな。力を信奉する者らにとっては楽園ですぞ」

「力こそが正義という主張がここでは当然なんですね」

「野蛮極まりますが混沌に対してはそれしか通りませんから」

「いやぁー、実に見ごたえがあるよね。にししっ、実に単純明快だよ」

「参加者は騎士から魔術師までいます。方法手段など問わないという事なのでしょう」

仲間たちはこんな野蛮な催しなど初めて見た。そこでは己の力のみで勝つことが条件なだけ、その手段や方法など問われないことに。相手を倒せば喝采、負ければ罵声が飛んでくる。中にはどちらが勝つのか予想屋や食事を売る売り子などがせわしなく動き回っていた。

しばらく試合を観察すると。

「おっ、いつものヤツが現れるぜ」

いつもの?近くの観客に聞くとここで負け知らずの王者が出てくるそうだ。遥か東からやってきたそうで独特の剣技を使い格好も異文化丸出しだそうだ。もう相手がいないそうで半ば見世物になっているそうだ。

その人物の登場を待つ。

現れたのは女性だった。かなり若いな。あれ、東国に伝わる『キモノ』というやつだろう。袴を履き武器はカタナという細身で切れ味鋭い武器だが容易に扱える曲刀とは大きく違う。雰囲気からして異質だった。

「この私を倒そうとする者はおらぬか!」

どうやら、もう自分の相手がいないことが不満なようだ。まるで周囲を臆病者扱いと見ている。まぁ、ここで負け知らずならその自信も納得だ。中にいる審判はどうにもならないようだ。参加者は誰でもいいらしい。

なら、僕が参加しても問題ないよね。観衆を飛び越えて中に入る。

「! こんな、幼い子供、だと…」

相手は僕の外見を見て一瞬だが驚いていた。まさか観客席を飛び越えて参加してくるなんて。

審判が聞いてくる

「さ、参加料を、払えるのか」

僕は審判の前に金や銀の塊を数個吐き出す。それで審判は所定の位置まで下がった。試合が了承される。

「君は勇気と無謀を勘違いしてはおらぬのか?私が求めるのは強者のみだ」

そうか、外見だけならそうとしか見えないだろう。なら、久しぶりに獰猛な本性を見せることにしようか。僕は深淵の殺意を彼女に向けて解き放つ。

「っ!そういうことなら、不足はない。私の秘術の剣技、存分に見せようぞ!」

彼女はすぐ様こちらに反応する。加減は出来ない、そんなことをしたら自分が殺されてしまうと。敵の首を討ち取る覚悟で挑まねば戦いが終わらないことを瞬時に理解したようだ。

僕を剣を抜き片身で構える。それを開始の合図と見なし相手は瞬時に距離を詰め抜刀する。俊足の踏み込みと居合抜きだ。僕はそれを軽く弾く、キィンと金属音が鳴り響く。

「やはり奇襲は効かないか」

「そっちも」

彼女は不意打ちは失敗したと判断しカタナを構える。盾の使用を前提としたモノではなく東国に伝わる独特の構え方だ。

真正面からの打ち込みを逸らし横薙ぎを受け止め切り返しを受け流し突きを身を捻る。息も付かせぬ連続攻撃は見事としか言いようがなく華麗な舞を見ているかのようだ。だが、それすらも僕には届かない。

「ここまで私の剣に軽々対処するとはお見事だ」

「それはどうも。さ、様子見はもういいよね」

まだこれは相手の出方を探るための牽制、その時彼女はポツリと「……この人なら私の願いを成就させてくれるかもしれない」小さな声で呟いた。一体それは何なのかは僕には分からなかった。

その後、彼女は本気となる。

一撃一撃が急所狙いかつ必殺の威力を込め緩急をつけて苛烈な攻めを敢行する。もはやそれは人に確認できるものではなかった。確認できるのは自分が死んだことだけだろう。

だが、僕はそれすらも容易く対処してしまう。

彼女の瞳には驚きと同時に喜びだけがあった。ここまで本気になったのにもかかわらずそれすらも容易くいなしてしまう相手に対して。このままでは決着がつけられないと判断したのか彼女はここで初めて特徴のある構えを取った。

「我が一族の秘宝にして絶対必殺の剣技《流星》を耐えられるか!」

そのスキルは複数回同時連続攻撃、しかも5発も!しかもすべての攻撃が必殺の威力を持っていた。さすがにこんなものを出されてしまっては誰であろうと生き延びれるはずがなかった、そう生き延びれるはずがない。僕を除いて。

(まだ地上世界にこんなものが残ってたなんで。それを継承し体得した彼女の天分はとんでもないものだ)

さすがにこれを初見で出されては僕もその気にならざるをえなかった。まったく同じ攻撃をしてすべて叩き潰す。

「ぐうっ!そ、そんな。これを、ま正面から、打ち破られるなんて?!」

さすがの彼女もこれには動揺を隠せないようだ。

「貴方も、これの継承者なのか?」

今のを分かるだけでも驚嘆に値すると。なるほど、同じ祖先から学んだのでは、そう思えるのも無理はないか。

「違うよ」

「えっ?でも」

「君が使ったスキルなんて使ってない」

単純に肉体の力だけで同じことを再現しただけだと。それで相手には意味が伝わったようだ。

「そ、そんな…信じられない」

彼女は少しばかり現実が受け入れられないようだ。

「そこまで体得できたのは素晴らしいの一言。でも、君はまだ先があることは知らないようだね」

「さ、先!ですって!」

この時点で極めたはずだ。僕はそれを否定した。その先なんてあるはずがない。なら、見せてあげよう。先ほどの彼女と同じ構えをあえて取る。それが自分の必殺技であるように。

「まぁ、即死はしないように手加減するよ。ちゃーんと、治療してあげるから。君ほどの存在は殺せない」

さすがにただ事ならぬと判断した彼女は絶対防御の構えを取る。その後彼女は一時的に冥府へと行かされることになった。





私は暗闇の中をしばらく彷徨い続けていた。延々と終わりの見えない道、その先には川があった。そこには小舟があり船頭がそれに乗るよう促す。それに乗ろうとした瞬間。

「うっ、く、はぁ」

「お目覚めご苦労様。気分はどう?」

「わ、わたしは、どうなって」

傍にいたのは先ほど乱入してきた対戦相手だった。あ、あれ、ここはどこだ?見知らぬ天井に部屋に違和感を持つ。

「ここは闘技場の治療室だよ。緊急事態だから個室だけどね」

「ど、どうなって…」

「君は倒された、それだけ」

え、それだけ。私が倒された?たしか、奥義を繰り出してそれを相手に止められて、それからの記憶がスッポリ抜けていた。負かされた、こんな幼い子供に。

負けたという事実より、確認したいことがある。

「私の奥義と同じ継承者…では、ないのだな。さらに先を行っていると君は言った」

なら、それがどんなものであるのか、教えてもらいたい。

「それはいいけど」

その格好で外を歩き回れないでしょ、私はここで自分は裸であることに気づいた。

「!?」

さすがに私は羞恥心に勝てず体を隠す。

「緊急治療が必要だったからね」

「……」

「安心してよ。不埒なことは何もしてないから」

私は隣に用意された服に着替えてついてくるように言われ彼は出て行った。それは私が来ていた服と全く同じ東国風の着物だった。それを確認しつつ着替える。外ではその子が待っていた。

その子についていく。

都市の外に出るとコテージに案内される。

『おかえりなさーい』

様々な種族の男女が出迎える。冒険者のパーティだと説明される。中の階段を上がり訓練場に案内された。とんでもない品物だなと思う。

「さて、まずは君自身《流星》についてどこまで知っているの」

「5回の多方向からの複数回同時連続攻撃、としか」

「それで大体のことは説明できるよね。でも、少しばかり解釈の誤解がある」

「誤解?」

「この時点で必殺剣技なんだけどこれはまだ下位互換もしくは下地固めに過ぎない。まだ本物には至ってない」

これでもまだ本物ではないことに驚愕するしかない。では、本物とはどれほどのモノなんだ。私の関心はそれだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...