勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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世界の長く大きい波 しかるべき方々の思惑 

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赤護騎士団の壊滅の噂はすぐさま世界中へ伝えられる。その原因が冒険者同士の内乱ということで大変なことになった。

『黒翼騎士団が壊滅するだけじゃなく赤護騎士団まで。しかもその原因が上の無謀な命令で最後は冒険者ギルドの許可も得ずダンジョンに出向こうとは無謀極まる。先回りしていた冒険者らが止めたおかげで何とか事態を収められた』

そして、当然その軍勢を制圧した冒険者パーティのことが話題に上る。

『8人のパーティ?いや、未熟のばかりとは言えその少人数で制圧したとは信じがたいが』

『仲間全員が色光玉級だとか。コネや縁故採用はほぼ無用で実力でそこまで登ったそうだ』

『しかも全員非常に若い世代で構成されているそうだ。実に将来有望ではないですか』

『リーダーを筆頭にヘッドハンターの討伐実績があるそうですよ。しかも複数』

『実に素晴らしい実績ではないか。わが国にも彼らのようなパーティが一組でもいればどれほど安心できるか」

『なぜ彼らは在野のままなのだ。それだけの実績があればしかるべき地位が望めるだろうに』

『何でもパーティメンバーの一族部族氏族が無理難題な要求をしているからだそうですよ』

『やはり、コネや縁故採用の弊害が出てきたな。今後そこまで行けるのは本物だけになるだろう』

『冒険者ギルドの審査基準も厳しくなった。無理矢理高等級を与えるのは不可能なようになってしまった』

『では、今後はもう飾り物の冒険者は用無しという事か。増々もって本物が求められてくる』

『もうすでに在野の方では大きな影響が出ている。いくら交渉しても背後の命綱を切るようならお断りだと』

『国の代表者が出張ったにもかかわらずにですよ。それほど現実の冒険者の認識が変わってしまったんですよ』

『それにもかかわらず一族部族氏族は現実が見えてないのか。まったくもって面倒なことになった』

『もう一部の国では冒険者の外国への派遣には厳正な審査を取るようです。増々在野が登用できない』

『それほどに混沌は深い。モンスターの脅威も日々増している。馬鹿な連中は出番はないという訳か」

各国の関係者は「今後冒険者の品定めはこちら側ではなく相手側が決めることになる」その意見で一致した。今までは国側が冒険者を選んでいたが今度は冒険者側が国を選ぶことになるだろうと。

無理矢理等級の高い中身も実力も無い冒険者を生み出しても誰もそれを認めないし従わないことになる。

周囲に実力と信頼を認めさせ勝ち取れなければ無用の長物なのだ。実際に国や部族氏族が無理矢理与えた等級の冒険者はことごとく失敗していた。今後はそれが冒険者のスタンダードになる時代に移りつつある。

価値の変遷は容易に起こるものではない。それを引き起こすには紛れもない本物が不可欠となる。

その変化の先触れとして彼らが現れたのだろう。一族部族氏族の後押しを拒否しながらも色光玉級にまで成り上がった存在。彼らを目標として今後冒険者は変わっていくことになる。

『そうなると、誰が彼らを連れて帰って来れるかどうかが問題になりますね』

『直接出向いて交渉すればいいのではないのか?』

「彼らは依頼など必要な場合以外姿を見せません。近づこうにも行方をくらますか追い出されてしまいます』

彼らの拠点には魔法の加護がある門があり関係者以外出入り不可能だと。幾度となく侵入しようとしたが無駄だったそうだ。その後彼らはコテージを別の場所に隠してしまい増々接触が困難になった。それほどの品物すら所有しているのか。増々接点が欲しくなる。

『現在外国の特使殿を中心に接点を持てないか模索検討中でございます』

『どのような案が現実的かつ最短距離なのかね』

『具体的に言えば紅光玉級まで上がった後に席を設け外国へ招待するのが得策だと』

『なぜ昇級するのを待ってからが良いのかね?今すぐに来てもらいたいところだが』

『あの場所のモンスターの脅威度を考えるとそこが天井であること、彼らは実力実績を積むため依頼を選別していることです。下の者の経験を積む場所を奪うことは好みません。そこでやるべきことを終えればさらに活躍を求めて移動することを選ぶでしょう。そこで脅威が明確に存在する場所へ招待するという名目で連れて行くのです』

それなら双方に利があるな。

こちらは迅速な脅威の排除ができる、冒険者はそれを討伐した実績信頼が手に入る。両者が互いの理由を理解すれば交渉で拗れる心配がない。もし拗れた場合はどちらかに不手際がある場合だろう。さすがに冒険者ギルドがその依頼の選別で間違う事ないはずだからどちらにも問題がある場合か。

国側が不正な依頼を強要したら冒険者は当然拒否するだろうし権力争いなどに顔を出す気など一切ない、権力争いに没頭するなど根本から勘違いしているからだ。国が無理矢理高等級を与えた冒険者共のほとんどがコネや縁故採用組だ。

彼らが今何をしているか分かるか。家の力を大きくすることだけしか頭にない。冒険者の本分のモンスターの討伐などに出る気はさらさらなく部下に命じていた。

家族は家族で「等級が高いから役職を貰って当然」とばかりに無理矢理に他者を追い出し始めていた。厳しい選抜を生き残って努力していた者らからすれば堪ったものではないだろう。そいつらは自分の都合のいいように中身を弄り始める。

脅威の排除すらせず権力争いを激化させていた。さすがに国もこんな問題ばかりを起こしては謝罪するしかないが彼らはすでに特権を得ているため手出しが難しい。さすがにこれには国側も手を焼いた。

ところが、ある時を境に状況が一変したのだ。

ある高等級の貴族が冒険者プレートをいつものように確認するが。

「え?なんで灰色級になってるんだ?何かの間違いだろ?」

それは彼だけではなく同じ手段を使った同胞達全員がいつの間にかそうなっていた。彼らは冒険者ギルドにさえ秘密にしていたパスコードを使い以前と同じようにしようとした。

『《不正改造処置を確認しました》このコードは削除されてます。マスターオリジナルの使用許可がない限り利用できません』

『はぁ!なんでだよ!』

再度パスコードを打ち込む。

「《警告》このパスコードの使用許可はマスターオリジナルから停止されてます。これ以上行うなら不正改造の証拠を公開します』

『はっ、たかが冒険者プレートが何だってんだ!』

警告を無視して、さらにパスコードを打ち込むと。

『あー、やっちゃったんだね。この脳味噌が汚物で詰まった連中共が。お前らのやったことは全部記録されてるから永久剥奪か一生罪人扱いにするから。冒険者ギルドに押しかけてもどうしようもないこと覚悟しとけよ。今まで特権に胡坐をかいていた分だけ苦労するがいいさ。お前らが何者だろうとも、だ。ご愁傷様』

その後彼らはあらゆる手を使って改造しようとしたが全部弾き飛ばされてしまう。その後彼らは仕方なく冒険者ギルドに「冒険者プレートが異常を起こした」嘘をついて元に戻すようにしろと命令するが。

『あなた方のプレートを返すことは出来ません』

『どうしてだ!』

『不正な改造処理を行おうとしましたね。その記録が残ってます』

『いや、俺らは、普通に』

『そちらがやっていたことは普通じゃないんですよ』

『ふざけんな!それじゃ俺らはどうなるんだ!』

『ただの一般人になるだけです』

『や、役職とかは、どうなる?』

『一般人がなぜ冒険者ギルドの役職持ちになれますでしょうか。この馬鹿者どもが!』

『こんなのは不当な行為だ!訴えてやるぞ!』

『かまいませんよ』

その後奴らは家の力などを利用して無理矢理裁判を起こすが彼ら全員罪の自覚が薄すぎたことを後悔することになる。

『この記録は本当なのかね?』

『はい、間違いありません』

王族も同席した裁判だが周りの反応は驚愕でしかなかった。

『つまり、それを使えばどのような功績も実績も等級すらも自由自在に弄れる、だと?そんな不正処置を冒険者ギルドにさえ秘密にしていた連中に罪があるな。具体的な証拠を求める』

『はい。ではこのプレートを自由自在に中身を弄りましょう』

冒険者ギルドは何も手が入っていないプレートの中身を本当に好き勝手に変えてしまった。

『もうそこまででいい。正確な記録が残るはずの冒険者プレートがこのように好き勝手に弄れるように細工した本人もそれを自分達だけ都合よく利用していた方が罪が重いのは明白だ。で、そんなことをした連中がことごとく灰色級になってしまったのはそれが理由なのだな』

『そうです。達成実績のない内容の改造処理は無くなり本来の姿に戻っただけです』

『そいつらは嘘を言っています。自分らの依頼達成は本当です』

『ここにその内容を再調査した証拠があります』

それを裁判長側に提出する。

『依頼の達成どころか他人任せな上放置し大損害を出し挙句その隠蔽まで…どうりで討伐したはずの脅威が各地で暴れているわけだ。もうこれ以上審議の必要はないと判断する』

さすがに内容が酷すぎてもう誰も弁護不可能だった。

灰色級に役職など与えられるはずもなく全員追い出した。実家も灰色級になった連中に利用価値がなくなり追い出されてしまう。

もう二度と冒険者プレートの不正改造が出来なくなり本物の冒険者が不足してしまう事態になった、コネや縁故採用が好き勝手していたので全然育っておらず残っていたのはほぼ新人ばかりという有様。上の等級冒険者はほとんど生き残っていなかったのだ。中もポッカリ空いてしまい質も量も不足する事態になった。

何とか生き残り達でやりくりしているが明らかに混沌の脅威の高まりが各地で出てくるようになっている現状、手札が圧倒的に足りない。

在野を登用しようにも馬鹿な連中の行動のせいで自分らまでその責任を押し付けられていたまっとうな冒険者達はこちらに不信感を隠すことなく言ってきた。

『自分らと契約したい?お前らにはコネや縁故採用で偽物の輝きを放つ冒険者共がいるじゃないか。そっちを頼りな。ま、偽物なんで中身はお察しの通りだろうな。そいつらが一斉にいなくなったから頭数が足りないって。奴らを優遇し放置したのはそっちだろうが。そいつらのせいで俺達も困ってるんだ。その尻拭いをしろだなんてお断りだ』

『そ、そこを何とか、お願いします』

『そもそも俺らは武力を売り物にモンスター倒しているだけの無頼漢だ。どこの誰とも分からん連中だぜ。正当な血筋の継承を最優先にする国々とは相性が悪い。半ば不穏分子なんだよ。さらに言えばお前らの交渉条件の見積もりが甘すぎる。その程度で死地に向かわされるなんてお断りだ』

待遇が悪い、条件はそっちで好き勝手、使い潰す前提、背後の命綱を簡単に切る、等々。彼らは不満だけを口にする。

交渉はことごとく不首尾に終わる。

『こんな金額と条件ではまっとうな冒険者は全員サインを拒否しますよ。そんなことも分からなくなるほど腐ってしまったんですね』

『だ、だが、以前はこれで』

『世界の常識はもう塗り替わってるんですよ。それに気づかないんですか。お国の馬鹿共なら喜んでサインするでしょうが在野の冒険者はこの程度の見積もりでは安く買い叩かれているとしか感じないでしょうね』

冒険者ギルドでさえも渋い顔をした。いや、これぐらいで十分なはずだ。だけども、相手はそれでは振り向いてくれないと。

じゃ、どれぐらいの見積もりを出せばいいのかを聞く。

『まぁ、これは状況相手次第なので判断は難しいですね。少なくともこちら側が設定した条件は軒並み書き換えが必要だと考えるでしょう』

『そんな横暴な!』

『横暴ですか。それを言うならお前達のお抱え冒険者はどうでしたか。彼らのことが横暴でないというなら在野の無頼漢の横暴が通らない理由がありませんよね』

理由は明白だ。

今になってようやく気付かされた。もう彼らの心が離れていることを。自分らに都合のいい冒険者を仕立て上げ彼らの横暴が止まらなくなったから処罰した。代わりを求めたら彼ら全員がこちらを敵対視していた。その原因はこちらにあるのだから。

その後何とか冒険者ギルドを交渉を続けるが渋い顔のままだった。
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