勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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新たな騎士団結成とその船出とは 1

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新たに結成された『赤護騎士団』赤く輝く守護者、そんな意味らしい。短縮してアカゴである、よちよち歩きの赤子のようだと仲間は大笑いしていた。装備の色を赤く染めているのが特徴だ。

前回来ていた連中は皆「存在しなかった」扱いのため彼らは口々に彼らに酷い言葉を叫ぶ。

『奴らは俺ら本隊を引き立てるための脇役だったんだよ。本命は俺らなんだ。主役は遅れてやってくるもんだ』

非難中傷軽蔑、色々混じっているがまぁそれが部外者の感情なのだろう。そして、今度は自分らが『関係者』の番がやってきたのだ。一度関係者になった以上責任から逃れられない、果たしてどれほど耐えられるのか。

僕らの居場所がばれると面倒なのでコテージを離れた場所に移動させ機能で《隠蔽》をかけて見えなくしてしまう。これでゆっくり状況を見届けられる。連絡があるときは密かに出向くと前もって冒険者ギルドに伝えていた。

上中下全員灰色級であるが。

「あー、野営のテントは寝づらいな」

「そうだよなぁ。これも訓練らしいけど」

「上等な宿屋用意しろよな」

「食い物も遊びも貧相だよな」

「女抱きたいし酒も飲みたい」

「上の連中はちっとはマシだけど」

「給料少なくねぇか」

僕は《隠蔽》が使えるので彼らを観察していた。どのぐらいの予算でどの程度装備を揃えどのような生活なのか、それを確認しに。

一応選別はされているようで前回の黒翼騎士団よりも少しばかり予算が多いようだ。もっとも、現時点では。そう付け加える。まだ戦闘は行われていないから気楽なものだが、果たして振られる賽と駒でどこまで戦えるのか。

結論から言えば「前回の失敗から何も進んでない。むしろ悪化した」そうとしか言えない。最初こそ規律秩序は保たれていたが上が駄目なら下も駄目になる。その言葉通り、上の将官が酒と女に溺れているのになんで自分らだけが、そう考えるのは単純だった。

僕は意図的に彼らを誘導しその現場を目撃させてあげた。当然下から突き上げが来る、中はなんとか仲裁しようとするが反発の声が大きすぎる上同じ立場の者らからも同調者が現れた。

当然堕落するか処罰するしかない。見せしめの私刑が行われる。当然下の方からだ。

『ふざけるな。なんで俺らが処罰されなきゃならないんだ。秩序を乱してるのは上だろうが』

上が乱れれば下も乱れる。彼らは遊ぶ金欲しさに部隊の物資を密かに商人らに横流しした。当然帳簿の計算がズレ始める。それは徐々に大きくなり食料を始めとして色々な品物が足りなくなる。

そのため予算から捻出するがこれが何度も行われていきやがて予算の黒字が出なくなった。未だに依頼を受けられる状態ではないにもかかわらず活動資金が底をつく

母国の支援金が来るまで何とかやりくりをしなければならない。仕方なく会計係は二重帳簿の作成に手を出した。

それでも上は変わらず乱れ下は不当に処罰される。下はそれでも横流しをやめない。中の管理職はもうお手上げだった。

『依頼を受けるぞ。ゴブリンの巣穴討伐だ』

ようやく依頼が受けられたようだ。

将菅達は血気盛んに煽り立てる。だが、それを冷ややかに見ている視線もあった。真実をどこからともなく教えられた連中らだ。物資の横流しをする最中で前に来ていた連中がどれだけ悲惨な目に合ったのかを聞いたのだ。

『自分らは歓迎どころか不穏分子扱いじゃないか。国が言う噂とは全然違うじゃないか』

最初の黒翼騎士団は逃亡者扱いだがその後に送られてきた連中については情報操作が行われていた。

仲間達は各地で大活躍、民衆から歓迎され、有力者からも信頼が厚く、破格の富を得た。そのような噂だ。さすがに国の規模になると莫大な金がかかったはずなのだが必要な予算として処理したようだ。現実と噂の乖離はもうすでに始まっていたのだ。

他の国々もこの長く大きい波に乗り遅れないよう船に急ぎ船員を載せて出発させたが現在の情報収集をしてからでも遅くはないと判断した国も少なからずいるそうだ。本来であればその手の情報は止められるはずなのだがここで最優秀に入るパーティには教えておくべきだと。冒険者ギルドは判断した。

迅速にその後始末を行える切り札として。

事実を知らない連中は血気盛んだが、事実を知る連中はいざという時は、その備えをしている。

その温度差すらまるで分からないようだ。

そして、彼らは死地に足を踏み入れることになる。

ゴブリンなど雑魚の中の雑魚、武勲詩で語られるような存在じゃない。各自分配して松明を持ち中に侵入していく最初は順調に進んでいた。だが、大多数の人数を動員しており洞窟の中で目詰まりを起こし始める。分岐路で分散して前に進んでいく。途中の暗闇にある横穴やトーテムを無視して。もう彼らは罠にかかっていた。

『ぎゃぁあぁぁあ』

突然ゴブリンどもが暗闇から現れ粗末な武器で鎧の隙間を突く。それでバタバタ倒されていく隊員。

「慌てるな。まだこちらの数が多いのだから。各自対処するんだ」

将官はまだ奇襲を受けただけだと判断し隊列を取って対処しようしようとするが洞窟の狭い通路にすし詰め状態では武器を振り回す余裕が取れない。

無駄に長い武器を振る広さがない場所では小柄のゴブリンの独壇場だった。後から湧いてくるゴブリンたちは仲間を闇に引きずり込む。

何とか剣を抜いて対処しようとするが長剣では壁に引っかかりまともに振れない。槍もまた同じだった、平地では有利だが洞窟内では無駄に長すぎた。

次々と仲間がやられていく恐怖が伝染し始める。

後ろに下がろうとしても何にも知らない隊員が前に進んできて後退できない。彼らもまた餌食となる。ついに将官は自分だけは助かろうと強引に後方に逃げ出すが、そこには待ち伏せ組がいた。

「は、えっ、なんで」

そこに存在してはならない相手を確認する面々。松明で暗がりを確認することを怠ったツケをここで支払うことになる、即座に殺された。

指揮を執る将官たちがいなくなり当然混乱が起きる、ある程度上の階級が指揮を執るが経験も知識もなく現状前にも後ろにも行けないほど密集していて武器の振り場がないため徐々に間隔を空けるように指示を出すがそれはゴブリンらにも動き回れる隙間を生んでしまう。

粗末であるが防具の隙間を突くには十分な威力を持つ凶器が体に幾度も突き刺さる。

まだ生き残りは多い。でも、もうすでに戦意喪失していた。

「こんなの、冗談じゃないぞ」

「死ぬのは嫌だぁ」

「ゴブリンがこんなに怖いだなんて」

「もう、こんなのは悪夢だ」

「だれか、助けてくれぇ」

彼らは口々に望む「この悪夢から救ってくれ」だけども、その努力も機会も時間も忠告さえも軽んじていた自分らの怠慢と罪の清算の時間だ。僕はそれを眺めていたが手を貸す気はない。自力で乗り越えられなければそこまでの命でしかないからだ。

もはや後退以外選択肢が無くなり退却しようとするがミッチリ詰まった状態では遅々として動きが出来ない。その間にもゴブリンたちは追撃を辞めず延々と戦いが続けられる。

後退していくが見逃した横穴からゴブリンやホブゴブリンが現れ大打撃を受ける。犠牲者覚悟で退路を切り開き外に出た時には100人はいたはずの仲間の3分の2が死んでしまい残りは負傷者多数になっていた。

茫然自失となり命がけで生還したにもかかわらず将官らはそのみじめな姿を責め立てる。

「なんだ貴様らのその姿は!これから栄誉と名声と富を手にれる赤護騎士団の団員の姿ではないぞ。当然巣穴討伐は達成されたのだな。そうであろう!」

「いえ、自分達は撤退しました。仲間達の犠牲を払いながら、です」

「あれだけいた隊員はどうなった?勇敢に戦い見事な戦いぶりを示したのだな。そうであろう」

未だにこの将官は自分勝手な妄想にとらわれていた。自分らは現実に起こった事をありのままに伝えるが聞く耳を持たない。

「ゴブリンなどモンスターとしては下の下、最弱の存在ではないか。それに一方的にやられるとはどう考えてもおかしい。何か具体的な証拠を求める」

松明で岩陰や暗闇を確認しなかったこと、そこに身を潜ませたり横穴に気づかなかったこと、数を頼りに前に進み通路が目詰まりして前にも後ろにも行けなくなったこと。最後には仲間を見捨てて地上に帰還したこと。生き残りは3分の1だ。これで隊は壊滅だろう。

だが将官達はなぜか焦ってなかった。

「もうすぐ第二陣が到着する予定だ。失敗した上で生き残った貴様らの立場は下の下に置かれる。今後は洗濯やら食事の支度などで忙しくなろうなろうが。赤護騎士団にいられるだけでもマシだろう」

精々励めよ。それだけ言って将官らは自分勝手に切り上げる。話し合いの機会も与えられなかったのだ。傲慢で無能なのはお前たちのほうじゃないか。冗談じゃない、あれだけ仲間の命が失われたのに使い捨ての駒としてしか扱わない態度に怒りが込み上げてきた。

生き残りたちは自分らで独り立ちする決心を固める。

「うーん。灰色級ではドブ掃除とかごみ拾いとかで下積みをしてほしいところなのですが」

ゴブリン程度など容易に倒せるはずです。今現在のあなた達にその言葉がいかに都合のいい嘘であるかもう確認済みのはずですが。反論できなかった。

そうだ、もうゴブリンは確かにモンスター中では最弱だろう。でも、灰色級のパーティ程度など返り討ちに出来るほどの繁殖力と狡猾さを嫌というほど知っている。

「これもそれも自分らが鳥籠の中の鳥と気づかず無駄に餌を要求して肥大化し飛べないのに巣立たされることになった。それもこれも自己責任です」

「だって、それは、家族がそうしろって、命令して」

機会も学ぶ時間も教えてくれる先生を紹介してもらったけど泥にまみれるような地道な努力を怠ったのは自分自身だ。そんなものなどなくとも家族と一生平和に暮らせて行ける、はずだった。

突然一族の長から「子供らを冒険者にしなさい」そう言われたのだ。

家族は大反発したが「これまで子供らに投資した分の回収を急ぎ行わねばならない」無理矢理冒険者にさせられたのだ。家族はここで先祖の功績で受け取っていた分の年金でもギリギリの状態であることを教えてくれた。そんなに実家が貧乏だと今ここで知ったのだ。

自分らが実績を上げないと家族の将来は暗いものになるだろう、下には幼い弟妹達がいる。だけども灰色級で受けられる依頼はではその日の暮らしさえ貧しいものなのだ、実家に金は送れない現実に直面する。

一発逆転を狙い大物退治を受けたいが討伐依頼のほとんどが難易度上昇で熟練者以外斡旋できないことを伝えられた。

世界は残酷で悲惨なのだと、それなのにやるべきことを放棄した自分らには涙が止まらなかった。

だけども、まだやり直すチャンスが僕らには残されていた。初心者冒険者の期間限定の救済制度がこの場所にはあると。自分らはすぐさまそれを使わせてもらうことにした。
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