勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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雛鳥だけじゃなく親鳥も馬鹿だったことに気づかされる

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送り込んだ連中が軒並み失敗し優秀な冒険者とも交渉が失敗した連中は諦めずあの手この手を使い引き抜きを行うが軒並み失敗してしまう。

「この条件でいかがでしょうか?」

「あんたら。以前ピュアブリングのパーティの引き抜きをしようとしたんだよな」

「ああ、彼らは名誉と栄光が手に入るチャンスをドブに捨てたんですよ」

それが一体どうした。

「俺らも同じだ。ピュアブリングがサインを拒否するなら受け入れられない」

「ど、どうして!」

「てめぇらが信用出来ないからだ。自分勝手に背後の命綱を切られたくねぇんだ。理由はそれだけだ」

「く、国がそれを、保証します」

「はっ、契約を守る気もない癖に耳聞こえの良い言葉をほざくな」

ピュアブリングが全権を担うというなら従うことに不満はないがそうでないなら聞く気はない。それだけで追い返される。

黒鉄色級や鉄色級も軒並み不首尾に終わる。要求が高すぎたのだろうか。仕方なく色彩石級に声をかけてみる

「この条件と金額では到底受け入れられませんね。内容を書き換えさせてもらいます」

「そ、それは、ちょっと」

「それでしたらこちらはサインを拒否させてもらいますよ」

「な、なぜでしょうか」

改めて理由を聞く。

「お前たちの都合で私達の命綱を切られたくないからですよ。理解できませんか。出来ないならそこまでです」

色彩石級のすべてがサインを拒否してくるか内容の書き換えを要求してきた。いや、この条件だったら国の連中は喜んでサインするぐらいはあるはずだ。

さらに条件を下げて黒曜石級にまで手を出すが全員渋い顔をした。

「これでは駄目ですね。見込みが甘すぎますよ」

「なんで駄目なんですか!」

命の恩人がサインを拒否した、それが理由だと。

「お、恩人?」

「ここではピュアブリングは『命の恩人』なんですよ。それすら知らなかったんですか。あなたのお国とやらは時代遅れも甚だしいですね」

「我らが国を非難するのか」

「お前たちの国がしでかした不始末を処理した人物を知らないんですか。彼らは赤字覚悟でその問題を処理してくれたんですよ」

それに比べたらお前らはなんだ。お国とやらの代表者のようだが世の中を知らなさすぎると。そうして、全員から嫌われてしまった。

彼らはもうどうしようもなくなり灰色級にまで手を出す。

「……帰れ」

「い、いや、わが国にくれば」

「何も聞く気はないし信じない」

「名声や栄光が欲しくないのですか?」

「名声?栄光?それがなんだというんだ。今生き残るだけでも精一杯なのに分不相応な夢を見る気はない」

「き、貴様、我らを何だと」

思ってるんだ。それを聞こうとすると相手は憎悪を込めて笑いだす。

「ハハハっ。先に来ていた銀の精鋭や黒翼騎士団の現状を見れば一目瞭然じゃないか。手柄は立てられず貧困に喘ぎ苦しみ帰還も出来ずやることは世界が残酷だとは知らずに死地に送り込まされたじゃないですか。その結果があれだけの死人の山ですよ。機会も時間も猶予も恵まれた連中が無様に死に絶えるのは痛快ですね」

彼らは同胞だった。いや、元同胞だったと。

「あんな国に忠誠を誓ってそのような甘い悪夢を見続けさせられた自分に絶望しましたよ。半分くらい人生を諦めましたけど捨てる神がいれば拾う神もいるんですね。頼りになるのは『見知った隣人よりも見知らぬ他人』だと」

それに気づけただけでも最後の余地があった。

「今の自分は誰かに助けられている状態なんですよ。それなのに訳の分からない奴らを助ける理由はないんですよ。馬鹿な連中に抱き着かれて溺れ死ぬ運命なんて断固拒否します」

「い、いや、それでも」

「もう自分は家のしがらみとか命令とかとは従う理由がないんですよ。もうどうせいないも同然の扱いにされているんでこれからは自分のための人生を進むんです」

話はそれで終わりだ。さっさと帰らないなら武器を向けるぞ。それが冗談ではないことを気配で感じ全員逃げ出した。

自分達の権限で出せる条件はすべて出した。だけども、全員サインを拒否するか内容の全面的な書き換えを要求してくる。

生き残りたちもこちらの憎悪を隠すことなく向けてきた、なぜだ。

「ピュアブリング殿にサインをするように強要した?それでしたもう自分らに救いはやってこないでしょう」

皆全員故郷に帰らせてもらっていいか。もちろん生活を安全安心に出来るよう年金を支給するように手配してから、それが駄目なら国に反旗を翻す覚悟で事実を公表すると。そんな条件は到底受け入れられない。

「そうですか。もうどうしようもありませんね。自分らは亡命者になって他国に渡ります」

「そんな脅迫は受け入れられないぞ!」

使者たちはあまりの態度の豹変に驚くしかなかった。

「そもそも貴様らの実家のことはどうするつもりだ。歴史ある一族の責任は」

「先祖の偉業を自分達に再現しろなど最初から破綻してたんですよ。もう言えることはそれだけです」

亡命するなら冒険者ギルドが手を貸してくれる算段をすでに立てていると伝えられる。不味いぞ、これは本気なのだと。

これだけの人間が亡命してしまっては今後の計画に差し支えてしまう。『冒険者ほど名誉と栄光と富に溢れた商売はない』声高に宣伝しているからだ。彼らの家族はそれを信じて送り出したのにその子らが何もできず無駄死にか亡命では計画を白紙撤回しなくてはならなくなってしまう。

お国を挙げての計画なのでこのような躓きは許されない。

自分らは情報操作し事実の隠蔽に手を付けざるをえなかったが冒険者ギルドがそれを見逃すはずがなかった。奴らがいない間にツテを使い黒翼騎士団の面々を外国へと亡命させてしまう。

え?彼らが生活を再出発用の資金はどこから出した、ってことね。それらこれらはピュアブリングが全部用意してくれた。上手くやりくりすれば生活は何とかなる程度だが資金が枯渇している彼らには天の救いであった。

突然行方不明になった黒翼騎士団の連中がどこに行ったか聞き出そうと奴らは必死になるが冒険者ギルドは知らぬ存ぜぬ、で押し通す。

奴らにとっては前任者が生き残っていては都合が悪いのかそれらは『無かった』ことにされて新たに『赤護騎士団』と呼び名を変えて後から送り込まれてくる。当然ながら同類だった。血筋は良いがそれだけ、前より若干経験値は多そうだが本当にそれだけ。世に蔓延るモンスターの脅威を知らぬ愚か者の集団が増えただけだった。

誰も彼もが甘く毒のある夢に酔わされていた。一部真実を知った者らがいる、それらが国を非難しだしたのだ。ちょっとセシル君らに同意を得てから噂を流すため情報屋に金を掴ませ商人らを通じて品物の売買と同時に情報を流す。

この程度だけでも効果が明確なのはセシル君ら仲間の実家のおかげであろう。ま、彼らにも複雑な部分があった。

『現実の冒険者の苦労を知らない者は皆等しく裁きを受けろ。そうじゃなきゃ死んだ仲間に顔向けできない』

やはりまだ死んだ同胞たちのことを忘れてなかった。黒翼騎士団の面々が過去の自分らと同じであることに悲しみ僕に手助けを望んだ。彼らのために生き残る手段を教え最後亡命という手段まで算段を立てたのだ。

「ごめんね。全員助けたかっただろうけど」

「もういいんです。ここまでしてくれて本当に感謝してます」

驕り高ぶった連中などに手を伸ばす必要はない。必要な命を必要な時に助ける。ただそれだけ。

その後仲間らから増々畏敬の念が強まった、なぜだ、僕は普通のはずなのに。そんなに崇めても何も出ないよ。

その後送り込まれてきた連中は黒翼騎士団を『臆病者の集団』『国の恥さらし』『敵前の弱者』などと蔑む声で溢れた。

「あいつら。密かに殺していいって言って。お願いだから」「害獣が増殖しましたわね。撃ち殺してよろしいかしら」

「我が術なら証拠も残さずに消せますぞ」「もういい加減地獄に落ちやがれです」

「主よ、悪逆を成すものに天罰をお与え下さい」「いやぁー、クズだけを殺せるお薬ってないのかなー」

「上の連中、早く処刑台に上れ…」

「君たちのご不満、ごもっともなんだけど。冒険者ギルドの規定だから」

『あのクズどものせいで自分らの仕事が困難になるんですよ。それを放置する気ですか。迅速に追い出しましょう』

「反論は出来ないけどこれも時代が進んでいる現象の一つでそれが波になってるんだよ。それも長く大きい」

「奴らはその波に乗ろうとしてるわけか」

「大波というやつですね。乗れるかどうかわかりませんけど」

「時代の流れの中で大小の波は必ず発生する運命ですからな」

「あれなんですね。波に乗れば正義の時間ってやつですよね」

「どうやって波に乗るつもりなのでしょうか」

「あれだ。早い者勝ちってやつね。その割にえらくボロボロの船だけど」

「あれでは沈没間違いなし、でしょうに」

とにかく、出来るだけ早く船に船員を載せて長く大きい波に乗せてしまい行けるところまで行ってもらおうという算段なのだろう。その先には楽園が待っている、はずだ。そのような予測は立てて当然なのだが彼らのボロ船でまともに航海できるはずもない。

新大陸を目指して船印のない海を行かされるようなものだろう。もうそれは利益回収のビッグチャンスなのだ。これまで家族に費やした金をここで一気に回収、上手くいけば大儲け、楽で簡単な商売だ。それで地獄に送り込まれる連中はどれだけ増え続けるのか。

『で、我々は距離を置いて静観するわけですな。その後奴らの後始末でがっぽり貢献度を荒稼ぎするわけですな。そういう算段が立てられているのならこちらにも好都合です。さっさと邪魔者を黙らせたいです』

「そういうこと。紅光玉級まで上がるには普通季節がいくつも過ぎるほど依頼をこなさないとならないからね」

獲得した報酬金額、その地でどれだけ平和にしたかの貢献度、個人の人格調査、等々。評価基準はいっぱいあるけど依頼を受けなきゃどうしようもない。達成しないと貯まらない貢献度。送り込まれてくる連中が馬鹿で大勢なほどその後始末が面倒になってくるのは間違いない。

その迅速な処理を受け持てるのは信用実績ある熟練者以外お呼びでないわけだ。そこで僕らの出番が来ることになる。上手くいけば雪が降り始める前に上がることも見込んでいる。

「クズでもこういうのならありがたいよね」「クズはやはり前に出てもらい使い潰すに限りますわ」

「察するに我が同胞はクズではないという事ですな」「こっちも同族が混じってないようなのでクズはありがたいです」

「クズという発言は嫌いですが世に役立つのなら」「クズに同情はいらないよねー。にひひっ。末路は笑い話にはなる」

「先んじてクズが戦力を減らしておくべきでしょう」

皆全員が「クズは先んじて死んでくれ。最低限身代わりとして」口々に言う。もう皆そのように染まってしまった。なーんか不穏な空気を感じるね。さすがに背後から攻撃とかしないで欲しい。
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