勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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新たな力が加わるがトラブルも舞い込む

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セシルをクラスチェンジさせた僕は早速依頼を受ける。依頼内容はオークの拠点の殲滅だ。

先んじて装備を製作して装備を揃えておく。剣槍斧弓などマルチに装備可能なため応用範囲も広く光魔術や回復の奇跡、武器の属性付与、特殊剣技なども行使できる。

今回はセシルの腕試し的な部分が強いので控えめに援護する仲間達だが。

「すこい、なんてすごいんだ!クラスチェンジでこれほど自分自身が変わるなんて」

戦場はセシルの一人舞台だった。

彼は次々と敵を倒していく。まるで一人だけ桁が違うかのように大暴れ、仲間の出番もそこそこに依頼を達成してしまう。

「感触はどうだった」

「素晴らしいとしか言いようがありませんよ。これで、弱虫だった自分に嘆く夢を忘れられそうです」

クラスチェンジ前から仲間達の実力に羨望を抱いていたから自分が変われたことが嬉しいのだろう。依頼達成報告をするため冒険者ギルドの建物まで向かうと何やら集団が受付に並んでいた。

「だから!なぜ俺たちが灰色級なんだよ。どう考えてもおかしいだろ。国じゃ鳴らしてたんだぞ」

「もうしわけありませんがそれが規則なので」

「なんでいきなりこんなに規則が変わってしまったんだよ!」

「それについては様々な不正行為が発覚しましたので」

「俺たちもその対象だと言いたいのか!」

「そういうことになったならそういう事なのでしょう」

「ふざけるな!」

どうも受付の前で騒いでいるようだ僕らは隣のカウンターに向かう。

「おい、おまえら。そっちは討伐依頼が対象の受付だぞ」

「子供は大人しく母親に甘えてな。ぎゃはは」

「そうそう、身の丈に合わない依頼受けると怖い目に会うぞ」

こちらをあざ笑うような言葉に仲間達が反応するが無視するに限る。依頼の達成報告を行う。

「お疲れさまでした。報酬をどうぞ」

「はい」

「!?」

重く大きい革袋にギッチリユクール通貨を詰めたものがいくつか出されると奴らの顔色が豹変した。それを仲間らに背負わせて帰ろうとするが彼らが立ちはだかる。

「おい、若いの。何でそんな大金を受け取れるんだ?」

「依頼を達成したからですよ」

「そいつはおかしい、お前ら若造じゃ精々そこらの雑魚狩りがお似合いじゃないのか」

「相手の外見だけしか見えないと大やけどしますよ」

「お前らにその金は分不相応だ。俺たちに寄越しな」

この手合いに下手に出る必要はないな。

「バーゼル、セシル、彼らに身の程を教えてあげて」

『はっ』

「ちっ、てっめぇ、俺らをな」

バーゼルは彼らを軽々と持ち上げ投げ飛ばす。セシルも体の急所をしたたかに打ち込んで寝転ばせる。

「ふん、いかにも軽い」「まったくです」

「なあっ!」

相手の頭目らしき男が驚いた。僕は冒険者プレートを見せつけるように取り出す。

『蒼光玉級、だと。そんな馬鹿な』

精々同じぐらいだと思っていたのだろうがあまりの違いに驚愕していた。

「で、どうしますか」

「クッ、一旦引くぞ」

『……』

勝ち目がないことを悟り仲間を叩き起こしてゾロゾロと外に出ていく。

「奴らは何なの」

「自分達のことを『黒翼騎士団』とか呼んでいました、多分どこかで結成されたんでしょうね。一応代表者はそれなりですが下はあの様子です。半分は破落戸に近いですね」

まーたどこかのお国とやらが結成させたそうだ。どこでかき集めてきたのかは知らないがそれなりの規模らしい。前の連中よりもタチが悪そうだった。このような連中とは今後接点など持つべきではないだろう。

翌日、冒険者ギルドの建物に行くといきなり別室に行かされる。そこでしばらく待たされると二人の男性が入ってきた。身なりは明らかに高貴だな。貴族様だろうか。

「初めまして。『黒翼騎士団』の団長だ。で、こちらが特使様だ」

団長と名乗る男性と特使と名乗る男性、どういうことだ?接点がまるで見えない。何か文句を言いにでも来たのだろうか。

「先日のことは、その、すまなかった!許してほしい」

相手がいきなり謝ってきた。

「ああ、あの実力差も分からない連中のことですね」

「格上の相手に喧嘩を売るだけではなく不当に報酬を横取りしようとしたとか。まことに申し訳ない限りだ」

「こちらも注意し規律を守らせようとしているが実家に甘え切った連中ばかりで困ってるのだよ」

今の時点では真面目な方向をしているようだ。少なくとも今、は。僕はとってはどうでもいいが。

「管理しきれない人数、押し付けられて大変みたいですね」

「そうなんだ。真面目な団員もいるが多数が自分勝手な振る舞いが許されると誤解している。こちらも頭が痛いのだよ。で、案の定昨日の騒ぎだ。ちゃんと説明しておかないと簡単に梯子を外されてしまうからね」

周囲からの厳しい視線も無視して横暴に振舞うさまはどこでも同じという事か。

「それでしたら間引いたらどうでしょうか」

「キツい言葉だね。それをやれるのならどんなに楽なことか。中身が悪いがあれでもそれなりの家の出でな。うかつな処分が出来ないのだよ」

「部下の責任は主の責任です。無意味に問題を背負わされ続けるよりかはマシだと思いますよ」

「耳が痛いがその通りだな。正直に言えば真面目な連中以外全員追い出したいところだが、そういうことなのでね」

「お国の命令ですか」

「そうそれなんだ。上が命じたから仕方なくだね。いきなり管理する側にされてしまったんだよ。そんな経験などないにもかかわらず。どうも上は急いで子供らに拍付けをしておかないとマズいと思ったんだ」

「冒険者ギルドの規則、大幅に変わりましたからね」

「そうだ。奴らはちょっと前まではある程度上の等級から始めることに高をくくっていたのだが突然灰色級から出発しなければならない状況に混乱した。実家はあれやこれや手を回したがそれが変えられないと分かるとさっさとやることをやれと言って追い出したんだ」

多分冒険者プレートの中身を弄る予定だったが僕の力で不可能になったため自力でどうにかせざるを得ない事態に進んでしまったからだろう。実家の方も我儘ばかり言う子供らに困っていたようだ。ま、それが世界の真実なのだが今それを言っても何にもならないだろう。

「他人は他人、自分は自分、なのですよこの世界は。他人の存在を都合よく自分に重ねるなという事です」

「そうだな。他人の都合の良い部分を自分らに都合よく使うなという方向に世界は舵を切っている。現状を受け入れられず対応できなければ誰であろうとも淘汰されてしまう。それほどモンスターの脅威はすさまじいものだ」

この人はちゃんと現実を受け入れているようだ。だからこそ馬鹿な連中のせいで問題がやってくる今の立場が嫌なのだろう。

「そちらの言い分は分かりました。だからこそ言います」

むやみやたらに自分らにちょっかいをかけてくるなと。今この場所で最優秀である自分らの受ける依頼は過酷であり戦いは熾烈を極める、それを横取りなどしたら自ら死にに行くようなものだと。灰色級ならそれらしく地道に依頼をこなす方を選べ。それじゃ不満か?じゃ無残に死ぬ方がいいか、それも仲間ごと。

そう警告しておく。

「銀の精鋭、そう名乗る連中のせいで余計な手間がかかることになりました。同じことは二度とごめんです」

「その話はもう聞いている。指揮官の馬鹿なプライドとエゴで大勢死んだそうだね。同じことにならないよう厳しくするつもりだよ」

これでお話はおしまいか。そう思ったが次は特使様が相手のようだ。

「こうして会うのは初めてだね。ああ、私の名前など覚えておく必要はないよ。ただ特使と呼んでもらえれば結構だ」

「特使様ほどのお方が僕に会いに来ていただくとは光栄です」

どこかで接点がありましたか?

「君自身には自覚がないだろうが提供してもらった品物で私の命が助けられた。その後距離を置いて注目していたが何分立場が立場だからね。迂闊に会うと互いに面倒なことになる」

なので君たちの目の届かない場所から情報収集をしていたことを明かされる。直接会いに来たという事はお眼鏡に叶い必要な条件を満たしたと見ていいだろう。

「早速本題に入ろうか。世界中で混沌の勢力が増していることはもう明白だ。なので、有望で真面目な冒険者は一人でも多く欲しい」

「僕たちは国に所属する気はありませんよ」

「ああ、それはもちろんだ。しかしながら先達として教えを請いたい」

「黒翼騎士団とやらに頼めばよろしいじゃありませんか」

「あれに生き残る目があるとは思えない。君が制定した制度を使おうとも、だ。どこかで悲惨な運命に会うだろうね。果たしてそれで心を入れ替えてくれるかどうか」

僕の考案した制度まで知っているようでまぁそれは別問題だ。

「あんな奴らのためにとれる時間はありませんし金を出せばつけあがるだけです。泥臭い仕事でも真面目にこなすことをお勧めします」

「当面はそれを目標にしている。大鼠や大虫すら倒せないで無駄に装備や物資を失う連中などさっさといなくなって欲しいからね」

でしたら、何で直接会いに来たのですか。

「いまだにダンジョンの通行許可が止められている状況についてだ」

確かにダンジョンは稼ぎ場だが難易度上昇で迂闊に手出しができない状況にある。それの調査を遠からず行う予定を明かしてくれる。

それを僕らにやってもらいたいそうだ。

「今現在僕らが出番の依頼がまだまだあります。あとは冒険者ギルトがどう折り合いをつけるかどうかだけですが」

「そうだな。まだそちらの脅威に対応するのが先だろう。だが、覚えておいて欲しい」

君たちのことを見ている存在がいること。良くも悪くも、だ。

「それについては承知しておりますよ」

「君らが我が国にいればどれほど助かるのかを本気で考えているよ。さて、こちら言うべき話は終わった」

このことは口外しないように。向こうにも立場があるのでそういう事になるだろう。

団長殿と特使殿は部屋から出ていく

あんな人たちからも注目されているとは思ってもみなかったことに少しだけ驚いた。
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