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第2陣 銀の精鋭 でも 3
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ようやく銀の精鋭とやらの馬鹿げた行為がおしまいになる……はずだった。奴らはいまだに悪い夢を見ているのか第2陣の後続の派遣を決定したと冒険者ギルドから教えられたのだ。
もう2回も続けて失敗してるんだから懲りたでしょ、などという弱音は見せられないらしい。各国が似たようなことを行っているのである。それに遅れまいとしてるのだろう。ビッグウェーブなのだから乗るしかない、だけどもその波に乗れるだけの実力があるのか?
この辺りはさすが国という統治組織であるため数だけなら有り余ってはいた。それを労働力にまわせばいいものを、その中身が貴族の子供達では農夫とか商人とかになるのは嫌なのだそうだ。
冒険者となり一発逆転人生を手に入れ一生優雅に過ごす。ばーか、そんな夢がホイホイ叶えられるのなら世界はここまで乱れてない。ある意味では混沌は恩人でもあるのだ。無駄な命の搾取という立派なお仕事があるから。
だが2回連続で失敗しているので監督役からの忠告で全員灰色級からスタートさせろと、注文が入る。
『はぁ?なんで最底辺から始めなきゃならないんだ。俺らの実家や先祖を知らないのか』
当然大反発が起こった。この程度は想定内である、もうすでに失敗続きなため後がない国だしこれまで冒険者ギルドや教会に多大な迷惑を与えたことへの詫びという形でその措置が取られた。これで全員が同じスタートラインに立つことになる。
もうこの時点で中身はお察しの通りだがこれで挫折してくれた方が人生を長く楽しめるよ。僕も畑を気楽に耕す人生が欲しいな。
そうして第2陣の後発組が到着することになる。
『チッ、なんで俺たちがこんな辺境に来なきゃならないんだ。金も付き添いも女も無しだなんて』
冒険者ギルドの建物に来た彼らは最初から苛立っていた。何もかも最低限しか与えられない暮らしが続くためだ。今まで胡坐をかいていた連中からすれば好き勝手に使えた特権を全て取り上げられたのだから当然の問題だ。それを二度と使えないとあればそんな風にしてしまった連中が憎いはずだ。
だけども、これは母国の国王からの指示であることもまた忘れてはならない問題だ。こいつらが問題を起こしたら実家は取り潰しにされる。そうなれば家族や一族が路頭に迷う。世の中人を騙す方が楽で簡単で儲かるからだ。こいつらはそれすら知らない。自分らに媚びへつらう人間しか相手にしてこなかった。
で、彼らの指導役となったのは僕がレクチャーした面々である。全員黒曜石級まで行った実力があるから適役と判断されたのだ。
「はぁ?俺らより等級が一つしか違わないのに何で命令されなくちゃならないんだよ」
「そうだよ。自分らはすぐさま大物狩りをしてドカーンと上に行きたいんだよ」
「武勲詩ではすぐさまオーガとかトロールとか倒してんだぜ。それと同じがいい」
各々自分の妄想を大声で叫ぶが。
「この馬鹿者共が!」
そいつらに全部拳骨を食らわす元気な高齢の人物。彼が監督役らしい。
「いてえっ。な、なんだよ。別に普通のことを言っただけじゃないか」
「お前らはそんなんだから劣等生なんじゃよ。この世界では生き延びる知恵と経験こそが命綱。先達にいつでも学べるとは限らん。ゴブリンですらまともに相手に出来ぬ貴様らには到底生き延びる目はないぞ。そのような夢など未来永劫見るなと教えておるだろうが」
「で、でも。それぐらいなら」
「これだから馬鹿は困る。ゴブリンの巣穴に入り松明の明かりの影から奇襲されたらどうする?あるいは気づかぬ横穴から背後に回り込まれてしまうかもしれぬ。上位個体がいれば戦闘は熾烈を極める。なにより人質がおったら助けねばならん。お前らの浅知恵では簡単に出し抜かれるぞ」
何よりも数という強さの恐怖を延々と教え込む。これなら大丈夫そうかな。
「お前らより先に来ていた連中の末路は聞いておろうが。それと同じ目に会いたいのか?だったらわしは何も言わんわ。好きに戦い無残に死ね」
「この、あんただって赤彩石級だろうが。俺らだって最初からそれを与えられるはずだったんだぞ」
それなのに、もう今後二度とコネや縁故採用の特権を行使するな、って。当主らから突然言われて。
「本来であればそれが常識よ。今までのほうが間違っておったのだ。まったく、害悪連中がのさばるから真面目な冒険者まで軽んじられる羽目になるんじゃ」
「今回の人選はまともそうなので助かりました」
僕は一息つく。
「指導役の皆様には先に伝えておく。こいつらのせいで足を引っ張られたら容赦なく見捨ててかまいませんぞ。優秀な芽は出来る限り生き延びる必要がありますからな」
『そ、そんなぁ』
あまりにも残酷な仕打ち。そうしなければ生き延びれなかったのだろう。
「俺たちの実家が怖くないのか!」
一人が声高に叫ぶが。
「いまだに現実が分からんか。お前らの等級は灰色級、つまり一番下じゃ。替えなど後からどんどん補充可能なのだ。たった1つ上とはいえ黒曜石級まで自力で上がれる者らとは命の重さが違う。つまり、お前らの命は総じて軽い。天秤が釣り合わんわ。それを血筋がどうとか言ってる馬鹿は即座に死んでかまわんという事だ」
国王とその子の命が同じなわけではない、子が国王にならなければ命が釣り合うはずがない。そして、その予備など他に候補者は存在している。
血筋云々は歴史の証明だがその価値を高められない子はいなくなっても問題はないという事だ。
「え……自分達って、そんなに、存在する意味がないの?」
一人の少年の顔が青ざめる。自分達の命の軽さが薄々分かってきたのだろう
「そうよ。これまでは自由奔放が許されたがここからは本物の現実じゃ。必死にならねば瞬きする間に心臓に矢が突き刺さるかもしれぬぞ。それともモンスターの虜囚となり食われるか孕み腹にされるか。それを避けたければ必死になって生き残ることじゃ」
もう自分達を助けてくれる存在がいないことに恐怖する全員。血の気が引く。
「事前に念押ししておくが彼らが上でこちらが下じゃ。間違っても欲情を抱くなよ。その時は容赦なく殺されるか見殺しにされても文句は言えんからな。パーティの秩序を乱す輩は仲間ではなく不穏分子なのだからな」
「……」
同じパーティにいるんだからそれぐらいは……許されるはずがないことを先んじて教えておく元気な高齢の男性。かなりまともに冒険者を経験してきたようだ。
その後も冒険者ギルドの受付方など色々とレクチャーしてくれる。彼がいれば問題はないだろう。
「これでは駄目です。採集し直してきなさい」
「なんで!」
「これはそこらにある雑草ですよ。薬草とは違います」
「い、いや、似てるから」
「お前らが不良品を渡すというならば巡り巡って自分が助からなくなりますよ」
基本的な採集ですら本気で苦戦していた。最低限の勉強はしているはずなのに効果のない類似品ばかりを持ってくるしその処理も悪い。
「こうげーーごふっ」
「この程度でなにまともに食らってるんですか」
「そ、そんなのは、おしえられてねぇ」
「お前らは相手が行う行動を全て教えてもらえるとでも思ってるんですか」
模擬訓練でさえも彼らはことごとく叩きのめされる。あまりにも貧弱すぎて手に負えない。僕がレクチャーした子達もあまりの残念さに言葉が出てこない。
「監督役殿、これではどうしようもありません。私達だって生活のために依頼をこなす時間が必要なのですから」
「この獄潰し共が…」
自分の見えない所でサボり、しかもそれが常識になってしまうほど努力しない体質になっているためとても面倒を見てられないと明言する。
「冒険者など諦めて農夫にとかするべきかと。平和に生きられる道は他にもありますから」
「最後の見込みだけでも、そう考えていたこちらの方が愚かだな。よし、そうすることにしようか」
『ま、待ってください』
もう結論が出てしまっているにも関わらず足掻く連中。こうなる前に十分時間はあったはずなのにそれを無駄にしたツケをここで支払うことになった。
『じ、慈悲を、ください』
ごく少数は本気で縋り付いた。だが、残りの大半は違った。
『お前らなんていなくてもなぁゴブリンぐらい簡単に倒せるんだ。こんな馬鹿馬鹿しい訓練なんてやってられるか。こっちからお断りだ』
奴ら全員逆切れしてしまう。
ほとんど出て行ってしまった。残った連中はまだいいがあの中身じゃ長生き出来ないだろう。レクチャー組が僕に縋り付くような視線を集める。
はぁーっ、仕方がないか。
僕は彼らにゴブリン討伐の依頼を紹介することにした。
「へっへっへ。これで奴らの鼻をあかせるぜ」「そうそう、これが常識なんだよ」「うざってぇ訓練とかやってられるか」「ああ、帯同してる監督役殿はもう年だしな」「……」
この依頼の本当の意味を知っているのか監督役殿だけだ。彼らのお望み通りゴブリンと戦ってもらうことにする。いざという時は僕の仲間らが待機させているので何の問題もない、はずだ。不慮の事故は避けられないことは先に了承させている。
もう監督役殿もつける薬が見当たらないことを悟り協力してくれる手筈だ。
「おっ、これってゴブリンの足跡だろ」
「これを追っていけばいいんだな」
「楽勝じゃねーか」
40人前後のパーティならば灰色級でも結構な戦力と言えるだろう。通常であれば、だ。彼らはその足跡をたどり先にどんどん進んでいく。しばらく経つとなぜか徐々に岩や木などが景色に混ざり始める。それでもなお足跡を追い続ける連中。そして、彼らは罠にかかった。
『ぎゃあああぁあぁぁああ』
四方八方から甲高い声が聞こえてくる。ゴブリンどもだ。それも四方八方から。ここで自分達が誘い出されたことに気づくがもう手遅れだ。
事前に僕が特殊なお香を使い意図的にゴブリンどもを誘い出しておりほぼ逃げ場のない状態で止めていた。それを開放したのだ。さぁ、存分に殺し合いをしてね。助け合わないと皆死ぬぞ。
「お、落ち着け。まだ敵は見えない。隊列を、組んで」
密集陣形を取ろうとするが所々から粗末な作りの矢が飛んでくる。下手に集まれば弓矢の的だ。ある程度のグループを形成するが敵の数が分からないこともあり恐怖は否応なく高まる。
そして、ついに接敵する。
「ぎゃああああ」
「あ、あ、あ」
女が震えている。ゴブリンにとっては凌辱の対象だ。持っている武器が何とも頼りない。抵抗しようとするが体が動かない。その粗悪な武器が体に刺さろうとする寸前。
「この馬鹿者が!お前らは案山子か。我らは敵に包囲された。各自グループごとに役割を分担し敵を倒せ!倒さねば死ぬと心得よ。絶対に生き延びるぞ」
ここで監督役殿が経験を活かしバラバラだった連中を纏め上げる。その言葉でもう自分らが助かるには敵を倒すしかないことを再確認する
グループと各自の装備を確認し互いを支えながら確実に倒していく。全員が必死の形相で武器を振い返り血で汚れるのを厭わない姿勢で敵を倒す。
一応ギリギリ対処可能な人数に留めているがそれでも万全ではない。彼らはここで実戦の恐ろしさを骨の髄まで味わうことになる。
死傷者こそ出なかったが負傷者多数で回復の水薬などもほとんど持ってきてない。傷を負えば助からない恐怖。数時間かけてようやくゴブリンどもを追い払うことに成功した。
もう2回も続けて失敗してるんだから懲りたでしょ、などという弱音は見せられないらしい。各国が似たようなことを行っているのである。それに遅れまいとしてるのだろう。ビッグウェーブなのだから乗るしかない、だけどもその波に乗れるだけの実力があるのか?
この辺りはさすが国という統治組織であるため数だけなら有り余ってはいた。それを労働力にまわせばいいものを、その中身が貴族の子供達では農夫とか商人とかになるのは嫌なのだそうだ。
冒険者となり一発逆転人生を手に入れ一生優雅に過ごす。ばーか、そんな夢がホイホイ叶えられるのなら世界はここまで乱れてない。ある意味では混沌は恩人でもあるのだ。無駄な命の搾取という立派なお仕事があるから。
だが2回連続で失敗しているので監督役からの忠告で全員灰色級からスタートさせろと、注文が入る。
『はぁ?なんで最底辺から始めなきゃならないんだ。俺らの実家や先祖を知らないのか』
当然大反発が起こった。この程度は想定内である、もうすでに失敗続きなため後がない国だしこれまで冒険者ギルドや教会に多大な迷惑を与えたことへの詫びという形でその措置が取られた。これで全員が同じスタートラインに立つことになる。
もうこの時点で中身はお察しの通りだがこれで挫折してくれた方が人生を長く楽しめるよ。僕も畑を気楽に耕す人生が欲しいな。
そうして第2陣の後発組が到着することになる。
『チッ、なんで俺たちがこんな辺境に来なきゃならないんだ。金も付き添いも女も無しだなんて』
冒険者ギルドの建物に来た彼らは最初から苛立っていた。何もかも最低限しか与えられない暮らしが続くためだ。今まで胡坐をかいていた連中からすれば好き勝手に使えた特権を全て取り上げられたのだから当然の問題だ。それを二度と使えないとあればそんな風にしてしまった連中が憎いはずだ。
だけども、これは母国の国王からの指示であることもまた忘れてはならない問題だ。こいつらが問題を起こしたら実家は取り潰しにされる。そうなれば家族や一族が路頭に迷う。世の中人を騙す方が楽で簡単で儲かるからだ。こいつらはそれすら知らない。自分らに媚びへつらう人間しか相手にしてこなかった。
で、彼らの指導役となったのは僕がレクチャーした面々である。全員黒曜石級まで行った実力があるから適役と判断されたのだ。
「はぁ?俺らより等級が一つしか違わないのに何で命令されなくちゃならないんだよ」
「そうだよ。自分らはすぐさま大物狩りをしてドカーンと上に行きたいんだよ」
「武勲詩ではすぐさまオーガとかトロールとか倒してんだぜ。それと同じがいい」
各々自分の妄想を大声で叫ぶが。
「この馬鹿者共が!」
そいつらに全部拳骨を食らわす元気な高齢の人物。彼が監督役らしい。
「いてえっ。な、なんだよ。別に普通のことを言っただけじゃないか」
「お前らはそんなんだから劣等生なんじゃよ。この世界では生き延びる知恵と経験こそが命綱。先達にいつでも学べるとは限らん。ゴブリンですらまともに相手に出来ぬ貴様らには到底生き延びる目はないぞ。そのような夢など未来永劫見るなと教えておるだろうが」
「で、でも。それぐらいなら」
「これだから馬鹿は困る。ゴブリンの巣穴に入り松明の明かりの影から奇襲されたらどうする?あるいは気づかぬ横穴から背後に回り込まれてしまうかもしれぬ。上位個体がいれば戦闘は熾烈を極める。なにより人質がおったら助けねばならん。お前らの浅知恵では簡単に出し抜かれるぞ」
何よりも数という強さの恐怖を延々と教え込む。これなら大丈夫そうかな。
「お前らより先に来ていた連中の末路は聞いておろうが。それと同じ目に会いたいのか?だったらわしは何も言わんわ。好きに戦い無残に死ね」
「この、あんただって赤彩石級だろうが。俺らだって最初からそれを与えられるはずだったんだぞ」
それなのに、もう今後二度とコネや縁故採用の特権を行使するな、って。当主らから突然言われて。
「本来であればそれが常識よ。今までのほうが間違っておったのだ。まったく、害悪連中がのさばるから真面目な冒険者まで軽んじられる羽目になるんじゃ」
「今回の人選はまともそうなので助かりました」
僕は一息つく。
「指導役の皆様には先に伝えておく。こいつらのせいで足を引っ張られたら容赦なく見捨ててかまいませんぞ。優秀な芽は出来る限り生き延びる必要がありますからな」
『そ、そんなぁ』
あまりにも残酷な仕打ち。そうしなければ生き延びれなかったのだろう。
「俺たちの実家が怖くないのか!」
一人が声高に叫ぶが。
「いまだに現実が分からんか。お前らの等級は灰色級、つまり一番下じゃ。替えなど後からどんどん補充可能なのだ。たった1つ上とはいえ黒曜石級まで自力で上がれる者らとは命の重さが違う。つまり、お前らの命は総じて軽い。天秤が釣り合わんわ。それを血筋がどうとか言ってる馬鹿は即座に死んでかまわんという事だ」
国王とその子の命が同じなわけではない、子が国王にならなければ命が釣り合うはずがない。そして、その予備など他に候補者は存在している。
血筋云々は歴史の証明だがその価値を高められない子はいなくなっても問題はないという事だ。
「え……自分達って、そんなに、存在する意味がないの?」
一人の少年の顔が青ざめる。自分達の命の軽さが薄々分かってきたのだろう
「そうよ。これまでは自由奔放が許されたがここからは本物の現実じゃ。必死にならねば瞬きする間に心臓に矢が突き刺さるかもしれぬぞ。それともモンスターの虜囚となり食われるか孕み腹にされるか。それを避けたければ必死になって生き残ることじゃ」
もう自分達を助けてくれる存在がいないことに恐怖する全員。血の気が引く。
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「……」
同じパーティにいるんだからそれぐらいは……許されるはずがないことを先んじて教えておく元気な高齢の男性。かなりまともに冒険者を経験してきたようだ。
その後も冒険者ギルドの受付方など色々とレクチャーしてくれる。彼がいれば問題はないだろう。
「これでは駄目です。採集し直してきなさい」
「なんで!」
「これはそこらにある雑草ですよ。薬草とは違います」
「い、いや、似てるから」
「お前らが不良品を渡すというならば巡り巡って自分が助からなくなりますよ」
基本的な採集ですら本気で苦戦していた。最低限の勉強はしているはずなのに効果のない類似品ばかりを持ってくるしその処理も悪い。
「こうげーーごふっ」
「この程度でなにまともに食らってるんですか」
「そ、そんなのは、おしえられてねぇ」
「お前らは相手が行う行動を全て教えてもらえるとでも思ってるんですか」
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「監督役殿、これではどうしようもありません。私達だって生活のために依頼をこなす時間が必要なのですから」
「この獄潰し共が…」
自分の見えない所でサボり、しかもそれが常識になってしまうほど努力しない体質になっているためとても面倒を見てられないと明言する。
「冒険者など諦めて農夫にとかするべきかと。平和に生きられる道は他にもありますから」
「最後の見込みだけでも、そう考えていたこちらの方が愚かだな。よし、そうすることにしようか」
『ま、待ってください』
もう結論が出てしまっているにも関わらず足掻く連中。こうなる前に十分時間はあったはずなのにそれを無駄にしたツケをここで支払うことになった。
『じ、慈悲を、ください』
ごく少数は本気で縋り付いた。だが、残りの大半は違った。
『お前らなんていなくてもなぁゴブリンぐらい簡単に倒せるんだ。こんな馬鹿馬鹿しい訓練なんてやってられるか。こっちからお断りだ』
奴ら全員逆切れしてしまう。
ほとんど出て行ってしまった。残った連中はまだいいがあの中身じゃ長生き出来ないだろう。レクチャー組が僕に縋り付くような視線を集める。
はぁーっ、仕方がないか。
僕は彼らにゴブリン討伐の依頼を紹介することにした。
「へっへっへ。これで奴らの鼻をあかせるぜ」「そうそう、これが常識なんだよ」「うざってぇ訓練とかやってられるか」「ああ、帯同してる監督役殿はもう年だしな」「……」
この依頼の本当の意味を知っているのか監督役殿だけだ。彼らのお望み通りゴブリンと戦ってもらうことにする。いざという時は僕の仲間らが待機させているので何の問題もない、はずだ。不慮の事故は避けられないことは先に了承させている。
もう監督役殿もつける薬が見当たらないことを悟り協力してくれる手筈だ。
「おっ、これってゴブリンの足跡だろ」
「これを追っていけばいいんだな」
「楽勝じゃねーか」
40人前後のパーティならば灰色級でも結構な戦力と言えるだろう。通常であれば、だ。彼らはその足跡をたどり先にどんどん進んでいく。しばらく経つとなぜか徐々に岩や木などが景色に混ざり始める。それでもなお足跡を追い続ける連中。そして、彼らは罠にかかった。
『ぎゃあああぁあぁぁああ』
四方八方から甲高い声が聞こえてくる。ゴブリンどもだ。それも四方八方から。ここで自分達が誘い出されたことに気づくがもう手遅れだ。
事前に僕が特殊なお香を使い意図的にゴブリンどもを誘い出しておりほぼ逃げ場のない状態で止めていた。それを開放したのだ。さぁ、存分に殺し合いをしてね。助け合わないと皆死ぬぞ。
「お、落ち着け。まだ敵は見えない。隊列を、組んで」
密集陣形を取ろうとするが所々から粗末な作りの矢が飛んでくる。下手に集まれば弓矢の的だ。ある程度のグループを形成するが敵の数が分からないこともあり恐怖は否応なく高まる。
そして、ついに接敵する。
「ぎゃああああ」
「あ、あ、あ」
女が震えている。ゴブリンにとっては凌辱の対象だ。持っている武器が何とも頼りない。抵抗しようとするが体が動かない。その粗悪な武器が体に刺さろうとする寸前。
「この馬鹿者が!お前らは案山子か。我らは敵に包囲された。各自グループごとに役割を分担し敵を倒せ!倒さねば死ぬと心得よ。絶対に生き延びるぞ」
ここで監督役殿が経験を活かしバラバラだった連中を纏め上げる。その言葉でもう自分らが助かるには敵を倒すしかないことを再確認する
グループと各自の装備を確認し互いを支えながら確実に倒していく。全員が必死の形相で武器を振い返り血で汚れるのを厭わない姿勢で敵を倒す。
一応ギリギリ対処可能な人数に留めているがそれでも万全ではない。彼らはここで実戦の恐ろしさを骨の髄まで味わうことになる。
死傷者こそ出なかったが負傷者多数で回復の水薬などもほとんど持ってきてない。傷を負えば助からない恐怖。数時間かけてようやくゴブリンどもを追い払うことに成功した。
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