勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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短編 わたしというもう一人の僕

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「さぁ、がんぐちゃん。わたしとたのしくあそぼうね」

敵を玩具呼ばわりする僕。今までは決闘という体裁を取っていたが未だに誰からも試合を止めろとは宣言されてない。さすがに呼び方が変わったことに異常な様子を感じる敵だが。僕という呼称がわたしに変わったとたんにスイッチが切り替わる。

「ふ、ふざけっ」

「そのりょうてのぶきはこわいからどっかいって」

ピュン、わずかな金切り音と共に相手の武器ごと両手が空中を舞う。

「あへ?」

「《発火》」

両腕を切り飛ばしたことによる出血死を防ぐために炎魔術による止血を行う。相手はいまだに何も分からないままだ。

「がんぐにあしなんてひつようないよね。ちょっきんしちゃう」

ビュン、2度目の金切り音で両足が切断された。

「ぎゃぁあぁぁああああああ!?」

「《凍結》」

氷魔術で無理矢理出血を止める。

相手を空中に浮かべて体の中を弄り始めるわたし。

「えっとぉ、ここはこうなってぇ、これはこうでぇ」

「ーーー!ーーー!----!」

ふつうここまでされれば意識など保てるはずがない。だけどもわたしの魔術で意識を保ったまま生きている。

『わたしとはだれか』

僕であってわたしであるもう一人の自分。僕の足元の影にして創り出されたわたしという存在。いつからいたのかは不明だがそこにはもう一人の僕が存在していた。臆病で気弱で自信がない僕とは違い真逆の存在であるわたし。誰にも見えず常に僕としか話が出来ない存在。

あの地獄のような施設で僕は生き残り続けるには一人では不可能だった。だから願った、もう一人の自分を。それは叶えられわたしもまたa-235と呼ばれるようになる。

彼女は好奇心旺盛で行動力があり自信にあふれていた。僕では耐えられなかったことはわたしが担当してもらっていた。

彼女がいなければ僕は壊れていただろう。

「君は何で僕なの」「わたしは何でわたしなのかをきくの」

口調も性格も違う同一人物はどういう訳かフランクだった。

「僕をどうしたいの」「無意味な質問はやめなさい」

もしかしたら自分という存在を奪い去るかもしれないその存在はどういうわけか色々なことに答えてくれた。

「僕には分からないよ」「これから分かるようになるわ」

「ここは何」「ただ願望を作成しているだけよ」

「それはなぜ」「あなたがわたしであるように」

「他の子供たちは」「世界から消えただけよ」

「死んだってこと」「転生の輪に帰っただけ」

「勇者ってなんなの」「あなたとわたし」

僕は僕だ。でも、わたしをわたしという彼女は何なのだろうか。似て非なる自分?自身の願望の投影?ただの妄想意識の表れ?何も分からないことばかりだ。

「君は何を望むの」「あなたがあなたのままであることだけよ」

彼女にはいろいろと助けられた。都合の悪いことはわたしが担当してあげるから。そうして、時間だけが過ぎていく間に色々なことを知った。

「あなたはかならずここから生きて出られるわ」

「それはなぜ」

「世界がそれを望んでいるからよ」

「いつまでまてばいいの」

「それはわからないわ」

「仲間たちは次々いなくなる」

「それがかれらのうんめいなのよ」

「ぼくはちがうと」

「そうよ。わたしがいるからね」

そうして、二人で地獄を耐え抜き続けた。そして今現在進行中なのが敵と見なした相手の人体の中身の確認なのだ。

「し、勝者!ピュアブリングとする。一刻も早く負傷者の救出を」

審判の宣言で勝利が決まったようだ。さすがにこれ以上はもう残酷すぎると判断したようだ

(おつかれさま)

(ふんっ。あそびがいのないがんぐね。もっとましなのよこしなさい)

(なんか、体のいろんな中身が見えてるんだけど)

(このぐらいなら《最上位回復》ですぐになおせるわ。てもあしもからだももとどおりよ)

治療班が駆けつける前に体を全部直してしまうわたし。あいかわらずということか。

(ひさびさにハァハァできてちょっとはきがまぎれたわ)

(相変わらず君はこういうことが好きなんだね)

(それがわたしであるしょうこだからね)

そうして、誰にも聞かれない会話は終わった。
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