勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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おこぼれにありつこうとする連中 2

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巣穴のゴブリンどもを退治し終えた彼らに勝利した笑みはなかった。冒険者とは略奪と蹂躙と殺戮をモンスター相手にするだけの破落戸でしかない。国や冒険者ギルドからの保証も最低限でしかない。その気になれば犯罪者となっても不思議ではない。

あのゴブリンどもだけだったらまだ耐えられた、その後現れた子供のゴブリンを相手に心が痛む。

『自分らがもし同じ立場になったとして復讐しない方がおかしい。生き残りは学習し知恵を付けこちらに襲い掛かってくるだろう』

彼らには今日のことはかなり堪えただろうね。でも、遅かれ早かれこれは避けて通れない道だ、途中で仲間を失う不運だって当たり前にある。冒険者ギルドの建物で討伐報酬をもらい各自解散とした。

「おかえりなさーい」「その分だと上手くいったようですね」

「まぁ、ボチボチだね」

「んんっ。何か含みがありますなぁ。最後に何かと出会ったようですなぁ」

「ゴブリンの巣穴退治に出たと聞きましたからもしかすると」

モンスターとはいえゴブリンとはいえ幼い命を殺めるという現実を知ったことを話し出す。

「あー、それね。最初は私もきつかった」「子供は本来守られるべき存在のはずですがモンスターではちょっと」

「幼い命を殺めなければ平和が保てないとはなんとも不条理なことですなぁ」「こればっかりはこういう世界に生まれてしまったことですし」

「モンスターの全てが神々に従う善良とは限りませんから」「あー、もう。奴らとの戦いはいつになったら決着がつくんだろうね」

仲間らが全員思う。善良なモンスターなど存在しえない、相手にとってこちらは獲物なのだ。それをどう扱おうが勝手だろうと。

終わりなき戦いの果てに平和があるかもしれないが今の所その気配はない。種の存亡をかけての戦争は継続中だ。

それに参加している僕らの出番はまだまだ少ない。

「あの子達は本当に運が良かったよね」「捨てる神あれば拾う神在りですわ」

ミーアとエメリアがなぜか僕のことを称賛している。はて、どういうことなのだろうか。

「親からはぐれ途方に暮れている迷える子羊を牧草地まで導いたでしょう」「周りから見放されていた新人冒険者を見事に勝利に導きました。自覚無いんですねー」

バーゼルとシェリルもなんだか満足気である。

「天はあなたによる救済を心から喜んでおります」「いやねぇー。そこまでやっちゃったらもう敬わないわけにはいかないでしょ普通」

ラグリンネとエトナの目を見るととても輝いていた。僕にはよく分からないことだ。それが普通なんじゃないのか。

仲間からするとどうも普通ではないそうだ。そんなところまで導く理由などどこにも存在しないと。冒険者とはそういう仕事だ、生の栄光も死の絶望も自己責任、たとえ死んだとしても誰の記憶に残らないし気づけるはずもない。

そんな仕事だと。

「なんか迷惑かけてるの、僕?」

なぁーんか謝らなければいけない気分なったのでとりあえず謝ってしまう。

『貴方は貴方のままでいればいいんです。貴方が周りに合わせるのではなく周りが貴方に合わせるべきなんです』

仲間全員が悪意のない笑みを浮かべ声高に笑う。僕には何を言っているのかさっぱりだったがこれでいいんだろう。

さて、当面の目標の等級上げをしたいのだが予想外の出来事が起こった。

『先生!ご教授お願いします!』

「…ねぇ、彼らは…?」

「ああ、この前レクチャーしていた若い子たちが噂をばら撒きまして、その。ちょっとばかり時間を取っていただけないかと。上の方からも指示が来ておりまして」

若い男女種族もごちゃまぜの新人も新人の灰色級冒険者数十人が僕に頭を下げてくる。その大多数が日和見をしていたか媚びへつらっていた連中だ。彼らの主はどうしたのかというと。

『壊滅しました。洞窟で不運にもロックイーターと出くわしまして』

ロックイーター、かぁ。僕は経験があるが仲間らには経験がない。いずれは越えなければいけない壁だ。彼らの主たる連中がことごとくいなくなりもう自分達は誰からも守ってもらえないことを痛感した。あれだけ、あれだけ尽くしたのに最後はこれだ。

実家からの支援はもう完全に止まり貧困スレスレだしあの主たちの無責任さのせいで自分達は路頭に迷ってしまった。

周りからの視線が痛くてもう耐えられない。自力で生きていける手段を本気で探さなければならなくなった。奴らのように実家氏族部族の後押しに胡坐をかく主はもういらない。強く正しい冒険者に教えを請いたいと。

そこで僕がレクチャーした連中が出てくる。階層としては中の下ぐらいか下の上に入るか程度の存在が短期間でゴブリンの巣穴討伐を達成した。

彼らはその情報に必死にしがみつこうとしている。

「お願いします。どうか、どうか、その手を我らに」

「君達とは面識がないからよく分からないけどあれだけ僕を敵視していた連中の取り巻きだよ。いわば敵側から来ているんだ。昨日の今日で主を変えられるものなの」

「それについては私達のほうが馬鹿だったと、ひたすら謝るしかありませんが」

「実家にも帰れる場所がないんです。このままじゃ農奴に落ちるか路上生活です」

「あなたは初心者限定とはいえ誰も考え付くに至らなかった制度の発案者です。それを使わせてもらえませんか」

ギルドの受付嬢や職員に確認を取らせる。全員当然のごとく灰色級だった。

「まぁ、そういう『意味』の制度だし使う分には問題ない。けどね」

これはあくまで冒険者ギルドの初心者育成のための制度でありお前らの都合のいいだけの制度ではないことを念押ししておく。お前らの好き勝手に項目の追加削除など完全に禁止。それをやろうとしたら僕が容赦なく叩き潰しに来ると。

ヘッドハンターの複数討伐実績が誤魔化しの利かない本物である部分を強めに強調しておく。

「あくまでも制度の発案者でありそのための支援は惜しまないけど悪用するなら誰でも敵とみなすと?」

「敵とみなすね。国王だろうがその首を取るまで戦うし奴隷であろうとも救うべき人を救う」

別に僕自身にとってこんなことなど今は無駄だ。だけども、未来においては重要になる信用が欲しい。それが多くの人々に行き渡り誰かの助けになればそれでいい。僕はただ偶像としていればいいだけ、ただそれだけ。

あの施設で、あの地獄で、あの悪夢で、救われなかった命の救済をやるだけ。あそこにいたのは教える側も教わる側も鬼となってしまい人とは呼べなかった。それに比べたらこの程度なんて軽すぎて欠伸が出てしまう。

早速支援制度の手続きを取らせる。授業料や装備の支給品などは報酬から一定額引かれること、初心者を脱したと判断された場合はこの制度からは名前以外の項目は全部削除される。ようするに『形だけしか残らない』ことになる。ま、そういう事だから。冒険者プレートにもその手の情報項目は容易に引き出せないように対策済みである。

さて、コテージの中の訓練場をようやく使えるな。。出入り口に一時的に出入り可能として訓練場に案内する。

『すごい。こんなものがまだ地上世界に存在してるなんて』

こんなものはもう魔法の領域だろう。さて、まずは上下の関係をキッチリ教えておこうか。

「この中で武器の心得があるものは」

「はいっ。僕はちゃんと道場で基礎を学んできました」

「じゃ、そこにある練習用の武器を取って」

その子が選んだのはミドルサイズの剣と盾だった。オーソダックスなタイプだろう。

「そっちは好きにやっていいから」

かかってこいと。

仲間たちが見守る中で模擬戦が開始される。

「やぁっ」

道場に通っていたというだけあってそこそこは動ける、が。その先頭の場所は障害物のない場所だったのだろう。武器の振り方が狭い空間には適してない。さて、おおよそのことは分かったので授業を開始しようか。

ここで僕は初めて構えを取る。見るから上段から切り落としをする構えだ。相手はそれを対応が間に合うと判断し防御がおろそかになる。

僕は瞬時に敵の目前まで近づき剣を振りかぶった。

「えっ?」

突然目の前に現れ攻撃態勢の僕に対してできたことは盾で防御することだけだった。だが、その衝撃が凄まじすぎて押しつぶされる状態になる。間髪入れず横薙ぎを入れる。最初の攻撃に全身全霊を振り絞った彼にはもはやただひたすら装備で防ぐだけ。

遅く強く分かりやすい攻撃と早く弱く分かりにくい攻撃、僕はそれを繰り返す。

それだけだったら何とか耐えられるだろうが交互にそれを繰り出されては相手はたまったものではない。反撃なんてしようものなら即座に対応され明確なスキとなる。

彼はただひたすら耐えるしかなかった。

「はぁはぁ。こんな、こんな実力差、なんて」

未だに戦意を失わないのは結構だがその両手はもう使い物にならないだろう。疲労という魔物で溢れかえり武器なんて持ち上げられないだろうし。その彼に剣の切っ先を突き付ける。これで勝負はおしまいだ。

連れて生きた連中を振り返る。

「何をさっさとぼやぼやしている!訓練をもう開始されてるんだ。各自武器を持ち鍛錬を始めろ。不用意に大技を狙わず地道に相手を弱める戦法を最優先で覚えろ。武器がない?お前ら程度に鉄製の武器はもったいなさすぎる、こん棒で十分だ。手抜きを覚えたら即座に地獄見てもらうから」

『り、了解しましたぁ』

僕一人じゃ数多すぎて対処できないので仲間らと分担して訓練担当をさせる。

あのクソ主ども、奴らにとって取り巻きは子分でしかなく自分らの身を守るための盾としか認識してなかったことにイラ立つ。ひたすら媚びへつらう連中を見てさぞ特権階級に浸りきっていたのだろうがもう彼らはこの世界には存在しない。

そのせいで何もできないくせに周りが何とかしてくれるのだと完全に誤解していた。馬鹿馬鹿しくて救いがない。で、最後には馬鹿な行動のせいで死亡。後に残された者らには堪ったものじゃないだろう。

この問題をどうにかしないと部族氏族の生き残る芽は少なくなる一方だろうね。
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