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おこぼれにありつこうとする連中
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ミーアエメリアバーゼルシェリルラグリンネエトナ、彼ら彼女ら全員が頭を痛めている問題がある。
『パーティの増員について』
先んじて今現在増やす予定がないことをピュアブリング本人から聞いている。少しづつであるが個々の特徴や性格も徐々に理解しつつありどのように連携を取り合いサポートすればよいのか、まだ試行錯誤中だが今の所上手くいっていた。
下手に増員してもそいつが何をしでかすのか分からないのならば今現在の状態で出来ることを増やしていく方が建設的だろう。それに付いては何の依存もない。
だが、周りからすれば「どうして自分らを入れてくれないんだ」不満の声になる。
大体のパーティが6人で構成されているのはそれがリーダーが受け持てる範囲の上限に近いからだ。それ以上に人数でも別に問題はないがその分だけ仲間らに色々なものを分配しなくてはならない。
金、食い物、装備、その他諸々。成功した冒険者は凡人とは比較にならないほどに稼ぐが失敗した冒険者は文字通り最底辺の生活に甘んじるしかない。その日の食事にさえ困窮することも珍しくはない。ダンジョンとか大物狩りを目指す連中が後を絶たないのはそういう事だ。一発逆転。そんな馬鹿な夢を見てしまう。
採集や納品依頼のほうが実は要領よく立ち回れば実入りがいいのだがモンスターを討伐する武勲詩英雄譚に憧れて冒険者を目指すのが圧倒的に多いためそうした依頼はどうも嫌煙されてしまうがピュアブリングそうした依頼を出来るだけ早く引き受けている。
「誰かを助けるってこういう事でしょ」
困っている人は大勢いてそれに優先順位を付けざるを得ない、冒険者がいる限りそれらの供給が優先されるのだ。住民からすれば今すぐにでも解決してほしいのは同じ。たとえそれが邪神討伐だろうが茸採集だろうが。
で、翠光玉級に上がった仲間らだが困った事態に直面していた。
『俺ら私らをパーティに加えてくれ』
ピュアブリングと別行動をしていた私たち全員の前にそんな連中が現れた。
「なんなのよあんたら」
ミーアが威嚇的行動を示す。
「今ここで優秀なんだろあんたら。な、頼むよ。役に立つからさ」
「役に立つとはどういう形で示せるのか理解してるのですか」
「そ、そりゃあ、その、あれだよ」
奴らはしどろもどろになる。雑用とか荷物持ちとかそんなのだろう。しかしながらピュアブリングが一人いれば大半のことが問題ではなくなるため増員の必要性がないのだ。
「はてさて、肉壁にもならぬ連中を仲間とみなすのはいかがなものでしょうか」
バーゼルは容赦なく断言する。
「あなた方の冒険者プレート見せてください」
全員灰色級、良くて黒曜石級が数人。これじゃただの足手まといでしかない。馬鹿な連中に抱き着かれて一緒におぼれ死ぬ気は仲間全員一切ない。
「基本から覚え直してきて」「そうですわね。地道に依頼をこなす方が長生き出来ますわよ」
ミーアとエメリアが経験が足りないぞ、と。最も重要なことをちゃんと言った。
「いや、でも、大鼠とか大虫退治とかじゃただの掃除役じゃないか。せめてゴブリンぐらいなら」
「パーティを組んでちゃんとそれが達成できるのなら普通でしょうな。それも出来ないならまだ下積みが必要かと」
「千里の道も一歩からなんですよ。ちゃーんと歩いてきてください」
『あんたらだって元はコネや縁故採用を使ってたじゃないか。なのになんでそんなに当然のような態度を取れるんだよ。俺たちと同じはずなのに今じゃこんなに差がある。理不尽じゃないか。おかしいじゃないか。何でそんなことになってるんだよ』
同類のくせになんでそんな態度を取るんだ。俺たちも仲間に入れろ。彼らの要求はそれだ。
「(現実を知らないってある意味無自覚に運がいいんだね)」「(そうですわね。少なくともゴブリンらの孕み腹とかにならなくて済みますから)」
二人はもうすでに世界の現実を嫌というほど見てきている。ゴブリンやオークらに絶え間なく凌辱される女達の心のない肉体はまともに生きていられるのかどうかすら怪しい。その仲間入りをしなくていいだけ幸運だと実感していた。
それを直視したら冒険者なんてやめた方がいいと思うほどに。これがオーガとかヘッドハンターとかになるともっと悲惨な運命を突き付けられてしまう。
彼らは勝利する夢だけを見ており敗北する夢など微塵も持っていない、典型的な冒険者の姿だが現実と理想の乖離に不満が溜まっているのだろう。いつもいつも戦いに勝てるわけじゃない。予測不可能はいつだってある。異世界の神が振る賽と駒にはそれを教える必要はないのだから。
「地道に頑張りなさい」
「あんたらのように苦労知らずの恵まれた連中に俺たちの何が分かる!」
「恵まれた?確かにそうですね、それは否定いたしませんわ」
「なら俺たちも!」
「恵まれれば救われる、ですか。じゃ、恵まれたらオーガとやらに勝てるのですか?」
「そ、それは、その」
「恵まれ優遇され大切にされ、それでもなお軽々と冒険者らを壊滅させるモンスターは世界のどれほど存在しているのかをご存じですか」
「そんなことは、その、今は関係ないだろう」
「大鼠や大虫退治とはいえこれも民衆からの依頼ですよ。もしも大地を埋め尽くすほどに大量発生してしまえば文字通り世界の脅威です。それを事前に排除するのもお仕事なんですよ」
あなた達はそこまで考えが至ってましたか。
「脅威の排除、それが大であるか小であるかについては色々と理由があるでしょうが後回しにすればそれは確実に大きくなる。それを理解しなさい」
「たかがゴブリン、されどゴブリン、これが数を成せば熟練者が出張らないと退治できません」
「我らが受けている依頼はそういうものだ。そこらの有象無象とは違う。迅速な脅威の排除を優先的にしているからこそのランクだ」
そのおこぼれに預かれば自分達も、その甘い夢を破壊しておく。もうこれで話は終わりだ。さっさと行こうとするが。
『そ、そんな脅威度の高い依頼なんてあるはずがねぇ!。あったとしても達成できねぇだろうが、この大嘘つきめ!そんな理由には騙されねぇぞ』
相手全員が大声を上げる。なるほど、そんな依頼はどう考えても冒険者のパーティにこなせるはずがない。仕方がない、現実を見せてもなおそれを言い張れるのか試験させてもらうことにしようか。
自分達は一旦拠点のコテージまで戻る。
「ふぅーん。面倒くさい連中に絡まれたんだね。ご愁傷様」
ピュアブリングはこちらを向いて話をする。その表情は何ともつまらなそうだった。
「そいつらに現実を見せろってことね。りょーかいりょーかい」
「申し訳ありません。彼らがしつこくて」
その軽々しい返事がいかにも彼らしいと思う。こんなことなどさせる必要がないのは確かなのだから。他にも似たような考えの連中、いるんでしょ?噂を流して集めて来てよ。彼はそう言った。
「害虫はさっさと潰しておかないと増える一方だからね」
そうして、冒険者ギルドから依頼を受けてきた。依頼内容はゴブリンの拠点潰し、結構な規模だそうだ。現場に向かう我らの後を数十人がゾロゾロと付いてきている。噂を聞いて自分達のおこぼれにありつこうと考えた連中だ。
そうして、現場に到着する。
『ゴブリンがこんな拠点を築けるなんて信じられねぇ』
それはまさに悪夢だった。彼らからすればモンスターの中でも最弱のゴブリン、倒した経験がある者もいるが精々外をうろついていた個体だろう。その数もさして多いものではない。
だが、この拠点にはその何十倍もの数が集まっていた。自分らの後ろに付いてきていた連中の足が皆震えている。
『こんな脅威と戦えなんて冗談じゃない』
これはもう軍の仕事だ、冒険者がやることじゃない、そう思えるほどの規模。だが、現実には軍は動かせないのだから冒険者にその仕事が回ってきてしまう。冒険者としての輝かしい武勲詩の1ページはそれほどに残酷な内容だった。
だが、彼らはあくまでも観客である。この戦いに参加する権利はない。
「さっさとやっちゃうよ《火炎烈弾》」
「続きます《石烈弾》」
リーダーと術師のシェリルが広範囲攻撃魔術を迅速に撃ち放つ。1度では不可能なので数回打ち込んでおく。拠点がガラガラと崩れるが生き残りは多数。迅速に始末をつける。
「にしし、突撃―」「やれやれですわね」
ミーアとエメリアがペアを組んで切り込みを行う。
「さて、存分に暴れましょうか」
バーゼルがハルバードを振るい敵を薙ぎ払う。
「《惑わす使い魔》動きを止めなさい」「《勇ましき人形》ゴーレムども、暴れろー」
ラグリンネとエトナは召喚生物で各自殲滅を行う。
その後も後から後から湧いてくるゴブリンどもを自分らは駆逐していく。3波ぐらいで増援は止まった。
『……』
後ろを見ると観客らは言葉を失っているようだ。無理もないか、この状況でなお優位で進めている自分達が信じられないのだろう。彼らだったら放棄せざるを得ないのだから。
「《眠りの雲》《追い風》」
ピュアブリングは魔術で睡眠を起こす物質を生み出し洞窟内に注ぎ込む。後は残党狩りと連れ去られた生き残りの確保だけだ。
中に入るのは彼とミーアとバーゼルだけだ。残りは観客共の対応をする。
「あんたら、いつもこんな依頼をこなしてるのかよ」
声高に叫んでいた男は弱弱しく質問してくる。
「4件依頼を受ければ1回は入ってくる頻度ぐらいにはありますね」
ラグリンネが説明する。
「そんな頻度じゃ、もう」
全滅する危険性が高すぎてもうどうしようもないじゃないか。うなだれる全員。
「だから私達がいつも呼ばれるんですよ。どうにかしてください、って。冒険者ギルドだってあまり過酷な要求はしたくないのでしょうけど」
「ランクが上がるとはそういうことなんだよね。ぶっちゃけ軍の仕事をこっちに回すな、って感じ」
「じゃ、なんであんたらはそういう依頼を受けてるんだ?」
「『確固たる自分自身が欲しい』からですわ。正直もう部族氏族のしがらみや取り決めにはうんざりしていて都合のいい操り人形のままで終わりたくないからですわ」
エメリアの言葉。都合のいい操り人形、使い捨ての駒、いてもいなくてもどうでもいい存在、それが今の自分達だ。いや、色々なものを確実に消費している自分らは皆良い存在ではないのだろう。
もし、もしも、自分らが彼らだったらこのような依頼を受けたがるのか。死の危険性が高いこのような依頼よりもっと良い依頼はあるはずだ。なのに彼らはそれを選んでいる。自分を手に入れるために。
それに思い至り自分達がいかに甘い夢に惑わされていたのかを実感した。
しばらくすると洞窟内の生き残りを連れて帰ってきたようだ。
「あ、あの…」
「なんだよ。迷惑だから関わらないで」
そもそもおまえは誰だ?後ろにゾロゾロと付いてきて何か面白い劇場にでも行くつもりか。感情のない空虚な瞳が物語っていた。
「この後のことは」
「ウザイ。観客はそれらしく黙って物語を見たなら帰れ」
彼の言った残酷な言葉だけが真実だった。
『パーティの増員について』
先んじて今現在増やす予定がないことをピュアブリング本人から聞いている。少しづつであるが個々の特徴や性格も徐々に理解しつつありどのように連携を取り合いサポートすればよいのか、まだ試行錯誤中だが今の所上手くいっていた。
下手に増員してもそいつが何をしでかすのか分からないのならば今現在の状態で出来ることを増やしていく方が建設的だろう。それに付いては何の依存もない。
だが、周りからすれば「どうして自分らを入れてくれないんだ」不満の声になる。
大体のパーティが6人で構成されているのはそれがリーダーが受け持てる範囲の上限に近いからだ。それ以上に人数でも別に問題はないがその分だけ仲間らに色々なものを分配しなくてはならない。
金、食い物、装備、その他諸々。成功した冒険者は凡人とは比較にならないほどに稼ぐが失敗した冒険者は文字通り最底辺の生活に甘んじるしかない。その日の食事にさえ困窮することも珍しくはない。ダンジョンとか大物狩りを目指す連中が後を絶たないのはそういう事だ。一発逆転。そんな馬鹿な夢を見てしまう。
採集や納品依頼のほうが実は要領よく立ち回れば実入りがいいのだがモンスターを討伐する武勲詩英雄譚に憧れて冒険者を目指すのが圧倒的に多いためそうした依頼はどうも嫌煙されてしまうがピュアブリングそうした依頼を出来るだけ早く引き受けている。
「誰かを助けるってこういう事でしょ」
困っている人は大勢いてそれに優先順位を付けざるを得ない、冒険者がいる限りそれらの供給が優先されるのだ。住民からすれば今すぐにでも解決してほしいのは同じ。たとえそれが邪神討伐だろうが茸採集だろうが。
で、翠光玉級に上がった仲間らだが困った事態に直面していた。
『俺ら私らをパーティに加えてくれ』
ピュアブリングと別行動をしていた私たち全員の前にそんな連中が現れた。
「なんなのよあんたら」
ミーアが威嚇的行動を示す。
「今ここで優秀なんだろあんたら。な、頼むよ。役に立つからさ」
「役に立つとはどういう形で示せるのか理解してるのですか」
「そ、そりゃあ、その、あれだよ」
奴らはしどろもどろになる。雑用とか荷物持ちとかそんなのだろう。しかしながらピュアブリングが一人いれば大半のことが問題ではなくなるため増員の必要性がないのだ。
「はてさて、肉壁にもならぬ連中を仲間とみなすのはいかがなものでしょうか」
バーゼルは容赦なく断言する。
「あなた方の冒険者プレート見せてください」
全員灰色級、良くて黒曜石級が数人。これじゃただの足手まといでしかない。馬鹿な連中に抱き着かれて一緒におぼれ死ぬ気は仲間全員一切ない。
「基本から覚え直してきて」「そうですわね。地道に依頼をこなす方が長生き出来ますわよ」
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「いや、でも、大鼠とか大虫退治とかじゃただの掃除役じゃないか。せめてゴブリンぐらいなら」
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『あんたらだって元はコネや縁故採用を使ってたじゃないか。なのになんでそんなに当然のような態度を取れるんだよ。俺たちと同じはずなのに今じゃこんなに差がある。理不尽じゃないか。おかしいじゃないか。何でそんなことになってるんだよ』
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「(現実を知らないってある意味無自覚に運がいいんだね)」「(そうですわね。少なくともゴブリンらの孕み腹とかにならなくて済みますから)」
二人はもうすでに世界の現実を嫌というほど見てきている。ゴブリンやオークらに絶え間なく凌辱される女達の心のない肉体はまともに生きていられるのかどうかすら怪しい。その仲間入りをしなくていいだけ幸運だと実感していた。
それを直視したら冒険者なんてやめた方がいいと思うほどに。これがオーガとかヘッドハンターとかになるともっと悲惨な運命を突き付けられてしまう。
彼らは勝利する夢だけを見ており敗北する夢など微塵も持っていない、典型的な冒険者の姿だが現実と理想の乖離に不満が溜まっているのだろう。いつもいつも戦いに勝てるわけじゃない。予測不可能はいつだってある。異世界の神が振る賽と駒にはそれを教える必要はないのだから。
「地道に頑張りなさい」
「あんたらのように苦労知らずの恵まれた連中に俺たちの何が分かる!」
「恵まれた?確かにそうですね、それは否定いたしませんわ」
「なら俺たちも!」
「恵まれれば救われる、ですか。じゃ、恵まれたらオーガとやらに勝てるのですか?」
「そ、それは、その」
「恵まれ優遇され大切にされ、それでもなお軽々と冒険者らを壊滅させるモンスターは世界のどれほど存在しているのかをご存じですか」
「そんなことは、その、今は関係ないだろう」
「大鼠や大虫退治とはいえこれも民衆からの依頼ですよ。もしも大地を埋め尽くすほどに大量発生してしまえば文字通り世界の脅威です。それを事前に排除するのもお仕事なんですよ」
あなた達はそこまで考えが至ってましたか。
「脅威の排除、それが大であるか小であるかについては色々と理由があるでしょうが後回しにすればそれは確実に大きくなる。それを理解しなさい」
「たかがゴブリン、されどゴブリン、これが数を成せば熟練者が出張らないと退治できません」
「我らが受けている依頼はそういうものだ。そこらの有象無象とは違う。迅速な脅威の排除を優先的にしているからこそのランクだ」
そのおこぼれに預かれば自分達も、その甘い夢を破壊しておく。もうこれで話は終わりだ。さっさと行こうとするが。
『そ、そんな脅威度の高い依頼なんてあるはずがねぇ!。あったとしても達成できねぇだろうが、この大嘘つきめ!そんな理由には騙されねぇぞ』
相手全員が大声を上げる。なるほど、そんな依頼はどう考えても冒険者のパーティにこなせるはずがない。仕方がない、現実を見せてもなおそれを言い張れるのか試験させてもらうことにしようか。
自分達は一旦拠点のコテージまで戻る。
「ふぅーん。面倒くさい連中に絡まれたんだね。ご愁傷様」
ピュアブリングはこちらを向いて話をする。その表情は何ともつまらなそうだった。
「そいつらに現実を見せろってことね。りょーかいりょーかい」
「申し訳ありません。彼らがしつこくて」
その軽々しい返事がいかにも彼らしいと思う。こんなことなどさせる必要がないのは確かなのだから。他にも似たような考えの連中、いるんでしょ?噂を流して集めて来てよ。彼はそう言った。
「害虫はさっさと潰しておかないと増える一方だからね」
そうして、冒険者ギルドから依頼を受けてきた。依頼内容はゴブリンの拠点潰し、結構な規模だそうだ。現場に向かう我らの後を数十人がゾロゾロと付いてきている。噂を聞いて自分達のおこぼれにありつこうと考えた連中だ。
そうして、現場に到着する。
『ゴブリンがこんな拠点を築けるなんて信じられねぇ』
それはまさに悪夢だった。彼らからすればモンスターの中でも最弱のゴブリン、倒した経験がある者もいるが精々外をうろついていた個体だろう。その数もさして多いものではない。
だが、この拠点にはその何十倍もの数が集まっていた。自分らの後ろに付いてきていた連中の足が皆震えている。
『こんな脅威と戦えなんて冗談じゃない』
これはもう軍の仕事だ、冒険者がやることじゃない、そう思えるほどの規模。だが、現実には軍は動かせないのだから冒険者にその仕事が回ってきてしまう。冒険者としての輝かしい武勲詩の1ページはそれほどに残酷な内容だった。
だが、彼らはあくまでも観客である。この戦いに参加する権利はない。
「さっさとやっちゃうよ《火炎烈弾》」
「続きます《石烈弾》」
リーダーと術師のシェリルが広範囲攻撃魔術を迅速に撃ち放つ。1度では不可能なので数回打ち込んでおく。拠点がガラガラと崩れるが生き残りは多数。迅速に始末をつける。
「にしし、突撃―」「やれやれですわね」
ミーアとエメリアがペアを組んで切り込みを行う。
「さて、存分に暴れましょうか」
バーゼルがハルバードを振るい敵を薙ぎ払う。
「《惑わす使い魔》動きを止めなさい」「《勇ましき人形》ゴーレムども、暴れろー」
ラグリンネとエトナは召喚生物で各自殲滅を行う。
その後も後から後から湧いてくるゴブリンどもを自分らは駆逐していく。3波ぐらいで増援は止まった。
『……』
後ろを見ると観客らは言葉を失っているようだ。無理もないか、この状況でなお優位で進めている自分達が信じられないのだろう。彼らだったら放棄せざるを得ないのだから。
「《眠りの雲》《追い風》」
ピュアブリングは魔術で睡眠を起こす物質を生み出し洞窟内に注ぎ込む。後は残党狩りと連れ去られた生き残りの確保だけだ。
中に入るのは彼とミーアとバーゼルだけだ。残りは観客共の対応をする。
「あんたら、いつもこんな依頼をこなしてるのかよ」
声高に叫んでいた男は弱弱しく質問してくる。
「4件依頼を受ければ1回は入ってくる頻度ぐらいにはありますね」
ラグリンネが説明する。
「そんな頻度じゃ、もう」
全滅する危険性が高すぎてもうどうしようもないじゃないか。うなだれる全員。
「だから私達がいつも呼ばれるんですよ。どうにかしてください、って。冒険者ギルドだってあまり過酷な要求はしたくないのでしょうけど」
「ランクが上がるとはそういうことなんだよね。ぶっちゃけ軍の仕事をこっちに回すな、って感じ」
「じゃ、なんであんたらはそういう依頼を受けてるんだ?」
「『確固たる自分自身が欲しい』からですわ。正直もう部族氏族のしがらみや取り決めにはうんざりしていて都合のいい操り人形のままで終わりたくないからですわ」
エメリアの言葉。都合のいい操り人形、使い捨ての駒、いてもいなくてもどうでもいい存在、それが今の自分達だ。いや、色々なものを確実に消費している自分らは皆良い存在ではないのだろう。
もし、もしも、自分らが彼らだったらこのような依頼を受けたがるのか。死の危険性が高いこのような依頼よりもっと良い依頼はあるはずだ。なのに彼らはそれを選んでいる。自分を手に入れるために。
それに思い至り自分達がいかに甘い夢に惑わされていたのかを実感した。
しばらくすると洞窟内の生き残りを連れて帰ってきたようだ。
「あ、あの…」
「なんだよ。迷惑だから関わらないで」
そもそもおまえは誰だ?後ろにゾロゾロと付いてきて何か面白い劇場にでも行くつもりか。感情のない空虚な瞳が物語っていた。
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