勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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時間のズレと逃げ出すエリート(偽)

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「奴らは一体何をしておるのだ!予定の時刻を大幅に過ぎておるぞ。なのに何の連絡もないとは」

彼らは指定された集合時間になってもこなかった。半日ぐらいならまぁ有り得る、1日目、2日目と過ぎればさすがにおかしいと感じる、3日経っても来ない現実の今だと、集まっている者らからは不満の声が高まる。結局彼らがやってきたのは4日目の夕暮れだった。

「この馬鹿者どもが!ギルドが出した依頼の時刻を大幅に超えて到着とは何を考えておる!」

「ひいっ。じ、実は途中でモンスターと出くわしまして」

あの偽エリートらが恐怖に震え許しを請おうとするがオットーさんはそれを許さなかった。

「軍隊にしろ冒険者のパーティにしろ作戦の日時に到着するのが最低限の基本だ。途中モンスターに出くわすのは決して珍しくはない。お前達が遅れたせいで我々の貴重な物資が無意味に失われたのだぞ。その責任を取れるのか」

「そ、それは我らの不注意では、なくてですね」

「今回の作戦は今後ダンジョンから発生するモンスターや地形の変化を確認する重要な調査依頼だ。貴様ら、今後の作戦展開を決める重要な依頼に遅参した。その無責任さは斬首に値する」

「ひいっ」

「それはちょっと」

僕が口を挟む

「貴殿とてこいつらが遅参した分だけ物資が不足する事態も考えられるぞ」

「それはそうなのですが。ダンジョン攻略の前に味方を切るのは」

「貴殿は我らよりも先に到着しダンジョンの様子をしっかり観察し我々に足りない物を出してくれた。その分の回収はするべきであろう」

こちらに《収納》を持っていることは向こうも薄々感づいている。いまここでそれを見せると動きづらくなる。

「僕としてはまずダンジョンの中を確認する作戦を先に進めたほうが良いかと」

「そういうのならば処罰は後回しにする。しかし物資の分配については時刻を大幅に過ぎて到着したこいつらに優先的に出させるとしようか」

「そ、そんなぁ」

異論はないな。オットーさんの眼光は鋭い。ここまで時刻を超過しては弁護不可能だ。予期せぬ事態が起こることは日常茶飯事、それに対応できなくては躓くだけだ。

まずは彼らがここまで運んで来た物資やパーティの状態を確認することにした。オットーさんの部隊は軍の物資の計算が出来る人材がいるので任せることにしたが。

「クソ馬鹿な数の物資ですな。あの規模のダンジョンでここまで必要ではないでしょうに。奴らは戦争にでも行くつもりなのでしょうか。どうりで時間に遅れるわけです。あと人数も限度を超えてます」

無駄無駄無駄ぁ、そう言えるほどの数多い馬車がそれを物語っていた。物資もそうだがやたらめったら付き従う人数も多い。年齢は明らかに下だった。従士とか分家の家系の生まれなのか分からないが戦場での身の回りを世話する人達が多い。

こんなに連れて行けるわけがない。間違いなく通路は大混雑するはずだ。そこに襲いかかられたり大魔術を撃ち込まれれば即座に全滅だ。実際にオットーさんは10人前後のパーティで中に入る手筈で来ている。後は最低限の待機組ぐらいだ。しかも負傷した人数も一人二人ではなかった。

「早く回復の水薬か奇跡を」

「…神官を連れて来てない」

「はぁ?!」

あろうことか奴らは神官を連れて来てなかった。オットーさんでも一人は連れて来ているがこいつらはそれを無用と切り捨てたようだ。

言葉が出てこない。しかし負傷者がいる。オットーさんは僕に同意を求める。ラグリンネとエトナはそれぞれ負傷者に回復の奇跡を使う。無駄使いだが仕方ない。

「さっさと我らのパーティに加わるんだ」

「「黙っててくれませんか。気が散り回復が出来ません」」

偽エリートがしきりに騒ぐがオットーさんらが治療が最優先として間に立つ。作戦開始前からこの状態だ。大丈夫か。そして、問題が起こった。

欲情した男らがラグリンネとエトナが他の注意が逸れている最中に襲い掛かろうとした。傍にいた僕は即座に始末する。

「規律も秩序も守れない破落戸どもが」

「ひぃいいいっ」

オットーさんらは全員武器を取り偽エリートらをどう罰するか考える。貴重な回復の奇跡を行っているのに凌辱を行おうとした。そんなに女に飢えてるなら娼婦呼んで来い。まぁダンジョン目前まで来る奇特な娼婦なんていないだろうけどさ。

実行犯は始末したので何名か斬首することに。

「俺らは何もしてねぇ」「黙れ」

主の無責任は部下の無責任に繋がる。斬首は容赦なく行われる。リーダーの偽エリートも庇いようがなかった。

「こいつらはもう帰らせましょうか」

「そうですな。もうこれ以上は」

もうすでに不穏分子扱いのため必要な物資を置いて帰らせる算段を建て始める僕とオットーさん。

「そ、それだけは」

何とか弁明する偽エリート。

「こいつらは後ろにはおけません」

「意見が一致しましたね」

「貴様ら、俺たちをなんだと思ってるんだ」

いや、ここまで罪状が明確なら説明不要でしょう。

「このダンジョン攻略は今後の展開を左右すると言ったな。なら味方の数は多いほどいいはずだ」

そこに食いついてくるか。僕らのパーティ全員が自分のプレートを見せる。

「翠光玉色が3人と黒鉄色が4人も、正直に言おうか。お前らは不要だ」

オットーさんは明言する。オットーさんは鉄色級で他の仲間も青彩石級だ。こいつらは軒並み黒曜石級である。どう考えてもつり合いが取れない。無駄に制限が多くなるこいつらを連れて行くなど悪い目を引き続けるだけだ。

それでもなお食い下がってくるから上限を決めて同行は許した。

「手柄が立てられねぇ。ふざけんな。これじゃ無駄足じゃないか」

居残り組は「せっかくダンジョンまで来たのに」愚痴を漏らす。いや、正直言って来なくていいと思う。現実を見れば世界は残酷だと知らなくて済むからね。冒険者辞めて農地を耕す人生も悪くないよ。

それらこれらが終わり隊列をどうするのかを決めるのだがここでも奴らは口を挟む

「自分らが最前列を務める」

「手の施しようがないな」「同感です」

偽エリートらは最前列への配置を希望した。なるほど、ここまで来てタダでは帰れないらしい。最前列に出れば敵と多く戦える。それでこちらを見返すつもりらしい。ふぅ、もう僕らから言うことが無い。そんなに死に急ぎたければ勝手にしろ。

賽は投げられたんだ。後は悪い目を引かないことを願う。良い目を引けば逃げ延びれるかもしれないが悪い目を引いたら全滅だろうな。悪いことには底がない、死ですらも軽いのだ。

各自必要なものを揃えたらダンジョンに入る。最前列は偽エリート、中列が僕達、後方がオットーさん。僕らを観察していた人物も同行するようだ。

『ゴクリっ、こ、これが、ダンジョン、の中』

以前潜ったダンジョンは剥き出しの土だらけでささやかなものだったけど今回中はかなり精巧に出来ていた。ちゃんと道が敷かれているが逆にこれがダンジョンの恐ろしさの象徴でもあった

僕は早速ミーアとエメリアに命じる。

「部屋の入り口を閉めて楔を打ち込め」

「りょーかい」「任せておいて」

「お、お前ら、前に出るな」

ミーアとエメリアが隊列を飛び越して前に出ることを偽エリートらが騒ぐがこのままでは各部屋から敵モンスターが湧いて出て来てしまう。その目を先に摘み取るのだ。扉の数は左右に五つずつある。そこから増援が飛び出してこられてはどうしようもない。ミーアとエミリアは左右に分かれて扉を閉めて下に木製の楔を打ち込む

「か、勝手な行動は、ひ」

「黙れ。彼らは最優先で脅威の排除をしておるのだ。無駄口叩かず彼らの行動を覚えておけ」

偽エリートにオットーさんは近づき忠告する。もし扉の先の部屋にモンスターが潜んでいたら、そんな考えすら頭にないらしい。

扉を閉め楔を打ち込むと各所から音が鳴り始める。それも耳鳴りと思えるほど。

『ひいっ、こ、こここ、こんなに』

偽エリートらに恐怖が浮かび上がる。こんな数が潜んでいた。それがもし飛び出してきていたら…、明確に死の恐怖を覚える。よかったね、先んじてそれが防がれたから。それでも最前列をやりたい?しょうがないなぁ。じゃ、ちゃーんと仕事をしてもらおう。

「《点火》」

松明でもよかったが空間が広いので間隔をあけて明かりを灯す。すると、奥から明確な足音と声が聞こえてくると同時に明かりの範囲に入る。

『ががががああああがああぁあぁがああ』

えーと、オークとトロールとゴブリンの混合のようだ。数はまぁ…ダンジョンという事で多いな。一言でまとめればそれだけ。ほら、戦う相手が現れたよ。武器を抜いて備えないとしんじゃうぞ。たおさないとたおされるのこちらだぞ。それを偽エリートの耳元で囁く。

『……』

何か嫌な匂いがする。ああ、汚物垂れ流しね。大勢同時に。別にモンスターの巣では珍しくもなんともない。それすら見たことが無かっただろうし自分がそうなるとも思ってなかったのだろう。前衛全員が放心状態だった。

『い、いや、嫌だ。しぬのはいやだぁあああああ』

はぁー、脅威を目の前にして錯乱したのか各々の本性が現れる。何もできない、祈る、逃避する、見なかったことにする、など。ま、これもお前らが招いた現実だ。責任しっかりとってよね。

偽エリートはこちらを見る。それも絶望に染まった何とも醜悪な顔で。

「あ、んな、ばけも、のと、たた、かえ、と」

「そうだよ。なんてすばらしい武勲詩の1ページなんだろう。神に感謝しないとね。さぁ、最前列を志願したんだからがんばらないと。お仲間たちもね。気張って死闘してね。じゃないと、後ろから撃ち殺されるよ」

偽エリートらは後方を見るとオットーさんたちの仲間が弓を番えて前を狙っていることに気づいた。それはモンスターだけじゃない、自分たちすらも標的としていること。

偽エリートはここで自分らが罪を裁かれる時間がやってきたことに気づいた。僕は合図を送り後ろに逃げられるよう指示を出す。偽エリートらは脱兎のごとく後ろを振り返ることなく置いてきぼりにして後方の入り口目掛けて一目散に駆け抜ける。

前列がいなくなり中央の僕らが前に出ざるを得なくなるがまぁ予定通りだ。何も問題はない。おおよその広さからすると騎乗兵が動けるのは2体が限界だろう。ミーアとバーゼルを騎乗させエメリアとシェリル歩兵扱いにするか。各自に命令を出す

「《全能力向上》《戦意高揚》《自然回復》各自役割を果たせ」

『了解』

さて、2回目のダンジョンは長くなりそうだ。気張らないとね。
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