勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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指名依頼と買い占めをするエリートども(偽)

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「え?指名の依頼、ですか」

各種水薬を納品してくつろいでた僕達のパーティは冒険者ギルドの建物の中でも一番奥、つまり統括している人物と会わされた。いかにもエリートで風格のある男性が椅子に座っていた。客席に座るように命じられしばらく待つとあの偽エリートどもが入ってきた。

「貴様はこの前の!」

「……どうも」

出会った瞬間から見えない火花を散らす。主に向こうからだが相性が悪いにもかかわらずここに呼ばれたという事は何か重要な問題なのだろう。

「さて、君達を呼んだのには理由がある」

おおよそ外側の問題が片付いたのでいよいよダンジョンの実地調査を開始をすること。そのパーティとして3組呼ぶそうだ。最後の一組はしばし事情があるので現地で出会うことになる。

「おおっ。いよいよ我らの剣が悪を討つのですな。実に結構な依頼ではないか。なぁ、みんな」

『はいっ』

彼らの仲間は声高に叫ぶが、

(虚勢しかないね。これじゃ当てにできないや。せめて奴らには自分らからの逃亡という選択肢は残すか)

声と中身が一致してないことに気づく。

ゴブリンにすら遅れを取る連中だ。装備はまぁ見栄えはいいがそれだけ。戦力外と思っていいだろう。味方が足を掬われないように警戒しておく必要がある。

そうして、ダンジョンへの攻略作戦…なのだが奴らはあの手この手と注文を付けてくる。戦利品の分配や補給物資の優遇など、それぐらい自前だろ普通。そんなことにすら気づかない連中。ミーアとエミリアは非常に憎々しい感情を表していた。

(こいつら何言ってんの?望めばパンや水が出現するとでも勘違いしてない)(消耗品である品々は自分らで持参が基本でしょうが。現地調達という考えすらないとは)

仲間全員は僕が《収納》を持っているので『注文』すれば予備の装備や矢を出してくれることがいかに継続戦闘で重要であるのか嫌というほど知っているが《収納》持ち自体がかなりのレアケースなのでなるべく秘密を明かさないようにしている。下手に明かすと容赦なく狙ってくるからだ。それだけ《収納》持ちの効果はすさまじい。その空間はさして広いものではないことがほとんどなのでその気になれば湖すら飲み干せるほどの容量持ちともなればどのような待遇すら思うがままだろう。

でも、僕はまだ在野にいる。国に仕えると色々なしがらみと枷があるからだ。仲間たちもまだどこかに仕える気はない。そういうことだ。

そうして、作戦会議ではない作戦の話が進められていく。

「各自必要な物資を自前で用意してほしい」

「は、これだけの人数の物資運ぶのか考えろよ。購入代金も馬車代がかかりすぎる」

「では、不参加という事でいいな」

「ま、待て。用意できないとは言ってないだろ」

物資を自分達で用意できないならダンジョンに入れさせない、上からの命令だ。ここに実家の影響力は及ばないことを教えられる。

「では、健闘を祈る」

指名依頼の正式な受注手続きが取られた。そうして、各自必要な準備を整えることに。

「どう思う。この依頼」

僕らはコテージ戻り話し合う。必要な物資は何かあった場合を考えて多めに確保しているが安心はできない。

「通常とは明らかに違うよね」「うん。まるで私達を試すかのようだったし」

ミーアとエメリアは疑問を浮かべた。ダンジョンへの通行許可はまだ下りていないし派遣するなら上位のパーティがいる、今彼らは戦線離脱中だ。

「予測不可能な出来事が起こる、そう見てよろしいかと」

「それらこれらを含めてどのように行動でき決断できるのかを見るつもりですよ」

バーゼルとシェリルの意見がもっとも確証がある。僕らのパーティがどう動くのかを確認したいのだろう。もうすでに審査は始まっていると考えたほうがいい。現地で合流するというパーティだがしかるべき審査役がいるという事だ。

組むパーティがあれではもうどうしようもないことは全員が理解している。どんな脅威が潜んでいるかは分からないが準備しておくことに越したことはない。

物資を可能な限り補充しておく必要があるだろう。それぞれ散らばり物資の補充を行うのだが。

「売ってくれない。いや、売ることが出来ないって言われたんだね」

「はい。あのパーティが馬鹿げた買い占めをしたようで」

「くそっ。あんなに買い上げたら住民が困ってしまうでしょうが」

「そこまでして住民を困らせるなんて」

ミーアエメリアラグリンネのほうは食料をほとんど買えなかった。買えたのは少しばかりの芋ぐらいだ。

しばらくするとバーゼルシェリルエトナが戻ってきた。

「そっちはどう」

「駄目ですな。どうも奴らの後ろにいる人物が怖いようで」

「実家を使っての強制的な圧力ですよ。ふざけんなです」

「ひどいものだねー。ダンジョンに一回行くだけなのに」

こっちも手が回されていて物資の調達が無理だった。指定された時間にはまだ猶予はあるが致し方ない。

「みんなはここで待ってて」

あまり使いたくないが《転移》を使うしかない。僕だけポークサイドに戻り領主様や教会でライザらに会って今現地で悪どい輩が自己利益のために馬鹿げた買い占めをして困っていることを伝える。

僕はここでしかるべき行動をしたので住民たちに呼びかけるとありったけの物資を出してくれた。僕もありったけ出せるものを出して《転移》で帰還する。

すぐさま僕は冒険者ギルドに物資を調達してきたことを伝える。あいつらの馬鹿げた買い占めが起こり住民らが猛抗議に来ているようだ。職員の案内で大規模な倉庫をいくつも貸してもらいそこに物資を山積みにする。

「具体的なチェックはそっちでお願い。こっちも時間がないから」

「お任せ下さい。あの馬鹿どもの後始末はこちらで行います」

やるべきことをやり終えたので仲間の騎乗馬で迅速に現地に向かう。目的のダンジョンはここより東だ。

『あの偽エリートのせいで危うく都市が大混乱に陥ることになる寸前だった』

もうそれしか言いようがない。もうそれ以外言えない。それほど買い占められたら住民が困るとしか言いようがない。多分奴らは大規模になってやってくるだろう。命の危険も考えずに。パーティに基本的に人数制限はないがこの分ではどうなることやら。

どうやら僕らが一番先に付いたようだ。ダンジョンの入り口はちょっとした神殿のように作られている。到着した僕らはコテージを建て各自装備のチェックを行う。ダンジョンでは安全に飯を食う場所もないと思うので手軽に食べられる保存食や矢や各種水薬と解毒剤などありったけ準備する。予備の装備も何個も用意しておく。万が一他のパーティが装備を失った場合への備えだ。

「出入り口はどう」

「動きはないですよ」

ミーアとエメリアが交代で入口を見張る。この依頼ではあくまで合同でダンジョンの攻略だから自分勝手には動けない。

「今後ダンジョンに潜る頻度が増えることを考えると地図屋が欲しいところですね」

地図か。自動記録が出来る魔法の地図を闇商人から仕入れておくか、他にもあれば便利と思う品々の候補も出てきている。とはいえ、出所を知られるのはパーティの分裂を招きかねないし、どうしたものか。

「あっ、向こうから一団が来るよ」

どうやら後続が来たらしい。あいつらとは違うから現地集合と呼ばれていた連中だろう。荷馬車もそこそこに来ている。早速各自挨拶を行う。

「ピュアブリングです」「オットーだ。よろしく頼む」

挨拶も軽く、だが聞いておくべきことを聞いておく。

「女への手出しは厳禁ですから」

欲望に負けて手出ししたらそいつはパーティの秩序を乱したという事で容赦なく首をはねることを伝えておく。それは僕らのパーティだけではなくそちらにも責任があるのだと。

「了解した。その時は我らからは誰も助けないことを誓う」

挨拶も終わりそれぞれの物資がどれほど持ってきているのかを具体的に名簿に書く。

「弓兵の編成が多いですね。矢は足りますか」

「うーむ。正直言って予備の矢筒があれば大分助かるかと」

「融通しましょう」

「助かる」

弓兵の矢筒を一つから二つに増やす。これでだいぶん継続戦闘が出来るだろう。

「何名か装備の手入れが必要だと思うのですが」

「うむ。本来であればしたいところだが」

「時間はまだ余裕がありますので」

「ありがたい」

各自の装備の状態が怪しい者がいたので研ぎなおすか新品を融通する。

「各水薬の在庫も万全とは言えませんね」

「これについてはもうどうしようもなくて」

「こっちには薬剤師が複数いますから」

「まことに感謝する」

水薬の在庫も乏しいようで融通する。そこそこの数になるが僕らなら問題ない。

「食料についてはこちらからは出せません」

「それについては我らも同じ意見だ」

食料まで出したらもうそれはヤバいからだ。彼らも買い占めのことについて頭を悩ませていた。

「あの馬鹿どもが。住民を敵に回して何が冒険者だ、破落戸どもが」

「心中お察しします」

「奴らまだ来んのか。予定の時刻までしばらく時間があるが食料の補給を考えると早い方がいいのだが」

約束の時間まではもう少し時間がある、あるが、早いうちに実際の調査を始めたい。時間が経てども奴らは来ない。

(こちらの行動を監視しているのがいるね。高貴な方なのかな)

僕らが行く先々で必ず誰かが見ていた。どうやら数人のグループでこちらを『審査』しているのだろう。それ相応の地位にいる人物なのは間違いない。

こちらの行動を一つ残らずチェックするその人物のことを僕は何も言わなかった。そうして、時間だけが無駄に過ぎていく。予定の開始時刻に彼らは間に合わなかった。
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