勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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聖域に入る

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図書館で聖域とマナストーンに関する記述を確認した僕はすぐさまコテージに戻り位階の石像の制作と共にミーアらにクラスチェンジの可能性があることを説明した。

『クラスチェンジできるんですか!』

「後は出たとこ勝負になるけどね」

まだその可能性があるだけ、たったそれだけ。それも希望的可能性だ。経験値はオーガ討伐でギリギリとはいえ足りているはずだ。あとはアイテムを揃えそこに行けばいいだけ。確証はないから無駄骨になるかもしれないことを先に言っておく。それでも4人からすれば希望の道が見えたことだろう。

位階の石像を人数分制作し終わったら早速聖域があった跡地まで向かう。

「何もありませんね」

ここは元が付く。かつてはマナに満ち溢れ静謐な雰囲気があっただろうが今は数本の木が生えているだけだ。さて、やれるかどうかは分からないがイヴラフグラと僕ならやれるというかすかな期待に賭けようか。剣を抜き地面に突き刺す。

「『我聖剣《富と咎を成すもの》の主として願う。幻想の領域、聖なる大地、マナの源泉たる異界、マナストーンが安置されているその場所に導け。我らはその資格ありと認めたたまえ世界の守護者たち。偉大なる先祖たち、その子孫らに世を平穏に導く力を授けたまえ』」

厳かで格式ばった祈りの言葉。イヴラフグラから漏れ出すのは聖剣だけが持つ聖なる波動と莫大な精霊力、それを注ぎ込み聖域への門をこじ開ける。しばらくすると不思議な霧が発生してくる、やがてそれは周囲一帯を覆い尽くしやがて強大な輝きを生んだ。

『……ここが、聖域…、すごい、圧倒的です。こんな幻想がありうるなんて…』

どうやら予想は的中したしたようだ。かなり力を使ったけど僕なら問題ない。しばらく呆けていると何か光輝く存在がこちらにやってきた。

「まさか自力で聖域を呼び出せるほどの聖剣と力の持ち主が現実にいるなんて驚くに値するわ」

目前まで迫ると小さな羽を生やした少女のような姿になった。全員が警戒する。

「安心して。彼女は聖域に傍近くにいることを許された高位妖精。こちらに悪意はない」

「ええ、そうよ。ようこそ勇者様とそのお仲間たち。聖域を代表して挨拶をいたします」

その存在は僕のことを勇者だと呼んだ。その自覚なんてないが今はやるべきことが先だ。マナストーンのところまで案内してもらう。聖域の妖精は宙を飛びながら「付いてきて」案内する。しばらく歩いていくと前に何か巨大なものが見えてくる。近づくにつれその巨大なものがマナストーンであることが分かった。

「これがマナストーン」「なんて巨大なの」「これはとんでもないですな」「うわぁー」

その巨大さは人の背丈どころか城と呼べるほどに巨大だった。これなら4人をクラスチェンジさせても何も問題はないだろう。

「あ、でも進行役とかいなくていいの」

「大丈夫。聖堂と進行役がマナストーンと同時に必要なのは単純にマナストーンが小さくてパワーが足りないからなんだ。だからパワースポットの聖堂や進行役で増幅する必要があるけどここにあるマナストーンの巨大さなら十分すぎるほどに足りる。あとはその前で祈りクラスを選べばいいだけなんだ」

「そうなんだ。それだったら後はクラスを選ぶだけなのね」

「やった。これで念願のクラスチェンジが出来ますわ」

「これでようやく自分も明確に自信が持てますぞ」

「うん。これで一族や氏族に発言力が持てます」

大喜びする4人。早速人数分の位階の石像を取り出してマナストーンの傍に置く。

「君達に選べるのは基本光闇のどちらかだけだけど位階の石像で第3の道が開かれている。先に知っておいた光闇のいいとこ取りのやつね。実はそれにも選択肢が分岐している。歩兵クラスと騎兵クラスだ。さらに言えば軽装型と重鎧型に分かれる。騎乗可能というだけかもしれないけど戦場での移動力の有無は大変重要だから真剣に考えて」

「うわぁ、選択肢に悩みますね」

「本当に贅沢な身分よね私達」

「フム。どちらも一長一短がありますからな」

「騎乗があるというだけでも長所になりますけど」

単純に歩兵と騎兵では移動力と範囲が目に見えて違う。軽装型と重鎧型では防御特性も大きく違う。平地戦では絶大なメリットがある。ただしデメリットもあり騎馬に対して特攻属性を持つ敵が表れた時はかなり危険なのだ。狭い空間では騎馬の機動力が生かしづらい。それも鍛錬でどうにかはなるが。

僕は別に仲間がどれを選ぼうとも問題なかったので何も言わないことにした。彼女らしばし考えようやく決断したようだ。

ミーアは『餓狼暴騎士』ウルフ系使い魔を呼び出し騎乗して戦うタイプに。

エメリアは『天精弓騎士』弓を主体に接近戦闘もこなす騎馬騎士に。

バーゼルは『崩鎧竜闘士』槍系武器を使うより重鎧型騎馬タイプに。

シェリルは『精霊術騎士』複数属性を扱いつつ騎乗可能な魔術騎士に。

それぞれクラスチェンジを行うと自分自身を実感する。

『すごい。力が底から湧き出してくるし敵に負けない勇気が溢れてくる』

4人が騎乗クラスになったのは今後自分の主戦場が広い平野になることを見据えてだろう。障害物や地形で足止めされる危険性はあるがそれは仲間に補ってももらえばいい。

「じゃ、聖域から出ようか」

「貴方様方の活躍を期待いたします」

しばらくすると自分達の周りに霧が立ち込めそのすぐ後何もなかった場所に戻された。

「夢のような時間でしたね」

「夢じゃなかった事実が手の中にあるわ」

「今後我らに対する見方も徐々に変わるでしょう」

「そうですねぇ。いいとこ取りしましたから」

光と闇のいいとこ取りをした上に騎乗可能や固有能力まで手に入れた。それは反則だろう、そう言われても不思議ではない。早速騎乗スキルを使ってみる。

彼女たちは「馬とか買うんじゃないの。モンスターを手なづけるんじゃないの」普通のクラスチェンジだったらそうなるだろうがいいとこ取りをしたと言っただろう。スキルを使うとすぐさま自分の乗れる騎馬やウルフが現れる。

彼女らとても驚いたがこれは現実だと確認して乗る。

「あははっ、すごいすごい」

「すごい移動速度ですね」

「体格の大きい自分をものともしませんな」

「うひゃー。快適です」

騎乗し平地を駆け回る4人。しばらくそれを楽しんだのち。

「騎乗生物は任意に呼び出し可能だけど連続で呼び出し不可能だからね」

これは召喚が好き勝手に使えないように世界が制限しているからだ。騎乗用スキルで呼び出す生物もこれに含まれている。とはいえ、これで格段に機動力が上がり出来ることが増えた。必要ならば歩兵の仲間を一人だけなら後ろに乗せることもできる。

早速冒険者ギルドに戻り「別室を取ってください」受付嬢に伝え職員らに4人がクラスチェンジをしたことを伝える。

「え?でも聖堂は使っていませんしマナストーンはどうしたのですか」

「大変な幸運に出会い聖域に入ることが出来ましたので」

「えっ!聖域に入れたんですか」

聖域には巨大なマナストーンが安置されていることは周知の事実、冒険者ギルドも例外ではない。僕はこの四人が実績十分だと伝え4人の冒険者プレートを鉄色級に昇格してほしいと頼む。冒険者ギルドでは一度クラスチェンジすればあとは最低限の実績さえあれば鉄色級にストレートに行ける例が存在する。それを使い4人をしかるべき立場に付かせてほしいと。

冒険者ギルドはいま討伐依頼の難易度が上がっている今実力者が不足している状況だ。予想外の出来事だが正確な審査をしクラスチェンジがおこわれた事実があり僕という実力者がパーティリーダーということで4人を鉄色に昇格させる手続きが取られた。

これでこの地方での活動範囲が広がった。後は彼女達次第という事だ。

最後に。

「どこに聖域の出入り口があったのか教えてもらえませんか」

対応した連中が血眼で場所を聞こうとしてきた。残念ながら靄のように消えてしまった。そう誤魔化す。嘘じゃないが真実は明かしてはならないだろう。馬鹿な連中が押しかけても困るし。
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