勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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教会を支援するが頼りすぎじゃない

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「鉄色の冒険者プレート、意味が重くなりますね」「そうですね、こんなに早く到達するなんて」「周囲の見る目は明らかに変わるよね」

ライザラグリンネエトナは昇格した冒険者プレートを手の中で弄んでいる。これが意味するところは下位の冒険者と言え上位に位置することだ。下位とは言えしかるべき実績と経験を積んだ者だけがこれを手にできる。彼女らの年齢と冒険者になっての時間の短さを考えれば飛躍的と言えるだろう。

とはいえ、まだまだ経験が乏しいことには変わりがない。まだまだ下積みは必要だ。

だけども領主側と教会側からすればそうはいかない。ここには彼女らと同ランクの冒険者がほとんどいないからだ。その上もいない状況であり下もまだ頼りない。彼女らへの期待が否応無しに高まっている。神官系クラスの3人だがチームを組めば前線に出しても問題のない実力はあるのだから運用方法は広い。

あとは、僕という存在もちょっとばかり頼られているのか。前回ボーン・ジェネラルらが呼び出してくる無数の軍勢を単騎で食い止めた事実を知っている参加者たちは何かと僕に接触してくるのだ。

『お願いします!もうしばらくここに留まってください。ピンチなんです!戦力的にも財政的にも』

ライザに渡した寄進お布施だが出所が僕であることはなるべく黙っているように言っておいたのだがライザは耐えきれなかったようだ。ライザを間に立てて何かとお願いするようになってきたのだ。特に金銭面で。

『孤児や難民らが溢れていて住居やら仕事やらを与えねばなりません』

町の様子を少しばかり見て思ったけど外から流れてきた人々が路上に寝泊まりしてる様が結構ある。当然中には孤児たちも含まれる。このままでは貧困に喘ぐ彼らが暴徒と化すかもしれない危険性を教会は考慮し下部組織として仕事場と孤児院を用意する決定を出した。労働者は難民を優先的に雇えば足りるが当然ながら彼らに食い扶持やら生活費やらを出さねばならない。

ここの教会の前任者が無駄に使い込んだため帳簿は大赤字だ。そんな金はどこにもない、だから僕に貸してほしいと。

「ふぅー。分かったよ」

絶対に秘密を守る、その条件で僕は神官らに金を貸すことにした。

ゴトゴトゴトっ。

即座に換金可能な金や銀や白金の塊を数多く地面に転がす。それに目を輝かせる全員。

「正確な金額の査定はそちらに任せる。これで難民や孤児たちのために生活費の捻出や食べ物の買い付けを行って」

『はいっ』

「足りなきゃ追加で出すから」

まだ出そうと思えば出せるため心配するなと。すぐさま品質や数のチェックを行う神官たち。

「ここだけで流通させると暴落が起こるから他の場所で買い付けを優先して」

ひいふうみい…。大雑把に数を数え始める神官たち。

「うん。これで初期投資としては十分なんとかなるでしょう。後は職種の選別と予算と人員の割り当てですね」

教会が仕事として斡旋している幅は予想より広くて色々融通が効くらしい。早速商隊を通じて各地に人を送るそうだ。特に北方面を中心に。

「北はモンスターの大量出現スポットが出現して以来物流が途絶えてましたからそこが通れることが知れ渡れば大きな利益が見込めますし冒険者の勧誘も出来ますから」

この地ではあまり冒険者が育ってないらしい。ダンジョンとかモンスターが散発的に出現するのだが領主の軍も手を焼いているそうだ。教会側も同じだが前任者の汚職神官はここでも悪いことをしてそちらに回す予算を大幅に減らしていた。予算が出なければ人は出せないため神官の同行が必要なのに派遣できなかった。神官の奇跡があれば助かるはずの負傷者は結構な数が出たそうだ。何とか帰還させる際中命を落とし墓場送りになったことが何度も起こった。

「酷い話だねぇ」

「あの悪徳神官のせいで助けられる命がどれほど失われたのか考えれば領主側もこちらも怒り以外ありませんよ」

「そいつは今どうしてる」

「最前線送りにしたいのですがあのクズはまともに修行しておらず信心も足りない上応急治療も出来ないときたもんです」

首に罪状を書いた看板をぶら下げてドブ掃除や害獣退治にまわしているそうだ。そんなクズでもできる仕事がある、それだけでも償いになるはずだ。教会はそう判断したのだろう。

「今現在担ぎ込まれている負傷者に対して人員が足りず回復の水薬を順次回してますが追い付いておりません」

「それも提供しようか」

「助かります」

幸いにして在庫は大量にあるし効果も高いから大丈夫だろう。いや、さすがに効果が高すぎて彼女らは困惑するだろうな。仕方ない等級を意図的に落として数を増やすか。あればあるだけ助かるということなのでそれなりの数にしよう。

「おかえりなさい」「おかえりー」

コテージに入るとラグリンネとエトナ2人が出迎えてくれた。

「ライザはいま領主様に呼ばれています」

何でもオークらが群れをなして周囲の村々を度々襲っているそうなのでその討伐軍の編成のための事前の打ち合わせをするそうだ。ライザはもう教会の代表者としての仕事を徐々に学んでいる。僕らはそのパーティとしてどんな役割が求められているのかが一目瞭然である。

ライザを待っている間に異空間で回復と精神の水薬らを調合しておく。もうしばらくしたら教会の人間が取りに来る約束だ。

「赤いのが回復で青いのが精神で黄色が持久、間違えないように」

「こんな短時間でよくここまで用意してくれたこと本当に感謝します」

等級は6で統一している。これでも明確な効果があるはずだ。合計で合計で1400個で回復が700精神が300で持久が400だ。それが箱積みされている。体力のほうが多めなのは奇跡の力量が足りないという配慮からだ。予想を超えて多かったらしく追加の人数を呼んで往復で運ぶ。

水薬が運び終わると同じぐらいの時間にライザが帰ってきた。

「色々と助力していただき感謝いたします」

教会を『代表する』ものとして。代表という言葉を強めに強調する、ちゃんと自覚しているようで何よりだ。

「お話はどうだった」

「一応巡回ということで村々を回りますが巣の存在があると感じれば私達に叩けと」

なるほど、流り者でなく拠点があるならば後顧の憂いを絶つということか。オー久共が拠点を作られては面倒だからな。

「うん、了解」

「領主軍と神官らの混合になりますがあまり人数を出せません」

そこでまたあのクズの汚職神官のことが出てきた。奴のせいでかなりの人数が落命したことを聞いたのだろう。そんな奴でも一応信仰職ということで扱っているがライザと連れて来ていた神官は、

「あのクズ、さっさと死んでほしいです。不慮の事故でも何でもいいから」

ポツリと漏らす。

あの悪徳神官のせいで教会の評判がガタ落ちになってしまったのだ。それを一刻も早くどうにかしたいのだろうが信頼というのは取り戻すのは難しい。地道に下積みをする必要があるのだ。金がないと教会の運営はできないがうまく回っていたのに栄養を吸い上げ続けた悪徳神官のせいですべてが悪い方向へと進んでしまった。

「あのクズの頭の中は欲望に染まりきっていて救いようがない。せめてもの慈悲で教会の評判を高めるためうまく使ってあげましょう」

連れの神官らもあのクズは死ぬまでこき使うようだ。汚れ仕事に従事すれば感染症にかかりやすくなるため早死にもありうる。

「今回の部隊を率いる隊長と事前に作戦や隊列の編成などを打ち合わせるため領主の館に来てほしいそうです」

事前の作戦会議は大事だよね。隊長が馬鹿ではないことを願いつつ向かうことにした。すぐさま中に入れられ作戦会議を行う間に案内される。

「ゴルック・オブラインと申します」

壮年よりちょっと年齢が上の男性を紹介される。

「ピュアブリングです。あなたが隊長ですね」

「そうですな。最も鉄色の冒険者プレート持つあなた方と比べては非力なものですよ。やる仕事は主にあなた達のパーティが討ち漏らした残党を刈るぐらいなものでしょうから。あの汚職神官のせいで有望な人材をかなり失いましたからね」

あまり戦力としては期待はしないでほしいと。やっぱりあの汚職神官のせいで人材が足りないそうだ。質も量も、彼は何度となく仲間が助けられない場面を目撃してきたのだろう。

「そこはお任せください」

「北の結界を張るときには単独で大多数のボーン兵とジェネラルを退けたと聞いております。頼りにさせてもらいます」

これで紹介は終了したので作戦会議を始めることにした。
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