勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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いいとこどりをした上でもっと強くなろう

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聖堂を使わせてくれなかった汚職神官が降格処分を言い渡されたらしい。領主側と教会側の両方から不道徳な行いを攻められ逃げ場なく一番下っ端の神官としてやり直させるようだ。

追放処分にしなかった彼の実家の援助がそこそこあったからだ。実家の会計が火の車となり支援が出来なくなり責任を咎められた。でも、ちゃんと援助していた分だけ温情を残した、そんなところだろう。ある意味では汚職神官には明確な罰を与えると宣言したはずである。

さて、僕らはというと。

「いよいよクラスチェンジですね」「長かったのか短かったのか」「どちらにしても良い日だよ」

その儀式はある意味栄誉と称賛の場でもある。辛く苦しい修行と実戦を経て自分の位階を引き上げることに成功した者だけが許される特別な儀式を受ける資格のある者だけしか受けられない。

そして、それに立ち会うというのは特別な意味を持つ許された者らだけだ。なんでも教会側だけではなく領主側からも参列者が来るそうだ。それぐらい気合が入っているということなのだろう。彼らのお師匠様から聞いた話では年々マナストーンの出現率が下がっているのだそうだ。そうなってくると順番待ちも長くなる。ここでクラスチェンジが行われるのは本当に久しぶりなのだそうだ。

参列を許されている僕はというと。

『何を作ってるんですか?』

3人から同じ質問をされる。

やっていることは木槌とノミでそこそこの大きさの岩石を石像のように削り出していた。彼女らはそれを眺めている。時間までに3体分用意しておかないとならないからね。

そして、正式に教会側から使者がやってきた。

「皆様を聖堂に案内します。ライザ様、ラグリンネ様、エトナ様、ピュアブリング様、そしてお師匠の神官様、計五人ですね」

頷く。案内役に従い聖堂まで歩く。3人は儀式用の衣装に着替えていた。結構見栄えするものだなと思う。しばらく歩きようやく聖堂まで到着する聖堂には選ばれた参列者が揃っていた。

えっと、真ん中にいるのが儀式を行う方だろう。

「では、これより儀式を執り行う」

厳かに沈黙を促す進行役。本来であれば本人がマナストーンを持っていけばいいだけだが僕が真っ先に通らせてもらう。そう伝えているからだ。相手はなぜ本人より先にやってくる僕が少しばかり驚きなのだろう。

「儀式に必要な品を提出いたします」

それはマナストーンだけではなく先ほどの石像もあった。

「ま、まさか、これは『位階の石像』!まさか、本当に実在しておるとは。そうか、そういうことなのだな」

驚愕の表情を浮かべる進行役、状況が読めない参加者、困惑する後ろの三人。さて、僕がやるべきことは終わったから後ろに下がらせてもらうとしようか。

一礼して後ろに下がる僕とそれを不安そうに見る三人、儀式に何か問題があったのか。そう目で訴えてくるが何も問題はない。いや、あるかもしれないが。

そうして、ライザが進行役の前に呼ばれる。

「さて、そなたには3つの選択肢が開かれておる」

「えっ?それは、どういうことなのですか」

困惑するライザ。通常であれば光神官か聖神官しか選べない、そのどちらかを選ぶはずだ。だけども、あの石像があることで第3の道が開けることになった。

進行役は順序立てて説明を始める。

「通常のマナストーンだけでは光神官か聖神官かしか選べぬがここに用意されている石像の効果を同時に使えば第3の道『聖光礼官』への道が開ける。単純明快に言えば光神官と聖神官どちらかしか選べぬスキルを両方全て習得するだけではなく闇ルートでしか選べないスキルツリーも手に入れられる。その上でステータスの上限も全てにおいて高くなる。簡単に言えば『いいとこ取り』じゃな。それをこの者が用意して見せた」

どれを選ぶか、それを決めろと。

多分本人はどちらかを選ぶはずだったが突然現れた道に困惑していることだろう。僕はやれることは全部やるタイプだ、だからこれが最後にできることだ。

ライザはこちらを振り返り僕を凝視する。

『どれを選んでもいいんだよ』

僕の笑顔を見てこれ以上のことはないと悟り、

「聖光礼官になる道を選びます」

決断を下した。

厳かに行われたそれは神々による祝福の儀式、辛い修行とたゆまぬ努力そして実績を示したものだけが手に入れられる褒美。ライザの儀式は数分足らずで終わった。

「この者に祝福と栄誉を!」

「新たなる強く気高い者に幸あれ!」

こちらに帰ってきたライザはうっすらと涙を浮かべていた。

「ひ、ひぐっ、こんな、こんなに、あなたに、甘えて、わた、わたしは、どう、すれば」

僕は優しく微笑む。

「君は君のやりたいように生きればいい」

そして、君を求めている者たちの期待に応えてあげなさいと。ラグリンネとエトナも釣られて泣いていた。おいおいまだ二人の儀式はこれからでしょうが。

その後、ラグリンネは『神聖精術官』エトナは『黒交霊魔官』にクラスチェンジした。その後は新たなる希望の誕生に宴となる。領主様や神官らも交えてのパーティは結構な賑わいだった。

そして、それが終わり解放されてコテージに戻ってくると。

『クラスチェンジしちゃいましたねぇ…実感ないなぁ』

自分たちがまだ変化したことに気づかない3人、だがもう中身は別物と化している。いままで使えなかった奇跡や魔術など色々なことが格段にできるようになってるしその回数も目覚ましく上昇している。効果もより高くなっているだろう。

とはいえ、まだまだ指導が必要だろう。幸いにして領主と教会の双方から問題解決の依頼が来ていた。

数日後。

「《浄化》これで終わりです」

ライザの祈りの奇跡でアンデットモンスターがまとめて消し飛ぶ。

「《光魔術:拡散》こちらは片付きました」「《勇ましき人形》ゴーレムたち、やっちゃえー」

ラグリンネとエトナがそれぞれ光魔術と召喚したゴーレムで生き残りを駆逐していく。

ここは《ポークサイド》の少し北の方に来ていた。なんでも以前からアンデットらのたまり場と化しつつあり通行禁止の措置が取られていた。しかし、ここは北部を繋ぐ重要な商街道。そこが通れないとなると物流が滞るがここのアンデット共がなかなか手ごわく強い奇跡が使える神官がいないと浄化できない。

中央から派遣されてきた汚職神官の本当の仕事はこれをどうにかすることだったのだが彼では解決不可能であり問題を起こして失脚した。皆頭を悩ませていたが僕らが登場したことで打開策になると領主と神官らは中央に報告したのだ。

その指名依頼を受けて僕たちはここに乗り込んできた。

「いやぁー、すごい奇跡ですねぇ。これならクラスチェンジしたいと願うものが後を絶たない理由がわかります」

「うん、そうだよね。ここまで劇的に違うんだったらそう考えてもおかしくないですし」

「てか、ゴーレムどもが強くてあたしの役割がほとんどないよ」

各自自分の能力を確かめつつ実行してるがあまりの手ごたえに自分のほうが恐ろしく感じるようだ。

「もうそろそろ夕暮れだよ」

アンデット系モンスターが強くなるのは夜、短い時間だが休息をとることにした。

「おかえりなさいませ」

僕が建てたコテージにはほかに数十人いた。ライザらのサポートを行う神官らだった。

ラグリンネとエトナは別教義の教会に所属しているので彼女たちがサポート要員として付いてきていたのだ、あとライザの実力がどの程度まで通用するのか確認するためでもある。別教義の神官らが混じることについては緊急事態になる前の処置、ということで納得させたようだ。

「調子はよさそうですね。うんうん、あの悪徳司祭とは大違いですよ。あのクズのせいで帳簿に大きな穴が開きましたからね。その分を取り戻すためにも皆様への支援は全力を尽くしますから」

彼女は中央から来ており今後はライザの片腕として働く女性だ。彼女は以前からあの悪徳司祭を嫌っていた。なぜなら教会名義で物品をちょろまかしたり不正計算をして帳簿を混乱させていたからだ。その上本来の使命を忘れて悪い方向へ金の運用を行った。

その一つとしてライザの出身の教会兼孤児院の取り潰しと新教会の建設があったのだ。

汚職神官の実家はそこそこ財力があったので目をつぶっていたが実家が没落すると同時に罪状を問われてしまい誰も彼を助けなかった。ここで本来の使命を果たすべきだと教会側から要請が入り役目を務められる人材を欲した、それがライザだった。

あの汚職神官よりもライザのほうが遥かに優秀で善良なので主と仰いでも問題ないと即座に理解したようだ。

彼女らはここでモンスターの実態調査を進めている。

「昼間に出てくるモンスターについては問題なし。ここまでは順調ですが問題は…夜の方ですね。それも集団の」

「そうですね。もう少しばかり修練が必要でしょう」

アンデットモンスターは基本的に夜に活動し力を増す。何度か夜深くに戦闘をしたがボーン・ウォーリアーやボーン・ランサーやボーン・アーチャーらが隊列を組んでいるとさすがにライザ一人では荷が重い。3人がかりなら何とかなるがこの後二人は僕のパーティとしてついてくる予定が入っている。

今後いなくなるパーティメンバーについてはどうしようもないためライザは気を吐いているが単独で夜間戦闘には出せない。彼女はもう教会の重要な戦力なのだ。危険な橋を単独で渡らせてはならない。

「数日かけて大体間引きましたが交易路として安定させるにはまだ足りません」

ライザらが十二分に成果を上げていることはここにいる全員が理解しているが決定打が足りないのだ。とはいえ、ここに連れて来ている人数では難しい問題だ。だが僕はここである程度実力のある神官らが揃っていることに気づいた。

「結界、張っちゃおうか」
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