勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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ダンジョンの洗礼を受ける

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洗った服も乾きいよいよダンジョンへと入ることになるが。

「装備とかはどうしたの。あ、もしかして。なんも準備してないとか」

『…あ、その』

装備は粗末なこん棒のみ。マジか。思い残すことがないようにと言って金を渡したが装備どころか回復の水薬すら準備してないとは。頭が痛くなるが初心者にありがちなミス、それで今回は片づけることにしよう。万が一に備えて準備してきてよかったと思う。

彼女ら3人にメイスとスモールシールドを装備させ腰に雑多な品が入る小さめの鞄を装備させる。

「赤が生命青が精神黄色が持久の水薬、飲み間違えないように」

一人につき5個ずつ配る。

「ダンジョンに入ったら油断せず今後は僕の指示に従うこと」

コクリと頷く3人。こんな子守りは今回だけにしてほしいところだ。早速入ろうとしている3人に「止まれ」そう指示する。

「出入り口やその周りをよく見ろ」

何か足跡っぽいのが見えるはず。3人は地面を見るが経験がないのでそれが何なのかすらわからないようだ。

「《可視化》《発光》」

言葉で説明すると時間が足りないと判断し足跡を目に見える形に光らせる。

「っ」「これは」「ヤバめ」

3人は出入り口のところから無数に重なっている小さい足跡を見るなり恐怖を感じた。

「足跡の小ささからゴブリンがいるのは間違いない。用心棒として渡りやシャーマンマジシャンも予測される」

「知らずに入ってたら大変なことになりますね」「「同感です」」

さて、ひとしきり恐怖を味わってもらったが本題はここからだ。ライザに火のついた松明を渡す。

「暗闇は敵だ。常に注意を払え。岩陰には何かが潜んでいると思え。明かりを持てば狙われると感じろ」

ゴブリンなどは夜目が効くため洞窟の暗闇などに適応している。最初はレクチャーが必要だろう。

「入るよ」

『はいっ』

中に入るといかにもダンジョンという感じだ。暗闇がそこら中にあり気配を漂わせ感覚を鈍らせる何か。陣形は僕をフロントトップにして3人を後方に控えさせる陣形だ。幸いにして数人ぐらい横並び出来るぐらいの広さがあるがそれは逆に横からの攻撃も許すことになる。

徐々に奥深くに進んでいるとちょっとした広さの場所があったがそこには先に住んでいる住人もいた、ゴブリンらだ。数は7体。ちと多いが僕一人に全て任せればどうってことはないが3人の実戦の訓練も兼ねているのであまり倒してはならない枷がある。

「こちらにはまだ気づいてない。僕が引き付ける。はぐれたのを集団で襲え」

ライザから松明を渡してもらい剣を抜く。あ、イヴラフグラをここで使うとやばすぎるので事前に別の剣を作っていたんだよね。あの剣の妖しい輝きに魅せられ奪い取ろうとするかもしれないから。

『はいっ』

「《全能力向上(微)》《戦意高揚(微)》」

わずかばかりのサポートの魔術を事前にかけておく。

相手はまだこちらに気づいてない。僕は素早く接近し片づける策を取る。突然現れた侵入者にゴブリンはわずかばかし動揺したがすぐさま戦闘開始となる。どれもこれも粗末な装備だがだからこそ負傷した場合の傷のえぐれもひどいものになる。

一体をすぐさま切り殺しある程度の数をこちらに引き付けつつ各自ゴブリンと一対一での戦いをさせる。

「くっ」「このっ」「うりゃっ」

たかがゴブリンされどゴブリン、子供並みの体格と力と知恵を持つ彼らは単独であれば脅威とはいかないだろうが急速に数を増すことに関してはすさまじいものがある。人里に出てきて女を攫い孕ませ数を増やし場合によればいたぶり尽くすその所業は誰もが眉を顰める。

彼女らはゴブリンの機敏さと粗末ではあるが明確な武器を持っていることに恐怖感を味わいながらなんとか対抗している。

こちらはいつでも片付けることができるがあえて僕は時間をかける。彼女らが「ゴブリンなんて楽勝だ」などと慢心させないために。その慢心がいつか足を引っ張るであろうから。

今回は追い払うのではなく確実に倒すという課題もあるため各自必死になっている。僕はゴブリンを注意を引き付けつつ各自の戦いぶりを見ることにした。そのぐらいは余裕があるということだ。

「なんで、なんで倒れてくれないの」「このっ、このおっ」「倒れて、倒れてよぉ」

彼女たちの戦いぶりは稚拙そのものでありどう武器を打ち込めばいいのかすら考えてない。

彼女らはメイスで何度となくゴブリンを叩いているが奴らは負傷しながらも止まらず攻撃を仕掛けてくる。ダンジョンだけではなく全体的に言えることだが「追い払う」と「倒す」の意味は明確に違う。前者なら逃げればそこまでだが後者は確実に絶命させねばならない。子供ぐらいの相手とは言え命を倒すという苦労は相当なものだ。

運よくラッキーパンチがいつも続くことなどあるわけではない。武器の殺傷力が大したことはないというのも理由の一つだし神官系クラスである彼女らはステータスも低い。神官だから後方にいればいい、戦いに参加しなくていい、援護だけすればいい。などと甘やかす理由は僕の常識には存在しない。

戦うべきときに戦い敵の数を減らせなくては予期せぬ不意打ちを食らうこともありうる。だからこそ戦闘の恐ろしさを嫌というほど覚えてもらう。

戦闘時間が進むにつれて彼女たちの息が上がり始めるがまだゴブリンは一体も倒せていない。こちらはまだ3体を引き付けつつ戦っているからだ。終わらせようと思えば即座に終わらせられるがここはまだ我慢する。息が上がり持つ武器が重く感じ足元がフラ付く。回復の水薬はあるが今それを飲もうとすれば明確なスキを作る。なんとか、何とか一体だけでも倒せれば一人は空く。だが、僕は3体も相手にしているからそれらがこちらにやってこないとは限らない。

しばらく攻防を続けようやくエトナが1体目のゴブリンを倒した。勝利の喜びよりもまずはエトナは持久の水薬を鞄から取り出して息も絶え絶えにそれを口に含む。それを飲み終わるとラグリンネの援護に回った。二人がかりで2体目のゴブリンを倒しラグリンネは持久の水薬を取り出し口にしエトナはライザの援護に回る。それでようやく3体目を倒した。

そのころには僕は2体を倒しあと1体で終了という状況に進めていたので4人がかりで最後のゴブリンを倒した。

ふぅ、とりあえず最初の関門は突破できたかな。

僕以外の3人には勝利の喜びよりも戦闘の難易度の高さのほうが先に来たようだ。

『ゴブリンが…ゴブリンが、こんなにも、恐ろしいだなんて…』

全員の顔から入る前の元気さはなくただただひたすら死線を乗り越えたことだけが見て取れる。外で見かけたゴブリンくらい追い払ったんだから倒すなんて楽勝だ。などという甘い考えは完全に消え失せ自分の無力さを痛感する。そしてその装備も道具も借り物であること、神官だからと後方に控えればいいだけなどありえないこと、回復の奇跡すら使う間もないこと、その他必死になってやらなければ生き残れないことなどを思い知らされた。一応僕が松明を持っていたからこそ敵の姿を確認できたがそれがなかったら本当にどうなっていたか分からない。

彼女らの武器に血糊が明確にへばりついておりそれが戦いの恐怖というものがすぐそばにあることを教えてくれる。彼女らはやるべきことをやり終え口から胃の中の物を吐き戻した。

これも初心者の通過儀礼という奴だろう。何も手出しせずほっとくことにした。

「気が済んだ。なら、さっさと行くよ」

「ぐすっ、ひぐっ」「ううっ、うっうっ」「……」

悲鳴と沈黙。これが世界中に存在する恐怖だ。それはすぐそばに存在する。僕はそれに何の疑問も抱いていないが彼女らからすると異常の極みであろう

「ここでは誰も助けてくれない。助けられるのは傍にいる味方だけ。それを一人失えばどれほど戦闘が困難になるのかを自覚しろ」

残酷な宣言。彼女らから最悪嫌われてもいいぐらいで言わないとこの地獄から生還できないだろう。

彼女らもまた脅威の現実を知り考えを改める。

『(私達は覚悟を決めてきた。決めてきた、はずなのに。こんな地獄と絶望、これが世界中に無数に…だとしたら。平和って何なの。見なかったことにすればいいの?忘れればいいの?こんな事は悪い夢だと逃げればいいの?ううん、違うわ、混沌と戦うというのはこういうことであり負ければどうなるかなど分かり切っている。残酷なルールのもとに生き残りを賭けての殺し合いがこの世界の現実なんだわ)』

お師匠様たちは言っていた。

『平和に生きられる未来は限られている。その人数の席は全体から見れば少なく味方同士で争っている』

巷で語られる「勇者が颯爽と現れて魔王を倒しました」など夢物語でしかありえない、そして敵の数を間引くために犠牲は必ず必要だし生き残らなければ何も語られず誰からも忘れ去られる。不幸にあった、たったそれだけで。

これはまだ私達にとって始まりの一歩でしかなくその先にはもっと恐ろしい存在が待ち受けているだろう。だからこそ今拾った命を手放さないようにしなければ。

多分だが私たちが選んで雇った初心者冒険者程度ではここまで準備を整えられないだろうしいつ死んでいてもおかしくなかっただろう。それを考えればピュアブリングがいかに経験豊富であることを思い知らされる。

3人は嘔吐の後の気持ち悪さを無理矢理抑え込みピュアブリングの後に続くことにした。
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