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『ふわぁー、おはよう』
ライザラグリンネエトナは揃ってベッドから起きる。
まだ名前も聞いてな少年からの残酷な宣言を聞いたのが少し前、それが嘘ではなかったのを確認したのは握らされたお金の重みだった。
私たちは各自思い残すことがないよう豪華な食事をしたり世話になった人に恩返しをしたりを行った。ダンジョンという魔窟に入るための決意を固めるために。
そして昨日、その少年が一人門の前で待っていたことで淡い願いが輪郭を持ち始める。
「あ、来たんだね。そうなんだ、ふーん。後悔がないようにしてきたのね」
こちらを煽るかの用な言動に少し頭に血が上るが多分これはこの子なりの気遣いなのだろう、と思う。ダンジョンの恐ろしさを誇張表現なしに恐ろしいから近づくな、そう警告してるのだ。
自分が無礼な態度を取ることでわざと悪印象を持たせ危険から遠ざけようとしている。私たちはそう判断した。あえて悪役となることで無用な死人を出さないようにしてるんだと。
私たちではどんなに逆立ちしたってマナストーンは手に入らない、人数分揃えるとなるともっと不可能だ。だけどこの子はその可能性に一言も否定をしなかった。私たちはそれに賭けることにした。
で、即座に移動となるが。
「これを足に貼って」
なんだかよくわからないお呪いのようなお札を両足に貼る。そして、
『ぴゃあああああああああ!』
瞬時に恐ろしい速さで引っ張られた。
両手が見えない何かで繋がれているようでバラけることはないがその速度は馬以上、こんな速さで人が動けるはずがない。ないのだが、私たちの足はなぜかそれに対応していた。恐ろしい速さで動く景色を悠長に見れるはずもなくただただ引っ張られて行くだけだった。
そうして、数日はかかるというダンジョンの入り口まで日暮れあたりの時間で到着した。
「ふむ、こんなもんか」
少年は何ともなさそうに呟いた。
私たち3人はもうクタクタのヘトヘトだ。あんな速さと距離なのに潰れることなく踏破した自分たちが信じられない。少年は「今日はもう休もう」そう言って大きめのテント、コテージっていうのかしら。それを即座に建ててしまう。
私たちは中に入るがその中身がマジであり得なかった。
10数人が同時に円を囲むように並べられ近くには調理台と食材などを置いた食材棚などがあり下手な宿屋よりも施設が充実している。
(こういった中を異空間化しスペースを広げている品物や建物がどこかに売られているとはちょっと聞いたことがあるけど。ぶっちゃけそれ一つで数家族が遊んで暮らせる金額なんだけど)
ちょっとした話題で聞いた話の限りではまず庶民が手に入れられる金額じゃないしそもそもどこに売っているのかさえ不明だそうだ。てっきり素朴な野営テントぐらいだろうと考えていたが。
「ゴクリっ」
食材棚にはパンやらチーズやら果実水などがありいかにも美味しそう…
「さっさと食う物食って疲れを洗い流して寝て」
少年はぶっきらぼうに好き勝手にしろとだけ。それで私たちは止まらなくなった。
ガツガツ ムシャムシャ ゴクゴク
棚にあるありったけの食料に手を付けテーブルに置いて食べ尽くすと先ほどの疲れが心持ち軽くなる。さらに2階にあるリフレッシュルームとかに行くとになんと体を洗ったり入浴できるスペースがあることを発見した。全員脱ぐもん脱ぎ捨てて体を洗うことにした。ドアノブのような丸っこいものを捻ると暖かい水が上から噴き出してくる。高価な石鹸も使い放題なので全員で洗いっこし真新しい簡素な服を物色して着る。
3階のベッドルームも豪華でありフワフワで汚れのないシーツが敷かれたベッドに体を落として即座に眠りにつく。
翌朝。
それが良い夢だけのことではないことを現実として認識する。
「おはよう」
少年は一階の調理台でフライパンで何かを作っていた。多分朝食だろう。
ここに来る間に私たちが脱ぎ捨てた服が全部洗われていた。じつはちょっと前から洗ってなくて匂いが気になっていたのだ。どうやら香りのよい洗剤を使用したらしくて良い香りがした。洗剤もまともに買うとお高いし水洗いじゃ限界があるし。
「お、おはようございます」「おはようです」「うにゃ、おはよ」
3者3様に朝の挨拶をする。少年はこちらを気にせずフライパンを火であぶる。
「ほら、朝食だよ」
テーブルにはすでに暖かいパンと果実水とお皿がありそこにフライパンを二つ持ってくる。目玉焼きとベーコンと野菜炒めのようだ。それを人数分切り分けて食べろということだろう。
言葉に甘えてナイフとフォークで切り分けて目玉焼きをパンに乗せベーコンと野菜炒めを皿にとる。それらを取り終わると少年はフライパンをもって調理台に戻る。
「…なに。さっさと食べよ」
「あ、いえ、その」
「信仰厚い神官がいるところでは『天の恵みに感謝』祈りを食前に言うんだっけ。別にそれでいいよ」
「いや、ここまで甘えるのは」「ちょっと、ねぇ」
正直言えばこんなに豪勢な朝食は全員初めてだった。いつもは時間が経過したパンと井戸から汲んだ水ぐらいだったから。お師匠様も「申し訳ないねぇ」いつも悩んでいた。
「代金のことならどうでもいい。どうせ僕のポケットから出せる範疇のものだしね」
ポケットの中から、というのがこの少年の経済力を物語っている。これぐらならいつでも出して当然ということなのだろう。
「まぁ、いつもは食事の奪い合いに必死でまともに《料理》なんて使えなかったから」
結構楽しいものだと。アッサリとした少年の対応がどこか悲し気であったがそれに私たちは気づけない。色々と話したいことはあるがまずは今日一日の始まりが平穏であることを願い食事をとることにした。
「『天の恵みに感謝を』」
いつもより格段に豪華な朝食、何か道が開けたような感じがした。
『えっと、君の名前は?』
朝食が終わり自由時間となり私達は少年のことについて聞くことにした。名前すらも聞いてないからだ。
「ピュアブリング」
自分を育ててくれた老人から付けられた。興味なさそうにそれだけ。
前半のピュアというのは「純粋」「穢れなき」を意味し子供に付ける人は多いし洗礼名としてもつかわれるが後半のブリングとは「殺意ある者」「皆殺しにする」という恐ろしい呼び方で誰もが忌み嫌う呼び方だ。尊い心臓の言葉に直すなら「無垢なる殺戮者」「善意の皆殺し」など表現される。
穢れを知らないまま殺戮を行い、悪意を持たず敵を皆殺しにする…なんという善と悪を両立させた名前だろうか。
「まだなんかあるの」
「えっと」
生まれた国や地方とか村とか、どんな生活をしてきたのかとか、何か目指すものはあるとか、そんなな話題を振るが「それは僕には何の意味もないことだよ」まるで関心がなさそうに答えるだけ。その目はとても濁っておりまるで何も信じてない雰囲気を感じる。
まるで、生きている場所そのものが違うかのように。
ふと、彼の傍に立てかけてある大剣に目が映る。すごく豪華な装飾と紋章、細部にまで手が入れられているお伽話や伝説に出てくるような品物。
見る者を吸い寄せるかのように私たちの視線が集まる。そしてそれは視線ではなく行動へと移り手を伸ばそうと―ーー
「そこまでにしておいて」
ピュアブリングが直前で私たちの手を叩き落として止める。
「力さえ手に入れば願いがかなえられるっていうのは半分正解で半分間違いなんだよ。強大な力には代償が必要、それを打ち消すために地獄を何度も通り抜けなきゃならない、理不尽な絶望に何度も抗わないとならない。この剣の力ならまず間違いなく君達の願いはかなうだろうけど」
その後に破滅が確定する。だから、この剣には手を出すなと。
「君たちが願う秩序は今は小さなものでいいはず。不用意にそれを大きくしないで」
「わ、わたしたちは、その」
反論できない。この少年の目が言っている。
『世界の平和を成し遂げたい?だったら、どれほどの存在を不幸の天秤に乗せればいいと思う』
幸福と不幸の天秤。私たちが助けたい人々さえも天秤にかけられるのかと。かけたくはない、かけたくないけど、平和など容易く崩れてしまうものだ。
「今はまず最優先で達成するべきことを選べ」
その言葉の意味をこれから確認することなのだから。
ライザラグリンネエトナは揃ってベッドから起きる。
まだ名前も聞いてな少年からの残酷な宣言を聞いたのが少し前、それが嘘ではなかったのを確認したのは握らされたお金の重みだった。
私たちは各自思い残すことがないよう豪華な食事をしたり世話になった人に恩返しをしたりを行った。ダンジョンという魔窟に入るための決意を固めるために。
そして昨日、その少年が一人門の前で待っていたことで淡い願いが輪郭を持ち始める。
「あ、来たんだね。そうなんだ、ふーん。後悔がないようにしてきたのね」
こちらを煽るかの用な言動に少し頭に血が上るが多分これはこの子なりの気遣いなのだろう、と思う。ダンジョンの恐ろしさを誇張表現なしに恐ろしいから近づくな、そう警告してるのだ。
自分が無礼な態度を取ることでわざと悪印象を持たせ危険から遠ざけようとしている。私たちはそう判断した。あえて悪役となることで無用な死人を出さないようにしてるんだと。
私たちではどんなに逆立ちしたってマナストーンは手に入らない、人数分揃えるとなるともっと不可能だ。だけどこの子はその可能性に一言も否定をしなかった。私たちはそれに賭けることにした。
で、即座に移動となるが。
「これを足に貼って」
なんだかよくわからないお呪いのようなお札を両足に貼る。そして、
『ぴゃあああああああああ!』
瞬時に恐ろしい速さで引っ張られた。
両手が見えない何かで繋がれているようでバラけることはないがその速度は馬以上、こんな速さで人が動けるはずがない。ないのだが、私たちの足はなぜかそれに対応していた。恐ろしい速さで動く景色を悠長に見れるはずもなくただただ引っ張られて行くだけだった。
そうして、数日はかかるというダンジョンの入り口まで日暮れあたりの時間で到着した。
「ふむ、こんなもんか」
少年は何ともなさそうに呟いた。
私たち3人はもうクタクタのヘトヘトだ。あんな速さと距離なのに潰れることなく踏破した自分たちが信じられない。少年は「今日はもう休もう」そう言って大きめのテント、コテージっていうのかしら。それを即座に建ててしまう。
私たちは中に入るがその中身がマジであり得なかった。
10数人が同時に円を囲むように並べられ近くには調理台と食材などを置いた食材棚などがあり下手な宿屋よりも施設が充実している。
(こういった中を異空間化しスペースを広げている品物や建物がどこかに売られているとはちょっと聞いたことがあるけど。ぶっちゃけそれ一つで数家族が遊んで暮らせる金額なんだけど)
ちょっとした話題で聞いた話の限りではまず庶民が手に入れられる金額じゃないしそもそもどこに売っているのかさえ不明だそうだ。てっきり素朴な野営テントぐらいだろうと考えていたが。
「ゴクリっ」
食材棚にはパンやらチーズやら果実水などがありいかにも美味しそう…
「さっさと食う物食って疲れを洗い流して寝て」
少年はぶっきらぼうに好き勝手にしろとだけ。それで私たちは止まらなくなった。
ガツガツ ムシャムシャ ゴクゴク
棚にあるありったけの食料に手を付けテーブルに置いて食べ尽くすと先ほどの疲れが心持ち軽くなる。さらに2階にあるリフレッシュルームとかに行くとになんと体を洗ったり入浴できるスペースがあることを発見した。全員脱ぐもん脱ぎ捨てて体を洗うことにした。ドアノブのような丸っこいものを捻ると暖かい水が上から噴き出してくる。高価な石鹸も使い放題なので全員で洗いっこし真新しい簡素な服を物色して着る。
3階のベッドルームも豪華でありフワフワで汚れのないシーツが敷かれたベッドに体を落として即座に眠りにつく。
翌朝。
それが良い夢だけのことではないことを現実として認識する。
「おはよう」
少年は一階の調理台でフライパンで何かを作っていた。多分朝食だろう。
ここに来る間に私たちが脱ぎ捨てた服が全部洗われていた。じつはちょっと前から洗ってなくて匂いが気になっていたのだ。どうやら香りのよい洗剤を使用したらしくて良い香りがした。洗剤もまともに買うとお高いし水洗いじゃ限界があるし。
「お、おはようございます」「おはようです」「うにゃ、おはよ」
3者3様に朝の挨拶をする。少年はこちらを気にせずフライパンを火であぶる。
「ほら、朝食だよ」
テーブルにはすでに暖かいパンと果実水とお皿がありそこにフライパンを二つ持ってくる。目玉焼きとベーコンと野菜炒めのようだ。それを人数分切り分けて食べろということだろう。
言葉に甘えてナイフとフォークで切り分けて目玉焼きをパンに乗せベーコンと野菜炒めを皿にとる。それらを取り終わると少年はフライパンをもって調理台に戻る。
「…なに。さっさと食べよ」
「あ、いえ、その」
「信仰厚い神官がいるところでは『天の恵みに感謝』祈りを食前に言うんだっけ。別にそれでいいよ」
「いや、ここまで甘えるのは」「ちょっと、ねぇ」
正直言えばこんなに豪勢な朝食は全員初めてだった。いつもは時間が経過したパンと井戸から汲んだ水ぐらいだったから。お師匠様も「申し訳ないねぇ」いつも悩んでいた。
「代金のことならどうでもいい。どうせ僕のポケットから出せる範疇のものだしね」
ポケットの中から、というのがこの少年の経済力を物語っている。これぐらならいつでも出して当然ということなのだろう。
「まぁ、いつもは食事の奪い合いに必死でまともに《料理》なんて使えなかったから」
結構楽しいものだと。アッサリとした少年の対応がどこか悲し気であったがそれに私たちは気づけない。色々と話したいことはあるがまずは今日一日の始まりが平穏であることを願い食事をとることにした。
「『天の恵みに感謝を』」
いつもより格段に豪華な朝食、何か道が開けたような感じがした。
『えっと、君の名前は?』
朝食が終わり自由時間となり私達は少年のことについて聞くことにした。名前すらも聞いてないからだ。
「ピュアブリング」
自分を育ててくれた老人から付けられた。興味なさそうにそれだけ。
前半のピュアというのは「純粋」「穢れなき」を意味し子供に付ける人は多いし洗礼名としてもつかわれるが後半のブリングとは「殺意ある者」「皆殺しにする」という恐ろしい呼び方で誰もが忌み嫌う呼び方だ。尊い心臓の言葉に直すなら「無垢なる殺戮者」「善意の皆殺し」など表現される。
穢れを知らないまま殺戮を行い、悪意を持たず敵を皆殺しにする…なんという善と悪を両立させた名前だろうか。
「まだなんかあるの」
「えっと」
生まれた国や地方とか村とか、どんな生活をしてきたのかとか、何か目指すものはあるとか、そんなな話題を振るが「それは僕には何の意味もないことだよ」まるで関心がなさそうに答えるだけ。その目はとても濁っておりまるで何も信じてない雰囲気を感じる。
まるで、生きている場所そのものが違うかのように。
ふと、彼の傍に立てかけてある大剣に目が映る。すごく豪華な装飾と紋章、細部にまで手が入れられているお伽話や伝説に出てくるような品物。
見る者を吸い寄せるかのように私たちの視線が集まる。そしてそれは視線ではなく行動へと移り手を伸ばそうと―ーー
「そこまでにしておいて」
ピュアブリングが直前で私たちの手を叩き落として止める。
「力さえ手に入れば願いがかなえられるっていうのは半分正解で半分間違いなんだよ。強大な力には代償が必要、それを打ち消すために地獄を何度も通り抜けなきゃならない、理不尽な絶望に何度も抗わないとならない。この剣の力ならまず間違いなく君達の願いはかなうだろうけど」
その後に破滅が確定する。だから、この剣には手を出すなと。
「君たちが願う秩序は今は小さなものでいいはず。不用意にそれを大きくしないで」
「わ、わたしたちは、その」
反論できない。この少年の目が言っている。
『世界の平和を成し遂げたい?だったら、どれほどの存在を不幸の天秤に乗せればいいと思う』
幸福と不幸の天秤。私たちが助けたい人々さえも天秤にかけられるのかと。かけたくはない、かけたくないけど、平和など容易く崩れてしまうものだ。
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