勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

文字の大きさ
上 下
8 / 87

正と負を成す剣の災厄

しおりを挟む
教会の悪役トリオを言葉で黙らせてから別の場所への旅の準備を始める。

野営の用のテントやら薪やら食料やらを買い込み準備を整える。老人の話では尊い心臓とゴルオング王国に僕の出生の手がかりがあるそうなので当面の目標はそこになるだろう。

地図を買い改めて場所を見ると結構な距離があった。長めの旅になりそうだ。そうして必要なものを買い込み旅の準備を始めてから。

「あっ、冒険者ギルドの依頼を適当に受けておかないと」

自分が冒険者であることを思い出した。

冒険者を現すプレートは改造による改造でもはや意味をなしてないが一応依頼を最低限達成しておかないとならない。適当に薬草やら山菜やらを納品するクエストを受ければいいか。

なので、冒険者ギルドでお手軽で楽なクエストを受けて達成しておくことにした。

冒険者ギルドの建物に向かい掲示板に張られている依頼で手間がかからず楽なものを選びだす。まぁ、僕にとっては何の問題もない依頼であった。

そうだ、久方ぶりに自分の持つ異空間にでも行ってみようか。

「《開門》」

そこは僕だけが持つ特殊な幻想空間だ。莫大な量のハーブやら武具生活に必要な溶鉱炉や鍛冶場、それ以外にもいろいろな設備が揃っており道具や装備の作成には困らない。

久方ぶりに入り回復の水薬や持久の水薬などを作ってみることにした。ハーブなどを採取し井戸で水を汲んで機材を使い調合する

「うん、腕前は落ちてないようだね」

ランクは1から10まで等級あり上に行くほど効果が高い。できたのは3等級だった。下手な奇跡よりも格段に効果が高いだろう。いざという時もあるのでしこたま作っておくことにした。

しばらくそうしていると。

「ちょっと作りすぎたかも」

水薬が棚積みになった。それもいくつも。売るという手もあるが足がつくと面倒なのでこのまま保管することにするか。

それが終わり門番にお金を払った後旅に出ることにしたのだが入口を出た後にすぐに問題が起こった。

『……』

「これはこれは神官様方に異端審問官様に免罪符売り様、皆様方が外にてお出迎えとはご苦労様です」

前回僕に難癖をつけてきた連中がまた顔を出してきた。それも大人数で。まぁ、まともなたぐいの話ではないだろうし門番も我関せずという態度を崩さない。

何の要件かについては顔ぶれを見たらわかるが一応聞いておくことにした。

「これからほかの場所に向かうのですが」

『……金を出せ』

「えーっと、何のことでしょうか」

『金だ!金を出せ。今すぐに全てを!』

おいおい、無能神官らだと思ってたけどクズの方なんだね。はぁー、こういった手合いと接点がないほうが望ましいのだが。彼らからすると『金が正義』なのだろう。腐敗と堕落に身を落とした連中のなんと浅ましいことなのだろうか。

『貴様の、貴様のせいで、我らは破門になってしまったんだぞ!その責任を取れ!今すぐにだ』

全員が血走った目をしていた。

以前から聖職者にあるまじき対応を繰り返して評判が悪いところに僕の正論でその間違いを指摘されてしまい上の方々から叱責されたのだろう。それでも改心しなかったから破門にされたのか。

まぁ、こういった連中が混ざっているのも教会という組織の陰なんだろうけどそれを僕にぶつけられても困るんだけど。

「まず武器を捨てろ」

はいはい、言う通りにしますよ。背負っていた剣を鞘ごと相手のほうに放り投げる。それを確認した連中は僕を完全包囲した。

(皆殺しは容易いけどどうしたものかなぁ…)

大人数に囲まれても僕は慌ててなかった。剣は《念力》を使えばいつでも手元に戻ってくるため慌てる必要などないが、ここで老人の言葉を思い出す。

『いいかい、この剣を誰にも渡してはならないからね』

他者がこの剣を抜けば災厄だけが無数に広がるから、だから、何とかしてこの状況でも相手に剣を抜かせないように努力することにした。僕は両手を上げて降参の意を示すことにしたが、

「ひひひっ、これだけ豪華な鞘に収まった剣だ。さぞかしすごいんだろうさ」

欲深な一人が剣に目を付ける。剣は鞘ごと相手の陰に隠れてしまい注意を怠った。そして、その欲深な一人が豪華な鞘に収まった剣を見て興奮し抜き放つ。

「よし、貴様を異端者として断罪を・・・え?」

ザシュッ バシュッ ズバッ

僕の剣を抜いた男が異端審問官を一振りで切った。それ以外にも同胞と思われる者たちまで手当たり次第に。その刀身からは妖しい輝きが溢れ出し持ち主の目を爛々と輝かせる。

「き、きさま!なにをす」

「五月蠅い!いつもいつも金をむしり取る貴様が憎い。貴様の富はすべてもらい受ける」

剣を手にしたそいつは悪魔にでも魅入られたのか、仲間を次々と惨殺していく。神官らは抵抗するが武器の能力が違いすぎて手に負えない。

「あはははははははははぁ!すばらしい、すばらしいぞ。この剣さえあればどのような望みも思うがままだ!」

剣に魅入られたその男はひたすらに殺戮を繰り返す。剣の銘は《富と咎を成すもの》まさに仲間の富を奪い尽くさんと咎の限りを尽くす。

堕落した神官らは抵抗するが強力な守りに阻まれ何もできずにやられていく。さすがの門番も我関せずとはいかず仲間を呼び集めるが狂気に魅入られたその男は止まらず次々と殺していく。

しばらくしてあの神官が所属していた教会の連中がやってきた。

「な、なんなの、これ…」

そこには仲間らの無数の死体が転がり血の海が出来上がっていた。

「あはぁ、あはははあはあはぁ。お前らはいつもいつも偉そうに講釈を垂れている神官どもだなぁ!」

剣の狂気は収まるところを知らず他の仲間らにも手にかけようと狙いを定めた。

「みんなみんなみんな死ねぇ。俺の、俺の富を奪うやつらを、み、みな、みなごろしにぃ」

支離滅裂な言葉を吐きながら狂気を向けるその相手と以前埋葬を依頼した僕がいることを神官らは確認すると状況を聞こうとする。

「あれはいったい何なのですか。まるで人が変わったかのように」

さすがの神官らもこんな場所で殺戮をおこなっている元同胞に対して心を痛めているが以前から悪法を用いて金稼ぎをしていることも理解していた。だが、ここまでのことをしでかすとは考えてもいなかったのだろう。

妖しい輝きを放つ剣を握りしめ狂気に駆られた男はゆっくりこちらに近づいてくる。

「な、なんとか、説得を」

「無理。諦めて」

「あなたは以前埋葬をお願いした方ですね」

「あの剣に魅入られたが最後願いを果たし終えるまで止められないしかかわる人間すべてが不幸になるだけ」

「そ、それならば剣を取り上げれば」

「取り上げても別の誰かが魅入られ同じことになる」

「あはははああああははははああああ、いつもいつも俺たちを蔑んでいる屑どもにし、しゅ、しゅく、せい、い」

剣を持った男はこちらを無視して市街地に入ろうとしている。神官らは止めようとするがあの剣の恐ろしい気配を見て動けずにいた。

そうして、だれも止められないまま狂気を宿した男は市街地に入ってきた。

後はもう理解できるでしょう。

そう、彼は自らに関わってきた連中をことごとく殺害し尽くした、蔑みや侮蔑や自分に対して対応が悪いと感じる全員とその周りにいる存在すべてに。願いを果たした後彼の体は砂と化してしまう。だが、剣の呪いはそれだけにとどまらず彼と彼に関わる9族すべてに死の烙印を刻み付けた。

突然死の烙印が刻まれた連中は大混乱しどうにか呪いの浄化を試みるがすべてが無駄に終わってしまう。

相手全ての富を奪い尽くす代わりに自らと9族全てに破滅をもたらす正と負の両面を持つ剣、そのおぞましき側面をむき出しにしたのだ。

その後僕は剣と鞘を回収して二度と他人の手に渡らないように厳重に管理することを課す。逃げるようにその場を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイエルフの幼女は異世界をまったりと過ごしていく ~それを助ける過保護な転移者~

まぁ
ファンタジー
事故で亡くなった日本人、黒野大河はクロノとして異世界転移するはめに。 よし、神様からチートの力をもらって、無双だ!!! ではなく、神様の世界で厳しい修行の末に力を手に入れやっとのことで異世界転移。 目的もない異世界生活だがすぐにハイエルフの幼女とであう。 なぜか、その子が気になり世話をすることに。 神様と修行した力でこっそり無双、もらった力で快適生活を。 邪神あり勇者あり冒険者あり迷宮もありの世界を幼女とポチ(犬?)で駆け抜けます。 PS 2/12 1章を書き上げました。あとは手直しをして終わりです。 とりあえず、この1章でメインストーリーはほぼ8割終わる予定です。 伸ばそうと思えば、5割程度終了といったとこでしょうか。 2章からはまったりと?、自由に異世界を生活していきます。        以前書いたことのある話で戦闘が面白かったと感想をもらいましたので、 1章最後は戦闘を長めに書いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします

ねこねこ大好き
ファンタジー
新庄麗夜は身長160cmと小柄な高校生、クラスメイトから酷いいじめを受けている。 彼は修学旅行の時、突然クラスメイト全員と異世界へ召喚される。 転移した先で王に開口一番、魔軍と戦い人類を救ってくれとお願いされる。 召喚された勇者は強力なギフト(ユニークスキル)を持っているから大丈夫とのこと。 言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど チートが山盛りだった。 対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」 それ以外はステータス補正も無い最弱状態。 クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。 酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。 「ことばわかる?」 言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。 「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」 そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。 それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。 これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。 ------------------------------ 第12回ファンタジー小説大賞に応募しております! よろしければ投票ボタンを押していただけると嬉しいです! →結果は8位! 最終選考まで進めました!  皆さま応援ありがとうございます!

解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される とあるところに勇者6人のパーティがいました 剛剣の勇者 静寂の勇者 城砦の勇者 火炎の勇者 御門の勇者 解体の勇者 最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。 ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします 本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。 そうして彼は自分の力で前を歩きだす。 祝!書籍化! 感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...