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出会いは鉢植えのお花の傍で
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とある朝、とある時間、とある出来事から物語は始まる。
「縁、縁」
「はいお母さん、僕はここですよ」
庭の一角、鉢植えに植えている花の世話をしている僕は母の呼びかけに答える。
「まったく、あなたは」
母はどこか心配そうな顔をしている。
「お花の世話は確かに大切でしょう、でも、もっと大切なことがあるはずですよ」
「それって進路のことですか?」
ちょっと首を傾げる。
「入学先にはもうA判定と推薦を貰っているとはいえやるべきことは多いはずです」
たしかに、まだ少し先とはいえ出来ることはまだあるはずだ。今日は学校はお休みなのでそれに向けて勉強をしろと言うことだろう。
「今日はお父さんもいますからね」
「はーい」
お花への水やりを終えて母と共に台所へ向かう。
「縁、おはよう」
「おはようございます」
家族そろって食事の席に着く。
僕のお父さんは植物学者兼園芸師だ、趣味で昆虫採取をしている。母はそこそこの農家を経営している。ごく普通のありふれた農業を仕事としている家だ。
そんな僕は「式守縁」という。ごく普通の、ごくごく普通の少年だ。外見もごく普通、特徴らしい特徴は無い。あると言えるのは植物を愛でるのが好きというくらい。
「さて、まずはこれを食べなさい」
テーブルには何かお饅頭があった。とにかく口にしてみるとほんのり甘かった。
「これは?」
お父さんに聞いてみる。
「ふっ、これはコオロギを粉末にしたものを混ぜ込んだものだ」
「へーっ」
コオロギの粉末を混ぜた食べ物、って聞くとゲテモノの類のように聞こえるかもしれないが近年では世界の人口増加で食料危機がにわかに騒がれておりタンパク質を確保するため代替品が求められている。食用昆虫が近年注目を浴び始めそれを使った商品が開発されているとか。
なるほど、そのままだと難しいが跡形もないほど粉末にしてしまえば違和感なく食べられる。味も結構良いし。
「昆虫とて大自然の中に生きている存在、それをうまく活用することを忘れてはならないよ」
「はい」
「大自然の恵みなくして世界は成り立たないのだから」
念押しされる。
父も母も自然崇拝者であり、金属文明をあまり好き好んでいない。最低限必要な農機具とかパソコンとか電話とかはあるがあくまで最低限にしている。子供の僕にはゲーム機すら買ってはいけないと釘を刺しているほどだ。なので、友達の話題には全くついて行けないがそれで困ったことはほとんどない。なぜならこの辺りは農業が非常に盛んな地方であり肉体労働が当たり前だからだ。ゲーム機より体を動かす遊びの方が人気がある。ちなみに、僕は剣道を習っている、腕前はあまり芳しくはないけど。
両親のことは尊敬していて大切に思っている。
さて、両親の用事は終わったのでお花の世話に戻ろうか。そうして鉢植えの所に戻ると、
「あれっ?」
鉢植えの近くに少女を見つけた。
朧気で儚く瞬時に消えてしまいそうなほどに弱弱しいその姿はまるで幽霊のようだ。
「ねぇ?きみ、どこから入ってきたの」
個人の家に不法侵入は犯罪だよ、そう注意しようとしたが。なぜかその少女は僕が育てている鉢植えから離れようとしなかった。
…疑問はあるが、鉢植えに何かこだわりがあるのか考えゆっくりと近づく。
「その鉢植えが気になるの?」
少女は「コクリ」首を縦に振った。気が合いそうだと判断して一緒に鉢植えを眺める。
「この子、すごく力強く生命力に溢れている。それに、とても愛されているのがよくわかるわ」
「わかるんだね。うん、この花は数世代に渡って育ててきたんだから!」
この花は別に珍しい品種ではないし特別な要素は無い。僕が小さいときにありったけのお小遣いで買ったものだ、それを何世代も大切に育て続けたのだ。商品としては価値は無いも同然だが分かる人には分かる。
二人でその花を見ていると―――
「貴方なら、救えるかもしれない」
「えっ?」
少女の呟きを拾う。
「ねぇ、お願いがあるの?」
聞いてくれる、と。
「内容にもよるね」
おぼろげな少女の声は今ハッキリと聞こえる。
「私が守っている場所があるの。そこにある森を守ってほしい」
「森?」
森なんてどこにでもあるでしょ?だが、少女首を横に振る。
「いま私の世界では森はどんどん無くなっているの。金属を生産するために」
金属…か。確かに、燃料となる木材は大量に必要になるはず。森を守れっていっても個人の力じゃどうにもならないと思うだけど。
「この花を見て確信したの。あなたなら、きっと」
救えるはずだ。
「君は誰?」
聞いておかなければならない。
「私はこのお花に惹かれてここに来たただの案内役」
案内役?どういう意味だろうか。
「貴方に来てもらいたい異世界があるの!」
異世界?え~と若者向け小説にありがちなお話の中の世界のことか?大抵その世界では「主人公最強!」とかになると思うが。
「僕は英雄になんて興味がないよ」
「英雄になんてならなくてもいい」
成らなくていいなら何になればいいのか?
「この花を育てたようにしてくれればいいだけ」
要するに園芸をやってほしいみたいだ。それならお得意だ。僕は少しだけ悩んだ。家族のこと友達のこと先生のこと育てているお花のことなど。でも、それよりも大事なことをこの子を言っている。それを信じることにした。
「いいよ、君の言うとおりにする」
そうして、眩い光の世界に飛び込んだ。
「縁、縁」
「はいお母さん、僕はここですよ」
庭の一角、鉢植えに植えている花の世話をしている僕は母の呼びかけに答える。
「まったく、あなたは」
母はどこか心配そうな顔をしている。
「お花の世話は確かに大切でしょう、でも、もっと大切なことがあるはずですよ」
「それって進路のことですか?」
ちょっと首を傾げる。
「入学先にはもうA判定と推薦を貰っているとはいえやるべきことは多いはずです」
たしかに、まだ少し先とはいえ出来ることはまだあるはずだ。今日は学校はお休みなのでそれに向けて勉強をしろと言うことだろう。
「今日はお父さんもいますからね」
「はーい」
お花への水やりを終えて母と共に台所へ向かう。
「縁、おはよう」
「おはようございます」
家族そろって食事の席に着く。
僕のお父さんは植物学者兼園芸師だ、趣味で昆虫採取をしている。母はそこそこの農家を経営している。ごく普通のありふれた農業を仕事としている家だ。
そんな僕は「式守縁」という。ごく普通の、ごくごく普通の少年だ。外見もごく普通、特徴らしい特徴は無い。あると言えるのは植物を愛でるのが好きというくらい。
「さて、まずはこれを食べなさい」
テーブルには何かお饅頭があった。とにかく口にしてみるとほんのり甘かった。
「これは?」
お父さんに聞いてみる。
「ふっ、これはコオロギを粉末にしたものを混ぜ込んだものだ」
「へーっ」
コオロギの粉末を混ぜた食べ物、って聞くとゲテモノの類のように聞こえるかもしれないが近年では世界の人口増加で食料危機がにわかに騒がれておりタンパク質を確保するため代替品が求められている。食用昆虫が近年注目を浴び始めそれを使った商品が開発されているとか。
なるほど、そのままだと難しいが跡形もないほど粉末にしてしまえば違和感なく食べられる。味も結構良いし。
「昆虫とて大自然の中に生きている存在、それをうまく活用することを忘れてはならないよ」
「はい」
「大自然の恵みなくして世界は成り立たないのだから」
念押しされる。
父も母も自然崇拝者であり、金属文明をあまり好き好んでいない。最低限必要な農機具とかパソコンとか電話とかはあるがあくまで最低限にしている。子供の僕にはゲーム機すら買ってはいけないと釘を刺しているほどだ。なので、友達の話題には全くついて行けないがそれで困ったことはほとんどない。なぜならこの辺りは農業が非常に盛んな地方であり肉体労働が当たり前だからだ。ゲーム機より体を動かす遊びの方が人気がある。ちなみに、僕は剣道を習っている、腕前はあまり芳しくはないけど。
両親のことは尊敬していて大切に思っている。
さて、両親の用事は終わったのでお花の世話に戻ろうか。そうして鉢植えの所に戻ると、
「あれっ?」
鉢植えの近くに少女を見つけた。
朧気で儚く瞬時に消えてしまいそうなほどに弱弱しいその姿はまるで幽霊のようだ。
「ねぇ?きみ、どこから入ってきたの」
個人の家に不法侵入は犯罪だよ、そう注意しようとしたが。なぜかその少女は僕が育てている鉢植えから離れようとしなかった。
…疑問はあるが、鉢植えに何かこだわりがあるのか考えゆっくりと近づく。
「その鉢植えが気になるの?」
少女は「コクリ」首を縦に振った。気が合いそうだと判断して一緒に鉢植えを眺める。
「この子、すごく力強く生命力に溢れている。それに、とても愛されているのがよくわかるわ」
「わかるんだね。うん、この花は数世代に渡って育ててきたんだから!」
この花は別に珍しい品種ではないし特別な要素は無い。僕が小さいときにありったけのお小遣いで買ったものだ、それを何世代も大切に育て続けたのだ。商品としては価値は無いも同然だが分かる人には分かる。
二人でその花を見ていると―――
「貴方なら、救えるかもしれない」
「えっ?」
少女の呟きを拾う。
「ねぇ、お願いがあるの?」
聞いてくれる、と。
「内容にもよるね」
おぼろげな少女の声は今ハッキリと聞こえる。
「私が守っている場所があるの。そこにある森を守ってほしい」
「森?」
森なんてどこにでもあるでしょ?だが、少女首を横に振る。
「いま私の世界では森はどんどん無くなっているの。金属を生産するために」
金属…か。確かに、燃料となる木材は大量に必要になるはず。森を守れっていっても個人の力じゃどうにもならないと思うだけど。
「この花を見て確信したの。あなたなら、きっと」
救えるはずだ。
「君は誰?」
聞いておかなければならない。
「私はこのお花に惹かれてここに来たただの案内役」
案内役?どういう意味だろうか。
「貴方に来てもらいたい異世界があるの!」
異世界?え~と若者向け小説にありがちなお話の中の世界のことか?大抵その世界では「主人公最強!」とかになると思うが。
「僕は英雄になんて興味がないよ」
「英雄になんてならなくてもいい」
成らなくていいなら何になればいいのか?
「この花を育てたようにしてくれればいいだけ」
要するに園芸をやってほしいみたいだ。それならお得意だ。僕は少しだけ悩んだ。家族のこと友達のこと先生のこと育てているお花のことなど。でも、それよりも大事なことをこの子を言っている。それを信じることにした。
「いいよ、君の言うとおりにする」
そうして、眩い光の世界に飛び込んだ。
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