どんな相手とでも互角に戦える能力をもって異世界に転移したら自分のヤバさに気づかない

無謀突撃娘

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極寒の大陸編

同族を発見するがそれは敵だった

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後から入ってきた者らへの意思統一も大体終わり各自仕事を分配し食料を配給し病人を治療したりと、僕は忙しい。

前科の訓練からの反省をフェリスゥマグナもインティライミも火力任せの攻撃を不用意に使わず確実に全体の戦闘能力の底上げを目指すようになっていた。特に両名の明確な弱点である近接戦闘を駆使する立ち回り方をモンスター相手に積極的に行っている。

今の自分らに大火力の一撃必殺よりも確実に命中する戦闘技術の習得が最優先だと自覚できたようだ。その分だけ時間はかかるが長期的に見ればいい傾向だしそれで多少コロニーへの食料供給が遅れることも肝に銘じている。

『私達よりステータスやスキルで上回る相手なんていくらでもいる、それを出し抜くためにも』

この点に関しては全く対等になれる僕の影響が強い、同じステータスとスキルのはずなのに発想と行動は数歩先を行っている。それだけで勝敗の明暗が分かれてしまうことがよほど強烈に印象に残ったのだろう。

二人がそう決意してるのならそれ相応に行動に移すことにした。

以前から懸念材料だった植物の生産サイクルを短くする。時間にして24時間程度だがこれだけでも随分ありがたい効果だろう。

二人が戦闘を終えてモンスターを倒しその死体を虚空庫に入れて次の獲物を探す。

フェリスゥマグナは飛行しインティライミは先行する。

3体倒してコロニーに戻る途中のお話。

「そろそろ解体用の刃物が必要だよね」

「そうですわね。もう尖った骨程度では厳しいものがありますわ」

「でも、ここにあるのは硬い岩盤だけだよ。掘り出すのも大変だし形にするのも一苦労」

「さすがに武器としてはともかくとして」

「ミソギが私達に用意した分だけでも結構生傷出来ましたよね」

「あれば助かりますけど、あの洞窟の中から掘り出すのは厳しいですよね」

それについてはある程度予測済みだ。

「野菜を取る区画とは別に木を植えておいたからそろそろ成長済みになるはず」

『木材で作って刃物になるんですか?』

普通に考えたら不可能だが神々のサインを限定的にすれば何とかなると思う。二人からすればひっくり返るかもしれない解決策だ。

持つ人物はちゃんと厳選しないとならないが。

コロニーに戻ると居住区が慌ただしかった。

「ミソギ、調査隊の結果報告が届いた」

確認すると同族の集まっている場所を見つけたそうだ。

「迂闊な接触はしてませんよね?」

「もちろんだ」

「前回のことがあるからのぅ」

「御使い様の判断を仰ぎたくて」

人数は200人をちょっと超えるそうだ。

「無理です。それを入れたらどうしようもありません」

「我らもその結論で纏まっているのだが」

「後から来た者らが一部騒いでおるのだ」

「自分達が助けられたように今度も、と」

やっぱり人道的判断から来る問題だ。命を救うことが先走り自分らの恵まれた待遇を損なうという事に理解が乏しい。

「僕の力を用いれば等しく救済可能だとは思わせるなと、忠告していたはずですけど」

命を狩ることと生み出すことは=にはならない、時間が必要なのだ。今現在さして備蓄すらない状況なのに受け入れたら大変なことになる。もう言えることは一つだけだ。

『受け入れたら一人分の食事を三人で分け合う、配給時間は倍に伸びることになる』

具体的な数字だ。

これに関しては両種族の代表者に言ってもらうしかないだろう。奴らに都合のいい存在にならないためにも、心を鬼にする。

『そんな残酷な答えなんて!』

やはり御使い様ならば受け入れてもらえる、そんな甘い夢を手に入れようとしていたようだ。

「残念だがそれが答えだ。御使いとて与えられるものには限りがあるのだ」

「今現在の備蓄の量をよく考えておらぬな。居住区も満杯じゃ。これでどうやって受け入れられると」

『御使い様の力なら可能では!』

「受け入れたいのなら住民を追い出すしかない」

「お前らが追い出したい相手を選べ」

『そ、それは…』

つい先ほどまで親しくしていた相手を自分らでこの過酷な大陸へ追い出せと、選択を迫る。

『自分達は、弱くて、庇護が必要で』

「その庇護を自分らで否定しておるではないか」

「苦労せずに誰かを助けられると考えるな」

『じゃ、どうすればいいんですか!』

答えは一つ。自力で助かるしかない、それが無理なら諦めろ、それだけだ。自力で助かればその分だけ命のスペースが空くのだから。

『御使い様がそんなことを言うはずがない!』

「本人が言えぬから我らがその心中を察して言っているのだ」

「わしらとて苦しいよ。でも、今現在の自分らを見て考えろ」

何もかもが足りないのに他人を救う?お前は何様だ。他人を救うためなら自分らが餓死してもいいのか。共食いの悪夢を思い出せ。あれに戻りたいのか?ここに逃げこむ前に見捨てた同胞を忘れたのか?それともお前ら御使い様や族姫らの代わりにモンスターと戦いその死体を持って帰って来てくれるのか。

それだったら問題ない。

ここに入れる時のルールをもう忘れたのか、危険な思想を持つな、と。

『ど、同族の、窮地を、助けたいだけで』

「その結果として自分達が窮地に落ちるのなら危険だ。即刻排除しなければならない」

「お前らの考えは都合のいい言い訳じゃ。実際に問題としてみたら下策じゃよ」

もし、それを伝えようとしたら追っ手を放ち始末するだけ。今現在のコロニーではもう空きは無いのだから。前回の暴君の行動のせいで食料が枯渇したことを思い出せ。相手が何を考えどう行動してるのかも分からないのに同族だから助けるべき、などとほざくな。お前らはその時どうしてたんだ。

何もできす言いなりだったじゃないか!昨日の今日のことなのに!その結果として犠牲者だけが早く増え続けていたのだ!

『……わ、我らは……』

「我らとて思うところはある。だが、暴君が支配する場所を作りたくないだけなのだ」

「中の様子を確認できるまで様子見という事じゃ。助けんとは言っておらぬ」

それで、騒いでいた連中は黙るしかなかった。

「不満は出たけど自分らが危険思想の持ち主だと、状況を分からず暴走する危険性は出来る限り小さくした、そんなところかな」

「うむ、現在状況を確認させるために密偵の選別をしている」

「また暴君が現れて言いなりになる未来は望まないというところじゃのぅ」

「もし、最悪の事態なら、どうしますか」

最悪の事態とは、同族を選民思想で選び家畜や奴隷にしている場合だ。

『その時は皆殺しにするだけ』

「そうなりますよね」

両族長は断言する。僕と二人の族姫が出張るしかなさそうだ。

「あの子達には同族殺しの罪を背負わせたくはないが」

「このような非情な判断も出来ねば今後も危ういからのぅ」

外界には数多の種族が生活しておりどんな意識を持っているのか分からない。いざという時は容赦なく敵を切れる感情も必要になるか。

「あとは、偵察員の調査次第ですね」

その前にコロニーの防御力を底上げしておくか。建物の各所に『堅』のサインを刻んで壊れにくくしたり物見塔のようなものを建築して防衛力を高めておく。これまでのように生活空間だけでは心許ないからだ。

しばらく待つと、偵察員が帰ってきた。

「……」

偵察員は無言であった。得るものがなかった、いや、僕には全て分かってしまうのだ。

「フェリスゥマグナとインティライミを呼んできて」

火事は早めに鎮火させるに限る。

両族長はそれでもう中身が分かってしまったのだろう、無言で二人を呼びにいった。

「族長、直々にお呼びとは火急の事態ですか?」

「本日分の食料調達を済ませてないのに?」

二人はまだ何も知らない。

これから凄惨なことに手を染めなければならないことに族長らは真剣に悩んでいる。だから僕が発言する。

「二人とも、敵が、現れた」

『?!』

二人にはここより少し離れた場所にいる同族らの居場所に調査員を派遣していることは聞いている。そして、敵というキーワード、それを僕から言ったこと、それでおおよその事態を思い描けたのだろう。

前回と同じ連中、それも、遥かに規模が大きい、相手だ。

「僕一人でもいいんだけど」

『いえ、同行させて、いただきます』

前回は二人が関わったのは捕縛まで、殺しはさせてない。

「じゃ、事前に決めていたとおりにいたします」

『誠に済まない』

そうして、同胞が住まう場所まで向かう。

「ついに、実戦ですわね」

「こんな形は望んでないですけど」

二人は複雑なのだろう。ようやく光明が差し込み始めている段階なのにそれをぶち壊すのが他ならない同胞だという事に。

目を閉じ耳を塞ぎひたすら敵を切れ、それ以外かける言葉が無い。

『生き残りの確保は?』

「絶対にしてはならない」

二人の質問に冷徹に答える。

抑圧する側もされる側も心が歪んでいるからだ。一度歪んだ心は容易には戻らない。どこかで間違いを起こすのだ。

そんな邪悪に育つ芽は迅速に摘み取らないと。

しばらく雪の降る場所を進み現場に到着する。

『うぇっ』

二人は口元に手をやり吐き気を抑える。

周囲一帯に散乱する汚物、そして、人だったものの山、状況は予想よりヤバいようだ。

「ここから先は相手のことを考えるな」

『はいっ』

やや血の気が引いた二人は何とか答えてくれる。もうそれぐらい救いようがなかった。くそっ、生命とやらの業はどこもかしこもこうなのだ。やってられないや。

敵が住んでいたのは毛皮で作られたテントだった。敵が気づいてないうちに先制攻撃させてもらう

「『赤』色を生み出す御剣よ、紅蓮の炎で敵を焼き尽くせ!」

「『黒』色を生み出す御剣よ、災いなる者を亡ぼす闇で覆い隠せ!」

二人の御剣から放たれる二色は敵のいる場所を覆い尽くす。赤い炎が焼き尽くしそれを黒い闇が覆い隠す。

『ぎゃぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあ?!?!』

大小様々な阿鼻叫喚の叫び声、突然の広範囲攻撃に何も対策できず息絶える。とはいえ、生き残りもそこそこいるようだ。

二人の放つ色が消え生き残りが現れる。

「な、なんだ、貴様ら。尊い血族の末裔たる我ら、ど」

「『紫』色を生み出す御剣よ、相手を沈黙させろ」

これでもう罵詈雑言を聞くことはない。

フェリスゥマグナとインティライミは全力で攻撃し続け数分足らずで皆殺しを終えた。

「ここまでする必要あったのでしょうか」

「そうですね。もっと話し合いも出来たのでは」

二人の疑問ももっともだが、それが許される段階を越えていることを確認させることにする。

中に進み建物らしき場所に入る。

『うっ、これは…その…なんなのでしょうか?』

単純明快に言えば人体実験の器材と材料の山、奴らここで同族らを対象に違法な投薬や肉体改造をしていたのである。ぶっちゃけ原型が分からない状態にあり設備で生かされているような存在もいた。

「末期的な支配者が手を出す冒涜的な人体実験だよね」

「なんてひどいことを、これでよくこのような場所が残ってましたわね」

「何という命を冒涜するような行い、生きるために仕方なくではなくて」

「うん、先祖代々の備蓄を消費して研究に充ててたんだよ。食料も材料も乏しいのに」

生き残りの実験体は全部僕が処理する。

「彼らはもう人には戻れない。安らかに天国にいけるのが慈悲だ。せめて輪廻転生が上手く行くように祈ろう」

『…はい…来世に…幸あれ…」

二人は手を合わせて真剣に来世への祈りを捧げる。

最悪なものを見てしまった。同胞が共食いしてまで生き残ろうとしていたのにその近場で行われていた非道な行為に二人とも何も言えないのだろう。

本当に、嫌になる現実だった。
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