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極寒の大陸編

後からやってきた同族(馬鹿)の処分方法

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いきなり300近い人数を受け入れてしまいコロニーはパンク寸前だった。居住区画はギリギリだし何より食料が足りないのだ。

後から来た連中の多くが厳しい状況下で生き抜いてきているため寒さを凌げるだけでもありがたいと思っている、が。それすら分からない馬鹿も存在している。

余分な食料など存在しないにも関わらず要求する連中だ。

「あのお馬鹿、今回も都合よく逃げ出しましたわね。いい加減現実を見ておいた方がいいですわよ」

「あの取り巻き共も煽てることしか知らない無能。さっさと死んでください、そうすることが救いです」

フェリスゥマグナとインティライミは怒りの沸点を越えようとしていた。ここはミソギが身を隠している洞窟だ。

僕が用意していた生命の種子の植物の果実などでは配給が追い付かず崖っぷちで食いつないでいる、なのに奴らは要求してくるのだ。

「心中お察しします」

「あの馬鹿どもは今回も失敗したんですよ。もう五回目です、ミソギがいてどうにか回るのがギリギリなのに」

「食料は完全に無くなりました。このままでは共食いの過去へ戻ってしまいます。もう限界です」

二人は陽動役を請け負っているがそれでも倒せない。というか、致命傷すら珍しいそうだ。

「で、決断できるの?」

根回しは終えたのか、その確認を取る。

「あいつらの行動には他も大変頭を悩ませていたようであっけなくこちらに寝返りました。馬鹿を殺害しても何の問題もありませんわ」

「仲間を売るというのは入念な準備と徹底的な後始末が必要なんですけどね。共食いする過去には戻りたくないという事でしょうね」

そっか、あいつらは仲間から売られるという考えすらなかったのだな。

「じゃ、殺害はぼ」

『お待ち下さい』

僕がやろう、その発言が止められる。ん?何かまだ使い道があるのかな。

「御使いが舞台に現れるにはそれ相応の条件が必要です」

「殺害自体は簡単ですけど。その後の意思統一を考えると」

なるほど、彼女らなりに考えがあるのか。じゃ、それに乗ることにしようか。その後の食料分配も出来るように準備しておいたからね。

とりあえず馬鹿サイドに移ろうか。

「なぜだ!なぜ俺様が非難の目を向けられる!こんなのはおかしいぞ!」

ヴァンパイア族の首領(勝手にそう言ってるだけ)は周囲から厳しい視線を受けていた。

これまで厳しい状況下でヴァンパイア族とダークエルフ族は何とか協力しながら生き延びていた。ここから離れた場所にある洞窟で身を寄せ合いギリギリの寒さに耐えながら。元論、共食いをしながら、だ。

そうした状況下で罪悪の念に駆られてでも生き残りをしており皆一様に希望のない時間を過ごしていた。

その生き残りの中にいたのがこいつだ。

生き残り達は極寒の中で何とか集団でモンスターを倒すことをしておりそれでギリギリだった。それを率いていたこいつは自信過剰でエゴが強く他者を見下し同族殺しに忌避感を持ってなかった。

ところが、ある時を境に肉体能力が向上してモンスターを単独で倒してしまった。これをきっかけとして自分が「選ばれた」のだと錯覚しむやみやたらにモンスターに攻撃するようになる。

実際はミソギによって因果の戒めを断ったことによる影響があっただけなのだが。すぐさまモンスターの報復に会い洞窟に殺到し逃げ出すしかなかった。

こいつはモンスターをソロで倒したことで自意識過剰になったが実際はモンスターが弱い上に衰弱しきっていたのが原因だ。ミソギが相手にしていたのとは質が違いすぎる。

こいつが原因で居場所を失って逃げていたら同胞らの声を聞いてコロニーに逃げ込んだだけ。

こいつはコロニーの中を見て驚くと同時に野心が芽生えた。いずれ自分らをここに追い込んだ連中に報復すると。

そのためには食事を取ることだ。さらに高みに上るために。

そのコロニーの食料は予想より多かったが全員に分配するにはモンスターの討伐が必須、ここで自分のやってきたことを宣伝しいずれここを掌握することを望む。

だが、そうはうまくいかないものだ。

先住民からすれば族長の決断とはいえこんなに受け入れては食料などあっという間になくなる。彼らが働ける世代が多いことから受け入れただけで内部の意思決定は済んでいた。

『同族とは言えよそ者は何を考えているのか分からない。後から来る連中は受け入れがたい』

ミソギという御使いのおかげでようやく光明が差し込んでいる最中に過剰な人数は入れられない。

彼は他種族嫌悪もなく分け隔てなく対応する、それが良いのか悪いかは判断が難しいが、窮地に立っていたヴァンパイア族とダークエルフ族からすればそれだけでも信頼するに値する。

居住区を作り温暖な場所で寝られるし野菜も限定的ながら取れるし肉だって全員に行き渡る程度には用意してくれる。それに比べたらこいつらの方が邪魔者で敵だった。

何より、フェリスゥマグナとインティライミという小娘の存在だ。

何度もモンスターと戦ってきた俺様より強いという、疑いようのない事実を認められなかったのだ。

実際、モンスターとの戦いでは陽動役のこいつらの方が戦い慣れていた。まったくもって不愉快極まりない。

自分だってもっと食べれば強くなれる、そう思うが、その食料がもうないのだ。俄然モンスターを倒して肉を確保することが求められるようになり単細胞の俺様主義者のこいつに戦闘方法など愚直な突撃以外頭にない。

ミソギが相手にしているのは「見返りが大きい相手」だけ、この周囲には単純にステータスで上回る相手など腐るほどに存在している。戦闘方法を考えなければこちらが食われるだけである。

タダのラッキーで勝てたこいつと予想外の手で出し抜くミソギとは根本的に違う。

「食料を出せ」

「……」

「聞こえないのか!」

「……」

配給係は何も言わない。

もう食料などどこにもないことをこいつは理解してないのだ。激高し暴力を振おうとすると周囲から視線が突き刺さる。

「クソっ!どいつもこいつも、能無し共が!」

何とか野菜類の類ならば収穫できるのだがそこに入る許可を得ているのは少ない。万が一これまで失ったら滅亡確定だからだ。いつの間にか取り巻き共の姿も消えていることにすら気づいてない。

強くなるためには食べる必要がある、なのにモンスターに勝てない。もはや限界だった。こうなったら手は一つしかない。

ここでは武器の所持は原則禁止でありモンスター討伐時しか持ち出せない決まりだ。それを破り居住区に侵入する。

「ひっ!」

ヴァンパイアの女の子が悲鳴を上げる。

「肉を、肉食わせろぉ!」

「いやぁ!」

そのまま襲い掛かろうとするが直前で。

「やってしまいましたわね。こうなると同情の余地がありませんわ」

「まったく、短慮で無知で愚か者。こういう連中がいるから罪状が増える」

いつの間にかフェリスゥマグナとインティライミが自分を取り押さえていた。

「は、放せ!食えば強くなれるんだ!」

「ここでは共食いは絶対に許されないと、忠告しておいたはずですが」

「ここのルールに従えない存在に慈悲は与えられません。貴様は敵だ」

「小娘共が、手を放せ!お前らだってそうして強くなったのであろうが!」

「いえ、違いますよ。私達は自力で強くなったんですから」

「!!」

もっとも、とある御方のおかげですけどね。一言付け加えておく。

「とある、御方、だと……」

「ええ、私達を苦しめていた因果の戒めから解き放った神々からの御使いですよ」

「御使い、だとぉ!?」

そんなのが地上になど来るはずがない。だって、それは本当にお話の中の存在だからだ。

「あなたは自力で強くなったと錯覚していたようですけど」

彼が因果の戒めを断たなければそんな誤解をせずに死ねたのに。まるで愉快な話をするかのように二人は笑う。

「さて、そろそろ登場してもらいましょうか」

フンっ、御使いとやらがなんだというのだ。実力ではこちらが勝っているはずだ。

「はぁ、こんな場面で登場とは」

現れたのは黒髪黒眼で一見するとヒューマンのようにも見える。こんなのが御使い、だとぉ?

「で、こいつをどうすればいいの」

「あなたにチャンスを与えましょう」

もし勝てれば共食いの罪を見逃す、負ければ全員が居並ぶ前で無残に死ぬ、その二つだけ。

上等じゃないか。

「ああ、彼に関する戦闘能力は一つだけです」

戦闘能力系スキルなどが一つだけ?それなら楽勝じゃないか!それは「互角なる者」それだけ。

取り上げられた武器を返され吹きすさぶ雪の中戦いが始まる。ここにいる全員が目撃者だ。こいつなどさっさと殺して肉を食うんだ。

扱うのは石の片手斧。それを持ち一気に近づき振り下ろそうとして、

「ぺぶっ!」

顔面を殴られた。

次は警戒して接近するようにするが、

「ぼごっ!」

再び顔面を殴られる。

「お、おまえ、何を」

何をしたんだ?疑問はそれだけ。

「何を言っているの。僕の能力の説明は聞いていたはずだけど」

ゴカクナルモノ、そんな言葉だ。その意味すら分からない。

「僕とお前は全く同一のステータスを有している。最初から最後まで、ね」

「は?」

何を言っているのだ。そんなのは有り得ない。だって、オリジナルと全く同じなどありえない。

「まったく同じはずなのに機先を制されている。その意味、分かってるの?それが意味するところは一つだけ」

単純明快、戦闘に関するカードが完全に不足している。

「あ、ありえ、な」

「能力だけ見れば”そこそこ”だね。でも、愚直すぎる。そんなのでよく生き抜いてこられたね」

明らかに呆れた、そんな態度。なぜ先手を取れるのか、その答えは単純明快。思考を見抜かれているからだ。

「全力で武器を振れば敵は倒れる?馬鹿馬鹿しい、そんなんだから共食いするしか能がないんだよ」

「ふざぁああけるなぁあぁぁあああ!!」

もはや感情を暴走させるしかなかった。ありったけの攻撃を繰り出すが直前で回避され痛烈な反撃をいくつももらう。

「お前に出来て他人に出来ないこと、そんなものはないんだよ。自分が発想しても全く同じ時に同じ発想に行きついた存在がいないとでも思うな」

いくらやっても先手を打たれてしまう。なぜだ。お前が移動する場所に先に拳を突き出しているだけだと、説明を言われてしまった。

「練度が低い、思考が単調、挑発すら出来ない、ただそれだけで雑魚に成り下がる」

その後も一方的だった。滅多切りである。ひたすらに切られ全身はボロボロだ。早く血を吸わなければ回復が追い付かない。

「はて、ここで自己回復という手段に気付くわけだね」

なるほどなるほど、と。相手はここで初めて感心したような態度を取る。まるで赤子をあやすかのように。

「それは悪手なんだよ、敵が悠長に回復を待つとでも思っているのか、根本から間違っている」

回復しようとするたびにほんの些細な攻撃を入れ込んでくる。集中しなくては回復できないのに些細な攻撃がそれを許さない。いつでも攻撃が飛んでくるという事実が何よりも怖いのだ。

もはや思考は停止し成すがままの人形に成り下がった。

「ぜぇぜぇ、はぁはぁ」

「フン、なんてたわいもない、馬鹿」

俺は今まで恐怖したことなどなかった、その最初の恐怖がこれだ。打つ手が見当たらない。こうなったら道連れを選ぶしかない。そう決意するが。

「これだからプライドが高いと始末が悪い。最後の意地が相打ちとは都合が良すぎる」

こちらの手が完全に理解されている、だがもはや自爆能力は止められない状態だ。せめて道連れにしてやる!強引に距離を詰めようとするが雪の足場では速度が出ない。

まだ明らかに距離が遠い状態で敵が剣を掲げる。

「近づく前にお前を殺す」

敵の持つ石の短剣が赤く染まる。血よりもなお赤いそれは、火だった。短剣から放たれた色はもはや彼には死んだという自覚さえないままに焼き尽くしてしまった。

「こんなつまらない生命なんて誰もいらないんだけどなぁ」

同族らが見守る中であっけなくそこそこ強い命を抹殺した。
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