上 下
4 / 13
極寒の大陸編

あれから少し時間が過ぎました

しおりを挟む
同胞を食わずとも十分な肉にありつけるというインパクトは強烈だったようで、肉はどんどん焼かれ彼らの腹の中に栄養として入り徐々に全ステータスも向上していく。

毛皮や骨は生活道具になっていき生活は少しずつだが確実に変化していた。

僕は定期的にモンスターを倒して持ち帰る。しかし、この極寒の大地なくせにちょっとした時間でモンスターに頻繁に遭遇するので生体系はどうなってるんだ。ここが豊かな水や森があればともかくとして。

肉だけでは偏るので魚も取る。水の底には甲殻類や貝類がそこら中にいて食い物にはある程度困らない。ここで生き抜けるならば、その前提だが。

さらに生命の種子をまいた場所に芽吹きが来て一気に成長。ジャガイモとかイチゴに似た植物が安定して成長し実がそこそこ取れるようになっていた。各自分担してそれを収穫し食事に加える。

今日の食事は肉と甲殻類や貝を焼いたのと、野菜(?)らしき物だ

『いただきまーす』

皆が皆手掴みでガツガツ食う。僕もそれに倣う。

食事も野蛮極まり調味料すらないがある程度中身は充実してきた。保存食も徐々にだが増えてきている。食事の時間が終わり満腹感で少しばかり幸福感を味わう。

まだ毛皮を肌に貼り付けていて寝床すらワイルドだが。

「はふぅー、しあわせですぅ」

「はぁー、くったぁ」

「ああ、いいきもちだぁ」

ちょっ前だったら飢餓寸前だったのだから満足な食料が行き渡ると当然こうなる。肉体の状態が充実すれば元気も出てくる、なので各自体を動かす。

体を動かすのは古の能力取り戻すためだ。因果の戒めによって記憶から忘れ去ってしまうほどに能力を封印されていたため自分達が何者なのかすら忘れさってしまっていた。

だが、そこは本能というか遺伝子というか。僕が教えなくても徐々に能力が発現していく。

ヴァンパイア族は何名か外をある程度の距離を飛べるくらいに、ダークエルフ族は自分の姿を影のように隠す能力が開花した。

まだここにいるモンスターとは戦わせられないが周辺の調査が出来るというだけでもありがたい。

その中でも二人抜けた存在がいる。

「調子はどう」

「絶好調ですわ」「実にいい気分ですよ」

この二人、最初に出会ったときに因果の戒めが発現しこのままでは殺さなくてはならなかった二人だ。フェリスゥマグナ、インティライミ、という名前だ。

僕の力で因果の戒めから解放された二人はここにいる一族の族長の長女であり、他に同族がいないので族姫という事になる。

最初こそ目立たなかったが食料事情が改善し始めると明らかに頭角を現してきたのだ。今ではここで一番能力が高くリーダー的な存在になっている。

「では、早速行こうか」

『はいっ』

この二人を連れていく理由は実戦を目撃させて経験を積ませることとその探知能力を生かすことだ。僕だけだと一面白銀の雪世界で歩き回らないとならない。だからこの二人が生きてくる。

ヴァンパイア族は飛行と生命が発する特殊な波長を感じることが出来る、ダークエルフ族はこの過酷な場所でも十分な視野能力が強い。

この二人に先行して調べてもらうことで狩りを効率化できるのだ。しばらくすると獲物を見つけたようだ。その場所まで雪に足を取られつつ向かう。

「ぶふぅうううう」

現代でいうならゾウというような外見のモンスターがそこにいた、だが明らかに体が一回り大きい。

対峙するとすべてが分かりすべてが互角になる。鈍足だが怪力、なら脳を貫くだけ。大ジャンプし敵の頭上まで飛び脳天目がけて石剣を突き立てる。さすがはモンスターなので一撃で脳まで届いたが暴れる。瞬時に距離を取り同じ攻撃を数回繰り返して倒した。

『おつかれさまでした』

遠巻きに様子見をしていた二人が近づき労いの言葉をかけてくる。

「これだけあれば色々役立ちますわ」

「そうですね。何もかもが足りませんから」

肉の需要が高いし骨や毛皮や油なんかも到底足りない。一体倒せばそこそこ持つが150人分となるとそれ相応の消費になる。

それを虚空庫に仕舞い拠点に戻る。

全員が満面の笑みで出迎えてくれる。

早速解体作業に入るがこれだけの巨体だと一人じゃ無理、手伝いを含めて作業に入る。骨を削り尖らせた先っぽで体を徐々に開いていく。内臓を取り出し皮を剥いで部位ごとに関節を切断し肉を削り出す。

刃物が欲しいところだが石材さえ貴重なので僕以外は持っていないのだ。なので僕が切り出すお仕事担当。皆これが生き残るために必要な仕事であることを認識しているので真剣だ。

切り出した肉はその日に消費する分を除いて乾燥させる。とはいえ、ここは日の光すら拒んでいる極北の大地、これにも時間がかかるのだ。

『私達にもっと力があれば、同族達が多ければ、やれることは増えるのに』

二人は唇をキツめにする。

食う分は賄えているがやはり人手が足りない問題。まだモンスターを狩る力が無いこと、労働力にまわせる人数の少なさ、加えて凶悪な生活環境。何もかもが不利だ。

人数という区分では決して少ないわけではないが区分けすると幼年組や少年組もいて青年組も存在するし壮年組や老人組もいるのだ。

それらを区分すると働ける時間や内容に明確な差がある。

「その気持ちは分かるけど今は無駄に消費が増えないことで備蓄が増えることに力を注ごう、ね」

「そうですわね。同族を救いたい気持ちが先にばかり進みますが今は良い環境を与えられていることを守らないと」

「下手に同族を助けてもようやく形に成りつつある今の環境を破壊されたらどうしようもありませんし」

形に成りつつあるコロニーで一番最悪なのは内部分裂だ。人数が多くなればそれぞれ主張を言い始め争い合い結果としてコロニーが衰退崩壊してしまう例はいくらでもある。

今は僕の力で纏まっているが他から入ってきた連中がどうするかまでは予測できない。いずれ僕すらも不要であると追い出しにかかるかもしれないのだ。その大本を築いたのにもかかわらず。

残念ながらそこまでリーダーは出来ない。

「そうだな。ようやくミソギのおかげで生活圏が出来つつある。不用意に仲間を迎えるよりも自力で増える方がいいかもしれぬな」

「うむ。仲間を救いたい気持ちは強いがそいつらが我々に賛同してくれるとは限らんからな。むしろ迂闊に動かぬ方がいいかもしれん」

『お父様』

父親の登場に二人が頭を下げる。

「そう思いますか。僕としては複雑ですね」

「かつては一枚岩だった我らとて落ちぶれれば仲違いもする。意見を一つに纏めるなど神様でも不可能だろうよ」

「この極寒の大地を目指す際中にも仲間は争い分裂していった。もしかしたら生き残りはおらぬかもしれんしな」

「まだ希望を捨てていい段階では」

「そうです。きっと仲間は生き残ってます」

他の場所にいるかもしれない仲間を探す危険性は大きい。自力での繁栄を目指すのも選択肢の一つだ。

ともかく、生き残りがいたとしても受け入れる準備が到底足りないのでまずは自力で出来ることを増やしていくのが方針となるだろう。

残念ながら僕がいなければこのコロニーの運営は行き詰りやはり滅亡に向かうだろう。自力でモンスターを狩れない、水の中の食べ物も取れない、生活道具も足りない、あらゆる物が足りないのだ。

「我々とて同族意識は捨ててはおらんが果たして他がどのように考えておるのか分からんのでは迎え入れるべきでは無いな」

「ミソギと同じ役割が出来るならまだしもいまだ因果の戒めを全て取り除いておらぬし戦闘経験が乏しい我らは弱い。それがどういうことかよく分かっているはずだ」

『……』

二人は口を塞ぐしかない。

誰かの庇護を得るか自力で生きていくか、どちらにしろ弱いという理由が明白ならば強くなるしかないのだ。どんな楽園でもルールは必要、そうしなければ皆殺しにされるだけだ。

「それでも、助けられるのであれば」

「受け入れても」

二人の返事は弱弱しい。

二人の父親は「相手と人数次第」だと答えた。

今の居住スペースではこれ位以上増えたら空間が足りなくなるし仕事が追い付かないし食料だってあっという間になくなるだろう。建物の建築もモンスターを狩るのも僕がやっているのだ。代わりがいない。

今現在でわずかばかりの備蓄が出来ているギリギリだ。二人の父親が渋い顔をするのも当然だった。

『生き残りがいれば助けたい気持ちはよく分かる。が、今現在ようやく秩序が成り立ち始めた頃合いに他者は受け入れがたい』

それがこのコロニーの総意でもあった。

二人とてそれは嫌というほど実感している。僕が来る前は共食いして生存していたのだから。多少環境が良くなりつつある今は着実に力を蓄えるべきだと。

だから、不用意に他者に近づくなと。厳命していた。下手に関わるとそいつがどう動くか予想できないからだ。

二人の父親は今後の動きを考えるため僕に会いに来たようだ。

居住区に同族らを集めて会議を行う。

「さて、ようやく共食いをせずとも生きていけるぐらいの環境が成り立ちつつある、が。ミソギ、我々の因果の戒めを断ち切るには何が必要か教えて欲しい」

僕に質問を振られる。

「条件の全てまでは分からないけど、それなら」

まずは自力で強くなることが必須。加えてどれほど同族らの力が高まっているのか、モンスターとどれほど戦えるのか、その総人数はどれほどのものか、他にも文明のレベル、装備や生活道具などの充実、生活環境の向上、等々

「具体的にはここのモンスターを自力で倒せる者が最低1名必要だね。それぞれの種族で」

「それは族姫らに任せればよいかな」

「武器の材料が乏しいですからね」

どんな相手とでも互角になれる僕の能力ならともかくここにいる者達では自力討伐は難関だ。もうしばらく鍛錬が必要だろう。装備は良くて骨のこん棒程度だ。僕の装備次第ではどうにかなるかもしれないことは伏せておく。

「今現在の所非戦闘員扱いですが時期が来れば戦闘にも参加させます」

「大まかな方針はそれでいいとして、次の問題は食料だな」

この場所のモンスターはどういうわけか栄養豊富で巨体が多い。一体狩れば結構な人数分食わせることが出来るが保存食を作るとなると環境が厳しい。

野菜の収穫も安定してきているが人手が足りない問題がある。区画にはまだ空きはあるが無駄に労力が増えて満足に収穫できないだろうし腐ってしまう。

「同族を受け入れるにしても居住スペースが足りませんし食べ物だってまだまだ足りません」

「迂闊に受け入れれば共倒れという訳か」

「今回は大物だったので当面は生活区域の拡張を進めたいと思います」

その後なんやかんやと話し合うが結論としてはまだ同胞を受け入れる準備が整ってないことが全員一致であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白紙の冒険譚 ~パーティーに裏切られた底辺冒険者は魔界から逃げてきた最弱魔王と共に成り上がる~

草乃葉オウル
ファンタジー
誰もが自分の魔法を記した魔本を持っている世界。 無能の証明である『白紙の魔本』を持つ冒険者エンデは、生活のため報酬の良い魔境調査のパーティーに参加するも、そこで捨て駒のように扱われ命の危機に晒される。 死の直前、彼を助けたのは今にも命が尽きようかという竜だった。 竜は残った命を魔力に変えてエンデの魔本に呪文を記す。 ただ一つ、『白紙の魔本』を持つ魔王の少女を守ることを条件に……。 エンデは竜の魔法と意思を受け継ぎ、覇権を争う他の魔王や迫りくる勇者に立ち向かう。 やがて二人のもとには仲間が集まり、世界にとって見逃せない存在へと成長していく。 これは種族は違えど不遇の人生を送ってきた二人の空白を埋める物語! ※完結済みの自作『PASTEL POISON ~パーティに毒の池に沈められた男、Sランクモンスターに転生し魔王少女とダンジョンで暮らす~』に多くの新要素を加えストーリーを再構成したフルリメイク作品です。本編は最初からすべて新規書き下ろしなので、前作を知ってる人も知らない人も楽しめます!

異世界帰りの【S級テイマー】、学校で噂の美少女達が全員【人外】だと気付く

虎戸リア
ファンタジー
過去のトラウマで女性が苦手となった陰キャ男子――石瀬一里<せきせ・いちり>、高校二年生。 彼はひょんな事から異世界に転移し、ビーストテイマーの≪ギフト≫を女神から授かった。そして勇者パーティに同行し、長い旅の末、魔王を討ち滅ぼしたのだ。 現代日本に戻ってきた一里は、憂鬱になりながらも再び高校生活を送りはじめたのだが……S級テイマーであった彼はとある事に気付いてしまう。 転校生でオタクに厳しい系ギャルな犬崎紫苑<けんざきしおん>も、 後輩で陰キャなのを小馬鹿にしてくる稲荷川咲妃<いなりがわさき>も、 幼馴染みでいつも上から目線の山月琥乃美<さんげつこのみ>も、 そして男性全てを見下す生徒会長の竜韻寺レイラ<りゅういんじれいら>も、 皆、人外である事に――。 これは対人は苦手だが人外の扱いはS級の、陰キャとそれを取り巻く人外美少女達の物語だ。 ・ハーレム ・ハッピーエンド ・微シリアス *主人公がテイムなどのスキルで、ヒロインを洗脳、服従させるといった展開や描写は一切ありません。ご安心を。 *ヒロイン達は基本的に、みんな最初は感じ悪いです() カクヨム、なろうにも投稿しております

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと
ファンタジー
桐崎 洋斗は言葉通りの意味でこことは異なる世界へと転がり込む。 電子の概念が生命力へと名前を変え、異なる進化を遂げた並行世界(パラレルワールド)。 二つの世界の跨いだ先に彼が得るものは何か———? これはありふれた日常で手放したものに気付くまでの物語。 そして、それ以上の我儘を掴むまでの物語。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ・この小説は不定期更新、それもかなり長いスパンを経ての更新となります。そのあたりはご了承ください。 ・評価ご感想などはご自由に、というかください。ご一読いただいた方々からの反応が無いと不安になります(笑)。何卒よろしくです。 ・この小説は元々寄稿を想定していなかったため1ページ当たりの文章量がめちゃくちゃ多いです。読む方はめげないで下さい笑

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

福寿草真@植物使いコミカライズ連載中!
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】 何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。 魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!? これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。 スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。

最強ドラゴンを生贄に召喚された俺。死霊使いで無双する!?

夢・風魔
ファンタジー
生贄となった生物の一部を吸収し、それを能力とする勇者召喚魔法。霊媒体質の御霊霊路(ミタマレイジ)は生贄となった最強のドラゴンの【残り物】を吸収し、鑑定により【死霊使い】となる。 しかし異世界で死霊使いは不吉とされ――厄介者だ――その一言でレイジは追放される。その背後には生贄となったドラゴンが憑りついていた。 ドラゴンを成仏させるべく、途中で出会った女冒険者ソディアと二人旅に出る。 次々と出会う死霊を仲間に加え(させられ)、どんどん増えていくアンデッド軍団。 アンデッド無双。そして規格外の魔力を持ち、魔法禁止令まで発動されるレイジ。 彼らの珍道中はどうなるのやら……。 *小説家になろうでも投稿しております。 *タイトルの「古代竜」というのをわかりやすく「最強ドラゴン」に変更しました。

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

処理中です...