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極寒の大陸編

始まりは極冬の大地から

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異世界への門を通るとそこは白銀の世界だっだ。

「さ、寒いぃいい!」

一面真っ白で凍り付いた大地と吹きすさぶ雪だけがそこにあった。このままじゃ凍死してしまうよ。着ている物は簡素な服だけだ。

っと、ここで特殊能力を与えられたことに気づいてそれを使うことで何とか解決できないかと思いつく。

『互角なる者』『生命神のサイン』『生命の武器』『生命の種子』『虚空庫』『万能言語録』

この6つだけのようだ。

このままじゃ凍え死ぬのでまずは生命神のサインとやらを使うことにする。そのサインの中で『熱』を意味するサインを服に使うとあれほどの寒さを感じなくなるほどに暖かくなった。

うん、これで寒さの方は何とかなりそうだ。とはいえ、この吹きすさぶ雪の中では視界がキツイ。さらに『探知』を意味するサインを使うと頭の中にすっごく便利なマップが浮かんでくる。

それだとここより北の方にいくつかの生命の反応が集まっている場所があった。この場所で生き抜いているとはどんなことだろうと思うが、まずはそこを目指すことにする。

足に『速度』のサインを使い急いでそこに向かう。しばらく進むとそこは氷の塊に穴を開けて何とか風を遮る程度の洞窟であった。

さて、ここに住んでるという住民たちはどんな存在なのだろうか。

洞窟の中に入る。

そこにいたのは生臭い皮を被り寒さに震える男女の集団がいた。

「あー、ちょっと、君達にき」

聞きたいことがある。その瞬間全員が恐怖の表情を浮かべる。

『ヒイッ!なんでヒューマンがここに!何でもしますから殺さないで!』

全員が恐怖で身を震えさせてしまう。こっちは何もしないのだけど。この恐怖の具合を見るとただ事ならない事態のようだ。

えっと、ちょっと調べるとヴァンパイア族とダークエルフ族と出てきた。

しかも、全員飢餓スレスレでこのままでは共食いもあり得るほどに弱り切っている。とりあえず食事をどうにかしないとならないようだ。一旦洞窟から出て近くの水のある場所を探すことにした。

極限の寒さのため大地のほとんどが凍り付いていて水場も分厚い氷で覆われている。『火』のサインを使い氷を溶かすと氷は解けて水場が現れる。

さらに、『電』のサインを指先につけて突っ込むと感電した魚が次々と上がってくる。それを『虚空庫』に放り込んである程度集まると洞窟に戻る。

洞窟に戻ると彼らの視線が集まる。それは恐怖や不信感しかなく良いとは言えないな。

洞窟の真ん中にある氷の台座に『火』『熱』のサインを描くと突端に熱気が生まれる。氷に描いても土台が解けることはないようだ。

『虚空庫』から取ってきた魚を取り出し台座の上で炙る。十分火が通るとそれを手に乗せて彼らの前に差し出す。

『……』

彼らの目にはまだ不信感があった。

だけども、目の前に差し出された暖かい魚を見て恐る恐る手を刺し伸ばす。それを取って何もされないことが分かるとバリバリと音を立てて魚にかぶりつく。その目にはひたすら涙だけがあった。

その光景を見て何もされないことが分かると一人また一人と炙られた魚を求めるように手を刺し伸ばしてくる人々、拒否する理由はないので順次魚を炙って彼らに渡す。

全員が大泣きしながら焼いただけの魚に無我夢中で口の中に入れていく。

しばらくそれを繰り返し腹が満足したようで最初の不信感はある程度消え去り話をする余裕も出てきたことだろう。壮年のヴァンパイアの男性とダークエルフの男性が話しかけてきた。

『あ、貴方は一体。見たところヒューマンのようだが、どうやってこの極冬の大地を進んでこられたのだ?』

「んー、それをあれやこれや説明は出来ないんだよね。気づいたら放置されただけ。あ、そちらに危害を与える気はないから」

安心していいと先に教えておく。

「さ、さようか」

「しかしながら」

代表者の二人はまだ戸惑いの表情だ。まぁ、いきなり信じるのは無理だよね。すると、ここで回りが騒ぎ出す。

「大変です!お嬢様達が我ら種族の因果の戒めを発症しました』

『なんだと』

二人の表情は「ついにこの時が来たか」そんな顔だった。二人と共にそのお嬢様達の所へ向かう。

その二人は苦悶の表情を浮かべながら何かの衝動を抑えているようだ。

「この二人はどうしてこうなっているの」

「我らヴァンパイア族は”吸血しなければ自我を崩壊させる因果”を有しておる。それが発症したのだ」

「私達ダークエルフ族は”共食いをしなければ肉体が腐敗する因果”を有しております。それがこの子にも」

何それ,種族を滅亡にしか導かない酷く残酷なものだ。二人は完全に諦めているようだ。

二人の美少女はその発作に苦しんでいた。こんなクソい罪を背負って生き延び続けさせるなんてなんと残酷な異世界なのだろう。因果の戒めは物理的な方法では断ち切れない。それこそ神の御業だろう

だから、僕がここにいるわけだ。

「まぁ、任せておいてよ」

さっさと終わらせるか。力の一つを引き出す。

「生命の武器『因果を断つ御剣』よ。苦しみ喘ぐこの者達を救いたまえ」

手から神聖な光が放たれ剣状となる。それを二人に突き刺す。すると、苦しみに耐えていた二人の表情はとても穏やかなものになった。

「い、いったい、何を?」

「されたの、ですか?」

二人はまだ現実が理解できないようだ。だが、穏やかな顔色になった二人を見て何かが変わったことに気づく。

「この二人、いやヴァンパイア族とダークエルフ族全てに共通する因果の戒めを一つ断ち切っただけだよ。これでもう吸血しなければならない、共食いしなければ生きられない、などという事は無用になった」

二人は『長年我ら種族を苦しめ続けた業罪をいとも容易く断ち切るなんて」信じられない表情をしている。

『あ、あなたは、一体、何者、なので』

「神の御使い、救世主、守護者、そんなところ」

もっとも、いずれの神に属してるのか自分でも分からないと答えておく。二人だけではなく周囲から敬いの念を感じるね。

「御名を聞いてもよろしいでしょうか」

「ミソギ」

こちらでは漢字はあるかどうかわからないのでカタカナ表示でいいだろう。

一同が頭を付した。

その後は病に苦しむ住人を治療したり洞窟内がもっと暖かになるように『熱』のサインを各所に掘る。道具は尖った骨ぐらいしかなくて難儀だったが。これで洞窟内がかなり暖かくなった。

『御使い様』

ここの長二人が訪ねてくる

「その言い方はやめて、ミソギでいい。僕は誰に対しても対等なんだから」

「さ、さようですか」

「それでよろしいのでしょうか」

「こっちがいいって言ってるんだから。んで、信頼も勝ち得たところで」

まず、この地に住まう経緯やらを聞いておく。

ヴァンパイア族もダークエルフ族もこの異世界の一種族であり歴史は長い。好戦的な種族ではなく他の種族のテリトリーには不用意に近づかず独自のコロニー、ここでいうなら国とやらを建てて安住の時を過ごしていた。

だが、ある時他種族から『世を乱す邪悪な種族』などと声が上がり始める。融和政策を取っていたため話し合いなどでなんとかなっていたが時代から因果の戒めが種族全体に広がり始める。そのためやむを得ずそれに従うがそんなことが長く続くと先の噂が嘘ではなかったと、急激に拡散し生活は崩壊。

数を減らしながら各地を放浪し最後に極北の大地であるこの場所に辿り着いた。そこでもやはり因果の戒めは消えず共食いをしてまで何とか生きながらえてきたそうだ。

なんてひどい話だ。

どうもこの原因は彼らの所業に関係するものではない、実際大昔は吸血することもなければ共食いをして生きながらえる必要もなかったことは間違いないだろう。

「生き残りはここいるのが全部なの」

「いえ、この大地はとてつもなく広大であり大昔に分かれた同胞たちが各所に散らばっていると思いますが」

「とはいえ、もう時間の感覚が分からなくなるほど前の話ですから、生き残りがいるかどうかまでは」

この洞窟で生き残っているのはわずか両種族含めて150人前後だ。このままじゃまず間違いなく滅んでしまう。

そうなるとまずはそれらを集めつつ生活環境の改善が急務になるな。

氷の壁は中々に硬くて道具が無いと掘るのは不可能だ、そうなると外に建築するしかない。材料は外にいくらでもあるので難しくはないだろう。

早速始めるか。

雪が吹きすさぶ外に出て仕事を始める。

「『水』『雪』『氷』「岩」『堅』『築』『建』のサインよ、その力を示せ」

すると、吹きすさぶ雪がすぐさま水に変わりやがて氷となり真四角の岩石になる、それらは自動的に宙を飛び建造物となっていく。とりあえず4区画作るか。

あと、毛皮とか脂も欲しい。持ち論お肉も。だってみんな毛皮を最低限皮ひもで繋いだ服装でワイルドすぎる。中には全裸だっているぐらいだ、この地には樹木はおろか草すら生えないので材料がなく簡素な道具すら作れないのだ。

その点も改善しないと。

そうして、しばらくすると4つの氷の建造物が建った。氷の扉をくぐると幾分か寒さが軽減されている。各所にとがった骨で『熱』のサインを刻む。熱を生み出すのに対象となる氷が解けないのは本当に便利だね。

中の凍った大地が解け始めると岩盤が現れてくる。そこに『生命の種子』を一定間隔で植えていきしばらく放置すればいい。

もう一区画も同じようにしてこっちは木材と果実とするか。

後の2区画は生活空間として使えばいい。

それから、岩盤を切り出して剣のようにする。刃物が無いからだ。まるで石器時代さながらに割り削り磨きようやく一本の短剣が出来た。それに『生命神のサイン』を刻む。

洞窟に戻ると。

「移住するよ」

それまでの洞窟ではただ身を寄せ合っているだけなので新たに建築した区画に荷物ごと移り住む。とはいえ、骨とか毛皮ぐらいしかないので荷物はないも同然だ。

『すごい!こんなに暖かい場所なんて初めて……』

全員が温暖な空間を喜び各所に毛皮を置いてくつろぐ。その間に僕は石の台で魚を次々焼いておく。

全員に行き渡る数を焼いたら食事だ。

「いただきます」

『いただきます!』

熱々の焼いた魚を素手で掴みガリガリ食べる。本当に原始時代だった。共食いしてまで長年生き延び続けた彼らからするとこれだけでも大分マシな料理のようだ。

本当はもうちょっとマシな環境にしたいんだけどなぁ。

今後どうするかを両種族の代表者二人を交えて話すことにする。

「まずはこの大地に散らばっていると思われる同族達を探し当て救う事にしよう」

「さようですな。ここぐらいの環境があれば大分生き延びやすくなりますし」

「とはいえ、この大地は広大だ。外の寒さもあり連れてくる間に息絶えてしまうぞ」

「それは僕に任せて」

居場所さえ分かればここに瞬時に連れてこられる力のことを説明しておく。

「とはいっても、防寒具も食料も無しに探索には出せないけど。ヴァンパイア族は飛行を有していたよね」

「かつてはそうでしたが、今は因果の戒めにより能力のほとんどを失っております」

その因果の戒めも僕なら断ち切ることが出来る。まぁ、万能ではあるが無制限という訳ではないけど。

「その間、我らはどうすれば」

ダークエルフ族の長が質問してきた。

「他の2区画に種子を植えているからそれの育成に力を注いで。そうすればある程度の木の実やら果実やらが手に入るから」

「できれば、取り除いていただきたい因果の戒めもございます」

分かったと答える。

両者には明らかに希望の顔色があった。
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