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「それはケンさんに聞いた。で、本当はどうなんだ?」

「えっ……」

思ってもいなかった言葉返しに驚く。思わず横を向くと俺をじっと見つめる時雨と目があった。

「……っ!」
「……」

カーテンからの微かな光が時雨の顔をうっすらと照らしている。真っ直ぐ俺を見つめる時雨の表情は、嘘は許さないといった真剣な表情だ。

「どう……して……」

「……俺は以前、ミツが何かに悩んでいることに気付いていた。なのに俺は……何も聞かない方がいいだろうと勝手に思いこんでいた。……ミツがいなくなった後……あの時、泣かしてでも、面と向かって話せばよかったと、後悔している。俺はもう、そんな後悔は絶対にしたくない」

そっと時雨の片手が伸びてきて俺の頬に優しく触れる。

「ミツが嘘をついているなんて、表情や仕草を見たらわかる。伊達にミツの……ミツルの幼馴染みをやってねぇよ」

ふっと愛おしそうに笑う時雨に、ドキッと胸が跳ねる。

「だから、ミツルが思ったこと、考えてること、さっき心配していたこと、なんでもいい。俺に吐き出せ。俺が全部どうにかしてやる」

時雨から俺を想う、熱い想いが伝わってくる。
なんだこれ、胸がドキドキして、暖かくて、今にも泣いてしまいそうだ。時雨はこんなにも俺のことを、想って、心配してくれているなんて……。
ワナワナと震える唇を止めようと、ぎゅっと噛み締めていると、時雨の親指が俺の唇を優しく撫でる。

「そんなに噛むな。力を抜け」

力を抜くと良くできましたというように、時雨が優しく頭を撫でてくれた。

「少しずつでいい。まずは俺と離れている間、何をしていたか、何があったか教えてくれ」

俺は一度頷くと、深呼吸をし、心を落ち着かせた。

「聞いても面白くないよ?それでも?」

「あぁ、知りたい」

俺はボツボツと静かに話していった。
両親は浮気が原因で離婚したこと、俺のことが邪魔になり、金を払ってまで叔父の家に預けられたこと。
叔父は独身者で、酒癖が悪く、毎日のように俺に暴言や暴力を振るったこと。

「……黙って、殴られてたのか?」

暗闇でもわかるほどの時雨の震える怒りに、慌てて訂正する。

「あっ、そっ、それは初めだけで、後は我慢できなくなって反抗してたよ!」

「……怪我しただろ?治療はどうしてたんだ?」

「あー、うん、叔父の家から避難して公園に座ってたら、親切なお医者さんに拾われて、治療してもらってた。今日も治療してもらったんだ」

スズちゃん先生の笑顔を思い出し、ほんわかと笑顔になる。

「拾われてって……はぁ、で、叔父と何があったんだ?」

「……っ、そ、れは……」

これだけは……言いたくない。
寝てるところを不意打ちで殴り蹴られ、意識を失いかけていた瞬間……叔父から……。
無意識に両腕を強く握りしめていると、時雨からぎゅっと抱き締められた。そして、背中をトントンとリズムよくあやすように叩かれた。

「ゆっくりでいい。吐き出せば楽になるぞ」

時雨のゆったりとした低い声と背中をトントンと叩かれた振動が俺を落ち着かせる。
俺はあの時のことを思い出しながら、途切れ途切れに話し始めた。

「……俺、寝てて……酔っ払った叔父に、不意打ちで、殴られて蹴られて……意識を失いかけた時……服の中に、手を入れられてっ……俺の胸やアソコをさわっ、ひゅっ、はぁっ」

あの時の光景がよみがえり、息が苦しくなる。

「し……ぐれ……」

「っ!ミツ、大丈夫だ!ゆっくり息を吐き出せ!」

「んはぁっ、むりっ……んっ!」

突然大きなものに口が塞がれ、勢いよく空気が入ってきた。

「んっ!はぁっ……ん……」

息が出来るようになったはずなのに、口が塞がれたままで少し苦しい。何かが口の中全体をゆっくり這い回ったかと思うと、口内の上のざらざらした所を執拗に撫でられ、ぞくぞくと感じ、気持ちよくなる。

「んっ……はぁ、はぁ、はぁ……」

「落ち着いたか?」

「ん……気持ちいい……」

「ふっ、それはよかった」

優しく微笑む時雨を見て数秒、はっと我に返った。
俺、時雨とキスしちゃったよ!治療行為だけど!脳内で一人騒いでいるとガシリと両頬を掴まれた。

「で、それから、どうしたんだ?」

「ふぇ?」

「話の続きだ……まさか、ヤられたんじゃねぇだろうな?」

超がつくほどの低音ボイスに、ブルッと背筋が寒くなる。

「まっ、まさか!めっちゃ反撃して、ボコボコに殴り返して病院送りにしました!」

「よし!よくやった!」

よしよしと頭を撫でられ、褒められた。しばらく、頭を撫でられる行為をニマニマしながら堪能していると、次第に眠くなってきた。

「眠くなってきたか?」

「……ん、時雨……おや……すみ」

「あぁ、ミツ、おやすみ。いい夢を」

時雨の声で寝れるなんて……何て……ぜい……たく……。







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