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番外編
城編 19
しおりを挟む部屋には俺とスウェンの2人。
スウェンは眉間に皺を寄せたまま、深く頭を下げる。
「ジン殿下、申し訳ありませんでした。私の調査不足であんなヤツを殿下に……何か嫌なことはされませんでしたか?」
あー、されたけど言っていいのかな?まぁ、軽く触られたくらいだけど。
「些細なことでもかまいません」
「あー、ボディータッチされたぐらい……かな」
「何てことを!すぐに殺ってきます」
「へ?ちょっ!」
今すぐ部屋から出ていこうとするスウェンの腕を捕まえ引っ張る。
「スウェン!殺らなくていいから!」
ゆっくりと振り返ったスウェンの目には光がなかった。
「どうして止めるのです?あぁ、大丈夫ですよ。アレ程度なら私でも簡単に処理ができます。ご安心を」
「違う!そうじゃなくて、俺は別に気にしてないから!これっぽっちも!」
俺が強めにそう言うとスウェンの瞳にうっすらと光が戻る。そして、眉がへにょと下がり、悲しそうな表情で「残念です」と呟いた。
えっ、それはどう言う意味の残念!?殺れなくて残念じゃないよね?
ゾクッと寒気を感じ腕を擦っているとスウェンがはっとした表情で俺を見た。
「ジン殿下、気付かず申し訳ございません。すぐに湯船を用意致します。ヤミ」
「はい、すぐに」
いつの間にかいたヤミが返事を返す。スウェンがパチンと指を鳴らしたと同時に、ゆらりと景色が揺れ、俺の部屋にいた。
「へ?」
一瞬にして部屋についた。
えっ、風魔法『指瞬転移』は城に結界が貼られてあるので使えないはず。なら、少量の魔力で転移したのか?しかも呪文を言わずに?そんなことが可能なのか?
そんなことを考えながら握った拳を口許に当て俯いていたので、スウェンが気分が悪いのかと心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫ですか?ソファーに座りましょう」
「大丈夫。気分が悪いわけじゃないから」
「それでも一度座りませんか?」
「ん」
スウェンがそっと背中に触れる。そして、じっと見つめられたので、何だろう?と首を傾げたら、スウェンは優しく微笑みながら「何でもないです」と首を左右に振った。
よくわからないが、大したことじゃないのだろう。
スウェンのエスコートでソファーに座ると、またパチンと指を鳴らす。
「っ!」
突然、テーブルの前に紅茶とクッキーが現れた。
これってインベントリからだよな?
先ほどと同じように呪文を言わず、指を鳴らしただけで出できた。通常はスクリーン(透明な板)を表示させてタッチするか、声に出さないとインベントリから出てこないはずだ。
まぁ、俺も指パッチンで壊したものを直せる。だがアレは魔力で包んだ物を数分前まで戻せる『時空回復』だ。光の精霊王シロと契約し、やり方を教えてもらったからこそ使えるようになった。
もしかして、スウェンも精霊と契約しているとか?でも契約するには精霊が見えないといけないのでは?
何かが引っ掛かる。答えが喉のところまで来ている気がするのに。こうなったら本人に聞こう。
「スウェン、この紅茶インベントリからだよね?でも、呪文が聞こえなかったし、スクリーンを操作してもいなかった。どうやったの?」
「ふふ、知りたいですか?」
「ん、知りたい」
俺は正直に頷いた。するとスウェンはにっこり笑うと唇に指し指を持っていった。
「秘密です」
「えー!」
「さっ、紅茶が冷めない内にどうぞ」
俺は渋々紅茶に口をつけた。うまい。
雑談をしながら、隙あらばさっきのインベントリの出し方を教えてもらおうとスウェンに話を持っていくが綺麗にかわされる。くやしい。
「ジン殿下、この話しはまた後にしましょう」
スウェンがそう言うと、ヤミがいつの間にか後ろにいた。相変わらず気配が読めない。
「湯船の用意ができました」
「あぁ、ありがとう」
そう言えば、なぜスウェンはすぐヤミに気付いたのだろう?目線とか動いてなかったし、驚く様子もなかった。何かコツとかあるのかな?
「さぁ、ジン殿下。ゆっくりと入ってきてください」
「ん。あっ、スウェン、俺がお風呂から上がるまで待ってて」
俺の言葉にスウェンはなぜかキョトンとした表情をしていた。
「私がいて、いいのですか?」
「当たり前!教えてくれるまで帰さないからね」
ビシっと指を突きつけるとスウェンはふわりと優しく微笑んだ。
「お待ちしております」
「ん」
風呂から出たらインベントリの事とヤミの気配を掴むやり方を聞いてみよう。
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