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番外編
城編 12
しおりを挟むそう言えば、バルト達が静かだなと思い、まずは隣を見てみると……バルトは俺の手を握ったまま寝ていた。時計を見ると後3時間で朝日が登る頃だ。
そりゃ、寝るよね。俺も眠たい。
眠たい目を擦りながら、向かいにいるサザンとリックスも静かだなと思い、顔を向けた。
「えっ、2人ともなんで泣いてるの?」
サザンとリックスが声を出さずに泣いていた。
「ジンが……何かを抱えていたのは、分かっていました……いつか、話してくれればいいなと、思って……」
「俺も……話してくれるといいと、安易に……くそっ!ジンが、そんな辛い目にあっていたなんて……俺は、何であの時、聞かなかったんだ……」
ぎゅっと唇を噛み締め、組んだ両手を握りしめていた。
本当2人は優しすぎる。俺のために泣いてくれるなんて……。
2人を抱き締めたかったが、バルトが俺の手を握りしめていたので動けない。せめてお礼を言おう。
「サザにぃ、リックにぃ……ありがとね」
「「ジン……」」
サザンとリックスが感極まって俺に抱きつこうと腰を上げ手を広げた瞬間……。
「そこまでです」
ヤミの腕と体がサザン達と俺の間に立ち塞がる。そして、ヤミは振り返り俺の前に膝をついた。
「ジン殿下、そろそろお休みになられた方がよろしいかと」
「あっ……ん、そうだね。ヤミ、ありがとう」
「はい、では、就寝の準備をしてきます」
ヤミが微笑みながら頷くと、スッと音を立てずに立ち上がり部屋を出ていった。
サザンとリックスに目を向けると、ばつの悪そうな顔で、ポリポリと頭をかいていた。
「ふふ、サザにぃ、リックにぃ、時間をとらせちゃったね」
「いえ!お気になさらず。色々知ることができてよかったです」
「ん」
「……ジン、これからのことで、1ついいか?」
「ん?何、サザにぃ」
「ジンには不自由なく城で過ごして欲しいと思っている。護衛がいて窮屈かもしれないが、なるべくジンの要望に答えるつもりだ。もし、気晴らしに街に降りる時は、俺らに声をかけてほしい。邪魔にならないよう護衛する」
「ん、わかった」
「私も1ついいですか?」
「ん」
「嘘はつかないでほしいです。嘘をつかれると守れるものも守れなくなるので」
真剣に見つめるサザンとリックスに、俺も真面目な表情で答える。
「わかった。必ず守るよ」
2人はほっとしたように硬い表情を崩す。
「では、私達は引き続き護衛をします。何かあったらお声をお掛けください」
「ん、よろしく。あっ、朝の交代の時は声をかけなくていいから。たぶん寝てる」
「「御意」」
2人は微笑みながらそう言うと、礼をして部屋から出ていった。
サザンとリックスが出ていくと、握っていたバルトの手に力が入る。
バルトが起きたのかと横を向くと、優しい眼差しで俺を見ていた。
「バルト、もしかしてずっと起きてた?」
「いや、寝てた。起きたのはヤミがイーダの影という話の時だ」
「ん……、バルト、今日はごめんね」
「何がだ?」
「せっかく来てくれたのに、あまり二人っきりになれなかったから……」
バルトは目をぱちぱちさせた後、ふわりと優しく微笑んだ。少し恥ずかしくなり視線を下げた。
「ジン……」
大きな手が俺の頬をそっと包み込み、少し上へと誘導され、バルトの熱い眼差しとパチリと合う。
熱の籠った色気のある瞳にドキッと胸が弾む。バルトの親指が俺の唇を何度も優しく撫で、ゾクゾクと快感に近い感覚に陥り、下半身の辺りがぎゅっと引き締まる。
「ジン、もしかして、期待してたか?」
バルトの甘いフェイスと声が俺の脳を軽く揺さぶる。
「ん……少し……」
ギラッとバルトの目つきが変わり、唇が近付いてくる。あっ、バルトに食べられる……と思い、目を閉じようとした瞬間……。
「失礼します」
すぐ後ろに無表情のヤミが立っていた。
「うわぁ!」
「うぉっ!」
バルトも気付かないぐらい、ヤミは気配を消すのが上手いな。だが、やめてほしい。心臓がいくらあっても足りないよ。
ジド目で見ていた俺に気付いたヤミはにこり笑う。
「ベットメイキングが終わりましたので、どうぞあちらで」
ベッドの方を見ると皺1つない。
いつに間に……。
「では、失礼致します」
ヤミがさっと部屋を出ていく。
俺とバルトはお互い見つめながら苦笑いを浮かべた。
そうだね。もう、そういう雰囲気じゃなくなったよね。
「バル、今日はこのまま泊まっていく?」
「いや、騎士寮に帰る。リックス達の目が怖いからな」
顔をひきつるバルトに俺はクスリと笑う。
「じゃぁな、おやすみ。よい夢を」
チュッとおでこにキスをし、去ろうとするバルトの袖を思わず掴んだ。
「どうした?」
「えっ、あっと……」
自分でも、なぜ掴んでしまったのか分からず、慌てて手を離した。
「ゴメン。えーっと……」
目を泳がせながら返事に困っていると、バルトがぎゅっと強く抱き締めてくれた。
トクントクンとバルトの心臓の音が聞こえる。そのまま一緒にいたいな。でも俺の我が儘で迷惑はかけたくない。なら……。
ぎゅっとバルトを強く抱き締め数秒、上を見上げ、ちょっと首を傾げる。あざとくね。
「バル、明日も会いに来てくれる?」
「っ!くっ、かわっ!」
お互い抱き締めているので、バルトの心臓が先程よりも速くなっているのがわかる。
服越しだが、ドクドクドクと弾むバルトの心臓と俺の心臓が重なりあって動いているみたいで、幸せ。
ぎゅぅと目をつぶり、赤面したままのバルトをじっと見る。こっちを向いてくれないかなと、しばらく待ってみたが一向に見ない。それなら……。
バルトの体と俺の体を隙間なく更に密着させた。
うん、ちょっと立ってるね。
俺は背伸びをし、バルトの少し固くなったモノに向かって、俺のモノをぐいと押し付けた。
「っ!」
驚いて俺を見るバルトににっこり笑う。
「ねぇ、バル……明日も来てくれるよね?」
バルトは俺と同じ事……バルトのモノを俺のモノに押し付けながら、満面の笑顔で答えた。
「あぁ!もちろん。毎日来る」
チュッとお互い軽いキスを交わす。
「ん。でも、無理なときは大丈夫だからね。無理はしないで」
「あぁ」
「おやすみ、バル」
「おやすみ、ジン」
ぎゅっと抱きしめ10秒後、ゆっくりと離れ、バルトは手を振りながら部屋を出ていった。
静まり返り少し寂しいなと思っていると、外からバルトとサザン達の言い合いが聞こえてきて思わず笑った。
ん、寂しくないや。
自分に『浄化』魔法で体を綺麗にした後、ベットに入って数秒、うっすらと聞こえるバルト達の声を子守唄に、すぐに眠りに落ちたのだった。
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