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番外編
城編 10
しおりを挟むふはっと、2人で笑いあっていると、コンコンと部屋のノックが聞こえたので返事を返す。
「「失礼致します」」
あっ、サザにぃとリックにぃだ。
「ジン殿下、私達は休憩が終わりましたので再度護衛を……バルト?」
俺の横にいたバルトを見て、目を丸くする2人。どうしたのかと首を傾げ5秒、サザンが無表情でズカズカとこちら……バルトの方に向かってきた。
「バルト、お前、何でジン殿下の部屋にいるんだ?」
「お前らには関係ない」
先程のバルトの笑顔が嘘だったかのように、今は怖い表情をしている。
「関係はある。俺達はジン殿下の護衛だ」
「俺はジンの婚約者だ」
「そうか婚約者……「は?婚約者?」」
「あぁ」
サザンとリックスが目を見開いたまま、俺とバルトを何度も交互見る。俺はエヘヘと笑って誤魔化す。
「ちょっと待ってください」
リックスは額に手を当て、目を泳がせながら俺達に問う。
「あり得ない話なのですが……まさかジン殿下は、あのジン……」
「そんなあるわけねぇだろ!ジンはあの時死んだ!……俺達も思い出して確認した……ジン殿下の、顔じゃ……いや、ジンに似てるな?……なんで気付かなかったんだ……」
俺達も思い出した?サザン達はやっぱり俺の事を忘れてたんだな。まぁ、子どもだったから仕方ない……。
ちょっと悲しいな……と思っていたら隣にいたバルトが「チッ」と舌打ちした。
ん?何故ここでバルトが舌打ち?
サザンがギロッとバルトを睨む。
「バルト、お前、まさかまた……」
「知らん」
ズバッとサザンの目を見て言うバルト。
リックスもじっとバルトを見る。
「バルト、怒らないので正直に言ってください」
「…知らん」
ゼロコンマ5秒遅れて、目を背けながら言うバルト。
あっ、嘘ついて誤魔化しているときのバルトだ。うむ、気になるな。バルトはいったい何をしたんだ?
「バルト、話がわからないんだけど、説明してくれる?俺、嘘つかれるの嫌」
「っ!あっ、その、だな」
目を泳がすバルトの顔をガシッと両手で掴み、目を合わせる。
「バル、1度しか言わないよ。教えて」
「……はい」
観念したバルトがゆっくりと話し出した。
リックスやサザンとダンが、ザバムの屋敷に来なくなって1ヵ月後、サザンが久しぶりに皆で逢おうと言い出したのが切っ掛けらしい。
俺との時間を楽しんでいたバルトが、まぁ、邪魔されるのを嫌がって、俺の事を忘れる『神経簡易忘却』魔法を使ってしまったと。
この魔法は強いものではない。人間のよくある、『なんだか忘れている気がする。でもなんだったかな?』と思い出しそうで思い出せない魔法だ。何かを切っ掛けにふっと思い出すようになっている。
「バルトのやつ、俺が思い出す度に、忘却魔法を使ってジンと逢うのを邪魔してたんだ」
「私も城でジンとすれ違ったときに思い出したのですが、どうして忘れていたんだと自己嫌悪に陥りました。それで、バルトに相談しに行ったら……」
2人ともジロリとバルトを睨んでいる。まぁ、当たり前だよな。俺も話しかけてこないサザにぃ達のことで悩んでたし。
「ジンが亡くなったあの日、総団長が知らせに来てくれて……やっとジンを思い出したとき、バルトが俺達に何度も忘却魔法を掛けられたことを思い出した」
「あの後、私達に殴られて反省したのかと思いきや……まさが今度はジンの顔を思い出させないように忘却魔法を掛けていたなんて……ん?ちょっと待ってください。ジンはスタンピードのあの日に確かに亡くなったはず……」
「そう……だよな……葬儀も……」
2人はどういうことだ?と目を最大限に開け、俺を見た。
「あー、何て言っていいのかな。俺はジンであってジンじゃない」
「ジンじゃない?いや、でもどこから見てもジンですよね?」
眉間に皺を寄せ俺を見る2人に、何て言って説明すればいいのかわからずガシガシと頭をかく。
「ここにいるジンは異世界人だ」
バルトがズバッと答えたが、サザンとリックスは意味がわからないといった表情で頭を傾げる。
「異世界とはこの世界ではない別の世界にことだ。ジンはこの世界で死んで、別の世界に生まれ変わり、前世の記憶を持ったまま召喚に巻き込まれてこの世界にやってきた」
うわぁ、間違ってないけど、たぶんこれ、意味がわからないんじゃないかな。
「あ"ー!一気に言うな!わかりにくい!」
「あー、えっと、要するに……ジン殿下はジンの生まれ変わりということですか?」
「おぉ、さすがリックにぃ。理解が早い」
パチパチと手を叩く俺を、リックスとサザンがビシッと固まる。俺を見たまま動かない。
「バルトが一気に言うから2人が固まっちゃったよ」
「いや、俺のせいじゃないと思うぞ」
さらっと俺に答えるバルトをジド目で見る。
「バルト、そんなことより俺に謝ることがあるだろ」
「……騙していたことか?」
「そう。リックにぃとサザにぃのことで相談した事、覚えてる?」
「あー、たぶん?」
「お前あの時『幼い頃だったから、俺らのこと忘れてるんじゃないか?悲しいが気軽に話しかけない方がいい。アイツらはもう上の存在だ』みたいなこと言ってたよな」
「……言ったような、言っていないような」
目線を上斜め横へずらし、誤魔化すバルト。
これはお仕置きが必要だな。
俺は必殺泣き真似魔法、『水滴』を発動。といっても、少しの魔力を目元に集めただけだ。水魔法で涙を作るなんてアホ、俺だけなんだろうな。
「……にぃ達が俺を忘れていたのはバルのせいだったなんて……バルト……ひどいっ……」
「っ!たっ、頼むから、泣くな!俺が悪かった!」
ギュッと抱き締めるバルトの腕の中からあざとく、下から見上げる。
「本当に悪いと思ってる?」
「あぁ!俺が悪かった。何でもするから泣かないでくれ」
目元の涙を親指で優しく拭くバルトに俺はにっこりと笑う。
「じゃぁ、にぃ達に謝って。もう二度としないと俺とに誓って」
俺に言われバルトは渋々2人に謝った。
「すまん」
反省しているような、していようなどっちか微妙な感じではあるが、俺に誓ったんだ、もうしないだろう。
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