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番外編
城編 9
しおりを挟む「ジン殿下、先日ぶりでございます」
部屋に入った瞬間、深々と頭を地面につけて土下座しているのは、眼鏡を掛けた水色髪の男性。この国の宰相、スウェン・バルクールだ。
「えっと、お願いだから立ってくれる?」
俺がそう言った5秒後、スウェンはゆっくりと頭を上げた。へにょと眉毛を下げているスウェンに違和感を覚える。初めてあった時と印象がまるで反対だ。
自信なさげな表情で立ち上がったスウェンに俺はおそるおそる声をかけた。
「……えっと、スウェン本人だよね?」
「はい、そうです……」
今にも消え入りそうな声でしゃべるスウェンに首を傾げる。
「元気ない?何かあった?」
「あっ、えーっと、その、ですね。実は私、普段はこんな感じなんです」
「ん?どう言うこと?」
スウェンの話を聞いてわかったことは、彼はヘタレだと言うことだ。人前ではテキパキとクールに仕事をこなす宰相だが、本当の彼は気が弱くネガティブ思考の持ち主で、問題が起きればいつも、『これでいいのだろうか?いいはず……だ。でもな……いや、やっぱり』といった感じで、ウジウジと深く迷い悩んでいるらしい。
「んー、でもどうして俺に、普段の姿を見せたんだ?ずっとクールバージョンで接すればよかったんじゃないか?」
「クール……そう、ですね。なんと言えばいいのか……ジン殿下への謝罪と、私の自身の反省……あー、仲間い……とい……す……」
口許を押さえながら、ボソボソとしゃべっていて言葉が聞きづらい。
謝罪や反省はわかるが、仲間ってどう言うことだ?俺とスウェンが?
意味がわからず首を傾げていると、スウェンは何かを決心したような真剣な眼差しで俺を見つめてきた。
「私は以前、ジン殿下を深く傷つけてしまいました。守らなければならない王族の方を傷付けてしまったことに自己嫌悪し、反省した結果、ジン殿下には本当の私を見てもらおうと思ったのです。もうジン殿下を傷付け泣かせることはいたしません。スウェン・バルクールの名に誓って」
目を逸らさず真っ直ぐ見つめてくるスウェンに、嘘偽りない強い意思を感じた。
「ん、スウェンの気持ち、受け取ったよ」
「ありがとうございます」
優しそうに笑いながら深く頭を下げた5秒後、スウェンは顔を上げると、人差し指で眼鏡をくぃっと上げた。
「さて、私がこちらに来たもう一つの目的ですが……」
あっ、クールバージョンになった。
「本日から数日だけですが、ジン殿下の教養の教師を務めさせていただきますので、よろしくお願いします」
「あー、うん、お願い」
「では、外に行きましょう」
「ん?」
「うー、疲れたー」
部屋に戻って速攻ベッドに倒れ込む。
あれから俺はスウェンに連れられ、陽と影のあたる庭で、午前、昼食、午後に渡り、スウェンの授業というテストと質問を受けた。
内容はこの国のこと、隣国のこと、マナーのこと、計算やお金の使い方……まぁ、一般常識ですね。
それが終われば、ティータイムをしながら、採点。スウェンは採点しながら俺に、色々な質問した。例えば、何が得意か不得意かとか。
得意なことは魔法、不得意なことは座って勉強すること、と言ったら、「そうですか」と無表情で言われた。その後に続く言葉は特にナシ。
ちょ、言葉のキャッチボールって知ってる?本当何で聞いたよ!とツッコミを入れたかったが、クールバージョンのスウェンだったので言ってもダメだろうと思いやめた。
結局、採点が終わり数回質問した後、「大体わかりました。明日の朝までには資料を用意します。では、また明日の同じ時間に参ります」と礼をして去っていった。
ちょっ!もっと詳しく言って欲しい。
あっ、今度ヘタレバージョンの時に言ってみようかな。聞いてくれるかも。
「うー、とにかく……疲れ……た……」
夕食まで後3時間ある。うん、ちょっと寝よう……。
「ジ……、ジ……ン」
「ん……」
「ジン、起きろ。まったく、せっかく俺が来たっていうのに寝てるとはな……」
あぁ、バルの声だ。心地いい。
「バル……んふふ……」
バルの大きな手が俺の頭を優しく撫でる。これ好き。
「ジン、起きてるのか?」
ん、起きてるよ。と言いたいが、口も目も開かない。
「寝てるのか?仕方ない。今日は帰るか……」
えっ、帰るの!夢でもそれはダメ!俺の口と目よ開け!
「だ……め……バル……いちゃ……やぁ!」
重たい目を開けると、俺を覗き込むバルトと目が合った。
「あっ、起きた」
ふわりと笑うバルトに、無意識に手を伸ばすとギュッと手を握ってくれた。
「ん……バル……はよう?」
「おはようと言うよりも、おやすみと言う時間だが、まぁ、おはよう」
チュとバルトが俺の手の甲にキスをして、ぱちっと目が覚めた。
「本物?」
「あぁ、本物だ」
「バルー!」
上半身を起こし、バルトに抱きついた。するとバルトもギュと強く抱き返してくれた。
「ジン、今日は大丈夫だったか?」
「んー、大丈夫……ではなかった」
スウェンのことを話すとバルトはちょっと驚いたようだったが、納得したように頷いた。
「バルは知ってたの?」
「あぁ、聞いたことはあるが見たことはない。見たことのあるやつは少ないんじゃないか?それほど彼は他人を信用していないからな」
「へー」
じゃぁ俺が見たスウェンは本当にレアなんだな。そう言えば、彼のヘタレバージョンは最初だけだった。その後はずっとクールバージョン。
大の大人が弱みを見せるなんて簡単にできるもじゃないもんな。
まぁ、それよりも今はバルトを……あれ……笑ってるのに目が笑っていない。怒ってる?何で?
「えっと、バル、怒ってる?」
「……別に怒ってない」
「嘘だ。俺にはわかる」
「……」
目を合わせ、じっと数秒間見つめると、バルトが降参だと言うように自分の額に手を当て目を瞑り、ふぅーと息を吐き出した。
「……城の団長会議で聞いた。ガイヤドールと勇者のこと」
「ん」
「国家機密だからジンが言わなかったのはわかる……そう、頭ではわかっているんだ。だけど、承諾する前に一言俺に相談して……いや、違うな、これは俺の我が儘だ、すまん」
「バル、謝らないで。俺のことを心配してくれたんだよね。ありがとう」
両手でバルトの頬を包み込み、チュッと目元にキスをすると、強ばっていた表情がふっと緩んだ。
「ジン……」
俺の手の上にバルトの大きな手がそっと重なる。そして、甘えるかのように俺の手にスリッと頬を寄せた後、手の平にキスをした。
「ジン、俺はもう二度とジンを失いたくない。大丈夫だとわかっていても心配で、怖くてたまらないんだ……」
俺を見つめるバルトの瞳は不安そうにゆらりと揺れている。俺はそんなバルトの不安を消そうとにっこりと笑った後に、噛みつくようなキスをした。バルトの口が開いた瞬間舌を入れ、お互いに息つく暇もないぐらいの濃厚なキスを交わす。
「んっ……はぁ、バル……」
「はぁ……んっ、ジン……」
唇をそっと離すと互いの額をコツンと合わせる。
「バルト、これからはちゃんと相談する。だから、バルトもどんな小さな事でも俺に相談してくれる?」
「あぁ、もちろんだ」
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