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番外編
城編 8
しおりを挟む「ジン殿下、おはようございます」
シャーとカーテンの開ける音と共に光が差し込む。ん……眩しい。
「いいお天気ですよ」
「ん……」
女性の優しい声と鳥の鳴き声が……ん、女性?
「!」
一気に目が覚めベッドから跳ね起きた。目の前には驚いた顔で俺を見る……水色髪のメイドさん?
「……」
数秒後、昨日の出来事を思い出す。
……あぁ、そうだった。
昨日宮殿の案内が終わり、夕食の時にアークから、「何もなければ今日から住んでもいいぞ」と言われ、特に何もなかった俺は昨日からお世話になることにした。
ちなみにバルトにそう連絡をすると、今日の夜に会いに来てくれると約束してくれた。楽しみ。
心配そうに俺を見てくるメイドさんに気付き謝る。
「あー、ごめん。寝ぼけてた」
「いいえ、大丈夫です」
優しく笑っているメイドさんは俺の世話係の一人、サーヤ。昨日宮殿を案内された後に紹介された18歳のメイドさんだ。他にも数名世話係がいたが、今日は彼女が担当らしい。
朝の支度……つまり顔を洗ったり、服に着替えたりを手伝いますと言われたが、一般人なので丁重に断りました。が、残念そうな表情をしていたので、服選びとヘアアレンジを頼むと、サーヤは嬉しそう頷きクローゼットへ向かっていった。
顔や歯磨きをしながら、ふと思う。
着替えはあるのだろか?と。昨日サイズを測ったから数日かかるだろう。
洗面室から出るとサーヤがクローゼットの前で悩んでいた。
「うわ……」
俺が驚いたのはサーヤにではなく、クローゼットの中。クローゼットには大体30着以上入っていた。いつの間に……と思ったが多分既製品だろう。いくらなんでも昨日今日でできるはずがない……よな?
「あっ、ジン殿下。こちらの服にしようと思うのですが、青と白どちらがいいですか?」
「んー、青がいいかな。あとそのヒラヒラシャツは却下。シンプルで」
「わ、わかりました」
残念そうな顔でチラリと俺を見たが、そこは譲りません。
ちょっと複雑な服だったので、サーヤに着るのを手伝ってもらった後、ヘアセットもやってもらった。
「出来ました!お綺麗過ぎます!最高!」
立ち上がり改めて鏡を見る。
衣装とヘアセットでちゃんとした王子に見えるな。
俺じゃないみたい。変な感じだ。
なんて思っていると、横から熱い視線を感じたので見てみるとサーヤが顔を赤くさせていた。
ボーと俺を見るサーヤに、にっこりと微笑みながら、「ありがとう、サーヤ」と声をかけると、「ふにゃ~」と言いながら、バタッと地面に倒れてしまった。
「えっ!ちょっ、サーヤ!だっ、誰か!」
俺が声を張り上げると緑髪のメイドさんが入ってきた。確か彼女も俺専用のメイドで名はリリー。
「失礼致します。ジン殿下どう……さ……れ」
リリーも俺を見るなり固まってしまった。
えっ、俺のせい?俺、硬直魔法使ってないよ!
「リリー!」
俺が焦って名を呼ぶと、はっと我に返ったリリーが慌てて近寄ってきた。
「サーヤが急に倒れたんだ!早く医者に見せないと!」
焦りと不安が混ざった表情でリリーを見ると、彼女は「うっ!」と呻き声と共に胸に手をやる。
「……破壊力半端ない」
「えっ?何?」
「いえ」
リリーは素早くサーヤの脈を測り、細かく体全体を見ていく。
「……異常無しです」
「へ?」
「どうやら、興奮して倒れてしまったようです……ジン殿下、ご迷惑をお掛け致しました」
「そっ、そっか。病気で倒れたんじゃないならよかった。リリー、サーヤはどこに……」
俺がサーヤを運ぼうとする前に、さっとリリーがサーヤを持ち上げた。えぇ、それはもう軽々と。
「っ!」
「ジン殿下、少々お待ち下さい」
リリーは俺にお辞儀をした後、足音を立てずに、さささっと部屋を出ていった。
シーンと静まり返る部屋の中で、ポツンと床に座っている俺。男として情けない感じがして、なんだか泣きたくなった。
あれからすぐに、ヤミがやって来た。
床に座っている俺を見ると目を少し大きくさせ、スタスタと俺の前にやって来て、ひょいっとお姫様抱っこで持ち上げた。
「ジン殿下、椅子までお運びいたしますね」
優しくにっこり笑いながら言うと、椅子にそっと座らせてくれた。
わーい、俺、お姫様みたい……いや、王子だけど。
ささっと乱れた髪と服装を直されると、食事が運ばれてきた。
クロワッサンに、ベーコン、オムレツ。スープ、サラダ、ヨーグルト、フルーツの順に運ばれてきた。
うっ!朝から多い。これの3分の1でいい。
微かに顔をしかめていると、最後にヤミがチョコケーキのホールを持ってやってきた。
「こちらは、王からです」
「いらない、無理、マジぶっ飛ばす」
勢いよく立ち上がり、城の近くまで転移しようとしたが、できなかった。
もしかして、ここにも結界が?
「ヤミ、この宮殿に結界がかけられてる?」
「はい、王族の宮殿全てに結界がかかっています」
「ふーん」
魔力を練り、空気の層が薄く広がるようにイメージをする。すると自分の魔力ではない固まりに当たった。
結界は意外と薄いな……あっ、でも5重になってる。
んー、ちょっと小さな穴をあけて、そこから魔力を流せばいけるか……。
「ジン殿下」
「ん?」
「内側から結界に穴をあけると城全体の結界が壊れてしまいますのでご注意ください」
俺は驚き目を見張る。
魔力が見えるのか?
「……俺が何をしてるか、わかったの?」
「いいえ、カンです」
「……」
にっこり笑って言うヤミ。カンでわかるものか?
「……空中に白い球体みたいなものが見えたりする?」
「空中に白い球体ですか?」
キョトンとした表情で俺を見るヤミに、嘘はついていなさそうだ。気のせいか。
「いや、何でもない」
「そうですか?」
「ん。あっ、ケーキは無理だから、即片付けてもらえる?」
「かしこまりました。片付けてまいりますので、朝食をお召し上がりください」
「ん、いただきます」
まずはスープから、ん、旨い。
クロワッサン1個、オムレツ、ベーコン1枚をゆっくり時間をかけて食べた。
「ごちそうさまでした」
「「は?」」
いつの間にか帰ってきたヤミとリリーの声の方向を見て、首を傾げた。
「どうしたの?何かあった?」
「何かあった?ではありません!少食すぎます」
「そうです!その量はおかしいです!」
「いや、これが俺の普通。それに朝からこんなに食べれないから、明日から少量にしてくれる?」
2人の顔が驚愕する。あり得ないとでも言いたいのだろう。
「明日から少なめにお願いね」
強めに言うと、2人はしぶしぶ頷いた。
本当ここの人達って食に煩いよね。
元々朝食をカフェオレで済ませていた俺にはアレでも頑張った方だ。
俺は立ち上がり背伸びをしていると、コンコンとドアのノックが聞こえ、ミヤが対応に向かい、一言二言話すと俺の方にやってきて告げる。
「ジン殿下、……がいらっしゃいました」
「えっ?」
思ってもいなかった訪問者がやってきた。
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