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番外編
城編 5
しおりを挟む部屋から出て、マイヤにしばらく着いていくと、とある部屋に案内された。
部屋には男性3人。マイヤから「ジン殿下の衣服や靴を作る仕立て屋です」と紹介された。城御用達の仕立て屋らしい。
店長らしき男性が俺を見るなり目を見開き、キラキラと目を輝かせてきた。
「殿下、アクア仕立て屋を経営しているアクアと申します。本日はどうぞよろしくお願い致します」
丁寧な挨拶を交わした後、アクアは上半身から始まり、頭から足まで体全体のサイズを細かく丁寧に測っていく。採寸の間にアクアがニコニコと笑顔で聞いてきた。
「殿下、服の好みや色は何かございますか?」
「えーっと、動きやすい服。シンプルで、黒色かな」
俺がそうと答えると、店長が目に見えてシュンと落ち込んだ。
えっ、俺何か悪いこと言った?
採寸が終わったと同時にマイヤが素早く近付き耳元で「ジン殿下に合う服を作りたいみたいです」と教えてくれた。
あー、そう言うこと。
「えーと、じゃぁ、数着はおまかせで」
俺がそう言うと、アクアは、パーと顔が明るくなり「はい!ありがとうございます!私にお任せを!」とうきうき顔で帰っていった。
「ふぅー」
ドサリとソファーに深く座るとマイヤがはからったようにテーブルに紅茶を置いた。
「ジン殿下お疲れ様です。どうぞ」
「ありがとございます」
一口飲むと紅茶がほんのりレモン風味で、疲れがちょっとやわらいだ気がする。ん、うまい。
飲んでは、ほぅと息をついてを繰り返すこと3回。
「ジン殿下、次は城内を案内させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします」
「はい、おまかせください。それとジン殿下、その言葉遣いですが、私のような下の者には敬語抜きでお願いいたします」
「あー、はい……じゃなくて、わかった」
「ご理解いただきありがとうございます。紅茶のおかわりはどうですか?」
「んー、いらない」
紅茶と一緒にクッキーがあったので、それを一口食べた。超ウマ!さすが城のお菓子。
お菓子を堪能し、紅茶を半分飲み終えた頃、コンコンと部屋のノックが聞こえ、扉の方に視線をやると、もうそこにマイヤが居た。さすが暗部。歩く音が一切聞こえなかった……。ん、後でこっそりやり方を教えてもらおう。
マイヤがドアを開け、外にいる相手と数秒間会話をした後、総騎士団長のザバムが部屋に入ってきた。
俺に向かって左手を胸に当て礼をする。
「ジン殿下、おはようございます」
「おはようござ……」
「ジン殿下」
マイヤに嗜めるように名前を呼ばれ、無表情でじっと見つめられる。
「……おはよう」
マイヤは良くできましたと言うように、にっこりと笑った瞬間、アメとムチと言う言葉が頭に浮かんだ。こんな感じでアーガンにも接してるんだろうな……。
「ジン殿下の護衛騎士を紹介してもよろしいでしょうか?」
相変わらず無表情のザバムが俺の目を真っ直ぐ見つめながら聞いてきた。
「護衛騎士?俺に?」
「はい」
「いらな……」
返事を遮るようにマイヤがにこやかに言う。
「ジン殿下、貴方はこの国の王族。尊い御身に何があってからでは遅いのです」
「でも……」
「ジン殿下、王の想いを邪険になさらぬようお願いいたします」
笑顔を崩さず、されど目力が強いマイヤ。絶対に意見は曲げないと目で訴えているのがわかる。
あー、これ、何言ってもダメだな。
「……はぁー、わかった」
面倒臭いが報酬の為だ。頑張ろう、うん。
ザバムが部屋の外にいた者を呼ぶと、2人の騎士が入ってきた。
「「失礼いたします」」
あれ、この2人ってあの時の……。
騎士達は握った拳、左手を胸に当て深く礼をした。
「ジン殿下がご健勝でいらっしゃった事、誠に心より嬉しく存じます」
「第1騎士団副団長サザン・メーラです」
「第2騎士団副団長リックス・ランドです」
「ジン殿下にお仕えすること光栄の至りです。誠心誠意をもってお仕えいたします」
やっぱり!この間のスタンピードの時にいた、アークの飲み仲間の騎士だ。
「ん、2人ともよろしく」
笑顔で挨拶を返すと顔を上げた2人は俺を見るなり目を大きく見開き息を飲み込んだ。
「「っ!」」
……?あぁ、あの時会った時の事を覚えて……ん?俺、大きくなったから違うよな?それじゃぁ、何に驚いてるんだ?
首を傾げる俺に気付いたザバムが容赦なく2人の頭をを叩き、頭を深く下げた。
「ジン殿下、失礼致しました」
「「しっ、失礼致しました」」
「気にしてないから大丈夫。2人共も気にしないでいから」
「天使……」
「いや、精霊様だろ」
「お前ら……減俸だ」
ザバムが睨みながら言うが、サザンとリックスはなんのその、恐れることなく抗議する。
「えっ、それはないだろ」
「酷いです。横暴です」
「お前らな……」
無表情だが柔らかい、呆れたような目を浮かべるザバムに3人とも親しい仲と言うことがわかった。
「……2人は、ザバムと仲がいいね」
俺がそう尋ねるとサザンが言いにくそうに答える。
「あー、俺、昔、孤児だったんですが、道端で死にそうになっていた俺と弟を総団長が拾ってくださり、数年間屋敷でお世話になっていました。なので、総団長は俺にとって家族みたいなものなんです」
「私は、総団長と私の伯父が仲がよく、幼い頃から毎日のように総団長の屋敷へと遊びに行っていました。なので俺にとって総団長は、もう一人の伯父みたいなものです」
「じゃぁ、2人もその時に?」
「はい、こいつとは幼馴染みと言うよりも兄弟みたいな感じですね」
「私とあなたが兄弟?冗談は寝てからにしてください。こんな出来の悪い弟がいてたまりますか。私の弟達はバルとジンとダンの3人です」
リックスが言葉にした名前に俺の心臓がドキッと反応する。
「はっ!兄弟じゃなくて、みたいっといっただろう!」
「貴方との関係なんて悪友で十分です」
「悪友……ふはっ、確かに!」
「でしょう」
お互いを見つめた瞬間、可笑しそうに笑う2人に目を奪われた。
なんだろう……どこかで……。
次第に目の前が霞んでいき、子供達の声が聞こえてきた。
『ぷはっ!ジン、なんだその格好。泥まみれじゃねぇか!』
『……ほっといて』
『ふふ、ジン、可愛い顔が台無しですね。どんな遊びをしていたのですか?ほら、こっちに来て』
優しく笑う2人の少年達がだんだんと消えていき、目の前にいる騎士達、サザンとリックスの姿と重なっていった。
……そうだ、思い出した。俺がバルトの本家、つまり、ザバムの屋敷に行っていた時、数年間一緒に遊んでいた、リックにぃとサザにぃだ。
バルトもこの2人……いや、弟のダンを合わせたら3人には気を許していた。
5人で屋敷の敷地にある川で釣りをしたり、木登りや無意味にかけっこをした。皆強くなりたいからと、バルトの父であるニルクに剣を教えてもらったり、ちょっと変わった人(家庭教師)から魔法を習ったりもしたな。
で、俺が3人と仲良くしてるとバルトが拗ねたことがあったっけ。あの頃のバルト、可愛かったなぁ。
脳裏にあの時の光景が蘇り、思わず笑う。
「ふふ」
「ちょっ、お前が変なこと言うから殿下から笑われただろ!」
「私のせいではありません。貴方が変なのでは?」
「リックー!」
懐かしい。サザにぃとリックにぃは、昔もよくこうして口喧嘩をしていたな。
あれ?そう言えば、いつ3人と遊ばなくなったんだっけ?……確か、3人と出会って数年後に、サザにぃとダンの兄弟がどこかの貴族の養子に入り、リックにぃは騎士団に入る年齢になって、皆それぞれバラバラになったんだったな。
俺が騎士になって城で何度か見かけたことはあったが、声はかけなかった。昔の事だから、平民の俺の事なんて覚えていないだろうと思ったからだ。
まぁ何にせよ、2人の変わらない口喧嘩に嬉しくなる。
「リックにぃ、サザにぃ、変わってないな」
俺が小さい声で思わず呟くと、真正面にいたザバムが目をカッと見開き、ぐしゃりと前髪を掴みながらギリッと唇を噛み締めた。
えっ!俺、何かいけないことを言った?
ザバムは眉間に皺を寄せながら、バッと俺の前に跪き、頭を深く下げた。
「ジン殿下、謝罪させてください。私は王に殿下を見つけるようにと命令されていました。ですが、長い間殿下を見つけられなかったこと、誠に申し訳なく……。屋敷に何度もいらっしゃったのに……私はジン殿下を見つける事が出来なかった……」
「えっ?えっ?」
「総騎士団長ザバム・スウェング、どんな罰でも……」
「ちょっと待った!言っとくけどね、ザバムが気付かなくて罰を受けるなら、アークとアーガンもだからね?それに、俺はもう誰も恨んでないし、バルトと一緒にいられるだけでいいんだ。ザバムが責任を感じることなんてない。だから顔を上げて……」
ザバムがゆっくり顔を上げると、目に涙が溢れていた。
あの無表情がデフォルトのザバムが、泣いている……。そこまで、俺のことを……。
俺はぎゅっとザバムに抱きついた。
「ザバム、長い間俺を探してくれて、ありがとう」
「ジン殿下……身に余るお言葉、ありがとうございます」
ザバムからもそっと手が回され、俺を壊れ物のように優しく抱き締めた。
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