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番外編
城編 1
しおりを挟む「いらないって言ってんだろうが!」
「そんなことを言わないでくれ。これはジンが得るはずだった当然の権利だ」
一歩も譲らない!といった目で、真っ直ぐ見つめてくるアーガンに俺はイライラしていた。
数分前、俺とアークはアーガンに呼ばれ、メルゾーラ城にやってきた。大事な話があるのでどうしても来て欲しいとのことだったので渋々行ってみると、丁重に応接室に案内され、そこにニコニコ顔のアークと申し訳なさそうな表情をした宰相と無表情の総騎士団長がいた。
「ジン、よく来てくれた」
アーガンがわざわざ立って俺達を……俺をテーブルまでエスコートしてくれた。テーブルには美味しそうなお菓子と座って数秒で紅茶が運ばれてきた。ふわりと紅茶の香りがくすぐり一口飲んだ。ん、さすが城の紅茶。うまい。
「さて、話の要点だが……」
話の内容は3点。
1点目は宰相のスウェン・バルクールと、総騎士団長のザバム・スウェングの2人から、この間の不躾な物言いや無礼な振る舞いに対して深い謝罪を受けた。2人とも以前より目が柔らかい……気がする。
2点目は、俺の事に関して。俺はアークの養子になるはずだったが、前世の俺がアーガンの息子だとわかったので却下された。その代わりに、第1王子ジン・バリシ・メルゾーラの地位と王位継承権第2位、領地、毎月の経費、護衛騎士その他諸々を渡すと言われたのだ。
「本当は王位継承権1位を渡したかったんだが周りの奴らが反対してね、全く困ったもんだ」
ふぅと頭を左右に振るアーガンに俺は冷めた表情で呟く。
「いらない、やめて……」
「えっ?もう一度言ってくれるか?」
小さい声だったので聞こえなかったようだ。俺はアーガンがよく聞こえるように、先程より少し大きい声で言葉を区切りながら話す。
「いらない。やめて。ふざけるな」
「……そんなこと言わないでくれ。それにもう、詔勅済みだ」
ニコニコと笑うアーガンに俺は無言で睨んだ。俺の隣に座っているアークは片手を額にあて、頭を左右に振っている。
「そして、3点目だが、ジン専用の宮殿を用意した」
「はっ?」
「もちろん使用人達も厳選してある。自由に使ってくれ」
あまりのアーガンの身勝手さに俺の何かがプチッと切れ、テーブルを叩いて立ち上がった。
「いらないって言ってんだろうが!」
で、冒頭に戻る。
落ち着け俺。こういう時は冷静に対処するんだ。
「……ふぅ」
俺は息を細く吐き出しながら右手に魔力を練り、身体強化をかけた。
俺はアーガンに向かってにっこりと笑い、拳を握りしめ、力一杯テーブルに叩きつけた。
バキッ!と大きな音を立ててテーブルが無惨に粉々になった。
目の前にいたアーガンは目が点に、後ろにいた宰相はため息を、総騎士団長は目を大きくさせながらも無表情でテーブルを凝視した。
「アーガン、人の嫌がることはしてはいけませんって母上に習わなかったかな?」
魔力を全身に纏わせ、アーガンに笑いながら問う俺を、アーガンは口許をピクピクさせながらボソッと答える。
「怒り方がアリサそっくりだ……」
「何か言った?」
「いえ!えっと、アリサに、習った気がします……」
「悪いときは何て言うのかな?」
「ごめんなさい……」
「ちゃんと撤回しといてね」
「……善処します」
「アーガン!」
アーガンはきゅっと口を結んだ後、意志の強い表情で
俺を真っ直ぐ見た。
「ジン、私はこれでもジンの父なんだ。今までしてあげれなかったことを、してあげたいと思うのは当たり前のことじゃないのか?ジン、頼むから親らしいことをさせてくれ!ジンにとっては迷惑だろうが、私にとっては精一杯の誠意なんだ!」
「……アーク、どうにかして」
今まで黙って聞いていたアークに助けを求めると、アークは深いため息をついた後、アーガンに向けて言った。
「アーガン、その誠意が間違ってるんだ。俺は言ったよな?ジンの嫌がることは絶対にしないと。もう一度考え直せ」
「でもな!」
「アーガン」
「……わかった、すまなかった」
アーガンはそう言うと反省してるのか、悲しいのか、ガクッとこうべを垂れた。可哀想に見えるがそんなの俺には関係ない。
「で、人を呼び出しといて本題は何?」
「あー、いやー、本題が……」
「アーガン、これが本題だと言わないよね?」
「ジ、ジンの事を知る前に、私とアリサの素晴らしい出会いを話そうかなっ、と思います!」
アーガンと母上の出会い……アークから少し聞いたが、うん、ちょっと気になる。
俺はドサッと椅子に座ると、壊れたテーブルに手をかざし、光の魔力で包んだ。そして、指をパチンと鳴らすと、壊れていたテーブルが元に姿に戻る。
「「っ!」」
この場にいた4人が息を呑み、目を丸くさせる。無理もない。これは光の精霊王シロの直伝の魔法だ。魔力で包んだ物を数分前まで戻せる『時空回復』。シロと契約したお陰で使えるようになった。ちなみにこれぐらいの軽い魔法であれば城のセキュリティー……つまり、結界に反応しないので、魔法が使えます。
「アーガン、話は?」
俺が声をかけると、はっと我に返ったアーガンが俺を見て咳払いをした。
「……ごほん、では話そう。あれは私が城を抜け出し、アークに会いに行く途中だった……」
アーガンの話が長かったので短めにまとめることにする。
街でフラフラと歩いていたアーガンが、出会い頭に母上、アリサとぶつかり足を怪我をさせてしまったことから始まる。
怪我をさせてしまってどうしていいかわからなかったアーガンに、気の強かったアリサは指を突きつけて言い放った。
「どこの坊っちゃんか知らないけど、ぶつかったらまずは謝るのが礼儀でしょ!」
それでアーガンはアリサに恋に落ちた。
どこに恋に落ちる要素が?と思ったのだが、アーガン曰く、アリサの可愛らしさと、その気の強さのギャップに一目惚れしたのだとか。
アーガンは怪我のお詫びにとデートに誘い、初デートで「好きだ」と告白。
うわー、ねぇーわー。
もちろん成功するはずもなく、アーガンはアリサに会う度に(ストーカーのように待ち伏せしていたようだ)告白をしたらしい。
買い物や仕事中にも会いに行き、毎日のように口説くアーガンにアリサはキレて、たまたま持っていたリーンゴ(林檎)をグシャリと握りつぶした。
「ストーカー行為は犯罪だって、親に習わなかったかな?」
「あっ、えっ、ストーカー行為?私が?えっ?」
「悪いときは何て言うのかな?」
「ご、ごめんなさい……」
にっこりと笑いながら怒るアリサに恐怖を感じながらも、アーガンはますます好きになったそうだ。マゾかよ……。
そして、最終的にアリサはアーガンのしつこさに負け、仕事中には来ない事を条件にデートを許可した。
最初は怒りながらデートをしていたアリサだったが、デートを重ねていく内にアーガンの良さに気付き恋に落ちたらしい。
アーガンの話だからちょっと盛ってる感がある気がするが……。
そして、ついに、アーガンは60回目の告白後、アリサと恋人同士になり順調な楽しい日々を過ごしたとさ……めでたしめでたし。
へー、子供の頃母上に父上がどんな人か聞いた事があった。その時は「……面白い人よ。ちょっと執着心がすごいけれど……うん、私は好きだったわ」と。
目を泳がせながら詳しく教えてくれなかったが、そう言うことだったんだな……。
「……と言うわけだ。どうだ?素晴らしい出会いだろ」
一人デレデレしながら、ご機嫌のアーガンに俺はしらける。
人の恋路に文句は言いたくないが、要するに母上はアーガンに毒されたんだな……。俺は絶対に毒されない。
俺はさっと立ち上がり、無表情で「俺、帰るわ」と言いドアへ向かう。
「えっ、ちょっと待って、ジン!」
追いかけようとする椅子から立ち上がるアーガンに、向かいにいたアークが目を細めながら名を呼ぶ。
「……アーガン、ちょっと俺と話そうか?」
にこやかに笑っているのに目が笑っていないアークに止められ、アーガンはピクピクと口許を引きつらせる。
「えっ、アーク、私のどこが悪かったのだ?」
「色々だな。まずは勅令についてだ」
「あっ、えっと、あれはだな……」
後ろの方で2人が何やら話していたが気にせず部屋を出ていった。
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