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しおりを挟むカチカチと時計の針が虚しく響く部屋で、俺は呆然と立ち尽くしていた。
「いない……」
数分前、今日は昨日の詫びにとジンと晩御飯を一緒に食べようと家に帰ってきた。が、ジンはいなかった。
リビングに行くとテーブルの上には昨日の弁当が1ミリも動かずそのまま残っていた。昨日は合わせる顔がなかったので弁当と一緒にメモを置いたが、それも読んだかどうかわからない……。
「部屋に……」
急いでジンの部屋に向かいドアを叩いた。
「ジン、いないのか?」
ドアを開け、部屋に入るがジンはいなかった。
「どこにいったんだ?イーダは……あぁ、そうだった。今日はいないんだったな……」
いつもジンの様子を見るようにとイーダに頼んでいたが、今日に限ってイーダは本職である暗部に呼ばれ、ギルドにいなかった。
「依頼か?」
通信機でギルドの受付に聞いてみるが、受けてないし、今日は来ていないですと返ってきた。
「ジン、どこにいったんだ……」
嫌な予感が頭をよぎる。
いや、ジンに限ってそんなことは……まだ時間は21時を回ったとこだ。少し待とう。
仕事をしながら1時間待ってみたが帰ってこない。
前は連絡なしに遅くなるなんてことはなかったのに……。
いても立ってもいられなくなり、席を立ち意味なくウロウロと歩き回る。
「やっぱり……いや、ジンも成人している……干渉のし過ぎはよくない……よくないが……」
ウロウロしていると、アーガン専用の通信用ピアスから音が鳴ったので、魔力を込めピアスに触れた。
「『アーク、ジンに話してくれたか?行っても大丈夫そうか?』」
昨日アーガンと話し合い、アーガンが食事前に謝罪し、ジンからOKがでれば今日一緒に食事をする予定だった。
謝罪しても駄目だろうなと思いつつ帰ってきたが……。
「……それが、ジンがいないんだ」
「『いない?どう言うことだ?……まさか、家に帰ってないのか!』」
「わからないんだ……いついなくなったのかも……」
ブッと通信機が切れたかと思うと、アーガンが一瞬にしてやって来た。
城から『結界・指瞬転移』で来たのだろうが早すぎる。城の魔法が使える部屋まで待機していたのだろう。
「ジンがいなくなったとは本当か!」
慌てた表情で俺に迫るアーガンに「落ち着け」と頭を叩く。
「アーガン、ちゃんとスウェンかマイヤにこちらに来る事を言ってきたのか?」
「そんな呑気なことを言ってる場合か!ジンがいなくなったんだぞ!……私のせいか……私が昨日疑って、怒鳴ったせいで……。いや、もしかしたら、拐われたのかもしれないぞ!あの可愛さだ、あり得る……あぁぁぁ!」
頭をかきむしり蹲るアーガンに、「ジンは強いのに、そんなことあるか!」と叩きたくなったが、よく考えてみるとあり得るかもしれない。あのジンだ。あの子はしっかりしているようでちょっと天然が入っている。そんなところが可愛いいと目を付けた変態が……いやいや、俺の勝手な想像だ、落ち着け。ジンは普通の子より考えすぎる傾向がある。昨日の事で心を痛めて家出を……。
「っ!アーガン、暗部を使って……」
「……2人とも、何してるの?」
俺達が求めていたジンの声が聞こえ、思いっきり振り返り、名を呼んだ。
「「ジン!」」
俺とアーガンは声が聞こえた方向を見た瞬間、目を見開いたまま固まった。
時間は1時間前に遡る。
俺とバルトはベルの泉で、ベル達と楽しい時間を過ごしていた。
『【精霊王の祝福】、役に立ったでしょ?』
「ん、ありがとう、シロ」
そのお陰でバルトと無理なく繋がれた。体が小さいままだと、バルトのアレは無理だっただろう。うん。
「ちょっと待ってくれ。【精霊王の祝福】と言ったか?精霊王ってまさか……」
バルトが口許をピクピクさせながら聞いてきた。
『えぇ、私達のことよ』
「じゃぁ、皆さんは……」
『精霊王だ』
『あら、いってなかったかしら?』
ベルとクロの言葉にバルトは目を見開き、一瞬固まった後、頭を抱えてテーブルに伏せた。
「マジか……」
どうやら、バルトはベル達が精霊王だと言うことを知らなかったみたいだ。
「あー、俺、言ってなかったかも。ごめん」
「俺、精霊王にあんな態度を……あはは」
精霊王はこの世界の守り神であるマファーレ様の使いだと言われていている。なので、人間にとって精霊王はマファーレ様と同等と考えられていて大切にされているのだ。ちなみに、精霊王が愛している愛し子を虐めたりすると、悪いことが身に降りかかるとか何とか……。
あれ、俺、愛し子だけどそういったことを聞いたことがないから迷信なのかな?
それはさておき、なんとか復活したバルトと皆と飲んで食べて騒いでを楽しんでいると、ふとアークの事を思い出した。
「あっ……」
「ジン、どうした?」
「あー、えっとね。今日アークと晩御飯を一緒に食べることになってたような……気がする?」
「何で疑問文なんだ?」
「んー、メモにそんなことを書いてたような気が……。でも、この姿じゃビックリするよね」
「あー、そうだな」
「ずっと誤魔化すわけにはいかないし……」
うーんと悩んでいるとシロが何でもないかのように答えた。
『なら、正直に言えばいいわ』
「えっ、【精霊王の祝福】って言ってもいいの?」
『別にいいわよ』
「シロ達に迷惑かけない?」
『大丈夫よ。アークはメルゾーラの王族の子でしょ?』
「王族の子……になるね、うん」
アークはもう大人だけど、精霊王からは子なんだよな。なんだか可笑しい。
『だったら大丈夫だろう』
『でしょ。ダメだったら私達が……』
シロとクロの話に付いていけず、首を傾げているとシロが詳しく説明してくれた。
ずいぶん昔、精霊王とメルゾーラの王族が結婚したことがあった。が、それは前例の無いことでかなり揉めたらしい。
精霊王の掟で、精霊王は人間と恋愛や結婚はしてはいけない決まりがあった。どうして?と聞くと、世界の理云々言っていたので俺にはよくわからなかった。うん、難しすぎる。閑話休題。
人間に恋をした精霊王はどうしても諦められず、他の精霊王達と根気よく話し合った結果、掟を変えることに成功した。
掟は5つ。
その1【精霊王が人間と恋愛や結婚をするには、精霊王をやめて人間にならなければならない】。
その2【人間になる方法は、己の命を糧に。そして、人間になってから30年しか生きられないこと】。
その3【一度人間になると精霊王に戻れない。なので、必ず他の精霊王に相談すること】。
その4【精霊に関してのことは深く人間に話してはいけない】
その5【もし、産まれてくる子供が精霊に近い場合は精霊王を必ず呼ぶこと。その為の呪文を必ず後世に残すこと】。
この5つの掟を決め、人間に恋した精霊王は無事好きな人と結ばれたそうだ。
「産まれてくる子供が精霊に近い場合ってなに?」
『精霊は人間になっても血は精霊のままだ』
『だから稀に精霊に近い子供が産まれることがあるの。そうなったら人間の世界は生きにくいのよ。そこで、精霊に近い子供が産まれたら、精霊王を呼んで【精霊王の祝福】をかけるの。その子が幸せになれる【祝福】をかけるのよ。そうね……過去にあった【祝福】には、精霊になりたいと言うものもあったわね』
「へー」
『精霊の血を持つものは、精霊を見ようとすれば見れる。そして、精霊に近い子供は当たり前のように精霊が見えるんだ』
「……ん?ちょっと待って。それって前世の俺じゃない?」
『そうよ。だから、ジンは【精霊王の祝福】を受ける資格があるの』
「だけど俺、今、異世界人だよ。前世のジンじゃないから精霊の血は入ってないけど……」
『精霊に近い子供は魂も精霊に近い。だから何度生まれ変わっても精霊に近いものになる。ちなみに、そういう者を【愛し子】とも言うな』
……なるほど。だから、俺が【精霊王の祝福】をかけられてもおかしくないわけか。
「もし、アークがその話を知らなかったら?」
『大丈夫、私が一緒に行って説明してあげる』
シロが自信満々に笑ったので、どうにかなりそうだなと安心した。
「うん、お願いできる?」
俺がお願いすると、ガイとドイの2人が手を上げた。
『『なら、俺達が行く』』
『あっ、俺も行きたい』
フウマも手を上げた。それを見たベル、クロも手を上げた。
『いいえ、ここは私に任せて』
『俺だろ』
『ちょっと、この案は私が考えたんだから、私でしょ!』
収拾がつかなくなった。どうしようと不安になり、バルトの方を向くと、よしよしと頭を撫でられた。
「あのさ、まず俺とジンが行って説明してくるから、それでも信じてくれなかったら誰かに来てもらえばいいんじゃないか?」
「なるほど!」
さすがバルト!と一瞬思いましたが、結局その時誰が行くかで、また揉め始めました。呼ばないかもしれないとは言えない……。えぇ、もう、好きにしてください……。
争いの結果、シロとクロに決まった。
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