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しおりを挟む「……俺が、称号に魔王になりうる者が書かれてあると気付いたのは、騎士団に入った時だ。騎士団の書類に書く欄があって久しぶりに見たんだ。それまでステータスの称号なんて気にも留めなかったんだがな……。
最初は意味が分からず放っていったが、それがいけなかった。
毎日ジンに会えないことに苛立ちを覚え、貴族同士の縛りやギスギスした第1騎士団の生活は精神を蝕み、訓練だといって魔物退治に頻繁に行かされ、騎士団の奴らからはやっかみで親の七光りと呼ばれ……数年後、気付いた時には、もう、魔王レベル60になっていた。
これはヤバいかもしれないと俺は必死になって魔王レベルについて調べたが、詳しいことは分からなかった。分かった事は、悲しみ、憎しみ、恨み、怒り、不安などのマイナスな感情を持てば持つほど魔王レベルが上がって、最後には魔王になるということだけだった……」
バルトが俯いていた顔を上げ、俺を見て優しく微笑んだ。
「ジンが第3騎士団に入って、一緒にいてくれた時は、俺の魔王レベルは上がらなかったんだ。ジンのお陰だ。ありがとう」
「ん」
バルトは俺の手を両手で握りしめると、視線を床に戻し、ふぅーと息を吐き出した。
「スタンピードでジンが……死んだ後、俺は全てにやる気を無くし、一時期騎士団を休んで引きこもっていた時があった。部屋から出てこない俺をアークが訪ねてきて、「暇だろう?」とダンジョン攻略に駆り出されたよ」
「うっ、アークがそんなことを……バルト、ごめん」
「いや、俺にとってもありがたかった。何も考えずに戦えたから少しは目が覚めた感じがしたよ。……数日同じことを繰り返したある日、ダンジョンに変化が起こった……」
「変化って、もしかして……」
「あぁ、ダンジョン内が変わった」
「うそ……」
ダンジョン内が変わるということは、道が変わり地図が役に立たなくなると言うことだ。
握っていたジンの手が微かに震えているのに気付き、「大丈夫だ」と手を擦る。
「俺は、突然ダンジョンの変化に巻き込まれ、地下奥深くの層へと落とされた」
「っ!バルト、大丈夫だったの?って、大丈夫なわけないじゃん!俺何言ってんだー!」
ジンの驚きと天然ボケに俺は可笑しくなって苦笑いを浮かべた。
「驚くよな。俺もさすがにやばいと思って、なるべく戦闘回避しながら地上へ戻る道を探していた。それから3日たった頃だっと思う。俺と同じく道に迷った冒険者達がいたんだ……」
冒険者達の依頼は、商人数人連れての珍しい花や鉱石の採集だった。ここのダンジョンはAランクがいれば一般人でも入れるようになっていたので、そんなに強い魔物はいないはずだったのだが、この層にはAランクがやっと倒せる魔物達がウロウロしていた。
途中でAランクを亡くした冒険者2人は俺が強いと知るなり、俺を頼るようになった。依頼人の商人もこれで安全だと思ったのか次第に要求がエスカレートしていった。
「あの鉱石が取りたいから俺を守れ」、「あの魔物から取れる魔石が欲しい」、採集した箱に当たれば、「俺の商品が!無能が!」と罵声を浴びせるようになった。冒険者の2人も商人の罵倒にキレ、だんだん戦わなくなり、いつの間にか消えていた。
それでも俺がいたから商人達はご機嫌だった。休憩中の雑談で、バクススタンピードの時の話をし始めた。内容はスタンピードの時、たまたま居合わせた商人達が騎士団達に助けられたという話だった。
「迫力があったぞ」、「魔物が騎士団を食いちりやがった」、「騎士団にも弱いやつがいてな」と侮辱ともとれる言葉を吐いた。そして、最後に、「騎士団達みたいにちゃんと俺らを命を懸けて守れよ!」の一言で俺の何かがプチッと切れた。
なぜ、こんな人間が生きてるんだ。
コイツらを守るために騎士団は、俺の仲間は、戦って死んでいったわけじゃない!
ジンの変わりに、コイツらが死ねばよかったんだ。
コイツらの命なんてカスだ、ゴミだ。
イラナイ。
イラナイモノは、壊してしまえ……。
コイツらも、ジンを助けられなかった俺も、イラナイ……。
イラナイ……俺もイラナイ……死んでしまおう……。
そうだ……死んだら、ジンに逢えるかもしれない……。
ドロリとした黒いものが全身を巡ってきて、それが一気に外に飛び出していった。
気付いた時には、商人達は無惨に死んでいて、俺は自分の首に剣を当てているところだった。
「これで、ジンに逢える……」
そう笑いながら目をつぶろうとした瞬間、目の前に知っている精霊達が現れ、はっと我に返った。
「……俺……何、してんだ……」
ガタガタと手が震え、首に当てていた剣を落とした。
「あっ、あぁぁ……」
ジンと精霊達の戯れる姿が目に浮かび、優しく微笑みながら俺を呼ぶジンの声が聞こえてきた。
『バルト』
黒いドロドロしたものが、ジンの声と笑みで、薄くなっていくのを感じた瞬間、俺の瞳から涙が一気に溢れだし、ガタガタと歯が震え出した。
「ジン……ゴメン……俺、ジンに、助けられた、命を……」
『バル……泣か、ない、で……』
ぎゅっと温かいものに抱き締められ、思い出すのはジンの最後の言葉。
『バル……あい……し、て……る』
「ジン……俺も、愛してる……」
その瞬間ジンが消え、キンとした空気と脳に響く精霊達の声が聞こえてきた。
『アホが。ジンが悲しむぞ』
『あなたはジンの大切な人』
『私達はジンを守れなかった』
『だから、せめての償い』
『ジンが一番愛していたあなたを』
『俺達が守ってあげる』
闇、光、水、風、火、土の精霊達が順に優しく抱き締められた瞬間、胸にあったモヤモヤと痛みがスーと消えていった。
あぁ……どうして俺は、ジンとの最後の約束を、忘れていたんだろう……。
最後のあの日、苦しそうに血を吐きながらも、涙を流し俺に向かって優しく笑うジンの姿を。
『バル……約束。……ゴホッゴホッ、はぁ、んっ。……バル……来世、で……逢いに、いく……から……まっ、てて……』
「……あぁ、ジン、待ってる。……俺、それまで、頑張るから……だから、早く、逢いに、来い……」
俺は目をつぶり、ふぅーと息を深く吐き出し、流れる涙を袖で拭くと「よし!」と頬を叩いて気合いを入れた。
『バルト、大丈夫か?』
闇の精霊が珍しく俺を心配しているのが可笑しくて、微笑する。
「あぁ、ありがとう。助かったよ」
いつも、闇の精霊に嫉妬する俺をからかってたのにな……ジンはそれに一切気付かなかったっけ。
ジンの笑顔を思い出し頬が緩む。
「ん、ジンとの約束を守らないとな」
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