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しおりを挟む「俺……俺……」
「ん、ゆっくりでいい」
「俺、母上のことを話していく内に、色々な感情が蘇ったんだ。心の奥にあった父上への思いが、恨みが、出てきて言わなくてもいいことを言った。……ただ、俺の気持ちを知って欲しかったんだ。でも、アーガンに『息子なのか?』って聞かれて、抑えていた感情が一気に溢れ出した……一番辛いときに助けてくれなかったのに、今さら父親ズラすんな!って……アーガンを、責めてしまった……」
そう、俺は、ただ、父上に知って欲しかった。辛かった時、寂しかった時の俺の気持ちを……。抱き締めて、『見つけるのが遅くなって悪かった』とひとこと言って欲しかっただけなのに……それなのに、部外者が俺の事を否定するから……。
ドロリとした黒いものがまた俺の身体を……。
「ジ……ジン、ジン!」
バルトの声ではっと我に返る。
「……バル、俺」
「はー、名前を呼んでも返事しないし、様子がおかしかったからビックリした」
やっぱり、俺、おかしい……。なんだこれ……暗くて、冷たくて、重い、ドロリとした魔力みたいな……なんだろ、これ……。
「ジン、大丈夫か?」
「……ん、なんでもない」
「なんでもないって顔じゃない」
険しい表情で顔を覗くバルトに俺は笑って答えた。
「バルト、俺、今日色々あったから、疲れちゃった。バルトも途中で仕事放り出して来たでしょ。団長なのに俺の為に、ごめん」
「それはどうにだってなるから大丈夫だ」
「そんな無責任なことダメだよ、めっ!」
俺が引かないことがわかったのか、バルトは深い溜め息をついた後、俺の頭をグシャグシャと撫で回した。
「明日の昼、会いに行く」
「ん。でも、もしかしたら、いないかも」
「それでもいい、俺がジンに会いたいだけだから」
俺が「ん」と答えるとバルトは嬉しそうにふわりと笑うと、ふっと真面目な顔で俺を見た。
「ジン」
「なに?」
「ジン、これだけは覚えておいてくれ。……ジンが死んだら、俺も死ぬ」
「えっ……」
驚いて目を見張る俺の頬を、バルトは微笑みながら優しく撫でる。
「俺はもう、ジンがいない世界で生きていくことが耐えられないんだ。もう一度ジンを失ったら気が狂って跡を追うだろう……」
「バル……」
「あぁ、ジン、そんなに重く考えなくていい。これは俺の我が儘だから、気にしなくていい」
「気にするに決まっているだろ!俺と違ってバルトの命は軽くない!」
「命に軽いも重いもないよ。でも、ジンが言うように、もし重さを測るなら、俺にとってジンの命は重く、俺の命は軽い」
「そんなことない!」
「それがあるんだ。人の思いによって重さは変わってくるんだよ。だから命の重さは測れない……いや、測ってはいけないんだ。測ってしまったら、もう戻れない……人は残酷な生き物だからね……」
バルトの沈痛の表情にズキリと俺の心が痛んだ。過去に何かがあったのかもしれない。
「まぁ、暗い話はここまでにして、ジン、俺のお願いを聞いてくれるか?」
俺の頬にあったバルトの手が耳たぶへと移動し左右に優しく触れる。
「なに?」
「ここに穴を開けていいか?」
「えっ?ピアスってこと?」
「あぁ」
バルトはそう言うとインベントリを操作し、手の平サイズのケースを取り出した。バルトが蓋を開けると赤と青と紫が複雑に混ざりあった色のシンプルなピアスが入っていた。まるで黄昏時のような不思議な色合い。
「綺麗……」
「これな、通信機なんだ。魔力も込められるからいざという時にも便利だぞ。これをお互いに嵌めたい。いいか?」
「うーん、痛くない?」
「あぁ、一瞬だ。右でいいか?」
「任せるよ」
バルトは膝にのせていた俺をベッドへと下ろし、インベントリから穴を開ける道具を取り出すと横に座った。
「じゃあ、開けるよ」
バルトは手際よく細い針で穴を開け、その穴にピアスを通した。
「似合う?」
「あぁ、とてもよく似合う」
バルトはそう言うと自分が付けていたピアスを全て外し、俺とお揃いのピアスを左に付けた。
「ん、バルトも似合う」
「ありがとな。後は、お互いのピアスに魔力を入れることで通信可能になる」
バルトが俺のピアスにそっと触れ、魔力を込める。ふわりと優しい魔力が俺を包み、バルトに包まれているみたいな感覚に思わず目を閉じた。
「んっ、気持ち……いい……」
「っ!」
微かにバルトの手がピクリと揺れた気がしたが、何も言ってこないのでたぶん大丈夫なのだろう。
数秒後、俺を包んでいたバルトの魔力がスーと俺のピアスに吸い込まれていく感じがした。
ピアスを触ると熱い。何だかバルトがすぐ側にいるみたいだ……。
思わず笑うと、横から「くっ!」と声がして目を開ける。すると、バルトが両手で顔を塞ぎ、前かがみになっていた。
「バルト?どうしたの?魔力切れ……じゃないよな?」
「はぁー、ヤバ、かった……」
「ヤバイ?魔力が?」
俺が尋ねるとバルトがガバッと顔を上げ、にこりと笑う。
顔色も悪くない。元気そうだな、うん。
「いや、何でもないよ。それより、ジン、俺のもお願いできるか?」
「ん」
俺はバルトのピアスに触れ、魔力を流す。
バルトが怪我してもすぐに治せる『治癒』を、バルトが攻撃を受けても跳ね返す『防御』を、バルトが……。
「ジン……これ以上魔力を入れると魔石が壊れそうだ……」
「ん、わかった」
俺は最後の思いを魔力に込める。
『バルトが危険な時に守れるほどの魔力を……』。
ふわりとバルトを包んでいた俺の魔力がスーとピアスに吸い込まれていく感触がした。
俺の魔力がバルトのピアスに入り込み、キラリと光る。
先ほどより色鮮やかになった気がする……綺麗。
「ありがとう、ジン」
そっと大切そうにピアスに触れ微笑むバルトにドキリと胸が弾む。
あぁ、バルト……。
「バルト、大好き……」
バルトは少し驚いたように目を見張った後、はにかむような笑顔で笑った。
「俺もだよ。ジン、大好きだ」
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