上 下
75 / 111

74

しおりを挟む


「俺……俺……」

「ん、ゆっくりでいい」

「俺、母上のことを話していく内に、色々な感情が蘇ったんだ。心の奥にあった父上への思いが、恨みが、出てきて言わなくてもいいことを言った。……ただ、俺の気持ちを知って欲しかったんだ。でも、アーガンに『息子なのか?』って聞かれて、抑えていた感情が一気に溢れ出した……一番辛いときに助けてくれなかったのに、今さら父親ズラすんな!って……アーガンを、責めてしまった……」

そう、俺は、ただ、父上に知って欲しかった。辛かった時、寂しかった時の俺の気持ちを……。抱き締めて、『見つけるのが遅くなって悪かった』とひとこと言って欲しかっただけなのに……それなのに、部外者が俺の事を否定するから……。
ドロリとした黒いものがまた俺の身体を……。

「ジ……ジン、ジン!」

バルトの声ではっと我に返る。

「……バル、俺」

「はー、名前を呼んでも返事しないし、様子がおかしかったからビックリした」

やっぱり、俺、おかしい……。なんだこれ……暗くて、冷たくて、重い、ドロリとした魔力みたいな……なんだろ、これ……。

「ジン、大丈夫か?」

「……ん、なんでもない」

「なんでもないって顔じゃない」

険しい表情で顔を覗くバルトに俺は笑って答えた。

「バルト、俺、今日色々あったから、疲れちゃった。バルトも途中で仕事放り出して来たでしょ。団長なのに俺の為に、ごめん」

「それはどうにだってなるから大丈夫だ」

「そんな無責任なことダメだよ、めっ!」

俺が引かないことがわかったのか、バルトは深い溜め息をついた後、俺の頭をグシャグシャと撫で回した。

「明日の昼、会いに行く」

「ん。でも、もしかしたら、いないかも」

「それでもいい、俺がジンに会いたいだけだから」

俺が「ん」と答えるとバルトは嬉しそうにふわりと笑うと、ふっと真面目な顔で俺を見た。

「ジン」

「なに?」

「ジン、これだけは覚えておいてくれ。……ジンが死んだら、俺も死ぬ」

「えっ……」

驚いて目を見張る俺の頬を、バルトは微笑みながら優しく撫でる。

「俺はもう、ジンがいない世界で生きていくことが耐えられないんだ。もう一度ジンを失ったら気が狂って跡を追うだろう……」

「バル……」

「あぁ、ジン、そんなに重く考えなくていい。これは俺の我が儘だから、気にしなくていい」

「気にするに決まっているだろ!俺と違ってバルトの命は軽くない!」

「命に軽いも重いもないよ。でも、ジンが言うように、もし重さを測るなら、俺にとってジンの命は重く、俺の命は軽い」

「そんなことない!」

「それがあるんだ。人の思いによって重さは変わってくるんだよ。だから命の重さは測れない……いや、測ってはいけないんだ。測ってしまったら、もう戻れない……人は残酷な生き物だからね……」

バルトの沈痛の表情にズキリと俺の心が痛んだ。過去に何かがあったのかもしれない。

「まぁ、暗い話はここまでにして、ジン、俺のお願いを聞いてくれるか?」

俺の頬にあったバルトの手が耳たぶへと移動し左右に優しく触れる。

「なに?」

「ここに穴を開けていいか?」

「えっ?ピアスってこと?」

「あぁ」

バルトはそう言うとインベントリを操作し、手の平サイズのケースを取り出した。バルトが蓋を開けると赤と青と紫が複雑に混ざりあった色のシンプルなピアスが入っていた。まるで黄昏時のような不思議な色合い。

「綺麗……」

「これな、通信機なんだ。魔力も込められるからいざという時にも便利だぞ。これをお互いに嵌めたい。いいか?」

「うーん、痛くない?」

「あぁ、一瞬だ。右でいいか?」

「任せるよ」

バルトは膝にのせていた俺をベッドへと下ろし、インベントリから穴を開ける道具を取り出すと横に座った。

「じゃあ、開けるよ」

バルトは手際よく細い針で穴を開け、その穴にピアスを通した。

「似合う?」

「あぁ、とてもよく似合う」

バルトはそう言うと自分が付けていたピアスを全て外し、俺とお揃いのピアスを左に付けた。

「ん、バルトも似合う」

「ありがとな。後は、お互いのピアスに魔力を入れることで通信可能になる」

バルトが俺のピアスにそっと触れ、魔力を込める。ふわりと優しい魔力が俺を包み、バルトに包まれているみたいな感覚に思わず目を閉じた。

「んっ、気持ち……いい……」

「っ!」

微かにバルトの手がピクリと揺れた気がしたが、何も言ってこないのでたぶん大丈夫なのだろう。
数秒後、俺を包んでいたバルトの魔力がスーと俺のピアスに吸い込まれていく感じがした。
ピアスを触ると熱い。何だかバルトがすぐ側にいるみたいだ……。
思わず笑うと、横から「くっ!」と声がして目を開ける。すると、バルトが両手で顔を塞ぎ、前かがみになっていた。

「バルト?どうしたの?魔力切れ……じゃないよな?」

「はぁー、ヤバ、かった……」

「ヤバイ?魔力が?」

俺が尋ねるとバルトがガバッと顔を上げ、にこりと笑う。
顔色も悪くない。元気そうだな、うん。

「いや、何でもないよ。それより、ジン、俺のもお願いできるか?」

「ん」

俺はバルトのピアスに触れ、魔力を流す。

バルトが怪我してもすぐに治せる『治癒』を、バルトが攻撃を受けても跳ね返す『防御』を、バルトが……。

「ジン……これ以上魔力を入れると魔石が壊れそうだ……」

「ん、わかった」

俺は最後の思いを魔力に込める。

『バルトが危険な時に守れるほどの魔力を……』。

ふわりとバルトを包んでいた俺の魔力がスーとピアスに吸い込まれていく感触がした。
俺の魔力がバルトのピアスに入り込み、キラリと光る。
先ほどより色鮮やかになった気がする……綺麗。

「ありがとう、ジン」

そっと大切そうにピアスに触れ微笑むバルトにドキリと胸が弾む。
あぁ、バルト……。

「バルト、大好き……」

バルトは少し驚いたように目を見張った後、はにかむような笑顔で笑った。

「俺もだよ。ジン、大好きだ」











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。 お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

処理中です...