72 / 111
71
しおりを挟む昨日アークに話した通り、ガイヤードルにクラスメイトと一緒に召喚された事、魔王を倒してほしいと言われた事、俺は巻き込まれて召喚された事をアーガンに話した。
すると眉間に皺を寄せたアーガンが、睨むように俺を見た。
「わかった。で、一応聞く。嘘偽りはないな」
「はい」
「ふむ」
ソファーの背凭れに寄りかかり、腕と足を組むアーガンに、アークが眉間に皺を寄せるが、今は何も言わない方がいいと判断したのか黙っている。
「そうか、それが本当なら私も他の国も黙ってはいないだろう。何か対策せねばな……スウェン、報告を」
「はい」
後ろに立っていた宰相が紙を広げ報告していく。
「ガイヤードルに潜入させていた者によりますと、彼が言うように、召喚された跡があり、異世界人も4人いるそうです。彼らがいたところは魔法がない世界だったらしく、現在剣や魔法の訓練中だとか。召喚した理由はまだ調査中です。ただし、召喚された者が5人だったと言う話しはありませんでした」
「それは、たいしたスキルじゃなかったから、召喚されてその日に『他弾転移』で飛ばされたからです」
「では、なぜ魔法が使える?君の世界では魔法というものがなかったんだろ?すぐ飛ばされたのであれば魔法を勉強する時間はないと思うのだが?」
「それは……」
チラリとアークを見ると、少し考えた後ゆっくりと頷いた。
これは言っていいと言うことだよね?
「本当のことを言え。今なら大目に見てやる」
でもなぁー、この調子だとアーガンは俺を疑ってるっぽい。普通に言ってもダメだろうな……。
俺は大きな溜め息をついた後、背筋を伸ばし嘘偽りのない目でアーガンを真っ直ぐ見つめた。
「嘘偽りのないことを冒険者ジンの名において発言する。俺は召喚された異世界人で、この世界で生きていたジン・デルマルクの生まれ変わりです」
アーガンが大きく目を見開き固まったかと思うと、目を吊り上げ憤怒の形相でバンッとテーブルを叩いた。
「ふざけてるのか!話しにならん!出ていけ!」
アーガンは俺を親の仇でも見るかのような目で睨みつけながら、扉を指差した。
さっとアークが立ち上がり背中に庇ってくれたが、俺はテーブルを叩いた音とアーガンの怒鳴り声に体が硬直していた。
怖い……勝手に手が震える……。
「ふざけるなとはなんだ!アーガン、ジンは名を掛けて発言している。嘘偽りない!」
この世界では名を名乗って発言すると言うことは、「命を賭ける」という意味がある。もし後からこれが嘘であれば殺されても文句は言えない。
「お前こそ、こいつに騙されてるんじゃないのか!」
ビシッと俺を指すアーガンの言葉と行動に、アークの魔力が溢れだす。後ろにいた総騎士団長ザバムが素早くアーガンの前に出た。
あっ、これ、止めないダメなやつ!
前世で俺とバルトがやらかした事件のとき、あの例の貴族の屋敷を鉄拳で全壊させた魔力の感じがする!
「アーク」
グイグイと震える手で袖を引っ張ると、アークが俺を見て数秒後、はぁーと深く息を吐き出し、どさりとソファーに座った。
その様子をじっと見つめているアーガン……王達の表情でわかる。理由はわからないが俺は疑われているのだと。
視線に耐えられなくなり次第に頭が下がっていく。
怖い……俺は何もしていないのに……。だけど、母上の言葉だけは伝えたい。
震える手をなんとか止めようと逆の手で手首を掴み、ギリッと爪を立てて力をいれる。ジンジンとする痛みで怖さをまぎらわし、小さく呼吸を繰り返し深く吐き出す。
「……別に、俺のことは、信じてくれなくていい」
静まり返る部屋で俺の震えた声がだけが響く。3人の鋭い視線にぎゅっと手の平を握りしめ、逃げ出したい気持ちを抑えつけた。
今言わなきゃ、きっとチャンスはない。
ぐっと唇を噛み締め、顔を上げ前を向く。すると真正面にいたアーガンの目が若干動き怯んだ気がした。
「……俺は、貴方がジンの父上だと聞いた。だから、貴方に伝えなければならないことがある。それを聞いて信じるも信じないも貴方の自由だ」
今度は俺がじっとアーガンを見る。先ほどの勢いがなくなっていた。冷静を取り戻したのか、アーガンの目が若干柔らかい。
俺は深呼吸を2回ほど繰り返し、呼吸を整えた後、真っ直ぐアーガンを見つめ、母上、アリサのことを語り始めた。
「母上アリサは散歩中に誘拐されてから、ガイヤの糞貴族の愛人として離れに閉じ込められていた。逃げれば人質の俺を殺すと脅されて……。母上はいつも言っていた。
『ジンの父上はカッコよくて素敵な人よ。でも、少し弱いところがあるから心配だわ』と。
貴方から貰った涙型のネックレスを触りながら笑ってはいたがどこか悲しそうだった……。幼かった俺から見ても母上は痩せ我慢をしているのだと気付いたよ……」
アーガンが驚いたように大きく目を見張り、震える唇で、「アリサ……」と呟いたのがわかった。
「母上はいつか貴方が助けに来てくれるのを信じ、ずっと待ち続けていた。俺も途中までは信じてたよ。でも、俺はずっと糞貴族から現実を突きつけられていたから……」
そう、暴言や殴られ蹴られるのは日常だったから、俺はそんな甘い夢は捨てた。
「だから俺は、強くなって母上を連れて、そこから逃げようとずっと思っていた。……だけど、上手く行かなかった。なぜだかわかる?俺が強くなる前に母上は精神が壊れ、やせ細って病気になったんだ。そして、亡くなる前に、俺に貴方への言葉を託した……」
俺は俯いているアーガンの側にまで行き、両手で頬を掴み顔を上げさせた。そして、目が合うと母上のような微笑みで優しく語りかけた。
「『ごめんなさい。あなたとの約束を守れそうにないわ。助けにきてくれると信じて、ずっとあなたを待っていたのだけれど、もう無理そう。先に逝くことを許してね。愛してる……ずっと、あなただけを愛してた。もう一度、やり直せることができるなら、今度こそ3人で……』。そして、母上は息を引き取った」
ツーとアーガンの瞳から涙がこぼれ落ちる。俺はそっとアーガンから離れ、数歩下がり、言おうか言いまいか迷っていたことを告げた。
「それが、10歳の時。俺が糞貴族から逃げたのも同じ歳だった……」
「……俺がジンと出会ったのは11歳だ……俺達がアリサの居場所を見つけたのがジンと出会う前だから……」
「っ!数ヶ月前か!……では、私が、もう少し早く見つけていれば、アリサに……」
両手で顔を塞ぎ泣くアーガンの横に、アークが座りそっと背中を撫でる。
アーガンの後ろにいる2人はアーガンを気にしつつも無表情で俺を見ていた。
まだ、信じてないって疑いの目だな。まぁ、どうでもいいけど。
255
お気に入りに追加
1,457
あなたにおすすめの小説
【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが
咲
BL
俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。
ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。
「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」
モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?
重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。
※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。
※第三者×兄(弟)描写があります。
※ヤンデレの闇属性でビッチです。
※兄の方が優位です。
※男性向けの表現を含みます。
※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。
お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる