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昨日アークに話した通り、ガイヤードルにクラスメイトと一緒に召喚された事、魔王を倒してほしいと言われた事、俺は巻き込まれて召喚された事をアーガンに話した。
すると眉間に皺を寄せたアーガンが、睨むように俺を見た。

「わかった。で、一応聞く。嘘偽りはないな」

「はい」

「ふむ」

ソファーの背凭れに寄りかかり、腕と足を組むアーガンに、アークが眉間に皺を寄せるが、今は何も言わない方がいいと判断したのか黙っている。

「そうか、それが本当なら私も他の国も黙ってはいないだろう。何か対策せねばな……スウェン、報告を」

「はい」

後ろに立っていた宰相が紙を広げ報告していく。

「ガイヤードルに潜入させていた者によりますと、彼が言うように、召喚された跡があり、異世界人も4人いるそうです。彼らがいたところは魔法がない世界だったらしく、現在剣や魔法の訓練中だとか。召喚した理由はまだ調査中です。ただし、召喚された者が5人だったと言う話しはありませんでした」

「それは、たいしたスキルじゃなかったから、召喚されてその日に『他弾転移』で飛ばされたからです」

「では、なぜ魔法が使える?君の世界では魔法というものがなかったんだろ?すぐ飛ばされたのであれば魔法を勉強する時間はないと思うのだが?」

「それは……」

チラリとアークを見ると、少し考えた後ゆっくりと頷いた。
これは言っていいと言うことだよね?

「本当のことを言え。今なら大目に見てやる」

でもなぁー、この調子だとアーガンは俺を疑ってるっぽい。普通に言ってもダメだろうな……。
俺は大きな溜め息をついた後、背筋を伸ばし嘘偽りのない目でアーガンを真っ直ぐ見つめた。

「嘘偽りのないことを冒険者ジンの名において発言する。俺は召喚された異世界人で、この世界で生きていたジン・デルマルクの生まれ変わりです」

アーガンが大きく目を見開き固まったかと思うと、目を吊り上げ憤怒の形相でバンッとテーブルを叩いた。

「ふざけてるのか!話しにならん!出ていけ!」

アーガンは俺を親の仇でも見るかのような目で睨みつけながら、扉を指差した。
さっとアークが立ち上がり背中に庇ってくれたが、俺はテーブルを叩いた音とアーガンの怒鳴り声に体が硬直していた。

怖い……勝手に手が震える……。

「ふざけるなとはなんだ!アーガン、ジンは名を掛けて発言している。嘘偽りない!」

この世界では名を名乗って発言すると言うことは、「命を賭ける」という意味がある。もし後からこれが嘘であれば殺されても文句は言えない。

「お前こそ、こいつに騙されてるんじゃないのか!」

ビシッと俺を指すアーガンの言葉と行動に、アークの魔力が溢れだす。後ろにいた総騎士団長ザバムが素早くアーガンの前に出た。
あっ、これ、止めないダメなやつ!
前世で俺とバルトがやらかした事件のとき、あの例の貴族の屋敷を鉄拳で全壊させた魔力の感じがする!

「アーク」

グイグイと震える手で袖を引っ張ると、アークが俺を見て数秒後、はぁーと深く息を吐き出し、どさりとソファーに座った。
その様子をじっと見つめているアーガン……王達の表情でわかる。理由はわからないが俺は疑われているのだと。
視線に耐えられなくなり次第に頭が下がっていく。
怖い……俺は何もしていないのに……。だけど、母上の言葉だけは伝えたい。
震える手をなんとか止めようと逆の手で手首を掴み、ギリッと爪を立てて力をいれる。ジンジンとする痛みで怖さをまぎらわし、小さく呼吸を繰り返し深く吐き出す。

「……別に、俺のことは、信じてくれなくていい」

静まり返る部屋で俺の震えた声がだけが響く。3人の鋭い視線にぎゅっと手の平を握りしめ、逃げ出したい気持ちを抑えつけた。
今言わなきゃ、きっとチャンスはない。






ぐっと唇を噛み締め、顔を上げ前を向く。すると真正面にいたアーガンの目が若干動き怯んだ気がした。

「……俺は、貴方がジンの父上だと聞いた。だから、貴方に伝えなければならないことがある。それを聞いて信じるも信じないも貴方の自由だ」

今度は俺がじっとアーガンを見る。先ほどの勢いがなくなっていた。冷静を取り戻したのか、アーガンの目が若干柔らかい。
俺は深呼吸を2回ほど繰り返し、呼吸を整えた後、真っ直ぐアーガンを見つめ、母上、アリサのことを語り始めた。

「母上アリサは散歩中に誘拐されてから、ガイヤの糞貴族の愛人として離れに閉じ込められていた。逃げれば人質の俺を殺すと脅されて……。母上はいつも言っていた。
『ジンの父上はカッコよくて素敵な人よ。でも、少し弱いところがあるから心配だわ』と。
貴方から貰った涙型のネックレスを触りながら笑ってはいたがどこか悲しそうだった……。幼かった俺から見ても母上は痩せ我慢をしているのだと気付いたよ……」

アーガンが驚いたように大きく目を見張り、震える唇で、「アリサ……」と呟いたのがわかった。

「母上はいつか貴方が助けに来てくれるのを信じ、ずっと待ち続けていた。俺も途中までは信じてたよ。でも、俺はずっと糞貴族から現実を突きつけられていたから……」

そう、暴言や殴られ蹴られるのは日常だったから、俺はそんな甘い夢は捨てた。

「だから俺は、強くなって母上を連れて、そこから逃げようとずっと思っていた。……だけど、上手く行かなかった。なぜだかわかる?俺が強くなる前に母上は精神が壊れ、やせ細って病気になったんだ。そして、亡くなる前に、俺に貴方への言葉を託した……」

俺は俯いているアーガンの側にまで行き、両手で頬を掴み顔を上げさせた。そして、目が合うと母上のような微笑みで優しく語りかけた。

「『ごめんなさい。あなたとの約束を守れそうにないわ。助けにきてくれると信じて、ずっとあなたを待っていたのだけれど、もう無理そう。先に逝くことを許してね。愛してる……ずっと、あなただけを愛してた。もう一度、やり直せることができるなら、今度こそ3人で……』。そして、母上は息を引き取った」

ツーとアーガンの瞳から涙がこぼれ落ちる。俺はそっとアーガンから離れ、数歩下がり、言おうか言いまいか迷っていたことを告げた。

「それが、10歳の時。俺が糞貴族から逃げたのも同じ歳だった……」

「……俺がジンと出会ったのは11歳だ……俺達がアリサの居場所を見つけたのがジンと出会う前だから……」

「っ!数ヶ月前か!……では、私が、もう少し早く見つけていれば、アリサに……」
 
両手で顔を塞ぎ泣くアーガンの横に、アークが座りそっと背中を撫でる。
アーガンの後ろにいる2人はアーガンを気にしつつも無表情で俺を見ていた。
まだ、信じてないって疑いの目だな。まぁ、どうでもいいけど。




















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