71 / 115
70
しおりを挟む騎士祭、5日目。
今日は食祭と騎士灯の日である。
そんな日に俺はかしこまった格好をしていた。
高級生地を使った黒いジャケットに白いスラックス。ジャケットには金のボタンやチェーンアクセがじゃらじゃらと着いている。傍から見ても貴族の息子に見えるだろう。たぶん。
「はぁー」
部屋を見渡せば高そうな美術品や家具やらでソワソワする。別に悪いことをする訳じゃないのに……俺の目の前に高級な物を置かないでいただきたい。コワシタクナルヨ。まぁ、それはさておき。
「うー、何だか緊張してきた」
アークの袖を引っ張ったり、にぎにぎしながら緊張をほぐす。
あっ、皺になった。……見えないよな。
そっとシワを伸ばしていると、アークの手が俺の頭に乗っかった。
「ジン、似合ってるぞ」
「アーク、どうせ馬子にも衣装って言うんでしょ」
「ん、マゴニモイショウ?」
「あれ、これ、ないんだっけ?ごめん。これ、異世界のことわざ……って分かるのかな?名言?」
「あぁ、名言な。で、マゴニモイショウ、はどういう意味だ?」
「んー、確か、いい服を着ればそれなりに立派に見える、て意味だよ」
「それ、褒め言葉か?」
「ちがうよ、揶揄」
「つまらん名言だな、それ」
今アークといる場所はメルゾーラ城の控え室です。
朝早くからなぜかイーダが「衣装です」と貴族の坊っちゃんが着るような衣装を数着持ってきた。「着たくないんだけど」というと、「城ですよ、何があるか分からないので、着飾って、損はありません」と返された。そして、ささっと髪をカットしてセットされた。有能すぎるよ、イーダ。
「んー」
俺、窮屈なの嫌いなんだよな。
襟元に指を入れ、グイグイと引っ張っていると、ドアのノックと共に執事みたいな人が入ってきた。
「失礼致します。お時間になりましたのでお部屋へご案内致します」
執事についていくこと5分、大きな扉の前にきた。執事がノックをすると、中からガタイのいい男が出てきてチラリと見られた。
「よぅ、サバム」
アークが気軽に挨拶をしている。
知り合いかな?
アークの後ろからチラリと見ると、サバムと呼ばれた男はホワイトのマントを付けている。
第1騎士団か?それにしても、制服が違う。全身黒い制服だ。前世にはなかったな。その服装は見たことがない。
「アーク様、そちらが?」
「あぁ、そうだ。俺の息子で例の件の子だ」
じっと値踏みするような視線が嫌で、ささっとアークの背に隠れる。
「おぃ、そんなにジロジロ見るな」
「すみません、つい。小さ……16歳には見えなく」
今、小さいって言った!
「おぃ!早く入ってこい!」
奥から待ちきれないのかアーガンの声が聞こえた。
そう言えば、バルト来なかったな。
後ろを振り返っても人一人いない。
一緒に付いてきてくれるって言ってたのに……。
ちょっとブルーな気持ちを抱えつつ、アーガンがいる部屋に入っていった。
「よく来た」
高級衣装を纏い、オールバックの髪に冠を乗せている偉そうな、THE王様が高級ソファーに座っている。
「……誰?」
声がアーガンなのに色々違う。しかも、口は笑ってるのに目が笑ってない。
なんだろう?何か違和感がある……。
首を傾げているとアーガンが眉間に皺を寄せ大袈裟に声を上げる。
「おぃおぃ、忘れたのか?私だよ、アーガンだ」
「……」
不安になり、グイグイとアークの袖を引っ張る。
「ねぇ、アーク。あれ、本当にアーガン?」
「あぁ、そうだ……だが……」
「なんだか……」
いつもと全然違う……何て言うんだろ。雰囲気、いや、オーラー?が威圧的?
「そこにいつまでも立ってないで座れ。おい」
アーガンが偉そうに指示を出すと、執事がお茶を入れテーブルに置いた後お辞儀して出ていった。
アーガンに促されソファーに座る。左にアーク、右に俺。真正面はアーガン。そして、その左後ろに、眼鏡を掛けた水色髪の男性と、右後ろに赤髪赤目の騎士。
「まぁ、気軽にいこうぜ。まずは自己紹介からだな。私はアーガン・バリシ・メルゾーラ。この国の王をしている。後ろにいるのが……」
「宰相のスウェン・バルクールです」
「総騎士団長ザバム・スウェングだ」
えっ?スウェン?スウェング?
首を傾げているとアークが小声で笑いなが俺の頭をポンと叩いた。
「名前が似てるが親戚でもなんでもねぇぞ」
「おぃ、次はそっちだ」
「アーガン、今日は態度が悪くないか?」
「私はいつも通りだ。さっさとしろ」
腑に落ちない表情を浮かべながらも渋々アーガンの指示に従う。
「バクスギルドマスターのアーク・デルマルクだ」
「もう一個あるだろ」
「……アークサンダ・バリシ・メルゾーラ」
えっ!アークって、アークサンダって名前なの!
驚いているところにアーガンが無言で次はお前の番だと顎で指示し知らせる。
「あっ、えっと、異世界人で冒険者のジンです」
「異世界での名は?」
「……眞木夜見です。あっ、ヨミが名前です」
「へー、なぜ今までヨミと名乗らなかった?」
何この質問。召喚に関係あるの?
そっちから呼びつけて態度が悪すぎないか?召喚に全く関係ないアークでさえ最初に謝っていたのに……。アーガンは話を聞くつもりがあるのかな?何だかなぁ、王様ってどこも同じなんだな……。何だか冷めてきた。
「では、逆に質問しますが、王様は全く知らない場所に突然連れてこられて、何をされるかわからないのに本名を教えようと思いますか?」
俺が冷たい目でアーガンに言うと、ちょっと怯んだように目を泳がせる。
「そ、それは、しない、な」
「アーガン、何が言いたいんだ?」
「あー、いや……では、召喚の話を聞かせてほしい」
「わかりました」
264
お気に入りに追加
1,486
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。


寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

【完結】暁の騎士と宵闇の賢者
エウラ
BL
転生者であるセラータは宮廷魔導師団長を義父に持ち、自身もその副師団長を務めるほどの腕のいい魔導師。
幼馴染みの宮廷騎士団副団長に片想いをしている。
その幼馴染みに自分の見た目や噂のせいでどうやら嫌われているらしいと思っていたが・・・・・・。
※竜人の番い設定は今回は緩いです。独占欲や嫉妬はありますが、番いが亡くなった場合でも狂ったりはしない設定です。
普通に女性もいる世界。様々な種族がいる。
魔法で子供が出来るので普通に同性婚可能。
名前は日本名と同じくファミリーネーム(苗字)・ファーストネーム(名前)の表記です。
ハッピーエンド確定です。
R18は*印付きます。そこまで行くのは後半だと思います。
※番外編も終わり、完結しました。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

天翔ける獣の願いごと
asagi
BL
16歳の誕生日。天翔悠里は突如、異界に放り込まれた。なぜこんなことになったのかは分からない。
親切な老夫婦に拾ってもらって、異界に馴染んだ数年後、悠里は山の中で死にかけていた男、狼泉に出会う。
狼泉を看病し、その後も共に過ごす中で芽生えた想い。
『僕は、あなたに出会うために、ここに来たのかもしれない――』
孤独な二人が出会い、愛することを知る物語。
中華風(?)の異世界ファンタジー。もふもふなお友だちがいます。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる