66 / 115
65
しおりを挟むジンがキッチンに行くと俺達の間に沈黙が訪れる。静まり返る中、最初に口を開いたのはアークだった。
「……で、バルト、どう言うことだ?なぜジンが酒を飲んでる?なぜ、お前の膝に座っていた?なぜ、お前はここにいる?」
目をこれでもかと見開き俺を見てくるアークに少々危機感を感じる。
質問が多すぎて怖。
「説明します。俺は午後から休みを頂きまして……」
「簡潔に」
「……はい。墓石で酒を飲んで酔っているジンを保護しまして、しばらく雑談した後、晩御飯の時間になり、今に至ります」
「墓石で酒?……わかった、ご苦労。明日も仕事だろう、早く帰れ」
無表情のまま早口で淡々と言うアークに顔がひきつる。「用事は終わっただろう、早くここから消えろ」と言う副音声が聞こえてきそうだ。
なんだかなーと思いつつ、ジンのことが気になる。
「あー、でも……」
「何かあるのか?」
アークが帰ってくる前のことだ。ジンから「ジンの生まれ変わりだと、今日アークにも話したい。どうしたらいい?」と相談された。
アークが後で知ったら色々うるさそうなので、言うことには賛成だが、信じてくれるかどうか……。まぁ、アークはジンのことを可愛がってるし大丈夫だと思うが、ジンには傷付いて欲しくない。
「なーに眉間に皺寄せて難しいこと考えてんだ?」
「あーいやー、ジンがアークに言いたいことがあるらしく……」
「俺にか?」
「はい。で、俺からお願いがあるんです」
真っ直ぐ偽りのない瞳でアークを見ると、アークもそれに答えるように俺を見た。視線が合うこと5秒、アークが口を開く。
「何だ、言ってみろ」
「ジンがもし、信じ難いことを言ったとしても否定しないでやってください。お願いします!」
ガバッと頭を下げ、アークの返事を待った。
数秒後、はぁーと頭上からため息が聞こえ、頭にぽんと手が置かれた。
「よくわからんがわかった。約束しよう」
顔を上げると珍しく俺に向かって優しく笑うアークが目に入ってきた。
驚いたな、アークが……。
「笑って……怖」
一瞬にしてアークの笑顔が消え、ゴンッと手拳が落ちてきた。
「いってー!」
マジで痛い!まるで、剣の反対側で殴られたような痛さだ。本当アークは俺に容赦ねぇな!この魔王め!
「ん、何か言ったか?」
「いえ、何も」
たまに思う。アークって読心術ができるんじゃないかって。
「できないぞ」
「何も言ってないんですが!」
怖!!
「お待たせー、からんあげの残りとサラダに俺んちスープだよ」
からんあげとはカラバンカの唐揚げ。ちなみにカラバンカは大きなニワトリの魔物です。
「おぉ!美味しそうだな」
「でしょう。美味しいお酒もあるよ」
バルトの隣に座り、インベントリから今日買った酒を取り出す。
「ありがとな。でも、ジンは飲んだらダメだぞ」
「えっ、ダメ、なの?」
うるうる攻撃が来るとわかったアークが俺の目を片手で塞ぐ。
「ダメなもんはダメだ!大きくなれないぞ」
チッ、それを言われたらしょうがない。今回は諦めるか。
「いただきます。ん、うまい!」
「よかった。お酒注ぐね」
「さんきゅー」
お酒を入れてると、アークがスープを飲んで目を丸くしているのが見えた。
「これは……」
「どう?美味しいでしょ!」
「あっ、あぁ……」
「久しぶりに作って不安だったけど、よかった」
「……」
その後無言でスープを飲むアークに、どうか気付いてくれますように、と期待しつつ、バルトにお酒を注いだ。
しばらく3人で和気あいあいとおしゃべりをした後、アークが「そうそう」と話し始める。
「ジン、王との謁見が決まった。嫌なら断ることができるがどうする?」
「えっ?何のこと?」
「ジンが召喚された異世界人だって話だ」
「はっ?」
目を丸くし俺を見るバルトに俺は首を傾げる。
「あれ?バルトに言ってなかったっけ?」
「あー、言ってなかったのか?てっきり知ってるかと……すまん」
片手を立ててゴメンと謝るアークに、俺はいいよーと片手を軽く振った。
「ジン」
ポンと片肩にバルトの手の重みがずしりとのしかかる。心なしか魔力が含まれてるような……。
「詳しく、話してくれるよな?」
「あっ、はい」
アークに話したことをそのまま話すと、バルトが無言で椅子から立ち上がり、真顔で俺をじっと見つめた。なんだか少し怒ってるぽい?
「ジン、ちょっと待ってろ。あの国を滅ぼしてくる」
「ちょっと待って!」
今にも飛び出しそうなバルトにガシッとしがみつきながら、「アーク!」と助けを求めるが、アークは腕を組みながら、うんうんと頷いている。
「俺も手伝おうか?」
「お願いします」
「ダメだからね!」
この2人、意気投合したらダメなやつ!
264
お気に入りに追加
1,484
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる