64 / 115
63
しおりを挟む俺が騎士団に入ったのはSランクの冒険者になった20歳頃だった。バルトに「第3騎士団の魔法騎士の試験を受けてみないか?」と無理矢理拉致……じゃない、誘われて試験を受けたら見事に合格。入ってすぐに、俺とバルトは最強のコンビと噂されるまでになった。
俺が25歳の時、突如、バクススタンピードが起きた。最初はたまたま森で訓練中だった騎士団達が対応し何とか持ち堪え、応援が来ると俺達の優勢になった。これならもうすぐ終わるな、と誰もがそう思った時、突如、信じられない魔物達が空から降りてきた。
「おい、あれ……」
「レッドドラゴン……」
「しかも、2匹……」
地上最強と呼ばれたドラゴンにはランクがある。最強がブラックドラゴン、次にホワイトドラゴン。この2匹に出会ったら、刺激せず何がなんでも逃げろとなっている。
今回はレッドドラゴン。最強2匹より劣るが強いものは強い。
俺達騎士団はドラゴンを倒すため寝ずに戦った。亡くなった仲間達や体の一部分を失った仲間達。一体どれだけ犠牲にすれば終わるのかと憔悴しきっていた。
何とか1匹は倒したものの、もう1匹が強い。
「糞がぁぁ!」
ギャァァァァァァオォォォォ!
バルトの一撃がドラゴンの翼を片方切り落とし横腹を深く切り裂いた。相当痛いのかドラゴンは倒れ、悲鳴を上げる。
「今がチャンスだ!何でもいい攻撃魔法をありったけぶちかませ!」
「「おぉぉぉ!」」
終わりが見え、騎士達は雄叫びを上げドラゴンに突き進む。バルトが剣に火の魔力を纏わせ、ドラゴンを切ろうとした瞬間だった。ドラゴンが残った翼で羽ばたかせ起き上がると、バルト達を爪で切り裂いたと同時に吹き飛ばした。
「バルト!」
気絶したバルトにめがけもう一度鋭い爪が下ろされるのを見て躊躇することなく走った。剣はもう折れていて無い。魔力も残りわずか。
ブォンという重たい音と共に俺の背中がカーッと熱くなる。
「このっ!『絶対零度・氷の連弾』!」
振り返りドラゴンの目を目掛け水と風を合わせた氷魔法をぶつける。するとドラゴンの目に氷が張り付き視界を防ぐことに成功した。これを見逃す俺ら騎士団ではない。一気に叩き込みドラゴンを倒した。
「やったぞぉぉぉぉぉ!」、「うぉぉぉぉぉ!」と歓声を聞きつつバルトへ視線を向ける。
「いっ、バルト……」
痛みを押し殺してバルトのところに行こうとした時、ざわめきが聞こえ振り返ると、ドラゴンの口がパカリと開く。黒く透明な何かがドラゴンの口に集まっている。
「『最後の叫び』か!やばい!」
「撤退しろ!」、「急げー」、と怒涛の声があちこちから広がる。
『最後の叫び』とは、ドラゴンが己の命を犠牲にして一番近くにいる者に死の呪いを掛ける術だ。呪われた者は10分で死ぬ。『治療』もポーション類も効かない。解けるのは光の高位魔法『解呪』だけ。それを使えるのは両手で数えるぐらいしかいない。
逃げようと足に力を入れ、ふと立ち止まる。
俺が避けたら、バルトに当たる……。
はぁー、ついて、ないな。これで終わりだったのに……。
目を瞑りあまんじて受け入れようと……するかアホ!このまま死んだらバルトのことだ、自分を庇ったことに気付くだろう。どうせ死ぬのなら……。
最後の悪あがきで、残り僅かな魔力を闇魔力にし、それを右手に纒うと、ドラゴンを、『最後の叫び』ごと、ぶん殴った。
グギャァァァァーとドラゴンの叫びと黒い光と共に森中に広がった後、静寂が訪れた。
「あはは、やって、やった……」
右手はボロボロ、背中は多量出血、今にも倒れそうなほどの魔力低下。
インベントリから残り1個のHPポーションを取り出し、ボロボロの右手に少し掛けた。が、傷は塞がらなかった。
はー、やっぱ、呪いが掛かったか……。
治療を求め、城や教会へ飛ぶ魔力もない。
「はぁー」
助からないな、これは。生き残る為の賭け、だったんだけどな……。
俺は気絶しているバルトに視線を向け、ゆっくりと足を進めた。バルトの近くに座り、持っていたポーションを飲ませると、みるみる傷が塞がっていった。
「よかった。バルトには呪いが掛からなかったんだな」
バルトの頭を撫でていると、目蓋がピクピクし、ゆっくりと目が開いた。
「おはよう、バルト。……終わったよ」
「んー、ジン?」
バルトは上半身を起こし、倒れているドラゴンを見て眉間に皺を寄せる。
「……はぁー、寝てる間に終わったのかよ」
「そう、だね」
互いに笑い合いながら立ち上がった瞬間、俺は咳をしたかと思うと血を吐いた。
「げほっ……がはっ……」
「ジン!」
驚き急いでポーションを飲ませようとするバルトの手をぎゅっと握る。
「ジン!何してる!早く飲め!」
驚き焦った表情のバルトが可笑しくて俺は笑った。
あぁ、力が……入らない。
バルトは倒れゆく俺の体を受け止め、抱え上げた瞬間背中の傷に気付く。
「血が……」
バルトは俺を抱えたまま地面に座ると、口にポーションを含み、俺に口移しで飲ませた。
「んっ……はぁ……げほっ」
だが、ドラゴンの呪いでポーションは効かない。傷口からどんどん血が流れていく……。
「なんでだよ!ジン!ジン!『結界・指瞬転移』!……なんでだよ!!『結界・指瞬転移』!くそ!MP切れか!MPポーションは……ない!ジンは持ってないのか!」
MPポーションはもう、とっくになくなったので首を横に振る。
「くそ!誰かいねぇのか!」
バルトの懸命に俺を助けようとする声に、言葉に、涙が溢れこぼれ落ちる。
あぁ……まだ、バルトの側に、いたかったなぁ。一緒に酒飲んで、騒いで、笑って、馬鹿やって、これからもっと、色んなことをやるはずだったのに……。
「ジン!ジン!」
「……うる、さい、よ。……そんな、に……叫ば……ない
、で」
「ジン!今治療班を通信で呼んだ!頑張れ!」
ゴボッと更に血が口から溢れる。
「ジン!ジン!」
あぁ……寒いな……。
「ジン!死んだら許さねぇ!」
震える手で、泣きながら怒鳴るバルトに手を伸ばし、そっと頬に触れた。
俺はバルのそんな顔を、最後に見たいわけじゃない……。
「……バル、笑っ……て……ゴホッ」
「頼むから、もう、しゃべるな!」
こぼれ落ちる涙を拭きもせず、震える手で俺の手を強く握る。
あぁ……俺の人生も捨てたもんじゃなかった。バルトに出逢えたのだから……。
父さんは泣いて怒るだろうな。
バルトは……俺がいなくて大丈夫かな?自暴自棄にならないといいけど……不安になってきた。
あぁ、死ぬの、嫌だな……。
死んでも、また、バルトに逢えるかな……。ん、逢いたい。
「バル……約束。……ゴホッゴホッ、はぁ、んっ。……バル……来世、で……逢いに、いく……から……まっ、てて……」
「ジン!そんなこと言うな!……逝くな……俺を、置いていかないでくれ……。俺は、ジンがいないとダメなんだ!お願いだから……」
「バル……泣か、ない、で……」
「泣くに決まってるだろ!俺はジンのことが好きなんだ!愛してる!」
ん、知ってた。俺もバルトのこと、愛してる。
「おれ……も……ゴホッ」
「っ!ジン!ジン!」
あぁ、もう、目が見えない……真っ暗、だぁ。
「バル……あい……し、て……る」
「ジン!ジン!っ、……あぁぁぁぁぁぁぁー!」
そして俺は、バルトの悲痛な叫び声を最後に息絶えた。
そうだ、俺は最後にバルトに約束した、『来世で逢いに行くから待ってて』と。
涙が溢れだし視界が歪む。楽しそうに話していたバルトが俺を見てぎょっと目を見張った。
「ジン!どうした?俺、何か傷付けること言ったか?」
俺の手を優しく握り、心配そうに覗き込むバルトに胸がズキリと痛む。
「ごめん、バル……俺、バルトに酷いことをした……俺が死んでからずっと、8年間、縛って……」
震える唇を止めるためにぎゅと強く噛む。
「ジン?」
「バルト……俺、さっき思い、出したんだ。あの時、俺が死ぬ直前に約束した……『来世で逢いに行くから待ってて』って。バルトは、ずっと待っていてくれたのに俺は……。謝って許されることじゃないとわかってるけど、本当にごめん!」
頭を深く下げ謝っている俺の頭を、バルトがそっと優しく両手で掴み、頭を上げさせた。恐る恐るバルトを見ると、嬉しそうに微笑んでいた。
「ジン、忘れていたのに、本能で俺に逢いに来てくれたんだな。ありがとう」
「バル……でも……」
「気にすることはない。ジンが謝るなら俺も謝らなきゃいけないことが、たくさんある……」
バルトは苦しそうな表情で俺の涙をそっと親指で拭いた。
「それに、ジンの約束をずっと信じていた、と言っては嘘になる。心のどこかではいつも、半信半疑に思っていた。それでも、ジンの約束にすがって、今まで生きてきた。それほどジンの死は、俺にとって、重かった……」
沈黙後、バルトはふぅーと長い息を吐き切ると、ニカッと笑った。
「でも、もういい。こうしてジンが帰ってきてくれたから。ジン、約束を守ってくれてありがとう。報われた気がするよ」
「バルト……」
次々と溢れだす涙。拭いても拭いても止まらない。
「ほら、そんな泣くな。目が腫れるぞ」
袖を引っ張り涙を拭く俺に、バルトは微笑みながら涙が止まるまでを優しく手を握ってくれた。
306
お気に入りに追加
1,484
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが
ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク
王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。
余談だが趣味で小説を書いている。
そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが?
全8話完結

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる