【番外編中】巻き込まれ召喚でまさかの前世の世界だったので好きだった人に逢いに行こうと思います

白銀

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俺が騎士団に入ったのはSランクの冒険者になった20歳頃だった。バルトに「第3騎士団の魔法騎士の試験を受けてみないか?」と無理矢理拉致……じゃない、誘われて試験を受けたら見事に合格。入ってすぐに、俺とバルトは最強のコンビと噂されるまでになった。


俺が25歳の時、突如、バクススタンピードが起きた。最初はたまたま森で訓練中だった騎士団達が対応し何とか持ち堪え、応援が来ると俺達の優勢になった。これならもうすぐ終わるな、と誰もがそう思った時、突如、信じられない魔物達が空から降りてきた。

「おい、あれ……」

「レッドドラゴン……」

「しかも、2匹……」

地上最強と呼ばれたドラゴンにはランクがある。最強がブラックドラゴン、次にホワイトドラゴン。この2匹に出会ったら、刺激せず何がなんでも逃げろとなっている。
今回はレッドドラゴン。最強2匹より劣るが強いものは強い。
俺達騎士団はドラゴンを倒すため寝ずに戦った。亡くなった仲間達や体の一部分を失った仲間達。一体どれだけ犠牲にすれば終わるのかと憔悴しきっていた。
何とか1匹は倒したものの、もう1匹が強い。

「糞がぁぁ!」

ギャァァァァァァオォォォォ!

バルトの一撃がドラゴンの翼を片方切り落とし横腹を深く切り裂いた。相当痛いのかドラゴンは倒れ、悲鳴を上げる。

「今がチャンスだ!何でもいい攻撃魔法をありったけぶちかませ!」

「「おぉぉぉ!」」

終わりが見え、騎士達は雄叫びを上げドラゴンに突き進む。バルトが剣に火の魔力を纏わせ、ドラゴンを切ろうとした瞬間だった。ドラゴンが残った翼で羽ばたかせ起き上がると、バルト達を爪で切り裂いたと同時に吹き飛ばした。

「バルト!」

気絶したバルトにめがけもう一度鋭い爪が下ろされるのを見て躊躇することなく走った。剣はもう折れていて無い。魔力も残りわずか。
ブォンという重たい音と共に俺の背中がカーッと熱くなる。

「このっ!『絶対零度・氷の連弾』!」

振り返りドラゴンの目を目掛け水と風を合わせた氷魔法をぶつける。するとドラゴンの目に氷が張り付き視界を防ぐことに成功した。これを見逃す俺ら騎士団ではない。一気に叩き込みドラゴンを倒した。

「やったぞぉぉぉぉぉ!」、「うぉぉぉぉぉ!」と歓声を聞きつつバルトへ視線を向ける。

「いっ、バルト……」

痛みを押し殺してバルトのところに行こうとした時、ざわめきが聞こえ振り返ると、ドラゴンの口がパカリと開く。黒く透明な何かがドラゴンの口に集まっている。

「『最後の叫び』か!やばい!」

「撤退しろ!」、「急げー」、と怒涛の声があちこちから広がる。
『最後の叫び』とは、ドラゴンが己の命を犠牲にして一番近くにいる者に死の呪いを掛ける術だ。呪われた者は10分で死ぬ。『治療』もポーション類も効かない。解けるのは光の高位魔法『解呪』だけ。それを使えるのは両手で数えるぐらいしかいない。
逃げようと足に力を入れ、ふと立ち止まる。
俺が避けたら、バルトに当たる……。
はぁー、ついて、ないな。これで終わりだったのに……。
目を瞑りあまんじて受け入れようと……するかアホ!このまま死んだらバルトのことだ、自分を庇ったことに気付くだろう。どうせ死ぬのなら……。
最後の悪あがきで、残り僅かな魔力を闇魔力にし、それを右手に纒うと、ドラゴンを、『最後の叫び』ごと、ぶん殴った。
グギャァァァァーとドラゴンの叫びと黒い光と共に森中に広がった後、静寂が訪れた。






「あはは、やって、やった……」

右手はボロボロ、背中は多量出血、今にも倒れそうなほどの魔力低下。
インベントリから残り1個のHPポーションを取り出し、ボロボロの右手に少し掛けた。が、傷は塞がらなかった。
はー、やっぱ、呪いが掛かったか……。
治療を求め、城や教会へ飛ぶ魔力もない。

「はぁー」

助からないな、これは。生き残る為の賭け、だったんだけどな……。
俺は気絶しているバルトに視線を向け、ゆっくりと足を進めた。バルトの近くに座り、持っていたポーションを飲ませると、みるみる傷が塞がっていった。

「よかった。バルトには呪いが掛からなかったんだな」

バルトの頭を撫でていると、目蓋がピクピクし、ゆっくりと目が開いた。

「おはよう、バルト。……終わったよ」

「んー、ジン?」

バルトは上半身を起こし、倒れているドラゴンを見て眉間に皺を寄せる。

「……はぁー、寝てる間に終わったのかよ」

「そう、だね」

互いに笑い合いながら立ち上がった瞬間、俺は咳をしたかと思うと血を吐いた。

「げほっ……がはっ……」

「ジン!」

驚き急いでポーションを飲ませようとするバルトの手をぎゅっと握る。

「ジン!何してる!早く飲め!」

驚き焦った表情のバルトが可笑しくて俺は笑った。
あぁ、力が……入らない。
バルトは倒れゆく俺の体を受け止め、抱え上げた瞬間背中の傷に気付く。

「血が……」

バルトは俺を抱えたまま地面に座ると、口にポーションを含み、俺に口移しで飲ませた。

「んっ……はぁ……げほっ」

だが、ドラゴンの呪いでポーションは効かない。傷口からどんどん血が流れていく……。

「なんでだよ!ジン!ジン!『結界・指瞬転移』!……なんでだよ!!『結界・指瞬転移』!くそ!MP切れか!MPポーションは……ない!ジンは持ってないのか!」

MPポーションはもう、とっくになくなったので首を横に振る。

「くそ!誰かいねぇのか!」

バルトの懸命に俺を助けようとする声に、言葉に、涙が溢れこぼれ落ちる。

あぁ……まだ、バルトの側に、いたかったなぁ。一緒に酒飲んで、騒いで、笑って、馬鹿やって、これからもっと、色んなことをやるはずだったのに……。

「ジン!ジン!」

「……うる、さい、よ。……そんな、に……叫ば……ない
、で」

「ジン!今治療班を通信で呼んだ!頑張れ!」

ゴボッと更に血が口から溢れる。

「ジン!ジン!」

あぁ……寒いな……。

「ジン!死んだら許さねぇ!」

震える手で、泣きながら怒鳴るバルトに手を伸ばし、そっと頬に触れた。

俺はバルのそんな顔を、最後に見たいわけじゃない……。

「……バル、笑っ……て……ゴホッ」

「頼むから、もう、しゃべるな!」

こぼれ落ちる涙を拭きもせず、震える手で俺の手を強く握る。

あぁ……俺の人生も捨てたもんじゃなかった。バルトに出逢えたのだから……。
父さんは泣いて怒るだろうな。
バルトは……俺がいなくて大丈夫かな?自暴自棄にならないといいけど……不安になってきた。
あぁ、死ぬの、嫌だな……。
死んでも、また、バルトに逢えるかな……。ん、逢いたい。

「バル……約束。……ゴホッゴホッ、はぁ、んっ。……バル……来世、で……逢いに、いく……から……まっ、てて……」

「ジン!そんなこと言うな!……逝くな……俺を、置いていかないでくれ……。俺は、ジンがいないとダメなんだ!お願いだから……」

「バル……泣か、ない、で……」

「泣くに決まってるだろ!俺はジンのことが好きなんだ!愛してる!」

ん、知ってた。俺もバルトのこと、愛してる。

「おれ……も……ゴホッ」

「っ!ジン!ジン!」

あぁ、もう、目が見えない……真っ暗、だぁ。

「バル……あい……し、て……る」

「ジン!ジン!っ、……あぁぁぁぁぁぁぁー!」



そして俺は、バルトの悲痛な叫び声を最後に息絶えた。







そうだ、俺は最後にバルトに約束した、『来世で逢いに行くから待ってて』と。
涙が溢れだし視界が歪む。楽しそうに話していたバルトが俺を見てぎょっと目を見張った。

「ジン!どうした?俺、何か傷付けること言ったか?」

俺の手を優しく握り、心配そうに覗き込むバルトに胸がズキリと痛む。

「ごめん、バル……俺、バルトに酷いことをした……俺が死んでからずっと、8年間、縛って……」

震える唇を止めるためにぎゅと強く噛む。

「ジン?」

「バルト……俺、さっき思い、出したんだ。あの時、俺が死ぬ直前に約束した……『来世で逢いに行くから待ってて』って。バルトは、ずっと待っていてくれたのに俺は……。謝って許されることじゃないとわかってるけど、本当にごめん!」

頭を深く下げ謝っている俺の頭を、バルトがそっと優しく両手で掴み、頭を上げさせた。恐る恐るバルトを見ると、嬉しそうに微笑んでいた。

「ジン、忘れていたのに、本能で俺に逢いに来てくれたんだな。ありがとう」

「バル……でも……」

「気にすることはない。ジンが謝るなら俺も謝らなきゃいけないことが、たくさんある……」

バルトは苦しそうな表情で俺の涙をそっと親指で拭いた。

「それに、ジンの約束をずっと信じていた、と言っては嘘になる。心のどこかではいつも、半信半疑に思っていた。それでも、ジンの約束にすがって、今まで生きてきた。それほどジンの死は、俺にとって、重かった……」

沈黙後、バルトはふぅーと長い息を吐き切ると、ニカッと笑った。

「でも、もういい。こうしてジンが帰ってきてくれたから。ジン、約束を守ってくれてありがとう。報われた気がするよ」

「バルト……」

次々と溢れだす涙。拭いても拭いても止まらない。

「ほら、そんな泣くな。目が腫れるぞ」

袖を引っ張り涙を拭く俺に、バルトは微笑みながら涙が止まるまでを優しく手を握ってくれた。
















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