【番外編中】巻き込まれ召喚でまさかの前世の世界だったので好きだった人に逢いに行こうと思います

白銀

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カーンカーンともうすぐ日が暮れることを告げる教会のベルが鳴り響く。いつの間にか近くで遊んでいた子供達もいなくなっていた。
家に帰らなきゃな……でも、今は帰りたくない。
……家か……あぁ、懐かしい。俺達の家の約束、バルト覚えてるかな?
あれは確か、もうすぐバルトが学園に入学する16歳の頃のことだった……。



「バルトが学園に行くようになったら寂しくなるね」

「えっ、何でだ?」

「だって、毎日会えなくなるから」

「学園が終わって遊べばいいだろ」

「うーん、きっとバルトは学園の友達を優先するようになる」

「そんなことない!俺はジンを優先する!」

「嬉しいけど、バルトは貴族で、俺は平民だよ。バルトは貴族同士の関係を築かなきゃ。ノブレスオブリージュ。習ったよね?」

バルトの家庭教師の授業で習った言葉、ノブレスオブリージュ。『貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ』という意味だ。

「それは……」

俯き数秒間黙っていたバルトが、急に顔を上げ何かを決心したように強く頷いた。

「わかった!ジン、一緒に暮らそう!」

「へ?一緒に暮らす?」

「あぁ、だが今じゃないぞ。俺、頑張って金ためて大きな家を買うから、そこにずっと住めばいい。これで歳を取っても一緒だ!」

「……結婚、しないの?」

「あぁ、俺は自由気ままな末っ子の問題児だからな。両親からも好きにしろって言われている」

にっと笑うバルトだけど、学園には色々な人がいる。可愛い子もいっぱいいるだろう。通い始めたら好きな子が出来て変わるかもしれない。だけど、少しは夢を見て、いいよね?

「なっ、だから一緒に暮らそう!」

「……アークも一緒?」

「アークは別!アークは家を持ってるだろ。俺達2人の家だ」

「んー」

「嫌なのか?」

「違う、2人の家なら俺も貯める。もうすぐ冒険者になるから俺も稼ぐ」

「そうか!早く貯まりそうだな。あっ、でも言っておく。絶対、無茶するな。危ないとこに行くのは禁止だからな」

「ん」

返事をした俺に、よしよしと頷いていたバルトだったが、急に「はっ」と何かに気が付いたように顔を青ざめる。

「……だめだ、心配になってきた。さっきのはナシ!1人行動は絶対ダメだ。俺も一緒に行く」

「えっ、ちょっとそれは……」

「でもジンが冒険者になったら、そうもいかないよな……あぁー!心配すぎる!どうしたらいいんだー!」

「バルト、聞いてる?」

「そうだ!ジン、騎士を目指せ!そしたら一緒にいて守ってやれるし、心配がなくなる!」

「騎士か……俺にできるかな?」

「ジンならできる!」

「んー、考えとく」

「あっ、でも待てよ。騎士も危険だな……あぁー!どうすればー!」

「バルト……」

頭をかきむしり叫ぶバルトを見ながら、俺は溜め息をついた。
いつもの事だ……うん、放っておこう。




それから、バルトが学園に通い始めると、以前より会う機会が減った……のだが、宣言通り、会う度に「稼ぐぞ」と森へと強制的に引っ張られ魔物を狩るようになった。素材をGETして売るを繰り返し、「早く俺らの家で暮らしたいな」が、バルトの口癖だった。
1年後、俺も16歳になり、冒険者として活動し始め、バルトも騎士見習いに入り忙しくなって会うことが更に減った。が、俺達は寂しくなかった。『俺達の家を買い一緒に暮らす』と言う約束があったから……。



懐かしいな。と思い出していると、バルトが「あぁ、そうだ」と何ともない顔で俺に言ってきた。

「ジン、俺達の家の約束覚えてるか?」

「ん、もちろん覚えてるよ」

「あれから今までずっと金を貯めてきた。だから、たくさん貯まったぞ。これで好きなところに建てれるな」

無邪気に笑う姿は昔と変わらないな。ん?まって。今までずっと?

「……今でも、有効なの?」

「当たり前だ。約束だっただろ。何言ってんだ?」

軽く首を傾げてクエスチョンマークを浮かべるバルト。
マジか……。

「どこに住みたいかリストアップしとけよ」

そう、いい笑顔で言うバルトに俺は何か引っ掛かりを覚えた。
あれ、おかしい……俺が死んだのにずっとお金を貯めてたってどういうことだ?……俺、もしかして、何か、忘れてる?何か、大切なことを、思い出していない……気がする……。俺が騎士団に入っている時?……いつだ?思い出せ……。







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