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「ジン、この話を王達に話してもいいか?もしかしたら謁見になるかもしれんが、不利になることは絶対にさせない。もちろん、断っても全然構わない」

謁見は面倒。だけど、強制じゃないんだ。断ってもいいなら……。

「んー、いいよ。アークを信じる」

「ありがとな」

「その代わり条件つけていい?」

「なんだ?俺に出来ることなら何でもいいぞ」

ニッといつものように笑うアークだがやっぱり疲れてるっぽい。

「『回復』」

アークの体が光り、数秒後消える。

「温かいな。疲れがとれたよ、ありがとう」

「ん。アーク、絶対無理しないこと。それが条件」

絶対だよと強調するように人差し指を立てながら笑うと、アークも嬉しそうに微笑んだ。

「あぁ、わかった」

ピーピーと机に置いてある時計型アラームが鳴った。

「おっ、もうこんな時間か。ジン、今日は遅くなる。先に飯食って寝とけよ」

「ん」

俺が返事をすると、アークは自然に俺の前髪を上げ、ちゅ、とおでこにキスをした。

「じゃぁな」

アークはパチンとウィンクし、慌ただしく出ていった。
パタンとドアが締まると同時に額に触れる。

「……でこちゅー、された」

そう言えば昔もなにかと、でこちゅーをしてきたっけ。変わらないな。
なんだか、胸がホワホワと温かくて気持ちがいい。

「よし、ここにいてもしょうがないな。さて、今日はどうしようか」

今日は騎士祭4日目。ということは、騎士大会は……この時間はもう終わってるか……。まぁ、まずは外に行ってみようかな。
貰ったお菓子を1つ咥え、残りをインベントリに入れて、部屋を出た。
2階の階段から外に出るとたくさんの人達が、食べて飲んで歌って騒いでいた。
楽しそうだけど……ちょっと、人酔いしそう。
楽しそうな人達を横目で見ながら、美味しそうなものをピックアップ。

「あれ、美味しそうだな」

大きな串に何かの赤身肉が刺さっている。何の肉かは知らない方がよさそうだ。
その串を5本買い、4本はインベントリへ、1本はその場で食べた。
うま!!でも、カラ!
飲み物を探しつつキョロキョロしていたら、酒が目に入った。飲みたいけど、人が多いところでは飲めないよな……よし。
酒屋に入ると、如何にもお使いですよという感じで、にこやかな笑顔で、高い酒を6本店の人に持っていく。

「お使いかい?偉いな。でも、これでいいのか?ちょっと高いぞ」

「ん、大丈夫。偉い人も飲むから」

そう言うと店の人は納得し、俺に「偉いな」とジュースをくれた。飲み物GET。
店を出でインベントリに酒を入れ、目的地までの道を思い出しながらジュースを片手に歩いていく。人通りの少ない道を真っ直ぐ行くと、教会に出た。すると教会の敷地で花を売っている子供達がいた。ここを通る人は皆、必ず花を買って奥の道へと向かっている。
そう言えばアークが、騎士祭は墓に色とりどの花が溢れ返っていると言ってたな。
俺は適当に花を買うと、奥へと進んでいった。




教会を通りすぎ、道なりにしばらく歩いていくと、広い墓場に出た。そのまた奥にある大きな石碑まで歩いていくとその周りに数百の小さな墓石があった。
ここが8年前バクススタンピードで亡くなった騎士や冒険者達の墓だ。この墓石は一般のものより小さい。なぜなら、スタンピードで戦った者の半分は遺体の損傷が激しくその場で火葬したからだ。この墓石に眠っているのは亡くなった者の所持品だけ。

「……綺麗」

石碑や墓石に赤、黄、ピンク、オレンジと色とりどりの花が供えられ思わず呟いた。
俺は大きな石碑に買った花をそっと供えると、石碑に彫られている騎士名を一つ一つ手でなぞりながら、じっくりと読んでいく。その度昔の友や仲間の顔が浮かび、唇を噛み締めた。

「そうか、お前らも、逝ったんだな……」

同じ騎士で飲み友達だった者、同期でいつも突っかかってくる喧嘩友達だった者、命を預け一緒に戦った第3騎士団の仲間達。
目を瞑れば、今でも鮮明にその光景がよみがえる。

「皆、ただいま……」

コツンと冷たい石碑に額をつけ目を閉じると、さわさわと優しい風が俺の頬を撫でた。まるで俺を歓迎するかのように……。



俺は、偶然にもこの世界に帰ってきた。……皆が今、どこにいるかはわからないけれど、どうか、現世では、争いのない、幸せに満ちた人生であらんことを……。



ゆっくりと目を開け、踵を返し1歩2歩、歩いた瞬間、ざぁっと強い風がふき、髪が大きく揺れる。そして、墓石に供えてあった、たくさんの花束から花びら取れ、美しく上空へと舞い散った。
まるで、色とりどりの花びらが遺族の思いを乗せ、亡くなった者へ届けるかのように……。






※AIイラスト加工







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