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「眩しい……なんだ、あれ」

「光魔法か?」

「あれ?傷が、治ってく」

「体力も……回復していくぞ」

「魔法士か?一体誰が?」

周りがざわざわと騒ぎ出す。

「団長、これは一体……」

「わからん。なぜ、こんなことが……アーク!」

隣にいたアークに確認をしようと振り向いたとき、俺の横を小さな何かが勢いよく通りすぎていく。
シュッという音と共にケルベロスの悲鳴がこだましたかと思うと、頭上から大人の声よりもだいぶ幼い声が聞こえてきた。

「『全弱体化』、『防御・土壁×3』、『火炎弾・圧縮×4』」

目の前に大きな土壁が3つ出来たかと思うと、ものすごい音と風がフロア内に広がった。
タンと俺の横に何かが落ちてきたので思わず反射的に剣を向ける。

「『土壁解除』。あれ、おかしいなぁ。魔力がたりなかったのかな?」

白銀メッシュの入った黒髪の少年が無表情で首を傾げながらそう呟いていた。

「まぁ、それなら直接喰らわせば良いか」

真っ直ぐ敵を見ながら、クスリと微笑む少年の姿が、ジンの姿と重なり息を呑む。

「っ、ジン……」

「あっ、バルトさん。お邪魔しますね」

エヘヘと笑う少年の頭にバシッと衝撃が落ちる。

「いたっ!」

「ジン!あぶねぇだろうが!」

握りしめた拳をプルプルとさせるアークに向かって吠えるジン。

「アーク、マジ痛い!」

「グーじゃねぇだけありがたいと思え!」

「グーでもパーでもアークは馬鹿力なんだから痛いっつーの!」

ぷくっと口を膨らませ拗ねるジンにアークは溜め息をついた。

「もういいから、さっきのところまで戻れ」

「嫌だ。俺も参加する」

「ジン!」

「俺だって皆と一緒に戦える!お願い、戦わせて!」

ウルウルとした目で見つめられたアークは言葉に詰まる。そして、深い溜め息をついた後、グシャグシャと乱暴に前髪をかきあげた。

「あー、くそっ、わかったよ!」

「アーク、ありがとう!」

「ただし、少しでも危ないと感じたら止めるからな」

「うん」

ふわりと本当に嬉しそうに笑う少年の顔がまたもやジンと重なって見えた。
頭を左右に振り、もう一度、少年ジンを見る。

「んじゃ、喰らわせにいきますか」

ジンは髪をかきあげながらニヤッと笑い、上唇をなめた。

「ジン……っ」

くそっ、俺の脳がとうとう可笑しくなったか!

パシッと目を片手で塞ぎ、はぁーと深く息を吐き出していると、「あっ、忘れてた」とジンの間抜けな声が聞こえたので、片目を開け指の隙間からジンを見る。

「あのさ、後5分ほどでケルベロスに掛けた状態異常封印が切れるから、叩くなら今だよ」

「「は?」」

ジンはふわりと優しく笑いながら地面を蹴り、ケルベロスに向かって行った。

「待て、ジン!」

「……ふっ、ふは、ははー」

俺は笑いながら前髪をかきあげ、先ほど去っていったジンの背を熱い眼差しで見つめた。

気のせいなんかじゃない。やっぱり、ジンだ。

「あのヤロー、そんな大事なことは先に言え!バルト!ジンの攻撃後に指示を出せ!」

「了解!」

ジンを目で追いながら、ワクワクとドキドキが混ざった鼓動が俺の全てを高揚させる。

あぁ、ジン、やっと逢えた……。














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