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しおりを挟む俺、バルト・ソルグールは、メルゾーラ王国総騎士、第1騎士団の団長ニルクの次男として生まれた。
物心つく前から剣を握り、気付いた時には、剣は俺の一部となり、周りの人よりも断然強く、剣の天才だ!と言われかなり調子にのっていた。
俺がジンと出会ったのは13歳の時。
親と喧嘩して一人前だと証明する為に、森の中に入り大物の魔物を倒してやろうとイキがっていた。
最初は弱い魔物と戦って、「楽勝」なんて思いながらどんどん森の中に入っていくと、ブラックタイガーと出会った。名の通り黒い虎。
戦っている内に持っていた剣が折れ、魔法を放つが威力が弱いのかびくともしなかった。
俺はブラックタイガーから逃げるために、死ぬ気で走り回った。お陰で迷子にはなるわ、お腹がすくわ、雨は降るわで、精神共にボロボロだった。
朝になり家に帰ろうとしたが、帰り道がわからない。泣きたくなるのをぐっと我慢し、歩き続けた。
歩き続けると川に出で、やっと水が飲める!と川の水をガブガブと飲む。はぁー生き返った、と思っていると、向かい側に昨日と同じ魔物ブラックタイガー。
それから必死に逃げ、小さな崖のくぼみを見つけて隠れた。歯がガチガチと震えが止まらない。
あぁ、俺はなんて高慢だったんだろう。俺は弱すぎる。こんなところで死にたくない!
と顔を伏せ震えていた時だった。
「かくれんぼして、遊んでるの?」
緊張感のない子供の声が聞こえ、バッと顔を上げると、キラキラと輝いた子供のシルエットが見えた。目を凝らしてよく見ると、紫目の白銀の髪をした子供が無表情で首を傾げていた。
こんなところに子供が?と一瞬不審に思ったが、子供の人間離れした容姿を見て納得した。
透き通るような白い肌に、キラキラした薄紫色の瞳。白銀の髪の一本一本が、魔力を宿したように輝いていた。
きれい……そうか、せいれいだ。初めて精霊さんを見た。……あっ、精霊さんって羽根がないんだな。
そう思いながらボーッと見つめていると、精霊さんが俺の前にしゃがんできた。
「泣いてるの?」
俺ははっと我に返り、慌てて涙を袖で拭く。
「ちっ、ちげーよ!それに遊んでるんじゃねぇ!ブラックタイガーから逃げてんだ!」
「ふーん。あっ、ケガしてる。痛い?」
「っ、いてーよ!魔物から追われるわ、剣が折れるわ、お腹がすくわ、ケガするわで……」
うるっとまた涙が出て、みっともなく精霊に八つ当たりしていると、後ろからあの魔物、ブラックタイガーがやってきた。
「うわぁー!きた!おい、逃げろ!食われるぞ!」
精霊は魔物をチラリと見ると、俺に背中を向けた。
俺を庇ってるのか!ふざけんな!
反射的に精霊を引っ張り俺が前に出た。
「くそが!『火炎弾』」
思いっきり魔力を練り火の玉をぶつけると、ブラックタイガーは少し怯んだ。
今の内に逃げようと精霊の手を掴んだ瞬間、精霊の手から魔法が放たれる。
「『風刃』、『水円・強化』」
ブラックタイガーの目を風の刃が命中し、水で出来た円がブラックタイガーの首に巻き付いた。
俺は目を大きく見開き、バッと振り返ると、精霊は髪をかきあげながらニヤッと笑い、上唇をなめていた。
「『水円・縮小』」
首に巻き付いた水がどんどん小さくなり、ブラックタイガーの首が閉まって……ゴギッと大きな音がしたかと思うとその場に倒れた。
「うそ……だろ……」
「大丈夫?」
精霊が無表情で訪ねてきたが、俺は呆気にとられていた。
「ジーン、どこだ!あっ、いた。探したぞ……ってまた倒したのか!あれほど逃げろと………ん、この汚いのなんだ?」
「あっ、アーク。あのさ、コレ、飼っていい?」
「あぁ?そんな汚いゴブリン……じゃねぇな。ん?お前、ニルクの末っ子じゃねぇか?」
あっ、父上の、友達……だ。助かった……。
「おい!坊主!」
知ってる顔にほっとして、心も体も全てが限界を越えていた俺は、ブラックアウトした。
次に目を覚ましたら、見知らぬベッドだった。
どこだろうと見渡した瞬間びっくりした。俺の横にあの時の精霊が寝ていたからだ。
右手を伸ばし精霊の頬を優しく撫で、親指で唇をなぞるようにゆっくりと触れると、微かに笑い俺の手をすりすりと頬擦りをした。
「可愛いな……」
「ん……」
ゆっくりと精霊の目蓋が上がる。キラキラとした薄紫の瞳に吸い込まれそうになり息を飲み込んだ。
「精霊さん、綺麗……」
思わず呟くと精霊はキョトンとした表情をした後、クスリと微笑みながらベッドからゆっくりと立ち上がった。
「俺、精霊じゃないよ。人間でジン、12歳。一応アークの息子」
「えっ」
精霊さんじゃなかったのか……しかもアークさんの息子?男だったのか!しかも俺の1個下……。
「……俺はバルトだ」
「ん、知ってる」
お互い握手を交わすと、突然ジンがぷくっとほっぺたを膨らませ、腰に手を当てグーで頭をコツンと叩いてきた。
突然の出来事に目をパチパチさせた。
「あそこは子供が行ってはいけない場所。危ないから、めっ!」
人差し指を立てて注意するジンにドキッと胸が弾く。
……なんだ、コレ。
ドキドキする胸を押さえながら反抗する。
「おっ、お前も子供だろーが!」
俺に言われ、目をパチパチさせ、可愛く首をコテッと傾げるジンに、きゅんと胸が締め付けられ、ドキドキと鼓動が高鳴る。
なんだ、このドキドキ……。
「そう言えば、俺も子供だ。忘れてた」
「忘れんなよ!」
天然かよ!くそ可愛いな!
「あっ、忘れてた」
「次はなんだよ!」
「あのさ、バルトと一緒に倒したブラックタイガーだけど、俺のおすすめの料理にしてみた。アレは早く料理した方が美味しいから」
「は?」
「本当に美味しいんだよ。イーダのお墨付き。今持ってくるね」
ジンはふわりと優しく笑いながら部屋を出ていった。
シーンと部屋が静まり返り、聞こえてくるのは俺の息とドキドキと速くなる鼓動。
俺、ヤベェ……さっきから胸のドキドキが止まらない……。
ドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。
バーンとドアが開くと鬼のような面をした父上だった。
「バルト!お前と言うやつは!」
「おぃ!ニルク落ち着け!」
「離せ、アーク。今日という今日はガツンといってやらねぇと……ってお前、顔真っ赤だぞ、どうした?熱があるのか?」
「あっ、うん……父上、ごめん。反省してます」
「バルトが……謝っただと!医者だ!医者を呼んでくれ!」
「医者には見せた!異常無しだ。だから、落ち着け!」
外野がうるさい気がするがどうでもいい。
ボーッとする頭で、真っ正面にある姿鏡を見つめながらジンのことを思い出していた。
ジンの無表情の顔、ニヤッと笑い上唇をなめる仕草、ほっぺを膨らませ怒る顔、ふわりと優しく笑った顔。色々な顔をするジンを思い出して、カーと顔が火照る。
「俺……」
姿鏡で自分の顔が更に赤くなったのに気付く。
俺、ジンが、好きだ。
そう、ジンは俺の初恋だった。そして、いまだにジンを求めている。
「姿は似ていないのに……」
ふとした瞬間、少年をジンだと錯覚してしまう。
口調や考え方、ちょっとした仕草が似ている。いや、似ているのではなく、まるで本物のジンがここにいるみたいに……。
最初に少年を見た時、俺が作り出した幻想かと思った。ジンと似ていないのにもかかわらず、俺の全身が少年をジンだと震え感じた。
「顔はジンと全く似てないのに……いや、瞳が似ている……そう、ジンと同じ目だ。あと白銀のメッシュの色が同じだな」
少年の瞳を見て、ドキッと胸が弾いた。
少年の声を聞いて、ドキッと胸が高鳴った。
そして、怖かったと抱き締められ体温を感じた時、俺は一瞬泣きそうになった。何と例えたらいいのか……今まで足りなかった物が見つかり満たされたような感覚。もう、誰にも渡さない!と思ってしまった。
そして、アークに抱き締められている少年を見て、嫉妬した。
少年は……ジンは、俺のものだ!と……。
「ん……」
気持ち良さそうに寝ている少年の頬を優しく撫で、親指で唇をなぞるようにゆっくり触れる。すると少年は、微かに笑いながら俺の手に頬擦りをした。
……あぁ、やっぱり君は、ジンと、同じことをするんだな。
「君は……ジンの、生まれ変わりなんだろう?」
先程のおやすみの返事に、少年は俺をバルと呼んだ。その呼び方は、ジンにしか呼ばせなかった特別な呼び名だった。
「ジン……そうだと、言ってくれ……」
眠っている少年、ジンから返ってくることのない俺の問いかけに、ぎゅっと胸が締め付けられ、泣きたくなった。
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